ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第61話 この世界(現実)に適合する晴風

**2026年4月30日 午前7時30分**

**海上自衛隊 横須賀基地・極秘ドック**

 

朝日が完全に昇りきる前から、横須賀基地の最奥に位置する極秘ドックは、鼓膜を揺らすような重機の駆動音と、無数の作業員たちの怒号で活気に満ち溢れていた。

 

「第3ブロック、電子戦用ケーブルの引き込み急げ! 艦内電源との電圧トランスは噛ませたか!?」

「主砲塔の駆動モーター、バイパス回路を新設! リンクシステムとの同期テストは午後からだ!」

 

ドックの底に鎮座する「晴風」の周囲には巨大な足場が組まれ、防衛装備庁の技術者たちや海上自衛隊の整備員たちが、蟻の群れのように船体に取り付いていた。

 

「うわぁ……すごい活気だね」

ヘルメットを被った艦長の**明乃(ミケ)**が、次々と運び込まれる見慣れない機材の山を見上げて目を丸くする。

 

「ああ。これが、2026年の日本の本気……というやつか」

副長の**ましろ(シロ)**も、同じくヘルメット姿で、その圧倒的な作業スピードと技術力に息を呑んでいた。

 

「おはよう、主人公たち。よく眠れた?」

 

振り返ると、昨日から行動を共にしている特異事象研究者の**秋波**と、助手の栞が、設計図の束を抱えて歩いてきた。その後ろには、内閣官房の**刈谷室長**の姿もある。

 

「秋波さん! 刈谷室長! おはようございます!」

明乃が元気よく挨拶する。

 

「さっそくだが、今回の『晴風・特別改修プラン』の概要を説明しよう」

刈谷が、ドックを見下ろしながら口を開いた。

「目的はただ一つ。今後現れるかもしれない君たちの同胞を、自衛隊のミサイル攻撃から守るため……ミサイルの飛び交う現代の戦場で、晴風が『生き残る(サバイブする)』ための改修だ」

 

「生き残るための、改修……」

 

「そう。だが安心してちょうだい...」

秋波が、缶コーヒーを開けながらニヤリと笑った。

「貴方達の世界の船の『美学』をぶち壊して、甲板にミサイル発射機(VLS)やバルカン砲(ファランクス)をポン付けするような無粋な真似はしない。……見た目はあくまで、貴方達の知る『晴風』のままよ。だが、中身は別物になるの」

 

秋波は、設計図を広げて三つのポイントを指し示した。

 

「第一に『目と耳』よ。マストにある古いレーダーのガワだけを残し、中身を現代の最新鋭フェーズドアレイ・アンテナとデータリンク・システムに換装する。……これで、自衛隊の護衛艦や早期警戒機が見ている相手の情報を、晴風のブリッジでもリアルタイムで共有できるようになるわ」

「自衛隊の人たちと、情報が繋がる……! じゃあ、遠くにいる仲間の船も、すぐに見つけられるんだね!」

水雷長の**メイ(西崎芽依)**が目を輝かせる。

 

「第二に『盾(電子戦装備)』よ」

秋波の表情が真剣なものに変わる。

「現代の対艦ミサイルは、レーダーで目標をロックオンして飛んでくるわ。だから、晴風の船体の内部に、強力な『電波妨害装置(ECM)』と、ミサイルを欺瞞するためのチャフ・フレアディスペンサーを増設する。万が一ミサイルに狙われても、強力なジャミング(電波妨害)で弾道を逸らすための『見えない盾』よ」

 

「電子の盾……」

ましろがゴクリと喉を鳴らす。

それは、自分たちの世界には存在しない、まったく新しい戦いの概念だった。

 

「そして第三に……『足(エンジン)』よ」

冬吉がドックの奥、艦底の方を指差した。

 

***

 

**同時刻・晴風 機関室**

 

「てやんでえ! だから、ここのバルブの圧力をこれ以上上げたら、タービンが焼き切れちまうって言ってんだろ!」

「いや機関長、我々が持ち込んだこの『新素材コーティング』をタービンブレードに施せば、耐熱温度は今の倍になる! ボイラーの出力をあと20%引き上げても絶対に壊れない!」

 

灼熱の機関室では、機関長の**麻論(マロン)**と、昨日意気投合した防衛装備庁の初老の技官(おっさん)が、図面を囲んで丁々発止のやり取りを繰り広げていた。

 

