機動戦士ガンダム ハマーン様、恋をする 14歳の少女が、愛したクズ男に捨てられて、最強の女帝に覚醒するまでの4年間。   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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モビルアーマーの密室

アクシズの最深部、巨大なドックの闇に鎮座するその機体は、モビルスーツという概念を嘲笑うかのような異形の巨躯を誇っていた。試作型モビルアーマー。その広大な、けれど逃げ場のないコックピットの密室で、私はハマーンと肩を並べて座っていた。

 

「……出力安定。サイコミュ・リンク、オールグリーン。シャア、聞こえる?」

 

隣に座る彼女の声が、ヘッドセットを介さず直接脳内に響く。

16歳を迎えようとするハマーン。摂政の重圧が彼女の輪郭を鋭く研ぎ澄ませ、その指先はもはや恋に震える少女のものではなく、冷徹な指揮官のそれへと変貌しつつあった。

けれど、今この密室で、コントロールレバーを握る彼女の指先は、微かに、けれど確かなリズムで波打っている。

その爪に塗られたマニキュアは、以前の真珠色から、冷え切った月の光を反射するような銀色へと塗り替えられていた。

 

「ああ、聞こえているよ。……あまり集中しすぎるな、ハマーン。この機体のサイコミュは、乗り手の意識を際限なく吸い出す。君自身が飲み込まれてしまうぞ」

 

「飲み込まれてもいいわ。貴方と、こうして深く繋がれるなら」

 

彼女が伏せたまぶたを震わせ、出力を上げる。

その瞬間。

強烈なGとともに、私たちの意識が激しく混ざり合った。

 

通常の通信や対話といったまどろっこしい手順を飛び越え、ニュータイプ同士の剥き出しの精神が、狭いコックピットという密室で激突する。

そこには、暴力的なまでの親密さと、吐き気を催すほどの拒絶感が同居していた。

 

(シャア……。貴方は今、誰を見ているの? 私を見なさい。私だけを)

 

ハマーンの思考が、濁流となって私の脳内に流れ込む。

そこにあるのは、清純な憧れなどではない。ドロドロとした独占欲、摂政として生きる孤独、そして私という男への、殺意にも似た渇望。

 

(……君を見ているよ、ハマーン。だが、私の瞳には、君の背後にある『ジオン』という名の巨大な墓碑銘がどうしても映り込んでしまうのだ)

 

私の本音が、彼女の意識に突き刺さる。

隠し事はできない。この密室では、嘘は言葉を紡ぐ前に露見し、魂の醜い部分が、サーチライトで照らされたかのように白日の下にさらされる。

 

彼女の指先が、私の手甲の上に重ねられた。

銀色の爪が、私のグローブを抉るように食い込む。

痛みが走る。けれど、その痛みさえもが、精神の交際(セックス)のような甘美な恍惚を伴って私の脊髄を駆け上がる。

 

「……嫌。そんな冷たい目で、私を計らないで! 貴方は私を『代用品』にした。父様の、ララァの、アルテイシアの! だったら、最後まで責任を持って私に騙されなさいよ!」

 

彼女が叫ぶ。

精神の共鳴は、現実の視界を歪ませ、コックピットの計器類を夕暮れの図書室の幻影へと塗り替えていく。

本棚の隙間から差し込む、血のような茜色の光。

そこで私は、泣きじゃくる少女を抱きしめている自分を見る。

けれど、私が抱いているのはハマーンなのか。それとも、私が捨て去った過去の残骸なのか。

 

「(……ああ、そうだ、ハマーン。君がこれほどまでに私を求めても、私は君の瞳の奥に、永遠に届かない光を探し続けている)」

 

私は彼女の指先を、冷酷に、けれど離れがたい執着を込めて握り返した。

サイコミュが限界を超えて共鳴し、機体が激しく咆哮する。

二人の本音が、剥き出しの神経のように触れ合い、火花を散らす。

それは、最高に甘酸っぱくて、最高に後味の悪い、魂の泥仕合。

 

「シャア……。貴方を、殺してあげたい。そうすれば、貴方は私のものになるのかしら」

 

「やってみるといい。だが、君に私が殺せるかな? 君もまた、私という亡霊なしでは、その重すぎる玉座を支えられないはずだ」

 

視線が、ゼロ距離で交差する。

銀色のマニキュアが、モニターのノイズに照らされて、凶器のような輝きを放った。

私たちは、巨大な鉄の密室で、互いの孤独を貪り合うようにして、どこまでも深く、暗い淵へと沈んでいった。

 

宇宙世紀0083。

テスト飛行を終えた機体が、静寂に包まれたドックへ帰還する。

ハッチが開いた時、私たちの間に流れていたあの甘美で吐き気のするような熱は、アクシズの冷たい空気に晒されて、一瞬で凍りついた。

 

「……お疲れ様。シャア。良いデータが取れたわ」

 

コックピットから降りる彼女の背中は、すでに一国の摂政としての、近寄りがたい冷徹さを取り戻していた。

私は、自分の指先に残る、彼女の銀色の爪の感触を確かめる。

それは、私たちが本物になれなかったという、動かぬ証拠のように冷たかった。

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