ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第35話 横須賀の朝

**午前7時00分**

**隊員宿舎 食堂**

 

起床ラッパの洗礼から1時間後。

身支度を整え、お馴染みのブルーマーメイドの指定ジャージやセーラー服に着替えた晴風の乗員たちは、隊員宿舎の食堂へと続々と集まってきた。

 

食堂の扉を開けると、そこに漂っていたのは、炊きたての白いご飯と出汁の効いたお味噌汁、そして焼き魚の香ばしい匂いだった。

 

「わぁ……! すごく美味しそうな匂い!」

艦長の**明乃(ミケ)**が、お盆(トレイ)を手に取りながら目を輝かせる。

 

配膳カウンターに用意されていたのは、白いご飯、豆腐とわかめのお味噌汁、ふっくらと焼かれた塩鮭、厚焼き玉子、納豆、そして味付け海苔という、絵に描いたような「日本の正しい朝食」だった。

 

「おお! 昨日の夜のカレーも良かったが、やっぱり朝は白い飯と味噌汁に限るぜ!」

機関長の**麻論(マロン)**が、ご飯を大盛りによそいながらニカッと笑う。

「もう、麻論ったら。食べすぎると後の会議で眠くなっちゃうよ?」

幼馴染の**黒木洋美(クロちゃん)**が、麻論のお盆にバランスよく小鉢を乗せていく。

 

「ふむ……。朝はパンとソーセージが恋しくなるが、この『サケ』という魚は塩気が効いていて、ご飯によく合うんじゃよな!」

オブザーバーの**ミーナ**も、お箸を器用に使いこなしながら塩鮭を頬張っていた。

 

「さすがお世話役の水瀬さんたちが手配してくれただけあって、栄養バランスとカロリー計算が完璧に管理されていますね……! 未来の厨房設備、ぜひ一度見学してみたいです!」

主計長の**ミミちゃん(等松美海)**や、給養員の**ミカンちゃん(伊良子美甘)**たち炊事委員は、自衛隊の食事のクオリティにすっかり感心しきりだ。

 

「まりこー、納豆食べる?」

「ええ、いただきますわ、姫路さん、松永さん。未来の納豆も、よく糸を引きますこと」

水雷員の**かよちゃん(姫路果代子)**と**りっちゃん(松永理都子)**に挟まれながら、**まりこうじさん(万里小路楓)**はお嬢様らしく優雅に納豆をかき混ぜている。

 

そんな賑やかな食堂の片隅で、水瀬1曹と橘3曹も彼女たちと同じテーブルを囲み、一緒に朝食をとっていた。

 

「みんな、お口に合って良かったです。海上自衛隊の朝食は、一日の活力の源ですから、しっかり食べてくださいね」

水瀬1曹が温かく微笑む。

 

「……フッ。この素朴にして完璧な布陣。まさに最後の晩餐……ならぬ『最後の朝食(ラスト・ブレックファスト)』! これから始まる政府という名の審問会(インクイジション)に向けた、我らへのささやかな手向けというわけか……!」

記録員の**ココ(納沙幸子)**が、お味噌汁のお椀を片手に深刻そうな一人芝居を始める。

 

「ひゃあぁぁっ!? 審問会!? や、やっぱり私たち、塩漬けにされちゃうんですかぁ!?」

航海長の**リン(知床鈴)**が、箸を持ったままガタガタと震え出した。

 

「ココちゃん、リンちゃんを怖がらせちゃダメだよ。……それに、塩漬けにはしないって昨日刈谷さんが言ってたじゃない」

明乃が苦笑いしながらリンの背中をさする。

 

「艦長の言う通りだ。いい加減にしろ」

副長の**ましろ(シロ)**が、ピシャリとココをたしなめた。そして、自分のトレイに乗った塩鮭を綺麗にほぐしながら、真剣な表情で明乃に向き直る。

 

「……だが、書記の言うこともあながち間違ってはいない。艦長、これからの会議は、昨日の『きりしま』での通信とは訳が違う。相手は日本政府の特命チームだ。私たちの身の振り方や、艦の扱い、そして『帰る方法』について……厳しい交渉になるかもしれない」

 

ましろの言葉に、周囲の席にいた乗員たちもスッと静まり返り、箸を動かす手を止めた。

誰もが心の奥底に抱えていた不安。

この未来の世界で、自分たちはどう扱われるのか。元の海に帰れる保証など、どこにもないのだ。

 

そんな少し重くなりかけた空気を吹き飛ばすように、明乃はいつもの明るい笑顔で、ましろの肩をポンッと叩いた。

 

「大丈夫だよ、シロちゃん! 私たちには、晴風のみんながいるもん! どんな難しいお話しだって、みんなで一緒に考えれば絶対に乗り越えられるよ。それに……」

 

明乃は、自分のご飯の上に乗せた厚焼き玉子をパクリと食べて、満面の笑みを浮かべた。

 

「こんなに美味しい朝ごはんを作ってくれる人たちが、悪い人たちなわけないよ! 腹が減っては戦はできぬ、だね!」

 

その底抜けに前向きな明乃の言葉に、ましろは小さくため息をつきながらも、どこか毒気を抜かれたようにふっと口元を緩めた。

 

「……お前のその直感と楽観主義には、本当に呆れる。だが……そうだな。今はしっかり食べて、頭を働かせなければ」

「うぃ。美味しいもの食べると、元気出る」

砲術長の**タマ(立石志摩)**も、モクモクとご飯をかき込みながら同調した。

 

「よーし! じゃあ未来の政府のおじさんたちに、私たちの元気をしっかり見せてやろうね!」

水雷長の**メイ(西崎芽依)**が元気よくお茶を飲み干す。

 

不安はまだ消えない。それでも、温かい朝食と仲間たちの笑顔が、少女たちの心に「立ち向かう勇気」を確かにチャージしていた。

 

朝食の時間が終わると共に、食堂の扉が開き、スーツ姿の刈谷が数名のスタッフを連れて姿を現した。

 

「……皆さん、おはようございます。食事が済んだようですね」

刈谷は、昨日と変わらぬ冷徹な表情で、腕時計に視線を落とした。

 

「これから、本施設内の会議室へご案内します。……我々『特命チーム』との、第一回状況確認会議を始めましょう」

 

いよいよ、2026年の日本政府と、異世界から来た少女たちとの本格的な対話の幕が上がる。

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