ハイスクール・フリート Cross World War 作:冬吉
**午後12時00分**
**隊員宿舎 食堂**
午前中の重苦しい政治会議を乗り切った晴風の乗員たちは、案内された食堂で、目の前に配膳された「特別メニュー」に目を輝かせていた。
「わぁぁっ……! すっごく美味しそう!」
艦長の**明乃(ミケ)**が、身を乗り出して歓声を上げる。
テーブルに並べられていたのは、トロトロの半熟卵でチキンライスを包み込み、濃厚なデミグラスソースがたっぷりとかかった特製オムライス。そして、大ぶりで熱々の鶏の唐揚げ、彩り豊かな新鮮なサラダ、熱いコンソメスープだった。
「午前中の厳しい会議、本当にお疲れ様でした。今日は皆さんのために、基地の給養員(調理担当)が腕によりをかけて作った『特製デミグラス・オムライス』です!」
**水瀬1曹**が、エプロン姿で誇らしげにメニューを紹介する。
「たくさん食べて、しっかり体力を回復してくださいね!」
**橘3曹**も、ニコニコしながらお冷のピッチャーをテーブルに置いて回る。
「「「「いただきまーす!!」」」」
31人の少女たち(と1人の留学生)の声が食堂に響き渡り、一斉にスプーンが動いた。
「んんん〜っ! 卵がフワフワでトロトロ! デミグラスソースもすっごくコクがあるよ!」
明乃が、オムライスを大きな口で頬張りながら満面の笑みを浮かべる。
「てやんでえ! この唐揚げ、外はサクサクなのに中は肉汁が溢れてきやがる! 未来の調理器具はどうなってんだ!?」
機関長の**麻論(マロン)**が、唐揚げを齧りながら大興奮で叫ぶ。
「もう、麻論! 口にモノを入れたまま喋らないの! 喉に詰まらせるよ?」
幼馴染の**クロちゃん(黒木洋美)**が、呆れながらも自分の唐揚げを一つ麻論のお皿に分けてあげた。
「……フッ。見よ、この黄金のドーム(オムライス)を。これは我らが無事に突破した『絶対防衛線』の象徴。そして赤き血潮(ケチャップライス)は、我らが乗り越えた試練の証……!」
記録員の**ココ(納沙幸子)**が、スプーンを剣のように掲げて熱演する。
「ココちゃん、せっかくの温かいご飯が冷めちゃいますぅ! 早く食べましょう!」
航海長の**リン(知床鈴)**が、自分のオムライスをハフハフと頬張りながらツッコミを入れた。
「ソースの隠し味に、少しだけ赤ワインと……お醤油も入っているみたいですね。未来のレシピ、すごく勉強になります!」
主計長の**ミミちゃん(等松美海)**や、給養員の**ミカンちゃん(伊良子美甘)**たち炊事委員は、舌の上でデミグラスソースの成分をプロの顔つきで分析している。
「まりこー、唐揚げ熱いから気をつけてね」
「ありがとう、姫路さん、松永さん。未来の鶏肉も、とてもジューシーですわ」
**かよちゃん(姫路果代子)**と**りっちゃん(松永理都子)**に見守られながら、**まりこー(万里小路楓)**はお嬢様らしく、オムライスを小さく切り分けて上品に口に運んでいた。
一方、艦長席のテーブルでは、副長の**ましろ(シロ)**が静かにオムライスを味わいながら、足元でキャットフードを食べる**多聞丸**と、明乃の足元で「ぬぅ」と喉を鳴らす**五十六**を優しい目で見つめていた。
「どうしたの、シロちゃん? 美味しい?」
明乃がスプーンをくわえたまま首を傾げる。
「ああ。……とても美味しい」
ましろは小さく微笑んだ。
「あの会議室にいた時は、本当にどうなることかと思ったが……こうして皆で美味しいご飯を食べられていると、私たちが生き残ったんだという実感が湧いてくる」
「うんっ! ナオミさんや、刈谷さんのおかげだね。……でも、一番はシロちゃんが立派に副長としてお話ししてくれたからだよ!」
明乃がニカッと笑う。
「ば、馬鹿を言え。お前が艦長として堂々としていたからだろう」
ましろは少し顔を赤らめて、誤魔化すように唐揚げを口に放り込んだ。
そして、食事も終盤に差し掛かった頃。
「皆さーん! お待ちかねのデザート、未来のアイスクリームですよー!」
橘3曹が、大きなクーラーボックスを台車に乗せてガラガラと運んできた。
その瞬間、少女たちの目の色が一気に変わる。
「わぁーい! アイス! アイス!」
水雷長の**メイ(西崎芽依)**が両手を上げて飛び跳ねる。
「色々な味を用意しましたから、好きなものを選んでくださいね」
水瀬1曹がクーラーボックスを開けると、そこにはバニラ、チョコレート、ストロベリー、抹茶など、色とりどりのカップアイスがぎっしりと詰まっていた。
「わしは絶対にバニラじゃ! シュペーでもよく食べとった王道の味じゃけぇ!」
**ミーナ**が一番乗りでバニラアイスを確保し、さっそく蓋を開ける。
「……うぃ。私、予告通りチョコ。濃厚で美味しい」
砲術長の**タマ(立石志摩)**は、チョコレートアイスをスプーンで掬い、幸せそうに目を細めた。
「私はストロベリーにしよっと! シロちゃんは何味がいい?」
「私は……そうだな、抹茶をもらおうか」
「シロちゃん、渋いねー!」
甘く冷たいアイスクリームが、午前中の極度の緊張と疲労を、少女たちの心から完全に溶かしていく。
会議室での大人たちとのヒリつくような駆け引きは嘘のように消え去り、そこにあるのは、どこにでもいる普通の女子学生たちの、平和で賑やかな昼休みの光景だった。
「……よかったですね、みんな笑顔になって」
食堂の隅で、その様子を温かく見守っていた橘3曹が、水瀬1曹に小声で話しかける。
「ええ。午後からは健康診断に、これからの生活ルールのガイダンス……まだまだ彼女たちには慣れないことばかりでしょうけど、この笑顔があればきっと大丈夫ね」
水瀬1曹も、優しく頷いた。
未知の未来世界での、ささやかだけれど最高に美味しい「最初の昼食」。
それは、晴風の乗員たちにとって、この2026年の日本で力強く生き抜いていくための、何よりのエネルギー源となったのだった。