新・昂次元ゲイム ネプギア SISTERS GENERATION 2   作:ゆーじ(女神候補生推し)

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第1章
001ネプギアと時の少女


G.C.2019

 

天王星うずめの出会いから始まった事件より四年。

 

転換期も乗り越えゲイムギョウ界に再び穏やかな日々がやって来ていていた。

 

各国の女神達は本国に帰り、天王星うずめも仲間達と共に零次元に帰り、大きいネプテューヌとクロワールは別の次元に旅立って行った。

 

物語はまた超次元ゲイムギョウカイのプラネテューヌから始まる。

 

 

***

 

 

ここはプラネタワーの一室。そこで一人の少女が机に向かって作業をしていた。

 

年のころは十四歳ほどで身長は150センチちょっと、体形は年相応でバランスのよい健康的な女の子の体。

 

髪は薄紫色の絹のように綺麗なストレートロングヘアーに、頭の左側にゲームのコントローラーの方向キーのような十字型の白いアクセサリーを付けている。

 

瞳は紫色で肌の色はやや白めの薄橙色と、黄色人種のアニメキャラクターのような美少女だ。

 

 

 服は白い生地に襟などの一部が紫色セーラー服を模したワンピースに黄色いスカーフを付けており、靴下は白とピンクのストライプのニーソックスをはいている。

 

顔も体の作りも美しく、傷やシミしわなど一つもない綺麗な肌をしている。

 

身なりもキチンと整えられており、誰からも好感が持たれる【清楚な美少女】といった感じの女の子である。

 

彼女の名前はネプギア。

 

ここプラネテューヌの守護女神ネプテューヌの妹にして女神候補生。

 

部屋にはネプギア以外の人影は無く、ネプギアがキーボードを操作する音のみが響いていた。

 

それにしては音が大きいのはネプギア一人で三つのパソコンを操作しているからだ。

 

一つのパソコンはネプギア自身が操作し、残り二つは宙に浮くペンがキーボードを叩いていた。

 

 

「よし、チェック完了」

 

 

 ネプギアがそう言うとネプギアの手と宙に浮くペンが止まった。

 

 

「ペンネル、ご苦労様戻っていいよ」

 

 

ネプギアの言葉と同時に宙に浮くペンが一瞬で姿を消す。

 

現実の世界からすれば摩訶不思議な光景だが、ゲイムギョウカイでは常識な光景である。

 

ゲイムギョウカイは携帯ゲーム機の発達により、思考一つで道具の出し入れが自由になっている。

 

大容量だが携帯ゲーム機の操作が必要な【ポケット】と呼ばれるアプリと、容量は少ないが思考だけで出し入れ自由な【ポーチ】と呼ばれるアプリがある。

 

ネプギアが使ったのは後者のポーチである。

 

 

「あれ? 印刷できない……」

 

 

ネプギアがそう言いながら可愛く小首を傾げると、後ろからウィーンウィーンと機械の音と同時に「カミノホジュウナラ、ワタシニオマカセクダサイ」と機械音声が聞こえてくる。

 

その声は機械音声ながらも、ネプギアによく似ていた。

 

 

「ありがとう、ネプギアンダム」

 

 

ネプギアは後ろを振り返りながらにこやかに微笑む。

 

その視線の先には、1メートル程のネプギアの服と同じデザインしたレトロなロボットが立っていた。

 

長方形の頭には二本の角がついており、先っぽは電球のように丸くなっている。

 

顔には人が驚いたような顔が描かれており、これはネプギアが以前にしていた顔芸を模したものだ。

 

胴体は寸胴で飾り気はほとんどなく、手も簡単な構成で玩具のマジックハンドのようなCの形二本指となっており、それで物などを挟んで持つ。

 

足もそれ程長くなく、歩行の安定性を高める為に足の裏はやや大きめだ。

 

お尻の部分には尻尾のような電源コードが付いている。

 

 

「アリガトウゴザイマス」

 

 

 ネプギアンダムと呼ばれたレトロなロボットは嬉しそうに両手を上げるとプリンターの置いてある机に向かう。

 

