ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第36話 基地内に流れる国歌

**午前8時00分**

**海上自衛隊 横須賀基地内・渡り廊下**

 

刈谷たち特命チームの先導で、会議室へと向かう長い渡り廊下を歩いていた晴風の乗員たちは、ふと窓の外の景色に目を奪われた。

ガラス張りになったその廊下からは、朝日を反射して輝く横須賀本港と、そこに停泊する数多の艦艇が一望できたのだ。

 

その時、案内役を務めていた**水瀬1曹**と**橘3曹**がピタリと足を止め、港の方角へ向かってスッと姿勢を正した。スーツ姿の**刈谷**も同じように歩みを止め、静かに海を見つめる。

 

「……? どうしたの?」

艦長の**明乃(ミケ)**が不思議そうに首を傾げた、その瞬間だった。

 

基地全体に設置されたスピーカーから、厳かなラッパの音と共に、日本の国歌である『君が代』の旋律が静かに流れ始めた。

 

「あっ……」

副長の**ましろ(シロ)**がハッとして窓の外を見る。

 

「きりしま」をはじめとする、港に停泊しているすべての護衛艦の艦尾に、迷彩服や制服を着た大勢の隊員たちが一糸乱れぬ動きで整列していた。

そして『君が代』の荘厳なメロディに合わせ、艦尾の旗竿へと、白地に赤の日の丸――日本の国旗(海上自衛隊では艦尾に自衛艦旗、艦首に国旗を掲揚する伝統がある)が、ゆっくりと、しかし力強く掲揚されていく。

 

水瀬1曹と橘3曹は、その旗に向かって直立不動のまま、自衛隊式の敬礼をピシッと捧げていた。

一切の私語はなく、基地全体がピンと張り詰めたような神聖な空気に包まれる。

 

「……朝の国旗掲揚、課業始めの合図(モーニング・カラーズ)か」

ましろが、息を呑んでその光景を見つめる。

「ブルーマーメイドや海洋学校でも毎朝行われる海の伝統だが……これだけの数の巨大な艦と、何千人もの隊員たちが一斉に行う姿は、あまりにも圧倒的だ……」

 

その厳粛な空気に、晴風の乗員たちも自然と背筋を伸ばし、静かに窓の外を見つめた。

機関長の**麻論(マロン)**も、記録員の**ココ(納沙幸子)**も、この張り詰めた「本物の軍隊の朝」を前にしては、軽口一つ叩けない。

 

だが、驚きはそれだけではなかった。

 

『君が代』の旋律が流れるのと全く同時に、フェンスを隔てたすぐ隣――在日米海軍の横須賀基地(CFAY)のスピーカーからも、金管楽器の華やかなファンファーレが響き渡ってきたのだ。

それに続いて流れ始めたのは、アメリカ合衆国国歌『星条旗(The Star-Spangled Banner)』である。

 

「……隣の基地からじゃ。アメリカの国歌が聞こえる」

オブザーバーの**ミーナ**が、隣接する巨大な基地群と、そこに停泊する見慣れぬ灰色の巨艦――米海軍のイージス艦の群れを鋭い目で見据えた。

「あっちの艦の甲板でも、水兵たちが整列して敬礼しとる。そして……星条旗が揚がっていくわい」

 

日本の『君が代』と、アメリカの『星条旗』。

二つの異なる国の国歌が、同じ横須賀の空の下、同じ朝の空気の中で重なり合い、それぞれの国の旗が静かに風に舞う。

 

「日本とアメリカの軍隊が、隣同士で同じ海を守っている……」

明乃は、窓ガラスに両手をつき、その光景を食い入るように見つめた。

 

彼女たちの世界でも、日本とアメリカは協力関係にある。しかし、国土の大半が水没した世界線とは異なり、この2026年の世界では、二つの大国が「軍事同盟」という強固な鎖で結ばれ、一触即発の国際情勢の中でまさに肩を並べて立ち向かおうとしているのだ。

 

『君が代』と『星条旗』の演奏が終わり、ラッパの音が止むと、基地は再びいつもの重厚な稼働音を取り戻した。護衛艦の甲板では隊員たちが散開し、その日の任務へと就いていく。

 

「……終わりましたね。行きましょう」

 

水瀬と橘が敬礼を解き、刈谷が静かに歩き出す。

 

明乃は最後に一度だけ、風にはためく日の丸と星条旗を振り返り、そしてキュッと唇を結んで前を向いた。

 

(この人たちは、本当に国を守るために戦ってるんだ……。そんな世界の真ん中に、私たちは来ちゃったんだね)

 

圧倒的な「現実」を見せつけられ、少女たちの顔つきは先ほどの朝食の時よりも一段と引き締まっていた。

 

「さあ、着きましたよ」

 

渡り廊下を抜け、刈谷が足を止めたのは、分厚い防音扉が備え付けられた巨大な会議室の前だった。

ドアの横の電子プレートには『第一会議室(特命チーム使用)』と表示されている。

 

「この中に、各省庁から集められた専門家や、自衛隊の幹部たちが待っています」

刈谷はドアノブに手をかけ、明乃たちを振り返った。

 

「岬艦長、宗谷副長。……準備はいいですか?」

 

「はい!」

明乃は真っ直ぐに刈谷の目を見て、力強く頷いた。ましろも、その隣で静かに顎を引く。

 

刈谷が重々しい扉を押し開ける。

2026年の日本政府と、異世界から来た少女たちによる、運命の第一回状況確認会議が、今ここに始まろうとしていた。

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