ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第69話 この世界(現実)に飛ばされた二隻

**もう一つの世界……いや、2026年(現実世界)の太平洋**

**改インディペンデンス級沿海域戦闘艦『みくら』・『べんてん』艦橋**

 

凄まじい雷鳴とノイズの嵐が嘘のように消え去り、強烈な揺れがピタリと収まった。

赤く点滅していた非常灯が消え、艦橋内に元の蛍光灯の白い光がパチパチと音を立てて戻ってくる。

 

「……メインシステム、再起動完了! 主電源回復します!」

 

純白の『みくら』の艦橋で、**寒川二等保安監督正**が安堵の声を上げた。

完全に沈黙していたコンソールが次々と立ち上がり、三胴船の巨大なウォータージェット推進器が再び力強い駆動音を響かせ始める。

 

「各部ダメージレポート急いで! ……それにしても、ここは一体どこなの?」

艦長の**福内(ふくうち)**は、防弾ガラス越しに広がる光景を見て息を呑んだ。

 

先ほどまで、世界を飲み込むような暗黒の嵐の中にいたはずだ。しかし今、目の前に広がっているのは、春の穏やかな日差しを反射してキラキラと輝く、見渡す限りの青い海と青い空だった。嵐の兆候など微塵もない。

 

「まるで、狐につままれたみたいね……」

情報調査隊の**平賀(ひらが)**が眼鏡の奥の目を細める。

 

その時、再起動した水上レーダーのモニターを監視していた**志度二等保安監督正**が、弾かれたように声を上げた。

 

「水上レーダー、回復! ……前方、距離32海里(約59キロ)の海域に、巨大な艦影を捉えました! 数……4隻です!!」

 

「4隻!? ブルーマーメイドの捜索艦隊かしら!?」

福内が身を乗り出す。

 

「い、いえ、違います! IFF(敵味方識別装置)に応答なし! 艦影のシルエット、ブルーマーメイドのどの艦艇データとも一致しません! さらに、あの特徴的な高いマスト……あんな形状の軍艦、見たことがありません!」

 

志度が光学カメラの映像をメインスクリーンに回す。

そこに映し出されたのは、波の向こう側に等間隔で横に並ぶ、全身を冷たいネズミ色(ロービジ)に塗られた、四隻の巨大な軍艦のシルエットだった。

陽炎型のような古い船体でもなければ、ブルーマーメイドの最新鋭艦とも違う。徹底的に無駄を削ぎ落としたような、鋭角で巨大な灰色の要塞。

 

「所属不明の武装艦隊……。海賊? いえ、あんな巨大な艦を四隻も運用できる海賊なんてあり得ないわ。」

平賀が、冷や汗を流しながら呟く。

 

『ザガッ……ピーーッ! こちら「べんてん」! 「みくら」、システムは復旧したか!』

 

通信機から、激しいノイズ混じりに『べんてん』の**宗谷真冬**の声が飛び込んできた。

 

「真冬! よかった、無事だったのね!」

福内が安堵するが、真冬の切羽詰まった声は戦闘状態そのものだった。

 

『安堵している暇はないぞ! 前方にいる所属不明の四隻……連中、我々の正面に完全に陣取り、ピッタリと足を止めている! 間違いなく、こちらを明確な「標的」として認識している動きだ!』

 

漆黒の『べんてん』の艦橋で、真冬は黒いマントを翻し、モニターに映る灰色の艦隊(第5水上戦隊)をギラギラとした目で睨みつけていた。

 

「ましろを連れ去った空間の歪みの先に、正体不明の武装艦隊……。フン、上等だ。ましろに手を出したのがあいつ等なら、海の底まで沈めて吐かせてやる!!」

 

真冬は、操舵席の横にある火器管制システム(FCS)のセーフティを乱暴に解除した。

 

「『べんてん』総員戦闘配置! 57ミリ単装速射砲、スタンバイ! さらに、VLS(垂直発射装置)のセーフティ解除! 第一から第八セルまで、射撃準備急げ!!」

 

真冬の怒号とともに、漆黒の艦体の前甲板にあるVLSのハッチが次々と開き、発射口が空を睨む。

ブルーマーメイドの艦艇に装備されているこのVLSは、現代の軍艦のように長距離を飛翔する「対艦ミサイル」を搭載するためのものではない。

 

装填されているのは**『噴進魚雷(ふんしんぎょらい)』**。

魚雷の後部に推進用の大型ロケットブースターを取り付けた、彼女達の世界(はいふり世界)特有の対艦装備である。

発射されるとロケットの推力で空を飛び、目標の手前で海面に着水。その後は通常の魚雷として水面下を突進し、敵艦の喫水線下を打ち砕くという、恐るべき破壊力を持った近・中距離用の打撃兵器だ。

 

「宗谷艦長! 噴進魚雷、いつでも発射可能です! しかし、距離が遠すぎます! 噴進魚雷の有効射程は最大でも約20キロ……現在の距離32海里(約59キロ)では、撃っても海に落ちるだけです!」

副官が焦った声で報告する。

 

「分かっている! ウォータージェット最大出力で一気に距離を詰め、射程に入った瞬間に全弾叩き込んでやる! 照準、中央の一番デカい艦(はぐろ)に合わせろ!」

 

血気盛んな真冬が、中央の一番デカい艦(はぐろ)に接近させようと乗員に前進を命じようとした瞬間だった。

 

『ピーーーーーーッ!!』

 

『みくら』と『べんてん』の艦橋に、これまで聞いたこともないような特殊な周波数の着信音が鳴り響いた。

それはブルーマーメイドの専用回線ではなく、世界中のすべての船舶が傍受できるオープンチャンネル(国際VHF)からの、極めてクリアな音声通信だった。

 

『――国籍不明の二隻の艦艇に告ぐ』

 

スピーカーから響き渡ったのは、重厚で、一切の感情を排したような、大人の男性の冷徹な声だった。

 

『こちらは、日本国・海上自衛隊。……貴艦らの所属と、目的を問う』

 

「「「にほんこく……かいじょうじえいたい……!?」」」

 

その名乗りに、真冬も、福内も、平賀も、全員が完全に動きを止めた。

「海上自衛隊」などという組織は、彼女たちの世界には存在しない。治安維持はすべてブルーマーメイドが担っているのだ。

しかし、相手は間違いなく自分たちと同じ「日本語」を話し、堂々と国家の名を冠している。

 

距離32海里。

現代の対艦ミサイルがいつでも発射できる「必殺の間合い」で静かに待ち構える第5水上戦隊。

対して、噴進魚雷の射程外で完全に足を止められ、未知の強力な武力と直接対峙することになったブルーマーメイドの最新鋭艦。

 

世界の理(ことわり)が異なる二つの「海を守る組織」は、互いに引き金に指をかけたまま、一触即発の極限の対話を始めようとしていた。

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