「倍だとぉ!? そんな魔法みたいな素材があるってのか!」

「ああ! 2026年の材料工学の結晶だ! これを組み込めば、晴風の最高速力は間違いなく40ノット(時速約74キロ)を超える! 自衛隊のどの護衛艦よりも速い、ぶっちぎりの駿馬になるぞ!」

「よ、40ノット超え……!!」

 

麻論の瞳が、これ以上ないほどキラキラと輝き始めた。

航洋艦にとって「速さ」は命そのものだ。それが、未来の技術によって限界を突破しようとしている。

 

「おいクロちゃん! ひめちゃん! れおちゃん! 聞いたか! ウチの晴風が、世界一速い船になるぞ!!」

「もう、麻論ったら落ち着いて! でも、すごいわね!」

幼馴染の**クロちゃん(黒木洋美)**や機関科の面々も、未来の大人たちと一緒に汗だくになりながら、歓声を上げていた。

 

***

 

**ドック上部**

 

「……というわけで、機関部は貴方達のもともとの優秀なボイラーを活かしつつ、現代の素材とコンピュータ制御で限界出力を引き上げるチューンナップを行っているわ」

秋波が、下からの賑やかな声を聞きながら肩をすくめた。

 

「情報共有、電子戦による防御、そして圧倒的な機動力。……攻撃力こそ一切上げていないが、こと『戦場に急行し、敵の攻撃を掻い潜って通信を繋ぐ』という一点においては、現在の自衛隊艦艇すら凌駕する特化型のバケモノになる」

 

刈谷室長も、深く頷いた。

 

「これこそが、君たちに与えられた唯一の武器だ。……もし、君たちの世界の艦が現れ、暴走状態に陥っていた場合。自衛隊の護衛艦がミサイルの射程に捉えるより早く、君たちがその圧倒的なスピードで対象に肉薄し、ジャミングでミサイルのロックを妨害しながら、通信や直接乗り込んで暴走を止める。……これが、我々が考えた最悪の事態を回避するための『ファースト・コンタクト戦術』だ」

 

「ミサイルより早く、私たちの足で……!」

明乃は、新しく生まれ変わろうとしている晴風を真っ直ぐに見つめた。

 

「……フフ。まるで、アニメの第2クール目突入と同時に与えられる『主人公機の後半アップグレード』ね」

秋波が、一人でボソリと呟いてニヤリと笑う。

 

「私たち、やります」

明乃は、ヘルメットの顎紐をキュッと締め直し、刈谷と冬吉に向かって力強く宣言した。

 

「晴風をこんなに強くしてくれて、本当にありがとうございます! 絶対に、誰一人沈めさせません。私たちの世界の仲間も、この世界の人たちも、私たちが絶対に守ってみせます!」

 

「うむ。その意気だ、岬艦長」

刈谷は、満足げに口元を綻ばせた。

 

「さあ、ボーッと見ている暇はないわよ! 君たち乗員にも、新しい電子戦システムやデータリンクの操作を叩き込まなきゃならないからね。……現代の戦いは、大砲の撃ち合いより前に『情報戦』で決まる。みっちりしごいてやるから覚悟しなさい!」

秋波が、パンッと手を叩いて号令をかける。

 

「はいっ!!」

ましろやメイたちも、気合の入った声で応えた。

 

2026年の最新技術と、1940年代のロマンが融合した、かつてない「魔改造」。

異世界からの漂流艦「晴風」は、自衛隊の強力なサポートを受け、仲間を救うための「平和の盾」として、その真の姿を現そうとしていた。

カンカンと鳴り響く鉄を打つ音は、少女たちの新たな戦いの始まりを告げる、希望のファンファーレのようだった。




これにて、本作の第二部である。晴風と乗員達の処遇が終了し

次回から第三部へと入ります。

新たな居場所と今後、やってくるであろう自分達の世界の艦艇に説得という大いなる任を持つ事となった航洋艦「晴風」全乗員達。飛躍した兵器が飛び交う現実世界で生き残る為に改修が施された晴風。その役目は、早くもやってくる。日本近海にて自分達と同じ世界からやってきた艦艇が出現した。しかし、二度目の出現は、芳しいものではなかった。それは、秋波が”もっと恐れていたシナリオ”であった。
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