機動戦士ガンダム ハマーン様、恋をする 14歳の少女が、愛したクズ男に捨てられて、最強の女帝に覚醒するまでの4年間。   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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シュネー・ヴァイスの雪

アクシズの暗い空に、不釣り合いなほどの白が舞っていた。

それは雪ではない。

ハマーン専用機、シュネー・ヴァイス――「白雪」の名を冠した試作MSから射出された、ビットの軌跡だ。

 

「……見える。シャア、私、あの子たちがどこを飛んでいるのか、手に取るようにわかるわ」

 

通信回線越しに届くハマーンの声は、熱に浮かされたように震えていた。

14歳の少女が背負うにはあまりにも過酷な、サイコミュという名の精神の拡張。

モニターに映る白い機体は、まるで凍りついた宇宙(そら)で独り踊るプリマドンナのようだった。

彼女の指先が、コックピット内のセンサーパネルをなぞる。

そこには、かつての私への恋心から塗り始めた真珠色のマニキュアが、パイロットスーツのグローブ越しにもわかるほど、切実な煌めきを湛えていた。

 

「(……ああ、美しいな。だが、それはあまりにも危うい)」

 

私の脳裏に、不意に別の白が重なる。

エルメスのビットを操り、私に「刻」を見せたあの少女。

ララァ・スン。

彼女の意識が宇宙に溶けたあの日から、私の時間は止まったままだというのに。

目の前で舞う白い残像が、私の記憶の底に沈んでいた「光」を強引に引きずり出していく。

 

「シュネー・ヴァイス、全ビット帰還! 出力を絞れ、ハマーン! 君の脳が焼き切れるぞ!」

 

私は自身のゲルググを加速させ、演習を終えて漂う白い機体に取り付いた。

ハッチが開き、中から出てきたハマーンは、ひどく青ざめていた。

彼女の細い肩が、宇宙の冷気のせいではなく、自分の中に目覚めた巨大な力への恐怖で激しく震えている。

 

「シャア……。私、あの子たちの声を聞いていると、自分が消えてしまいそうになるの」

 

彼女はフラフラと私の胸に倒れ込んできた。

その瞬間。

ニュータイプとしての共鳴が、意図せず私たちの意識を一つに繋いだ。

 

一瞬だけ、アクシズの無機質なハンガーが消えた。

そこは、誰もいない放課後の音楽室。

夕暮れの光が差し込む中、埃が光の粒のように舞っている。

私は、ピアノの前に座る「誰か」の後ろ姿を見ていた。

 

「ララァ……なのか?」

 

思わず口から出た名前は、ハマーンに届くはずのない、けれど彼女の心臓を直接貫く残酷な刃だった。

私は、目の前のハマーンを抱きしめながら、その瞳の奥に別の女を求めていた。

彼女の桃色の髪を撫でる私の指先が、かつての亡霊を追いかけていることを、彼女は知っている。

 

「……シャア。私を見て。今、貴方を抱きしめているのは私よ」

 

ハマーンの声が、意識の底から響く。

彼女の指先が、私のパイロットスーツの胸元を強く掴んだ。

真珠色の爪が、悔しさに震えているのがわかる。

彼女は、自分がララァの「身代わり」であることを理解しているのだ。

理解した上で、それでも私の腕の中から逃げられない自分を呪い、そして愛している。

 

「(……すまない、ハマーン。私は、君を愛しているのではない。君を通して、失った過去を抱きしめているだけなのだ)」

 

私は、さらに強く彼女を抱き寄せた。

彼女の体温は驚くほど高く、生きている人間の拍動を伝えてくる。

けれど私の心は、その熱を吸い取って、ますます冷たく凍りついてゆく。

 

「……いいわ。貴方が誰を見ていても。私は、貴方の傍で、貴方の亡霊を一緒に背負ってあげる」

 

彼女の決意は、もはや恋などという清いものではなかった。

それは、自らを泥沼に沈めてでも相手を繋ぎ止めようとする、共倒れの覚悟。

アクシズの天井灯が、白い機体に反射して、偽物の雪のようにキラキラと降り注ぐ。

 

宇宙世紀0082。

シュネー・ヴァイスの雪は、私たちの間に降り積もり、二度と消えない氷の壁を作ってゆく。

私は彼女の肩を抱きながら、いつかこの少女が、私を最も深く憎む「女」へと変質する予感に、ただ静かに目を閉じた。

 

「……行こう、ハマーン。ここには、私たちの居場所などないのだから」

 

白雪の名を冠した機体は、少女の純粋さを削り取り、冷徹な摂政への階段を一段ずつ、着実に用意していた。

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