ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第3話 嵐を抜けた先

猛烈な揺れと、視界を奪うほどの紫色の稲妻。

世界が反転するような感覚の直後、陽炎型航洋艦「晴風」を包み込んでいた轟音は嘘のように消え去った。

 

「……あれ?」

 

艦長の**岬明乃(ミケ)**が恐る恐る目を細めると、艦橋の窓の向こうには、先ほどの嵐が幻であったかのような光景が広がっていた。春の暖かで柔らかい日差しが降り注ぎ、波一つない紺碧の海がどこまでも青く輝いている。

 

「あ、嵐……抜けちゃった……?」

「……うぃ。空、すっごく晴れてる」

砲術長の**立石志摩(タマ)**が、コンパスから顔を上げて目を瞬かせた。

 

呆然とする艦橋要員たちの中で、いち早く我に返ったのは副長の**宗谷ましろ(シロ)**だった。彼女は姿勢を正し、鋭い声を響かせる。

 

「油断するな! まだ何が起きているか分からないぞ! 各科、直ちに点呼! 被害状況を報告しろ!」

 

ましろの号令で、止まっていた艦内の時間が再び動き出した。

明乃もハッとして、艦内放送のマイクを握る。

「みんな、怪我はない!? 各クラス委員、状況を教えて!」

 

艦橋の片隅では、アドミラル・シュペー副長であり、現在はオブザーバーとして乗艦している**ヴィルヘルミーナ(ミーナ)**が、信じられないものを見る目で外の景色を睨んでいた。

「なんじゃ今の嵐は……。計器が狂うほどの磁気嵐から一瞬で快晴じゃと? まるで狐につままれたようじゃ……」

 

【晴風 艦内被害状況・点呼】

■ 航海科

「ひぃぃ……死ぬかと思ったぁ……」

操舵輪にしがみついていた航海長の**知床鈴(リン)が腰を抜かしている傍らで、電測員の宇田慧(めぐみ)と電信員の八木鶫(つぐみ)が計器の復旧作業に追われる。

「電測・電信、機器の再起動完了。……でも、なんか変です。拾う電波の帯域が今までと全然違うっていうか……ノイズだらけで……」

艦橋上部の見張所からは、見張員の野間マチコ(マッチ)**の声が降ってくる。

「見張所、被害なし! サトちゃん(航海員・勝田聡子)、しゅうちゃん(左舷航海管制員・山下秀子)、まゆちゃん(右舷航海管制員・内田まゆみ)も無事です!」

 

■ 砲雷科

「もー! せっかく撃とうと思ったのに嵐どっかいっちゃったよー!」

水雷長の西崎芽依(メイ)が頬を膨らませる。

ましろがすかさず「滅多なことで撃とうとするな!」と釘を刺す中、伝声管から砲術員たちの声が届く。

『主砲照準担当の小笠原(ヒカリ)、旋回担当の武田(みっちん)、発射担当の日置(じゅんちゃん)、一番発射管・松永(りっちゃん)、二番発射管・姫路(かよちゃん)、異常なし! いつでもいけます!』

「水測室、**万里小路(もかちゃん)**です。ソナーに異常はありません。……ただ、スクリュー音が……とても奇妙ですわ」

おっとりとしたラッパ手兼水測員の万里小路楓の報告に、ましろは小さく眉をひそめた。

 

■ 機関科

『艦橋、こちら機関室!』

伝声管から、機関長の**柳原麻論(マロン)**の威勢の良い江戸っ子口調が響く。

『てやんでえ、あんな嵐で晴風の機関がやられるかってんだ! 機関助手(黒木洋美 / クロちゃん)も、機関員(若狭麗央 / れおちゃん、伊勢桜良 / サクラちゃん、駿河留奈 / ルナちゃん、広田空 / ソラちゃん)も全員ピンピンしてるぜ! ボイラーの圧力も正常に戻った!』

『こちら応急長(和住媛萌 / ひめちゃん)。応急員(青木百々 / モモちゃん)と共に艦内巡回完了。浸水、火災、破損箇所ゼロっす!』

 

■ 主計科

記録員・書記である納沙幸子(ココ)が、タブレットを片手にすっと立ち上がる。

「……フッ、どうやら我が晴風の結界は、次元の狭間をも耐え抜いたようだな。主計科からの報告も上がっている。主計長の等松(ミミちゃん)、衛生長の鏑木(みなみさん)、無傷! 給養員兼水雷運用員の**伊良子(ミカンちゃん)、杵崎姉妹(ほっちゃん・あっちゃん)**も、ひっくり返った鍋の片付けに入っているそうだ!」

 

「報告は簡潔にしろ」

ましろがため息をつきながらたしなめるが、その顔には明らかな安堵の色が浮かんでいた。

 

「よし……! 晴風乗員30名、それにミーナちゃん。全員の無事を確認! 被害もなし!」

明乃がパァッと花が咲いたような笑顔を見せ、胸をなでおろした。

「よかったぁ〜……。一時はどうなることかと思ったけど、さすが晴風だね!」

 

「喜ぶのは早いぞ、艦長」

ましろが海図台をバンッと叩き、険しい顔で周囲を見渡す。

「計器が復旧したのはいいが、現在地が全く掴めない。あれだけの嵐に巻き込まれて、どれだけ流されたか……。見張員、周辺に陸地や、他の学生艦の姿は見えないか!?」

 

見張所のマチコが、大型双眼鏡を覗き込みながら海域をグルリと見渡す。

そして、ある方角でピタリと動きを止めた。

 

『あ、あの……副長。艦長。右舷前方に、艦影を確認』

 

「本当!? 武蔵かな? それとも他の学校の船?」

明乃が身を乗り出す。

 

『い、いえ……違います。あんな形の船、授業でも見たことないです。しかも……でかい。武蔵ほどじゃないですけど、教官艦よりずっと大きくて……それが、3隻。こっちに向かってきます!』

 

「何だと……?」

ましろが急いで双眼鏡を手に取り、右舷前方へとレンズを向ける。

 

陽光を反射してギラリと光る、のっぺりとした灰色の巨大な構造物(フェーズドアレイレーダー)。鋭角的なステルス性を持った異様なフォルムの艦艇群。

それは、彼女たちが知る「ハイスクール・フリート」の世界には存在しないはずの、現代海上自衛隊のイージス艦「きりしま」と、それに続く第8水上戦隊の威容であった。

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