ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第7話 晴風 停船

『……貴艦が遭難状態にあることは了解した。しかし、貴艦は現在、日本国の領海付近を航行中であり、かつ強力な武装を有していることを確認している。停船し、武装の安全装置をかけ、当方の立ち入り検査を受け入れよ。繰り返す……』

 

護衛艦「きりしま」艦長、佐伯1佐の重々しく威厳ある声が艦橋に響き渡ると、直前までの安堵の空気は一変し、「晴風」の艦橋は蜂の巣をつついたような大混乱に陥った。

 

「ひぃぃぃぃっ!! た、立ち入り検査ぁ!? 捕まっちゃう! また反乱の容疑で逮捕されちゃうよぉ!!」

航海長の**知床鈴(リン)**が涙目になりながら、操舵輪にしがみついてガクガクと震え出した。

「嫌だ嫌だ! 刑務所になんて入りたくない! 艦長、逃げましょう! 今すぐ面舵一杯、全速前進で逃げましょうぉぉっ!」

 

「航海長! 落ち着け! 今ここで動けば、それこそ相手を刺激するだけだ!」

副長の**宗谷ましろ(シロ)**がパニックに陥るリンを怒鳴りつける。だが、そのましろの顔にも強い困惑の色が浮かんでいた。

(カイジョウジエイタイ……? それに『日本国の領海』だと? 日本国土の大半は100年前に海に沈んだはずだ。それに、海の安全を守るのはブルーマーメイドの管轄。なぜ、そんな聞いたこともない組織がしゃしゃり出てくる……!?)

 

「えーっ、安全装置かけちゃうのー? やだやだ!」

水雷長の**西崎芽依(メイ)**が、射撃盤に抱きついて駄々をこね始めた。

「せっかくお魚さん(魚雷)撃てるかもしれないのに! あの灰色の船、すっごく強そうじゃん! 挨拶代わりに、一発だけドカンと撃っちゃおうよー!」

「水雷長!! 少し黙っていろ! 相手の圧倒的な戦力が見えないのか!」

 

「……フッ、ついに恐れていた事態が起きたな」

記録員の**納沙幸子(ココ)**が、謎のポーズを決めながら一人芝居の幕を開けた。

「未知なる武装集団『カイジョウ・ジエイタイ』による強制拿捕。我々は暗く冷たい独房へ叩き込まれ、塩と水だけの生活を強いられるのだ……! ああっ、ミミちゃんの美味しいご飯がもう食べられないなんて! ――次回、『晴風、暁に散る!』」

「縁起でもないサブタイトルをつけるな!」

ましろの鋭いツッコミが飛ぶ。

 

「……うぃ」

砲術長の**立石志摩(タマ)**が、双眼鏡から目を離さずにぽつりと呟いた。

「……あの船の大きな大砲、こっち向いてる。……撃たれたら、晴風、一発で木っ端微塵……」

 

タマの言葉に、オブザーバーの**ヴィルヘルミーナ(ミーナ)**が顔を真っ赤にして手すりをバンッと叩いた。

「なんじゃと!? 停船して臨検じゃと!? わしらを海賊か何かと勘違いしとるんじゃないんか! ぶち腹が立つけぇ!」

極度の興奮から、流暢な標準語は完全に広島弁へと切り替わっている。

「ドイツの誇りにかけて、そんな横暴な命令タダで聞けるか! わしがシュペーにおったら、あんな灰色の船なんて一撃で沈めてやるのに! なあミケちゃん、受けて立とうや!」

 

「み、ミーちゃん、タマちゃん、メイちゃん、みんな落ち着いて!」

艦長の**岬明乃(ミケ)**が両手をパタパタと振って皆をなだめようとするが、そこへ伝声管から機関長の**柳原麻論(マロン)**の怒鳴り声が割り込んできた。

 

『艦橋、こちら機関室! てやんでえ、上がやけに騒がしいが、どうなってやがる! 相手はなんだ? 逃げるのか、戦うのか、機関止めちまうのか、ハッキリしてくれい!』

 

「マロンちゃん! えっ、えっと……!」

明乃が迷っている間にも、電測員の**宇田慧(めぐみ)**が悲鳴を上げた。

「副長! ダメです、相手のレーダーの出力、桁違いです! こっちの動きは完全に丸見えで、いつでも撃てる状態です!」

 

「……艦長」

ましろが、厳しい視線を明乃に向けた。

「相手の正体は全くの不明。だが、あの巨艦3隻と潜水艦、さらに上空の謎の航空機……戦力差は絶望的だ。我々には反撃する手段も、逃げ切る足もない。……指示を」

 

全員の視線が、艦長である明乃に集中する。

明乃は一瞬だけ目を伏せ、深呼吸をすると、真っ直ぐに前を向いた。

 

「リンちゃん、機関停止! 船を止めて!」

「ひぃぃぃ……はいぃぃ!」

「マロンちゃん! 機関停止だよ! タマちゃん、メイちゃん、砲と魚雷には絶対触らないでね! 安全装置、オン!」

 

明乃のきっぱりとした指示に、メイは「ちぇーっ」と不満げに口を尖らせ、タマは「うぃ」と頷いて安全装置のレバーを引いた。

 

「艦長、本気か?」

ましろが信じられないという顔で明乃に問い詰める。

「相手の素性も分からないのに、やすやすと艦を明け渡して臨検を受け入れる気か!? 万が一、東舞校の教員艦を襲撃した連中の仲間だったらどうするんだ!」

 

「でもね、シロちゃん」

明乃は、窓の向こうの「きりしま」を見つめながら、少しだけ微笑んだ。

「私たち、本当に迷子になっちゃったんだよ。戦う理由なんてないし、ちゃんとお話しすれば、きっとわかってくれる。それに……」

 

明乃は通信機のマイクを手に取る。

 

「あの人たち、『自衛隊』って名乗ってた。……自分を衛(まも)る、隊。海の安全を守ってくれる人たちみたいな、強くて優しい名前だもん。きっと、悪い人たちじゃないよ」

 

そう言うと、明乃はマイクの送信ボタンを押し、護衛艦「きりしま」へ向けて返答の声を放った。

 

「こちら、航洋艦『晴風』艦長、岬明乃です! ……了解しました! 機関を停止して、そちらの指示に従います! 武器の安全装置もかけました! 私たち、本当に困ってるんです……どうか、お話を聞いてください!」

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