ウィーンウィーンという機械音と共に二足歩行をするネプギアンダム。

 

やや滑稽に見えるが、その足取りは安定しており転倒する気配は見せない。

 

 

「A4サイズ紙を補充してね」

 

 

 ネプギアは椅子に座ってネプギアンダムに向けて優し気な声で言うと、「リョウカイシマシタ」とネプギアンダムが答える。

 

その様子は子供のお手伝いを眺めている母親のようだ。

 

 

 ネプギアンダムはC型の手でプリンターのA4サイズの棚を開けると、プリンターの隣にあるA4サイズの紙の束が入った包みを持ち器用に紙を補充すとプリンターの棚を閉じる。

 

 

「カンリョウシマシタ」

 

 

 ネプギアンダムが先程とおなじように嬉しそうに両手を上げて報告すると、「ありがとう、ネプギアンダム」とネプギアがニッコリと微笑む。

 

ネプギアンダムはネプギアのお礼の言葉に、嬉しそうに頭の二本の角を点滅させる。見た目はレトロだが、その仕事ぶりは優秀なお手伝いロボットだ。

 

 

 ゲイムギョウ界とはいえ、ネプギアンダムのようなお手伝いロボットは未だ普及はしていない。

 

そもそもネプギアンダムはロボットではあるが、召喚獣でもあるのだ。

 

召喚獣とは召喚魔法と呼ばれる魔法により、異世界の住人を呼び出し戦いの手助けをしてもらうものだ。

 

ゲイムギョウ界では有名なRPGの三作目で登場して以来、人気を博し様々なゲームに出ると同時にゲイムギョウ界自体でもその技術が研究された。

 

 

 その中で召喚魔法をメインに取り扱ったゲームが生まれ、そのゲームの技術を巧みに操る、【ふらぷら】と呼ばれる人物が登場する。

 

しかし、彼女は犯罪組織の台頭していた頃に命を落としてしまい、同時にその技も失われてしまった。

 

 

 犯罪組織を倒した後にネプギアは神次元と言う別の次元に行くことになるが、そこでふらぷらと瓜二つの人物と出会う。

 

神次元はネプギアの住む超次元とよく似ており、同姓同名かつ性格や容姿や能力までソックリな人物が多数存在する。

 

 

 ネプギアは彼女が超次元と同じように命を落とさないように密かに保護し、その結果神次元では彼女は生き延びることができた。

 

そのお礼にネプギアはふらぷらから彼女の使う召喚魔法を教わり、超次元に帰還後にその技を再び甦らすことに成功する。

 

その際に協力してくれたのが、超次元のふらぷらの友人であった、ステラいう名前の少女とフェリスと言う名前の猫であった。

 

 

 ふらぷらの編み出した召喚魔法は四つの異界から召喚獣を呼び出す魔法。

 

その一つに【機界フレイラル】と呼ばれる高度な機械による文明を持つ世界がある。

 

ネプギアはこのフレイラルに対する召喚の適性があった。

 

更にフレイラルの住人はふらぷらを保護したネプギアに感謝し、特別な護衛獣を作ると申し出る。

 

護衛獣とは、名前の通り主を守護する召喚獣で身の回りの世話などもしてくれる。

 

 

 ネプギアは最初は丁重に断るが、フレイラルの住人の熱意に負けて申し出を受けることになった。

 

その際にネプギアはフレイラルから護衛獣の要望を聞かれ、ネプギアは信頼性と耐久性の高さと、メンテナンスやアップデートが容易なように、できるだけ既存のプラネテューヌの技術を使用することを求めた。

 

デザインに関しては、ネプギアはフレイラル側にあまり負担をかけないよう、彼女の好きなロボットの特徴である、【目が二つでアンテナも二つ付けて色は白】と要望したのみだったが、これが良くなかった。

 

 

 その後、ネプギアは神次元である戦いに苦戦を強いられる。

 

その危機を救ったのが、目の前に居るネプギアンダムであった。

 

ネプギアの召喚魔法で現れたネプギアンダムは見た目にそぐわぬ強さでネプギアの危機を救うが、流石のネプギアもこの見た目には物申したいところであった。

 

