ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第63話 妹を身を案じる

もう一つの世界(2016年)――太平洋・カロリン諸島海域

 

日本近海およびマリアナ諸島海域で、横須賀女子海洋学校の生徒たちが不眠不休の捜索を続けていた頃。そこからさらに南の海域、カロリン諸島海域の荒々しい波を切り裂いて、猛烈なスピードで北上する二隻の巨大な艦影があった。

 

それは、旧式艦を運用する学生たちの直接教育艦とは根本的に異なる、ブルーマーメイドの主力艦艇。

三つの船体を持つ特徴的なトリマラン(三胴船)形状と、ステルス性を極限まで追求した最新鋭の戦闘艦――**「改インディペンデンス級沿海域戦闘艦」**である。

 

「……長良型17隻によるローラー作戦、依然として晴風の痕跡は発見されず、ですか。宗谷監督官も、かなり強引に捜索網を維持していますね」

 

一隻目の艦橋で、コンソールに表示されるデータを見つめながら呟いたのは、安全監督室情報調査隊の部長・平賀倫子(ひらが ともこ)二等保安監察官だった。

彼女が乗る艦は、眩しいほどの純白の艦体に赤い斜線、そしてブルーマーメイドの誇り高きシンボルマークが描かれた改インディペンデンス級「みくら(BPF14)」。

 

「仕方ないわ。消えたのが、妹のましろさんなんだもの。"宗谷一等監督官"が冷静なふりをして、内心どれだけ焦っているか……私たちには痛いほど分かるわ」

みくらの艦長を務める福内典子(ふくうち のりこ)二等保安監察官が、操舵席から前方の海を睨み据えながら答える。

 

「しかし、RATt(ラット)による暴走事案が各地で頻発しているこの非常時に、晴風の消失地点で観測された『異常磁気嵐』の調査……。果たして、ただの自然現象なのでしょうか?」

保安監督隊所属の寒川高乃(そうかわ たかの)二等保安監督正が、険しい表情で腕を組む。

 

「データを見る限り、時空そのものが歪んだとしか思えない波形です。……もし人為的なものであれば、現在の暴走事案よりも遥かに厄介な事態になりますよ」

同じく保安監督隊の志度琴美(しど ことみ)二等保安監督正も、レーダーモニターから目を離さずに同意した。乗員40名を乗せた「みくら」の艦橋は、熟練のプロフェッショナルたちによる静かで張り詰めた緊張感に包まれている。

 

だが、その静寂は、スピーカーから響き渡った「怒声」によって一瞬にして破られた。

 

『平賀!! まだ着かないのか! エンジンをもっと回せ!!』

 

「……またその通信ですか。いい加減にしてください、真冬姐。インディペンデンス級の巡航速度はすでに限界よ。これ以上は機関が焼き切れてしまいますよ?」

平賀が、通信機に向かって呆れたようにため息をついた。

 

『みくら』の右舷後方を、猛烈な白波を立てて追従してくるもう一隻の改インディペンデンス級。

しかし、その艦はブルーマーメイドの象徴である白と赤のカラーリングではなく、まるで夜の海をそのまま切り取ったかのような**「漆黒」**に染め上げられていた。黒い艦体に黒の斜線、そして黒のシンボルマーク。

 

強制執行課・保安即応艦隊に所属するその異端の艦、**「べんてん(BPF10)」**の艦橋では、一人の女性が苛立ちを隠せない様子で床を踏み鳴らしていた。

 

「機関が焼き切れたら、私が泳いで引っ張ってやる! だから全速前進だと言っているんだ!」

 

彼女こそが、「べんてん」の艦長であり、宗谷真霜の妹、そして晴風の副長・宗谷ましろのすぐ上の姉である宗谷真冬(むねたに まふゆ)二等保安監督官だった。

 

彼女の纏う制服は、他のブルーマーメイドとは全く異なる「黒」。さらにその背中には、漆黒のマントが荒々しく翻っている。

彼女の愛艦である「べんてん」が真っ黒なのも、完全に彼女個人の趣味と、相手に威圧感を与えるための特注仕様だった。性格はさっぱりしているが、姉の真霜とは正反対の「超・短気の切り込み隊長」である。

 

『真冬。気持ちは分かるけれど、指揮官が熱くなってどうするの。……あなたらしくないわよ』

通信機越しに、福内艦長がたしなめる。

 

「熱くならずにいられるか!!」

真冬は、コンソールをバンッと叩いた。

 

「よりによって、あのましろの乗った艦が、行方不明だと!? 原因が磁気嵐だかブラックホールだか知らんが……もし、ましろに手を出した奴がいるなら、私がこの手で大平洋の底まで沈めて、ボコボコに殴り飛ばしてやる!!」

 

黒いマントを翻し、猛烈な闘気を放つ真冬。

彼女は、宗谷家の中でも随一の武闘派であり、妹のましろを溺愛している。その妹が「空間の歪み」に呑み込まれたと聞いて、誰よりも早く出撃の許可を(半分強引に)もぎ取ってきたのだ。

 

『はぁ……相変わらずですね。でも、頼もしいわ。もし本当に未知の敵が空間に干渉しているなら、あなたのその「突破力」が必要になる』

平賀が、通信越しにクスリと笑う。

 

『現場海域までは、あと数時間で到達します。……真冬監督官、暴走することなく、みくらとの陣形を維持してくださいね』

寒川が釘を刺す。

 

「分かっている! ……待っていろよ、ましろ」

 

真冬は通信を切ると、漆黒の艦橋の窓から、果てしなく続く水平線の彼方を鋭く睨みつけた。

 

「どんな壁があろうと、この『べんてん』がぶち破ってやる。……宗谷の女を舐めるなよ」

 

10年の時と次元の壁を越え、過酷な現実世界で必死に生き残ろうと足掻く妹。

そして、その妹を絶対に連れ戻すために、持てる最強の武力と圧倒的な執念で現場へと急行する姉たち。

 

二隻の最新鋭沿海域戦闘艦は、巨大な水飛沫を上げながら、晴風が消えた「始まりの海域」へと一直線に突き進んでいった。未曾有の危機に直面したブルーマーメイドの大人たちの「本気」が、いよいよその牙を剥こうとしていた。

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