ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第37話 状況確認会議と日本主導 前編

**午前8時30分**

**第一回状況確認会議 開始**

 

重厚な防音扉の向こう側に広がっていたのは、窓のない広大な空間と、中央に鎮座する巨大なコの字型の会議テーブルだった。

壁面にはいくつもの大型モニターが設置され、横須賀周辺の海図や、伊豆大島沖での「晴風」の航跡データなどがすでに表示されている。

 

テーブルの一方の席には、スーツ姿の官僚たちや、様々な階級章をつけた制服組の自衛隊幹部たちがズラリと並び、厳しい表情で待ち構えていた。

対するもう一方の席に案内されたのは、**岬明乃(ミケ)**、副長の**宗谷ましろ(シロ)**、オブザーバーの**ミーナ**、そして記録員としてタブレットを抱えた**納沙幸子(ココ)**の4名。その他の乗員たちは、その後方に用意されたパイプ椅子に固まって着席している。

 

「これより、内閣官房特命チーム主導による、所属不明艦および乗員に関する第一回状況確認会議を開始する」

 

議長席に座った**刈谷**が、マイク越しに淡々と宣言した。

 

「まずは、我々政府側の見解を率直に伝える。……我々は、君たちが『パラレルワールド(平行世界)』からやってきた存在であるという非現実的な仮説を、暫定的な事実として認定した」

 

その言葉に、後ろに座っていた晴風の乗員たちから「おぉっ……」とどよめきが漏れた。

オカルトやSFと切り捨てられるのが一番恐ろしかったが、国家のトップレベルがそれを「事実」として受け入れたのだ。

 

「感謝します。我々の言葉を信じていただき」

ましろが姿勢を正し、代表して頭を下げた。

 

「感謝するには及ばない。あらゆる物的証拠が、そう結論づける以外にないからだ」

刈谷の隣に座っていた、防衛省の情報分析官・**須藤(すどう)**が、手元の資料をモニターに映し出しながら口を挟んだ。

 

「君たちの乗ってきた陽炎型駆逐艦『晴風』。P-1哨戒機や護衛艦の各種センサーで徹底的にスキャンさせてもらった。船体構造こそ1940年代の旧海軍のものと一致するが……マストに装備されている水上レーダーの波長は、我々海上自衛隊が運用している『OPS-28』に極めて酷似している。さらに、艦底部のソナーや、機関部の自動化システムに至っては、現代の技術水準かそれ以上だ。……単なる時代錯誤のレプリカではない」

 

須藤分析官は、鋭い視線を明乃たちに向けた。

 

「我々が最も警戒しているのは、そこだ。君たちの世界は、我々の世界(2026年の現実)と比べて、どれほどの軍事力と技術力を持っているのか。そしてなぜ、君たちのような未成年の高校生たちが軍艦を動かしているのか」

 

その刺すような問いかけに対し、明乃は決して怯むことなく、しっかりと前を向いて口を開いた。

 

「私たちは、軍隊じゃありません。海を守る『ブルーマーメイド』になるために勉強している、横須賀女子海洋学校の学生です」

 

明乃の言葉を引き継ぎ、ましろが理路整然と説明を開始する。

 

「我々の世界では、今から約100年前……20世紀初頭にメタンハイドレートの採掘の影響で、日本国土の大半が海に沈みました。そのため、海上交通の安全を守るために『ブルーマーメイド』という女性だけの国際的な海洋治安維持組織が結成されたのです。……我々が乗っている晴風も、戦闘を目的とした『軍艦』ではなく、ブルーマーメイドを育成するための『教育艦』です」

 

「教育艦だと……? 12.7センチ連装砲(?)や、実弾の魚雷を積んでおきながらか?」

自衛隊の幹部が眉をひそめる。

 

「はい。海の安全を守るためには、時には密漁船や海賊、あるいは暴走した艦艇を制圧する力も必要になりますから。……しかし、我々の世界には航空機は存在しませんし、潜水艦もごく一部しか運用されていません。……ましてや」

 

ましろは言葉を区切り、窓の外の海を指差すように視線を向けた。

 

「昨日の夜から今朝にかけて、この基地や隣の基地(アメリカ軍)の艦艇群を見させていただきました。誘導弾を大量に搭載した戦闘艦や、原子力で動く巨大な航空母艦。……破壊力という点においては、我々の世界よりも、あなた方の世界の方が遥かに恐ろしい力を持っています」

 

ましろの的確な分析に、特命チームの官僚たちは静かに視線を交わした。

 

「……なるほど。あちらの世界には航空戦力(空母・戦闘機)が存在せず、その代わりに水上艦艇の自動化技術が異常に発達した世界線というわけか」

刈谷が顎に手を当てて呟く。

 

「あのう、質問してもいいですか?」

明乃が、おずおずと手を挙げた。

 

「なんだろうか、岬艦長」

 

「私たちは昨日、別の学校の教官艦からの通信を受けて、助けに向かっている途中に、すごく大きな嵐に巻き込まれました。……私たちがいた場所に戻る方法、あるいは、元の世界に帰る手がかりは、何か見つかっていないんでしょうか?」

 

明乃の問いかけに、晴風の乗員全員が息を呑んで刈谷の答えを待った。

しかし、刈谷の口から出たのは、冷酷な現実だった。

 

「残念ながら、皆さんが『晴風』と共に現れた伊豆大島沖には、現在いかなる次元の歪みも、異常な磁場も観測されていない。気象庁や海洋研究開発機構(JAMSTEC)のデータも洗ったが、完全に『消失』している」

 

「そんな……!」

航海長の**リン(知床鈴)**が青ざめ、他の乗員たちの間にも絶望の波が広がっていく。

 

「扉は、閉ざされたということです」

刈谷は無情にも事実を突きつけた。

 

「現状、皆さんが元の世界へ帰るための『具体的な手段』は、我々の科学力では提示できない。これが結論です」

 

「じゃあ……わしらは、一生この見知らぬ未来の日本で生きていかにゃならんのか……!」

ミーナが机をバンッと叩いて立ち上がった。

 

「落ち着いてください、ヴィルヘルミーナ副長」

刈谷は冷静にミーナを制止し、モニターの画面を「横須賀基地周辺の警戒図」へと切り替えた。

 

「これは皆さんに絶望を与えるための会議ではありません。現状を正しく認識し、これからどう生き抜くかを決めるための会議です」

 

刈谷は眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。

 

「皆さんがこの世界に現れた時、その『異常な電磁波』は、我が国の自衛隊だけでなく、隣に駐留するアメリカ海軍・第7艦隊も探知しています。現在、同盟国であるアメリカから、『その正体不明艦と未知のテクノロジーを日米合同で調査させろ』という強烈な政治的圧力が、日本政府にかかり始めています」

 

「アメリカ、が……?」

明乃が戸惑ったように呟く。

 

「ええ。もし皆さんが乗ってきた『晴風』の正体が公になれば、アメリカだけでなく、中国やロシアといった大国も、その『別世界のテクノロジー』や『時空転移の秘密』を狙って暗躍を始めるでしょう。……君たちは今、この世界のパワーバランスを根底から覆しかねない『パンドラの箱』の鍵を握ってしまっているのです」

 

第一回状況確認会議は、単なる事情聴取から、一気に国家間の「安全保障問題」というヒリつくような領域へと突入していった。

帰る道を失った31人の少女たちは、2026年という「戦争の影」が色濃く落ちる現実世界で、究極の選択を迫られようとしていた。

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