ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第87話 丸潰れの面目

**もう一つの世界(はいふり世界)――日本国**

**国土交通省・海上安全整備局 本省および首相官邸**

 

「総理! 海上安全整備局より緊急の報告が! ……とんでもない事態です!!」

 

深夜の首相官邸。

けたたましい足音と共に飛び込んできた秘書官の報告によって、この世界(はいふり世界)の日本政府中枢は、かつて経験したことのない未曾有の大混乱(てんやわんや)の渦に叩き込まれていた。

 

「並行世界(パラレルワールド)の……『日本』だと? しかも、時代は2026年……我々が歴史を分岐した先にある、もう一つの未来だというのか!?」

 

緊急招集された閣僚たちは、ブルーマーメイド統括管制艦から転送されてきた映像と報告書を前に、完全に言葉を失っていた。

そこに映っていたのは、全身を冷酷な灰色に塗り固めた、見たこともない巨大な武装艦艇の群れ。そして、ブルーマーメイドの誇る改インディペンデンス級沿海域戦闘艦『みくら』と『べんてん』が、その未知の艦隊に向けて一方的に先制攻撃を加えるという、信じがたい暴走の瞬間だった。

 

「……なんということだ。ブルーマーメイドが、他国の……しかも『並行世界の日本』の艦艇に攻撃を仕掛け、被害を与えたというのか……!」

海上安全整備局のトップである長官が、頭を抱えて呻いた。

 

「相手方の被害は!? 報復攻撃は受けていないのか!?」

「それが……」

報告を上げる情報官の声が、微かに震えていた。

「相手の艦は明確に被弾し、多数の負傷者を出している模様です。しかし……彼らは『専守防衛』という理念を掲げ、我が方の艦隊を海の底に沈めるだけの圧倒的な武力を持ちながら、一発の反撃も行わず、ただ仲間の救助に専念したとのことです。……現在、宗谷真冬艦長らを含む全乗員は、相手方の『横須賀』にて、重要参考人として保護・拘束されています」

 

その報告に、会議室は水を打ったように静まり返った。

 

「撃たれても、撃ち返さなかった……。そんな軍隊が、存在するというのか...」

 

この世界において、海に沈んだ国土の代わりに海上都市が発展し、国家間の大規模な武力衝突(戦争)という概念は100年前に消滅している。彼らの常識では、強大な武力を持つ者は、攻撃されれば必ず力でねじ伏せてくるのが「海賊」などの振る舞いだった。

しかし、次元の向こう側にいたのは、海賊などではない。

恐るべき破壊力を持ちながら、それを自らの強靭な理性と法律で縛り付ける、極めて高度な「独立主権国家」だったのだ。

 

「……相手の通信担当者(堂島1佐)は、こう言ったそうです。『我々は有事の際、自ら危険を顧みず、己の命を落とす覚悟で事態対処に当たる』と……」

安全整備局の幹部が、血の気の引いた顔で呟く。

「彼らは、戦争を知らない我々とは違う。……"一発で一国の大都市を焦土に出来る兵器"や誘導弾が飛び交う過酷な世界で、常に血を流す覚悟を持って国を護っている『本物の防人(軍人)』です。我々は、決して手を出してはいけない相手の虎の尾を踏んだ」

 

会議室に、重く冷たい沈黙が下りた。

 

「……総理。一歩間違えれば、我々の世界はあの灰色の艦隊によって蹂躙されていました。相手が理性的であったことは、奇跡に他なりません。……直ちに、相手国政府との『外交協議』のテーブルに着く必要があります」

外務大臣が、額の汗を拭いながら進言した。

 

「分かっている!」

総理は机を強く叩き、立ち上がった。

 

「直ちに『特命全権大使』を任命し、外交交渉団を編成しろ! 相手は同じ日本語を話し、同じ『日本』を名乗る国家だ。だが、常識も、歴史も、そして背負っているものの重さも全く違う!」

 

官邸内の電話が鳴り止まず、役人たちが血相を変えて廊下を走り回る。

 

「法務省! 向こうの法律(2026年の国際法)に関するデータはあるか! 我々の隊員が向こうでどう裁かれるのか、最悪のケースを想定しろ!」

「外務省! 相手への謝罪状と、賠償に関する基本方針を急いでまとめろ! 国家予算を削ってでも、誠意を見せなければならない!」

「海上安全整備局! 宗谷校長と宗谷監督官を交渉団のアドバイザーとして急ぎ官邸に呼べ! 向こうの戦力を一番理解しているのは彼女たちだ!」

 

平和な海で治安維持を担ってきたこの世界の大人たちは、突如として開かれた「次元の扉」と、そこから突きつけられた「過酷な世界の現実」に完全にパニックに陥りながらも、自分たちの部下と生徒を救い出すため、必死に国家の総力を結集し始めていた。

 

「……いいか、絶対に相手を怒らせるな。これは、我々の世界の存亡を懸けた『歴史上最大の謝罪外交』になるぞ……!」

 

時空を超えた並行世界との、前代未聞の外交協議。

その第一歩を踏み出すための準備が、夜を徹して、まさに「てんやわんや」の状態で進められていた。

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