ハイスクール・フリート Cross World War 作:冬吉
**2026年5月1日 深夜**
**海上自衛隊 横須賀基地・重要事案取調室**
横須賀基地内にある厳重な警備に囲まれた取調施設。
厚いコンクリートの壁に囲まれた室内に、重苦しい沈黙が立ち込めていました。
『みくら』の福内艦長、平賀、寒川、志度。そして漆黒の艦『べんてん』を指揮していた宗谷真冬。
彼女たちは別々の部屋に分けられ、海上自衛隊の警務官、および内閣官房の調査官による厳しい取り調べを受けていました。彼女たちは20代から30代の「大人のプロフェッショナル」として、自らの過ちがいかなる法的・国際的な重みを持つかを、否応なしに突きつけられていました。
宗谷真冬が座る取調室の机の上には、数枚のカラー写真と、一冊の分厚いレポートが置かれました。
「……これが、貴女たちが放った『噴進魚雷』によって破壊された、護衛艦『さわぎり』の現状です」
向かい側に座る警務官が、静かに、しかし冷徹な声で告げました。
写真に写っていたのは、かつての美しい灰色の船体ではなく、爆発の衝撃で無残にひしゃげ、火災によって真っ黒に焼け焦げた『さわぎり』の左舷後部でした。装甲は紙細工のように引き裂かれ、内部の配線や配管が露出しています。
「艦体の損傷だけではありません。……人的被害の報告です」
警務官はレポートをめくり、淡々と数字を読み上げました。
「重傷者5名。うち1名は爆発の破片が肺を貫通し、現在も集中治療室で生死の境を彷徨っています。別の1名は、火災による全身熱傷。……その他、骨折や鼓膜穿孔、有毒ガスの吸引による呼吸器障害を含め、負傷者数は計33名にのぼります」
「33……名……」
真冬は、震える声でその数字を繰り返しました。
血の気が引き、指先が氷のように冷たくなっていくのを感じました。
「彼らには家族がいます。帰りを待つ子供も、親もいます。……彼らは、貴女たちが11海里の距離まで接近してきた時、いつでもミサイルを撃てる準備ができていた。しかし、彼らは一発も撃たなかった。貴女たちを『同じ海を護る同胞』だと信じようとしたからです」
警務官の言葉は、鋭い刃のように真冬の胸を抉りました。
「それに対し、貴女たちの部下は"恐怖"に負け、パニックに流されて引き金を引いた。……宗谷艦長。これは『不運な事故』ではありません。我が国に対する重大な不法攻撃であり、一歩間違えれば、我々の世界と貴女たちの世界の間で全面戦争が始まっていた。その重みを、理解していますか」
真冬は、きつく唇を噛み締め、溢れそうになる涙を必死に堪えながら、深く頭を下げました。
床にポタリと涙が落ちます。
「……申し訳……ありません。……いかなる罰も、受ける覚悟です。部下たちの責任は、すべて私にあります。……だから、あいつら(部下)には……」
別の部屋では、『みくら』の福内艦長もまた、平賀たちと共に、突きつけられた現実の前に絶句していました。
「私たちは、海の人々を護るのが仕事だったはずなのに……。プロとして、最悪の、一番卑怯なことをしてしまった……」
福内は、両手で顔を覆い、声を殺して泣きました。
情報調査隊の平賀は、解析された自衛隊の防衛データの圧倒的な精度を目の当たりにし、自分たちがどれほど「手出しをしてはいけない相手」に牙を剥いたのか、その無謀さと浅はかさに、ただただ戦慄するしかありませんでした。
自衛隊側が一切の反撃を行わず、ただひたすらに仲間を救う姿。
それが、取り調べを受けているブルーマーメイドの大人たちにとって、どんな厳しい尋問よりも残酷な「心の処刑」となっていました。
かつての誇りは、粉々に砕け散っていた。
彼女たちは今、自分たちが傷つけた人々の重みと、それを許してくれた防人たちの忍耐という、あまりにも重い「平和の代償」を、暗い取調室の中で噛み締めていた。