ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第64話 あの時の嵐 前編

**もう一つの世界(2016年)――カロリン諸島・ウルシー環礁沖**

 

カロリン諸島・ウルシー環礁沖を猛スピードで北上していた『みくら』と『べんてん』。

二隻の最新鋭艦が切り裂く波頭の先――前方の空が、突如としてまるで真っ黒なインクをぶちまけたように、不自然なほど急激にドス黒く染まり始めた。

 

「……!」

 

『みくら』の艦橋で、レーダーモニターを監視していた**志度二等保安監督正**が、悲鳴のような声を上げた。

「福内艦長! 前方海域の気圧が異常な速度で低下! 局地的な積乱雲(スーパーセル)が急速に形成されています!」

 

「急すぎるわ……! さっきまで雲一つない空だったのよ!?」

艦長の**福内**が、みるみるうちに暗闇に飲み込まれていく水平線を見据えて顔を険しくする。

白昼だったはずの海は一瞬にして夜のような暗闇に包まれ、紫色の稲妻が分厚い雲の中で不気味に瞬き始めた。風速計の数値が跳ね上がり、荒れ狂う大波がトリマラン(三胴船)の白い艦体を激しく揺さぶる。

 

「計器類に強烈なノイズが発生! ナビゲーションシステムにエラーが続出しています!」

**寒川二等保安監督正**が、火花を散らしそうに明滅するコンソールに必死に張り付く。

 

「……ただの嵐じゃないわね。」

情報調査隊部長の**平賀**が、ディスプレイに表示された不可解な波形データを睨みつけ、ゴクリと喉を鳴らした。

「……磁気異常の数値が跳ね上がっている。間違いないわ。3日前に『晴風』が消息を絶った瞬間に観測されたのと同じ……空間の磁場そのものが歪む『次元の嵐』よ!」

 

その報告が艦橋に響いた瞬間、通信機から爆発するような怒声が叩きつけられた。

 

『見つけたぞ……!!』

 

漆黒の沿海域戦闘艦『べんてん』の艦橋。

激しく揺れる艦内で、**宗谷真冬**は黒いマントを荒々しく翻しながら、正面の防弾ガラス越しに荒れ狂う「次元の嵐」をカッと見開いた目で睨みつけていた。

 

「これだ……この嵐が、ましろたちを連れ去った元凶!! 空間の歪みだろうがなんだろうが知るか! 逃がしてたまるかァッ!!」

 

真冬はコンソールを蹴り飛ばさんばかりの勢いで身を乗り出した。

 

「『べんてん』全速前進! 面舵一杯、嵐の目に向かって真っ直ぐ突っ込め!!」

「む、宗谷艦長!? 計器がイカれてます! このまま未知の嵐に突入すれば、本艦のステルス性も航行システムも保証できません!」

副官が悲鳴を上げるが、真冬の耳には入らない。

 

『真冬!! やめなさい、危険すぎるわ! 一度距離を取って観測態勢に――』

『みくら』の福内からの制止通信を、真冬は「うるさい!!」と一蹴した。

 

「観測などしている暇があるか! 今この瞬間も、あの中でましろが助けを呼んでいるかもしれないんだぞ!」

真冬はギリッと歯を食いしばり、操舵輪を握る操舵手の肩をガシッと掴んだ。

「出力120%! 宗谷の女は、嵐を前に背中を向けん! 妹の仇は私が討つ!!」

 

ゴォォォォォォッ!!

 

漆黒のトリマラン『べんてん』は、その巨大な三つの船体から猛烈な推進力を爆発させ、荒れ狂う紫色の稲妻と漆黒の波の中へ、まるで狂戦士(バーサーカー)のように一切の減速なしで突撃していった。

 

「ああっ、もう! あの人は!! 本当に突っ込んでいったわよ!」

『みくら』の艦橋で、福内が頭を抱える。

 

「福内艦長、どうしますか!?」

寒川が焦燥した声で指示を仰ぐ。

 

「……仕方ないわね。あの子を一人で死なせたら、それこそ宗谷監督官に顔向けできないわ」

平賀が、ふっと諦めたように笑い、眼鏡を押し上げた。

「『みくら』も『べんてん』の航跡を追って! ただし、システムダウンに備えてアナログ計器と手動操舵の準備を怠らないで!」

 

「了解! 追従します! 機関、最大戦速!!」

 

白と赤の『みくら』もまた、巨大な波を叩き割りながら、先行する漆黒の『べんてん』の後を追って、次元を歪める嵐の中へと飛び込んでいく。

 

「待っていろよ、ましろ……! どんな異次元の化け物が相手だろうと、この私が全員ぶっ飛ばしてやる!!」

 

妹を想う姉の強烈な執念と、ブルーマーメイドが誇る最新鋭の武力。

二隻の沿海域戦闘艦は、世界の境界線を揺るがす巨大な磁気嵐の渦中へと、その鋭い艦首を真っ直ぐに突き立てていったのだった。

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