 

 だが、完成度に自信満々で悪意の一欠けらもないフレイラルの技術者達と、なにより学習型の人工知能を持ったネプギアンダムに対して、【カッコ悪いから作り直して】とは心優しく控えめなネプギアには言えず、そのまま受け入れることになる。

 

見た目はアレだが、ネプギアの要望した通り、信頼性、耐久性、メンテナンス性は非常に高く汎用性の高い優秀なロボットだったことも理由にある。

 

そして、ネプギアは自分だけの護衛獣であるこのロボットに自分の名前と好きなロボットの名前を合わせた、ネプギアンダムと名前を付ける。

 

更に自分の声を機械音声として登録し、自分に似た声で喋ることができるようにする。

 

 

 姉のネプテューヌが悪ノリして、このネプギアンダムのプラモデルを広めるが、意外と好評で超次元、神次元共に人気がある。

 

デザインはともかく真面目で勤勉な女神であるネプギアの持っているアイテムというのが重要だったかもしれない。

 

後にネプギアはアトランジャーと呼ばれるロボットを発掘する。

 

しかし、自分にはネプギアンダムがいるし、人工知能を持つネプギアンダムがヤキモチを焼くかもしれないので、これをネプテューヌに譲っている。

 

 

 尚、ネプギアンダムは戦闘の際には10メートル近い大型のネプギアンダムと合体し、巨体から繰り出される圧倒的なパワーで敵を粉砕し、目から出るビームで敵を薙ぎ払う。

 

強力ではあるのだが、それが災いして追加されたネプギアの新しい技は、このネプギアンダムの召喚になってしまった。

 

他の女神達は華麗な新技を使う中、彼女のネプギアンダムは圧倒的なネタ枠として浮いていたが、使っていく内に慣れて今ではノリノリで使っている。

 

現在、大型のネプギアンダムはオーバーホール中で使うことはできない。

 

 

「オモチシマシタ」

 

 

 ネプギアンダムが紙が補充されたことにより、印刷された紙の束をネプギアに手渡す。

 

その紙には、しわ一つ付いていない。

 

玩具みたいな手だが微妙な力加減も可能で卵を割ることもできる。

 

 

「お疲れ様」

 

 

 ネプギアはネプギアンダムから右手で紙を受け取ると、左手でその頭を優しく撫でる。

 

先程と同じようにネプギアンダムの角が嬉しそうに点滅する。

 

学習型の人工知能を持ったネプギアンダムは人間に近い感情を持っており褒められたりすると子供のように喜ぶ。

 

 

「私、いーすんさんのところに行ってくるから、充電しながらお留守番しててね」

 

 

 ネプギアがネプギアンダムに向けて言うと、「リョウカイシマシタ」とネプギアンダムはコンセントの側まで歩いて行き、尻尾の電源コードをコンセントに刺す。

 

すると、その場に両足を投げ出すように座り込む。

 

ネプギアンダムの優秀なところの一つに、尻尾の電源コードで簡単にエネルギーを補給できることがある。

 

またエネルギー効率も良く稼働時間も長い。某有名人型決戦兵器のように数分で止まるようなことはない。

 

 

 ネプギアはA4サイズの書類をクリアファイルに収めて持ち出すと、もう一つの机の書類の山を崩さないようにゆっくりと歩いて執務室を出ていく。

 

ネプギアが向かった先はプラネテューヌの教祖であるイストワールの執務室である。

 

 

「いーすんさん、今日の分の事務が終わりました」

 

 

 ネプギアはインターホンを鳴らし、スピーカーに向かってイストワールに話しかける。

 

 

「ご苦労様です、ネプギアさん」

 

 

 イストワールがそう返事をすると、執務室のドアが横にスライドして開く。

 

 

「失礼します」

 

 

 ネプギアは部屋の中に入る。

 

部屋の中には金色の髪の毛をした女の子の人形が浮いていた。

 

開いた本に腰をかけた50センチ程の大きさの人形だ。

 

実はこの人形こそがプラネテューヌの教祖の【イストワール】なのである。

 

