ハイスクール・フリート Cross World War 作:冬吉
ウルシー環礁・ファラロップの暗礁に座礁した商店街船「しんばし」の救助作業を終え、ロストした横須賀女子海洋学校の教育艦の捜索を続けていた同校所属の陽炎型航洋直接教育艦「晴風(Y467)」。突然、乗員達がこれまでに経験した事ない謎の嵐に遭遇、各種計器が異常により艦ごと飲み込まう。嵐を抜けた先は、自分達がいた世界が歩んだ2016年ではなく地盤沈下せず、二度の世界大戦を経験した2026年の世界(現実世界)の日本であった。
第34話 起床のラッパ
**2026年4月27日 06時00分**
**海上自衛隊 横須賀基地・隊員宿舎**
春の柔らかな朝日が、基地の巨大なクレーンや護衛艦のシルエットを白く照らし始めた頃。
静まり返った隊員宿舎のスピーカーから、突如として高く鋭い音が響き渡った。
*「パッパッパパパー、パッパッパパパー、パパパパパパパ、パパパパパー!」*
海上自衛隊の伝統的な「起床ラッパ」だ。
ブルーマーメイドの学校で流れる穏やかなチャイムとは似ても似つかない、規律と緊張を強いるその調べが、深い眠りに落ちていた少女たちの鼓膜を容赦なく叩いた。
「ひゃ、ひゃわぁぁぁ!? な、なんですかなんですかぁ!?」
航海科の部屋では、**リン(知床鈴)**が叫び声を上げてベッドから転げ落ちた。
「……うぅ。爆発……? 敵襲……?」
隣のベッドで**タマ(立石志摩)**が寝ぼけ眼で頭を抱える。
「……ん、んん……。あ、このラッパ……」
艦長部屋では、**明乃(ミケ)**が跳ねるように飛び起きた。肩のあたりで丸くなっていた**五十六**が、ラッパの音に驚いて「ぬうぅッ!」と毛を逆立てている。
「岬さん、起きてください。……起床時間のようです」
隣のベッドでは、副長の**ましろ(シロ)**がすでに上体を起こしていた。彼女の腕の中では、子猫の**多聞丸**がミャアミャアと落ち着かなく鳴いている。
「おはようシロちゃん……。今の、自衛隊の起床ラッパかな? すっごく元気な音だね……」
「元気すぎるわい……。ドイツの朝はもっと静かじゃぞ……」
**ミーナ**が金髪を振り乱しながら、枕を抱えて不機嫌そうに呻いた。
その直後、部屋のドアが控えめにノックされ、昨日案内してくれた**水瀬1曹**と**橘3曹**が顔を出した。
「皆さん、おはようございます! 海上自衛隊の朝は早いですよ!」
橘3曹が元気いっぱいの笑顔で入ってくる。
「水瀬さん、橘さん、おはようございます……。自衛隊の人は、毎日あのラッパで起きるんですか?」
明乃が目をこすりながら尋ねる。
「ええ。慣れるまでは心臓に悪いかもしれませんね」
水瀬1曹がクスクスと笑いながら、テキパキとカーテンを開けた。
「でも、今日は大切な一日になります。朝食の後は、昨日お話しした通り『特命チーム』との初めての会議が予定されていますから。しっかりと目を覚ましてくださいね」
「……会議、ですか」
ましろが表情を引き締めた。その手元で多聞丸が「わかってるよ」と言うようにましろの手のひらを舐める。
他の部屋でも、少女たちが次々と異世界の朝を迎えていた。
「てやんでえ! あのラッパ、耳の奥までジンジン響きやがるぜ!」
機関科の部屋では、**麻論(マロン)**が頭をガシガシと掻きながら立ち上がった。
「もう、麻論。これがこの世界のルールなんだから、文句言わないの。ほら、顔洗っておいで」
幼馴染の**クロちゃん(黒木洋美)**が、手際よくタオルを渡して麻論を促す。
「まりこー、おはよう。よく眠れた?」
砲雷科の部屋では、**かよちゃん(姫路果代子)**と**りっちゃん(松永理都子)**が、まだおっとりとベッドの中にいる**万里小路楓(まりこー)**に声をかける。
「おはようございます、皆様……。ええ、とても静かな夜でしたわ。あのラッパ……目覚まし時計としては、少々賑やかすぎますけれど」
まりこーは優雅に欠伸をして、いつものお嬢様らしい笑みを浮かべた。
宿舎の窓からは、朝日を浴びて輝く横須賀の海が見えた。
その海には、昨日自分たちをエスコートしてくれた「きりしま」や、他にも数え切れないほどの巨大な護衛艦が、静かに、しかし力強く停泊している。
自分たちのいた世界から10年後の、地盤沈下しなかった日本。
自分たちの常識が通用しない、本物の軍隊が守る横須賀。
「……よしっ!」
明乃は頬を両手でパンッ!と叩いて、自分に気合を入れた。
「みんな、準備しよう! 今日から、私たちの『新しい航海』が始まるんだから!」
不安を抱えながらも、晴風の乗員31名と留学生、そして2匹の猫は、2026年という「未来」での最初の朝を歩み始めた。
彼女たちを待ち受けているのは、日本政府、そして世界の大国たちの思惑が交錯する、荒れ狂う政治の荒波であった。