ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第53話 安堵の眠り

**2026年4月28日 午後2時00分**

**海上自衛隊 横須賀基地・隊員宿舎 談話室**

 

日米合同調査が無事に終了し、「晴風」の所有権と自分たちの身の安全が日米両政府から正式に確約されたという、これ以上ない最高の結果。

その知らせを聞き、基地の専用車両で宿舎へと送り届けられた晴風の乗員たちは……談話室やそれぞれの自室に辿り着いた瞬間、まるで操り人形の糸がプツンと切れたかのように、次々とその場に崩れ落ちた。

 

未知の未来世界への転移。

本物の軍隊との遭遇。

大国アメリカによる艦の接収の危機。

そして、自分たちの「家(晴風)」を守るための、大人たちとのヒリつくような調査と交渉。

 

この2日間、16歳前後の少女たちが背負い続けてきた極限のプレッシャーと緊張感は、想像を絶するものだった。「解体も接収もされない、塩漬けにもされない」という完全な安堵が訪れた瞬間、限界まで張り詰めていたアドレナリンが引き、強烈な疲労と睡魔が一気に彼女たちの身体を襲ったのだ。

 

「……すぅ……すぅ……」

 

広い談話室の大きなソファでは、艦長の**明乃(ミケ)**と副長の**ましろ(シロ)**が、文字通り折り重なるようにして深い眠りに落ちていた。

ましろはソファの背もたれに頭を預け、普段の険しい表情が嘘のように、口を少し開けて完全に無防備な寝顔を晒している。そのましろの肩に頭をコテンと乗せ、明乃もまた、幸せそうな微笑みを浮かべたまま穏やかな寝息を立てていた。

二人の足元では、**五十六**が大きなあくびをして丸くなり、ましろの膝の上では**多聞丸**が丸まって、それぞれ主の温もりを感じながら眠っている。

 

「……ふがっ……タービン、全開……むにゃむにゃ……」

床に敷かれたラグマットの上では、機関長の**麻論(マロン)**が大の字になって豪快なイビキをかいていた。その隣では、幼馴染の**クロちゃん(黒木洋美)**が麻論のお腹に腕を回すようにして、スヤスヤと眠っている。

 

「……極楽、ですぅ……」

航海長の**リン(知床鈴)**は、クッションを抱きしめたまま部屋の隅で胎児のように丸まり、安堵の涙の跡を頬に残したまま夢の中へ。

「……うぃ。おやすみ」

砲術長の**タマ(立石志摩)**は、リンの背中に寄りかかるようにして静かに目を閉じている。水雷長の**メイ(西崎芽依)**も、テーブルに突っ伏したままピクリとも動かない。

 

「……我が魂の……休息……」

記録員の**ココ(納沙幸子)**は、タブレットを胸に抱きしめたまま、演劇の途中のようなポーズで力尽きていた。

 

**まりこうじさん(万里小路楓)**をはじめとする他の乗員たちも、あるいは自室のベッドで、あるいは談話室のカーペットの上で、誰一人として起きている者はいなかった。

あれほど賑やかだった31人の少女たち(と1人のドイツ人留学生)は、今はただ、泥のような、しかし最高に甘く平和な眠りの底に沈んでいた。

 

*ガチャリ……*

 

談話室の扉が静かに開き、**水瀬1曹**と**橘3曹**が、抱えきれないほどの毛布を持ってそっと部屋に入ってきた。

 

「……見事に全員、夢の中ですね」

橘が、足の踏み場もないほどあちこちで眠りこけている少女たちを見て、クスッと優しく微笑んだ。

「無理もないわ。私たち大人でさえ胃に穴が空くような、あの特命チームやアメリカ軍の将校たちを相手に、一歩も引かずに自分たちの船を守り抜いたんだもの」

 

水瀬は、明乃とましろの肩に、ふかふかの毛布をそっと掛けた。

橘も、床で寝ている麻論やリンたちに、風邪を引かないように一枚ずつ丁寧に毛布を掛けて回る。

 

「本当に、すごい子たちです」

橘は、明乃の無邪気な寝顔を見つめながら、小声で呟いた。

「軍艦に乗っていても、中身はこんなに普通の、可愛い女の子たちなのに。……あんな重いものを背負って、必死に立っていたんですね」

 

「ええ。だからこそ、今度こそ私たちが守ってあげないとね。……この国が、彼女たちにとって少しでも居心地の良い場所になるように」

 

水瀬は、明乃の寝癖のついた髪を優しく撫でた。

五十六が薄く目を開け、水瀬に向かって「頼んだぞ」と言うように「ぬぅ」と小さく喉を鳴らす。

 

「おやすみなさい、晴風の皆。……よく頑張ったわね」

 

二人の女性自衛官は、これ以上少女たちの安らかな眠りを妨げないよう、足音を忍ばせて談話室を後にした。

 

窓の外では、2026年の横須賀の海が、春の穏やかな陽光を反射してキラキラと輝いている。

次元の壁を越え、恐ろしい未来の軍隊に囲まれながらも、決して絆を手放さなかった少女たち。

彼女たちの長く過酷な「異世界での数日間」は、この温かい毛布と深い安堵の眠りをもって、ついに真の『平和な日常』へと錨を下ろしたのだった。

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