ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第33話 ブルーマーメイド

**もう一つの世界(2016年)――東京湾上**

**ブルーマーメイド・統括管制艦(中央管制機構)**

 

同じ頃。日本の海の安全を守る頭脳であり、心臓部でもある超巨大な統括管制艦の司令室は、深夜にも関わらず怒号のような報告と電子音が飛び交い、不眠不休の野戦病院のような様相を呈していた。

 

「カロリン諸島海域、依然としてロストした学生艦の反応なし! 通信も繋がりません!」

「周辺の気象データ解析終了。ロスト直前に観測された磁気嵐は、自然界ではあり得ない異常な数値を示しています!」

 

正面の巨大なメインスクリーンには、日本列島周辺の広域海図が映し出されている。しかし、横須賀女子海洋学校所属・航洋艦「晴風」の識別信号は、完全に暗転したままであった。

 

その司令室の最前列で、腕を組み、冷徹なまでに鋭い視線をスクリーンに向けている一人の女性がいた。

ブルーマーメイド・安全監督室情報調査室の**宗谷真霜(むねたに ましも)一等保安監督官**である。

彼女は、横須賀女子海洋学校の宗谷校長の長女であり、晴風の副長・宗谷ましろの実の姉でもあった。

 

「……現在稼働可能な、近海域の捜索部隊の状況は?」

 

真霜一等保安監督官が、感情を完全に押し殺した透き通るような声で問いかける。

 

「ハッ。現在、各海域では正体不明のウイルス(RATt)による暴走艦事案が多発しており、多くの艦艇がその対応と事後処理に追われています。ですが……」

 

オペレーターを務める若手の女性保安官が、キーボードを叩いてスクリーンに新たな艦隊のシンボルを表示させた。

 

「幸いにも、RATtの感染を免れた横須賀女子海洋学校の艦艇群が日本近海およびマリアナ諸島海域で待機又は活動中です。長良型小型巡洋直接教育艦『長良』、ならびに陽炎型航洋直接教育艦の『陽炎』『不知火』『黒潮』『雪風』『初風』『親潮』『夏潮』『早潮』『浦風』『嵐』『萩風』『谷風』『野分』『秋風』『浜風』『舞風』『秋雲』の計17隻。これに加え、給糧支援教育艦『間宮』、工作支援教育艦『明石』が即時出港・現場に急行が可能な状態です」

 

「……十分な戦力です。」

真霜一等保安監督官は、モニターに映る無傷の艦艇群のリストを見つめ、即座に決断を下した。

 

「宗谷一等保安監督官より、各艦へ。これより、通信途絶した学生艦『晴風』の特大規模捜索作戦を発動します。RATtの感染を免れた陽炎型17隻は、直ちに長良型『長良』の指揮下に入り、カロリン諸島海域を中心としたグリッドをローラー作戦で捜索。海底のソナー探信も徹底しなさい。」

 

『了解! 長良ならびに陽炎型各艦、直ちに出港、捜索海域へ急行します!』

 

「また、長期間の捜索に備え、『間宮』および『明石』は捜索部隊の後方・相模湾にて待機。発見次第、いかなる状況であっても即座に救護・修復が行えるよう準備を怠らないように」

 

流れるような、一切の無駄がない的確な指示。

ブルーマーメイドの情報調査を束ねる彼女の指揮に、CICのオペレーターたちも次々と通信回線を開き、指令を各艦へと伝達していく。

 

「高橋二等保安官、気象庁および海洋研究開発機構と連携し、あの磁気嵐の正体を徹底的に解析しなさい。単なる気象現象で艦が丸ごと消失するなど、あり得ません」

「了解しました、宗谷一等保安監督官!」

 

司令室の喧騒の中で、真霜は自身の席に座り、手元のパーソナルモニターに映る「晴風」の乗員リストを静かに呼び出した。

一番上に表示されているのは、艦長である岬明乃の名前。

そして、そのすぐ下には、見慣れた妹の名前――「副長・宗谷ましろ」の文字があった。

 

(……ましろ。あなたは今、どこで何をしているの)

 

真霜の美しい顔立ちは、他の隊員の前では決して崩れることはない。しかし、その胸の内は、妹の安否を気遣う強烈な焦燥感に焼かれていた。

 

宗谷家というブルーマーメイドの名門の重圧に押しつぶされそうになりながらも、不器用なまでに真っ直ぐに海を愛し、立派な船乗りになろうと努力していた妹。

あの激しい磁気嵐に巻き込まれたという事実が、最悪の想像を幾度も真霜の脳裏に過らせる。

 

(いいえ……あの晴風には、素晴らしい直感を持った岬艦長がいて、そしてあなたが副長として就いている。必ず、乗員全員を無事に導いているはず……)

 

真霜は、スクリーンに映る暗い太平洋の海図を睨み据えた。

 

「……必ず見つけ出します。ブルーマーメイドの誇りにかけて」

 

誰にも聞こえないほどの小さな、しかし決して折れることのない誓いの言葉。

RATt感染を免れた精鋭艦隊が、夜の闇を切り裂いて次々と横須賀を出港していく。

消えた31人の少女たちと、1人の留学生を連れ戻すために。

 

世界が違うことなど、彼女たちには知る由もない。

それでも、「仲間を、家族を必ず救い出す」という強靭な意志は、次元の壁の向こう側でも確かに燃え上がっていた。




これにて、本作の第一部である。晴風、次元の壁を越えてが終了し、

次回から第二部へと入ります。

謎の嵐に遭遇し、2026年、自分達がいた2016年の世界から次元を越えて転移してきた。航洋艦「晴風」、伊豆大島東方沖で訓練していた。海上自衛隊第2水上戦群第8水上戦隊に保護された。艦長の岬明乃以下32名と猫2匹、自らが知る世界と異なる陸に降り立った彼女達に待つのは、受け入れ(どうほう)か、拒絶(みちのてき)か。
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