ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第67話 "2026年5月1日"

**2026年5月1日 午前9時00分**

**海上自衛隊 第2水上戦群 第5水上戦隊**

**太平洋・八丈島東方沖**

 

春の穏やかな日差しを反射してきらめく太平洋の海原。

その濃紺のカンバスを白く引き裂くように、四隻の灰色の巨体が一定の陣形(フォーメーション)を保ちながら南へと航行していた。

 

海上自衛隊・第2水上戦群 第5水上戦隊。

強力な防空能力を誇るイージス艦を旗艦とし、対潜・対空・対水上のあらゆる事態に即応できる、海上自衛隊が誇る精鋭部隊である。

 

艦隊の先頭を往くのは、最新鋭のまや型ミサイル護衛艦**『はぐろ(DDG-180)』**。

その後方左右を固めるのは、汎用護衛艦の主力である、むらさめ型**『あけぼの(DD-108)』**と、あさひ型**『あさひ(DD-119)』**。

そして最後尾から艦隊の防空・対潜網を補完するのが、ベテランのあさぎり型**『さわぎり(DD-157)』**だ。

 

『はぐろ』の広々とした艦橋(ブリッジ)は、最新鋭のデジタルコンソールが整然と並び、静かで張り詰めた空気に満ちていた。

 

「現在位置、八丈島東方120海里。針路1-8-0、速力18ノット。艦隊、予定航路上を順調に航行中」

航海長の**佐野(さの)3佐**が、海図モニターから顔を上げて報告する。

 

「了解。見張りを厳にせよ。……周辺海域のレーダーおよびソナーの状況は?」

艦長席に座る『はぐろ』艦長にして第5水上戦隊司令・**堂島(どうじま)1佐**が、低く落ち着いた声で尋ねた。

堂島は50代半ばのベテランで、白髪交じりの短髪と、幾多の波を越えてきた鋭い眼光を持つ、海自でも屈指の戦術家である。

 

「対空・対水上ともに、未確認の目標なし。海自の広域データリンク網(JADGE)にも異常は見られません」

砲雷長の**神宮寺(じんぐうじ)3佐**が、手元のコンソールを操作しながら答える。

 

「……平和な海ですね、司令」

副長の**秋月(あきづき)2佐**が、双眼鏡から目を離し、堂島の隣で微かに息を吐いた。

「しかし、我々第5水戦に下された今回の特命……『伊豆大島東方沖から八丈島周辺にかけての、特異な気象・磁気異常の観測と警戒』。昨日、高瀬総理が発表した『あの艦』と関係があるのでしょうか」

 

秋月の言葉に、艦橋の空気の温度が僅かに下がった。

 

『航洋艦・晴風』。

一昨日、突如としてこの2026年の日本に現れた、異次元からの漂流艦。

総理の会見でその存在が公式に発表されて以来、自衛隊の各部隊には「未知の事態に対する最高レベルの警戒」が通達されていたのだ。

 

「間違いなく関係しているだろう」

堂島1佐は、腕を組んだまま真っ直ぐに水平線を見据えた。

 

「防衛省からの極秘情報によれば、晴風が現れた際に『凄まじい次元の磁気嵐』が観測されたという。……そして、その磁気嵐の余波のような異常な数値が、現在我々が向かっているこの八丈島東方沖の海域で、断続的に観測されている」

 

「つまり……『第二の晴風』が現れるかもしれないと?」

神宮寺砲雷長が、少しだけ声を潜めた。

 

「最悪の事態は想定しておかなければならない。我々の任務は、もし『次の漂流艦』が現れた場合、それを真っ先に捕捉し、民間船舶への被害を防ぐための防波堤となることだ」

 

堂島は、艦橋の窓ガラスを叩く海風の音に耳を傾けた。

 

「……あの『晴風』に乗っていたのは、我々と歴史を違えた世界の女子学生たちだと聞く。もし次の艦が来ても、それが彼女たちの同胞であるならば、我々は『同じ日本人』として最大限の保護をしなければならない。……だが」

 

堂島の目に、指揮官としての冷徹な光が宿る。

 

「もし、現れた艦が明らかな敵意を持って我々に牙を剥いてきた場合。……あるいは、総理が危惧した『未知の危険物』を抱えて暴走状態にあった場合。我々第5水戦は、法とルールの許す限り、この国の海を守るために実力を行使する。……秋月副長、各艦に『対空戦闘・対水上戦闘の第一種警戒態勢(いつでもミサイルを撃てる準備)』を維持させろ」

 

「了解しました。……『あけぼの』『あさひ』『さわぎり』各艦へ伝達。対空・対水上、第一種警戒態勢を維持せよ」

秋月副長の指示が、無線の暗号回線を通じて随伴する三隻の護衛艦へと即座に伝達される。

 

『こちら「あけぼの」、了解』

『「あさひ」、了解。VLS(垂直発射装置)システム・オールグリーン』

『「さわぎり」、了解。各砲座およびミサイルランチャー、スタンバイ』

 

三隻の艦長たちから、短く力強い応答が返ってくる。

 

2026年の海を守る、巨大で冷徹な「盾と矛」。

彼らは、相手が15歳の少女であろうと、次元の壁を越えた存在であろうと、決して油断はしない。この国の国民の命を守るという、絶対の使命を帯びているからだ。

 

「……来るなら来てみろ。未知の漂流者(アンノウン)」

 

堂島1佐の呟きが、静かな艦橋に低く響いた。

 

その頃、彼らが向かっている針路の先――水平線の向こう側では。

二つの世界を繋ぐ「次元の壁」が、妹を救うという凄まじい執念に満ちた二隻の「黒と白の艦」を吐き出そうと、不気味な軋みを上げ始めていた。

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