ハイスクール・フリート Cross World War 作:冬吉
*キィィィィィィィン!!*
突然、晴風の真上から、これまでの人生で一度も聞いたことのないような鋭い金属的な風切り音が降り注いだ。
「ひぃぃぃっ!? な、何!? 何が落ちてきたのぉ!?」
航海長の**リン(知床鈴)**が首をすくめて操舵輪の下に潜り込もうとする。
「……速い! 上、何かいる!」
砲術長の**タマ(立石志摩)**が指差す先、晴風のメインマストをかすめるような低空を、巨大な「白い影」が猛烈な速度で通過していった。
それは、厚木航空基地から飛来した海上自衛隊の最新鋭哨戒機、**P-1**であった。
「え……ッ!? 飛行船……じゃない! 船体がないのに、どうして浮いてるの!?」
**艦長(岬明乃)**が窓から身を乗り出し、空を見上げる。彼女たちの知る空の乗り物は、巨大な気嚢を持つ飛行船(スキッパー)のみ。翼だけで空を切り裂き、4基のジェットエンジンで突き進む航空機の姿は、魔法か未知の怪物のように映った。
「馬鹿な……。プロペラも見当たらんのに、あの速度……。あんなもの、シュペーの母国でも見たことがないぞ!」
オブザーバーの**ミーナ(ヴィルヘルミーナ)**が驚愕に目を見開く。
P-1は晴風を追い越すと、大きくバンク(旋回)してその側面を晒した。
見張員の**マチコ(野間マチコ)**が、震える手で双眼鏡を覗き込む。
『艦長……! あの飛んでる物体、翼に赤い丸……日の丸がついてます! それに、後ろの方に……漢字が書いてあります!』
「漢字……? なんて書いてある?」
副長の**ましろ(宗谷ましろ)**が鋭く問いかける。
『えーっと……「海・上・自・衛・隊」……。さっきの無線と同じ名前です!』
「海上自衛隊……。ブルーマーメイドとは違う、この海域を統治している組織の名前ということか……?」
ましろが険しい表情で呟く。
その横で、記録員の**ココ(納沙幸子)**が、既に一人芝居の世界に没入していた。
「……フッ、ついに現れたか。空を統べる鋼の巨鳥『神風(カミカゼ)』。彼らの翼に刻まれた文字は、失われた古の軍隊の復活を告げる福音か、それとも破滅の呪文か……。ああ、艦長! 私たちは歴史の目撃者になってしまったのかもしれません!」
『てやんでえ! 空を飛ぶ船だか鳥だか知らねえが、音がデカすぎて機関室まで響いてるぜ!』
伝声管から機関長の**マロン(柳原麻論)**の江戸っ子口調が飛んでくる。
『クロちゃん(黒木洋美)が驚いてスパナ落としちまったじゃねえか! 艦長、ありゃ一体何なんだい!?』
「ごめんマロンちゃん、こっちもよく分からなくて……」
艦長が困ったように答える間にも、P-1は優雅に旋回を続け、再び晴風の進路上へと戻っていく。まるで「こちらへ付いてこい」と先導しているかのようだった。
「……うぃ。あの鳥……私たちを見てる」
タマがぽつりと呟く。
その時、再び八木鶫の電信ブースから、スピーカー越しに明瞭な音声が流れた。
『……こちらは海上自衛隊、護衛艦「きりしま」。上空のP-1より、貴艦の映像を確認した。貴艦は……陽炎型駆逐艦と酷似しているが、現在、日本国内に可動状態の同型艦は存在しないはずだ。重ねて問う。貴艦の所属、および目的を答えられたし』
「きりしま」の艦橋から放たれたその問いに、ましろが明乃を振り返る。
「艦長。相手は私たちのことを『陽炎型駆逐艦』と呼びました。私たちの正体を知っているようです。……どうしますか?」
「……。正体を隠してても始まらないよね。ちゃんと挨拶しなきゃ!」
艦長は意を決したようにマイクを手に取った。
「こちら、横須賀女子海洋学校所属、航洋艦『晴風』! 私は艦長の岬明乃です! 私たちは……えっと、嵐に巻き込まれて、ここがどこか分からなくて困っています! 助けていただけますか!?」
2026年のイージス艦と哨戒機。
そして、2016年から迷い込んだ航洋艦。
空と海、二つの時代の「日本」が、ついに言葉を交わした。