ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第31話 大浴場

もうもうと立ち込める白い湯気の中、カポーンという桶の音が広く高い天井に響き渡る。

 

海上自衛隊・隊員宿舎の「大浴場」。

一度に数十人が入れるほど広々とした湯船に、晴風の少女たちは次々と肩まで浸かり、今日一番の深く、長い安堵の息を吐き出していた。

 

「はぁ〜っ……! 極楽、極楽〜っ!」

艦長の**明乃(ミケ)**が、湯船の縁に頭を乗せて手足をだらんと伸ばす。

「……うぃ。お湯、あったかい。溶けそう」

隣では、砲術長の**タマ(立石志摩)**が、口元までお湯に浸かりながらカピバラのように目を細めていた。

 

「はぁぁ……本当に、塩漬けにされなくて良かったですぅ……」

航海長の**リン(知床鈴)**が、頭に乗せたタオルの下で嬉し泣きをしている。

「……フッ、次元の狭間を越え、幾多の死線を潜り抜けた戦士たちを癒す『アヴァロンの霊泉』。この湯の温もりこそ、我らが明日を生き抜くための魔力回復(マナ・リジェネレーション)……!」

記録員の**ココ(納沙幸子)**が、湯気を纏いながら壮大な一人芝居を大浴場に響かせた。

「声が響いているぞ! 他の部屋の迷惑になるだろう!」

副長の**ましろ(シロ)**がすかさずツッコミを入れるが、その声もいつもよりずっと角が取れて、柔らかかった。

 

洗い場の方では、水雷長の**メイ(西崎芽依)**がシャワーの勢いの強さに感動していた。

「わぁっ! 未来のシャワー、お湯がいっぱい出る! しかも温度が全然変わらないよ!」

「てやんでえ! どんなボイラー積んでるか知らねえが、こんだけの人数が一斉にお湯を使っても水圧が落ちねえなんて、未来の配管と給湯システムはどうなってやがるんだ! 基地の機関室(ボイラーしつ)が見てえ!」

シャンプーを泡立てながら、機関長の**マロン(柳原麻論)**が技術者としての血を騒がせる。

「もう、麻論。お風呂の時くらい配管のこと忘れてゆっくりしなよ」

**クロちゃん(黒木洋美)**が苦笑しながらマロンの背中を流していた。

 

「足を伸ばして入れるお風呂、最高!」

応急長の**ひめちゃん(和住媛萌)**と、機関科の**れおちゃん(若狭麗央)**たちが、広い湯船の隅でバタ足をしてはしゃいでいる。

「まりこー、背中流すね」

「ありがとう、姫路さん、松永さん。未来のお湯も、とても良いお湯ですわ」

**かよちゃん(姫路果代子)**と**りっちゃん(松永理都子)**に背中を流してもらいながら、**まりこー(万里小路楓)**はお嬢様らしく優雅に微笑んだ。

 

主計科の**ミミちゃん(等松美海)**や**みなみさん(鏑木美波)**たちも、今日の炊き出しや片付けの疲れを癒すように、静かにお湯の温もりを味わっている。

 

「いやぁ、日本のデカい風呂はやっぱりええのう!」

**ミーナ**が、金髪を頭の上で綺麗にまとめながら、明乃とましろの間へザバァッと入ってきた。

「シュペーのシャワーもええけど、こうやってみんなで広い湯船に浸かると、芯から温まるわい!」

「あはは! ミーナちゃん、すっかり日本のお風呂に慣れたね!」

明乃がお湯をパシャパシャとミーナにかける。

 

「……岬さん」

ましろが、お湯の中からそっと手を出して、明乃の手を握った。

 

「今日一日、本当にお疲れ様。お前が艦長として、あの『きりしま』の艦長としっかり話をしてくれたから……私たちは今、こうして安全な場所で、温かいお湯に入れている。ありがとう」

ましろの素直な言葉に、明乃は少し照れくさそうに笑い、その手をギュッと握り返した。

 

「ううん。シロちゃんが、みんなが一緒にいてくれたからだよ。……それに、まだ何も解決したわけじゃないしね。明日からは、あの刈谷さんたちともっと難しいお話をいっぱしなきゃいけないんだよね」

 

「ああ。私たちの世界とこの世界の違い、日本政府の思惑、帰る方法……。考えるべき問題は山積みだ」

ましろは小さく頷いた。

「でも、今は」と、ミーナが二人の肩にポンと腕を回した。

「今は難しいことは全部忘れて、この極楽を堪能しようや! 明日のことは、明日起きてから考えればええ!」

 

「うんっ! そうだね!」

 

大浴場に響き渡る、少女たちの明るい笑い声と、お湯の跳ねる音。

 

謎の嵐による時空の転移。

圧倒的な戦力を持つ未来の海上自衛隊との遭遇。

そして、自分たちの知る「日本」が存在しないという絶望的な事実。

 

今日一日で彼女たちの小さな肩にのしかかった重圧と恐怖は、計り知れないものだった。しかし、この温かいお湯と、気心の知れた31人の仲間(と1人の留学生)の存在が、張り詰めていた心の糸を優しく解きほぐしていく。

束の間の休息は、彼女たちから確実に「緊張」と「疲労」を洗い流していた。

 

やがて、お風呂上がり。

水瀬1曹と橘3曹が用意してくれていた、着心地の良い未来のジャージやパジャマに着替えた少女たちは、ポカポカに火照った体のまま、それぞれの部屋のふかふかのベッドへと潜り込んだ。

どの部屋からも、消灯後わずか数分で、穏やかな寝息が聞こえ始める。

明乃の腕の中では五十六が、ましろの枕元では多聞丸が、一緒に丸くなって目を閉じていた。

 

2026年4月25日、深い夜。

こうして、横須賀女子海洋学校・航洋艦「晴風」の乗員たちの、異世界での長く過酷な第一日目は、静かな眠りとともに幕を下ろしたのだった。

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