機動戦士ガンダム ハマーン様、恋をする 14歳の少女が、愛したクズ男に捨てられて、最強の女帝に覚醒するまでの4年間。   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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さよなら、赤い彗星

アクシズの薄暗い発着ドック。

そこは、かつて私とハマーンが肩を並べ、ジオンの再興という名の甘い夢を語り合った場所であり、今や決定的な決別を刻むための処刑台となっていた。

私の体はクワトロ・バジーナとしての軍服に包まれ、視界を遮る仮面は、もう彼女の剥き出しの瞳を受け止めることを拒んでいる。

 

「……準備は整った。シャトルがデルタ3から射出される」

 

私は計器類を確認しながら、背後に立つ彼女に声をかけた。

17歳。

彼女の指先は、今や銀色を通り越し、どこか不吉な紫の予感を含んだ冷徹な色彩を纏っている。

その指が、私の肩に触れることは二度となかった。

視線が、モニター越しに交差する。

ひどく場違いで、痛々しい熱。

 

「シャア。……最後に一度だけ、教えて。貴方が私を愛したことは、一度でもあったの?」

 

彼女の声は、かつての少女のような震えを殺し、一国の摂政としての重みを帯びていた。

けれど、ニュータイプとしての共鳴が、その裏側にある彼女の魂の絶叫を、直接私の脳内に叩きつけてくる。

 

(行かないで。私を一人にしないで。私を『ジオン』なんていう化け物の生贄に捧げて、自分だけが自由になるなんて、そんなの……そんなの、許さない!)

 

私は、その叫びを冷酷に黙殺した。

ここで彼女に「イエス」を告げることは、彼女を一生、私の影という名の檻に閉じ込めることと同義だ。

私は、彼女を救うために彼女を突き放し、彼女を完成させるために彼女の心を殺す。

それが、私というクズが彼女に贈れる、最初で最後の誠実さだった。

 

「愛していたよ、ハマーン。……ザビ家の遺児を守り、アクシズを支えようとする、君のその『忠誠心』をね」

 

「……っ」

 

彼女の息が止まる。

私の言葉は、彼女が一人の女として望んでいた答えを、最も残酷な形で踏みにじった。

私の瞳に映っているのは、彼女の涙ではなく、シャトルの窓の向こうに広がる、漆黒の宇宙の深淵。

そこに広がるのは、人類の革新でも、愛でもない。

ただの、果てしない孤独。

 

「もういいわ。……行きなさい、赤い彗星」

 

ハマーンが、通信コンソールのスイッチに指をかけた。

その銀色の爪が、震えている。

それは、私を引き止めようとする震えではなく、私という存在を自らの内側から切り離そうとする、凄絶な拒絶の震えだった。

 

「行け、シャア。……貴方は、自分の手で壊したかった『ジオン』という名の亡霊を、この場所に置いていくのね。いいわ、私が引き受けてあげる。貴方が壊したかった全てを、私が完璧に作り上げてみせる。……そして、いつか貴方が戻ってきた時、その完璧な『ジオン』に押し潰されて死ぬがいいわ!」

 

「……ああ。期待しているよ。ハマーン・カーン」

 

シャトルのエンジンが咆哮を上げ、ドックの床が激しく振動する。

カタパルトが射出され、私の体は重力の檻を突き破り、宇宙へと投げ出された。

加速するGの中で、私はヘッドセットを外した。

最後、彼女との通信を、自ら断ち切るために。

 

(私たちは本物を探していた。けれど、見つけたのは別々の孤独だった)

 

モノローグが、加速する意識の中で重なり合う。

アクシズが、視界の中で急速に小さくなっていく。

その小惑星の表面で、月光にも似た無機質な光を反射して輝く白磁の影が見えた。

キュベレイ。

その巨大なバインダーが、彼女の心情と呼応するように大きく羽ばたき、まるで行き場のない絶望を包み込むかのように、静かに、重く閉じられていく。

 

「さよなら、ハマーン。……君が私を憎む分だけ、君は、私を超えていける」

 

宇宙世紀0087。

私はクワトロ・バジーナとして、新たな戦場へ。

彼女はアクシズの女帝として、塗りつぶされた赤の支配へ。

かつて図書室で、モビルスーツの設計図を囲んで笑い合ったあの日の温度は、もうどこにもない。

 

残されたのは、彼女の爪に残った銀色の冷たさと、私の頬を伝った、最後の一筋の嘘。

後味の悪い私たちの「レクイエム」が、今、宇宙の深淵に溶けて消えていった。

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