ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第30話 例え離れていても

驚きと感心の声が落ち着いた頃、橘3曹が、手元の温かいお茶の入った湯呑みを見つめながら、ふと少しだけ柔らかな表情になった。

 

「……実は、私には3つ上の"姉"がいるんです」

 

橘の唐突な告白に、明乃たちはスプーンやお茶の杯を下ろして耳を傾けた。

 

「今、姉は『むらさめ』型護衛艦の『きりさめ(DD-104)』という船に乗艦していて……日本から遠く離れた、アフリカの”ジブチ”という国にいるんですよ」

 

「アフリカの……ジブチ?」

副長の**ましろ(シロ)**が、記憶の中の海図を引っ張り出すように首を傾げる。

「私たちの世界にも大陸や地名としては存在しているが……なぜ、日本の防衛組織である自衛隊が、そんな遠くの海に展開しているんだ?」

 

「理由は、ソマリア沖・アデン湾における『海賊対策』のための派遣です」

水瀬1曹が、橘に代わって真剣な顔つきで答えた。

 

「「「「海賊ぅ!?」」」」

 

晴風の乗員たちが、再び大きな声を上げた。

特に目を輝かせたのは、もちろん水雷長の**西崎芽依(メイ)**だ。

「海賊!? 未来の海にも海賊っているの!? ドクロの旗とか揚げて、大砲ドカンって撃ってくるの!?」

 

「あはは、ドクロの旗は揚げていないし、木造の帆船でもありませんよ」

橘3曹がクスッと笑う。

「現代の海賊は、小型の高速ボートに自動小銃やロケットランチャーを積んで、通りかかるタンカーや貨物船を襲うんです。日本の生活を支える大切なシーレーン(海上交通路)を守るために、自衛隊や各国の海軍が協力してパトロールをしているんですよ」

 

「海賊から海の安全を守る……。なんだ、ブルーマーメイドとやってることは同じじゃねえか」

機関長の**麻論(マロン)**が、親近感を覚えたようにニヤリと笑う。

「うぃ。自衛隊、かっこいい」

砲術長の**タマ(立石志摩)**も、小さく拍手をした。

 

「世界中の海を股にかけて、治安を守る。ふん、我がドイツのブルーマーメイドと肩を並べる立派な任務じゃな!」

**ミーナ**も、腕を組んで誇らしげに頷いた。

 

「でも、アフリカなんて、すっごく遠いよね……。お姉さんに会えなくて、寂しくないですか?」

艦長の**明乃(ミケ)**が、心配そうに橘を見つめる。

 

その明乃の優しい気遣いに、橘はパッと明るい笑顔を返した。

 

「寂しいですけど、大丈夫ですよ。どんなに遠く離れていても、今は通信設備がしっかりしていますから。定期的にお互いに『元気?』『今日の夜ご飯、カレーだったよ』って、身近なことをメッセージでやり取りしてるんです。姉が頑張ってると思うと、私も日本で頑張らなきゃって思えますしね」

 

「……定期的にお互い、元気かって……」

 

明乃は、自分の胸元――セーラー服のポケットのあたりをギュッと握りしめた。

彼女の脳裏に浮かんだのは、幼馴染であり、横須賀女子海洋学校の超大型直接教育艦「武蔵」の艦長を務める、**知名もえか(もかちゃん)**の姿だった。

 

(もかちゃん……今頃、どうしてるかな。武蔵のみんなは無事かな……)

 

世界が分断されてしまった今、もえかとはもう「元気?」と連絡を取り合うことすらできない。その事実に、明乃の心にチクリと痛みが走る。

だが、同時に橘の言葉は、明乃に確かな勇気を与えてくれていた。どんなに遠く離れていても、想い合う心があれば、絆は切れないのだと。

 

「……そっか。遠くにいても、お互いを想う気持ちは同じなんだね」

明乃は、顔を上げて力強く微笑んだ。

「橘さん、素敵なお話、ありがとう! お姉さんも、遠い海で頑張ってるんだね。私たちも、負けないように頑張らなきゃ!」

 

「はい! 岬さんたちも、不安なことがあったらいつでも私たちに頼ってくださいね」

橘3曹も、明乃の真っ直ぐな瞳に心を打たれたように、嬉しそうに頷いた。

 

「……さて。お茶も飲み終わりましたし、そろそろ大浴場の時間ですね」

水瀬1曹が立ち上がり、パンッと手を叩いて皆の注目を集めた。

 

「未来の軍隊のお風呂、一番乗りっす!」

応急長の**ひめちゃん(和住媛萌)**が立ち上がり、機関科のメンバーが「おー!」と続く。

 

心細い異世界での第一夜。

しかし、橘のささやかな家族の話は、制服や時代が違えど、海に生きる者たちの心は確かに繋がっているという温かい事実を、晴風の少女たちに教えてくれたのだった。

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