人形のように見える彼女は人工生命体。

 

ゲイムギョウ界には人工生命体を作り出す技術があり、イストワールはプラネテューヌの古代の女神が作りだしたものである。

 

大きさ以外は人間そのもので、少しウェーブのかかった金色の髪をツインテールにし、瞳の色は青。

 

小さな姿に合わせて体形も凹凸の無い少女のものであった。

 

服装はナースキャップのような帽子をかぶり、紫色のオフショルダーのワンピースに緑色のネクタイを締めて白いニーソックスをはいている。

 

普通の人間と一番違うのは背中に浮かぶ薄紫色の蝶のようで機械的な形をした光の羽である。

 

 

 ネプギアはイストワールの側まで歩いて行てくと、「チェックよろしくお願いします」と書類を収めたクリアファイルを差し出す。

 

 

「わかりました」

 

 

 イストワールがて座っている本ごと浮き上がり、書類を受け取るとペラペラとめくってその内容を読み始める。

 

小さいイストワールにはA4の紙も大きいので、読むたびに頭が動き、毛先にウエーブのかかった金髪のツインテールが揺れる。

 

 

「はい、問題ありません。流石はネプギアさんですね」

 

 

 読み終わったイストワールは小さな子供を褒めるようにニコリと微笑むとネプギアと目を合わせる。

 

 

「よかった」

 

 

 ネプギアはホッと胸を撫でおろすと、「ネプギアさんはいつも真面目で丁寧な仕事をしてくれるので助かります」とイストワールが嬉しそうに言う。

 

 

「そっ、そんなことないですよ。私なんてまだまだです」

 

 

 イストワールの褒め言葉に、ネプギアは胸の前で手をあわあわ振って謙遜する。

 

しかし、イストワールはそんなネプギアに構わず、「そうでしょうか? ネプギアさんの真面目さは私の知る限りでは五指に入りますよ」と言いながら首を傾げる。

 

 

「私、真面目なことぐらいしか取り柄がありませんから……」

 

 

 イストワールはネプギアを素直に褒めてあげたいのだが、当のネプギア本人は謙虚すぎて素直に喜ぶことができないようだ。

 

 

「……いーすんさん、私、女神としてちゃんと出来ているでしょうか?」

 

 

 ネプギアは少し不安そうにイストワールに問いかける。

 

ネプギアは優しさと謙虚さが過ぎて他人の良いところは過剰に評価するが、自分の良いところは過小評価するところがある。

 

その為、特に大きな失敗をしなくても自分の仕事ぶりが不足しているのではないかと疑問に感じてしまうことがある。

 

 

「出来ていますよ。ネプギアさんの仕事ぶりや戦いぶりは女神として百点満点です。教祖の名に掛けて断言できます」

 

 

 イストワールはそんなネプギアの不安を払拭するかのように素早くそして力強く即答する

 

ネプギアはプラネテューヌの女神として他の女神や教祖達と協力してゲイムギョウ界の平和を何度も守ってきたのである。

 

その実績を踏まえてイストワールは心から正直にネプギアに答えたのだ。

 

 

「ありがとうございます。嬉しいです」

 

 

 イストワールのその姿にネプギアは本当に嬉しそうに笑顔を向ける。

 

信頼し尊敬をしているイストワールの率直な言葉に安心したようだ。

 

 

 ネプギアは物事の呑み込み早い上に、真面目で勤勉なのでどんなことでも真剣に学ぶ為、大抵のことはすぐに覚えてそつなくこなしてしまう。

 

しかし、それが仇になり自分を器用貧乏と思い込んでしまっている節がある。

 

彼女の周りには強い個性を持った優秀な人物が沢山いるのも原因である。

 

 

「私、これからも女神として頑張ります!」

 

 

 ネプギアは気を取り直して小さくガッツポーズをすると、「それじゃあ、早速クエストに行ってきますね」と意気揚々と言う。

 

クエストとは、本来は【探求】、【探索】を意味するが、ゲイムギョウ界では【他者からの依頼による仕事】のようなものになっている。

 

女神としてのクエストの内容は主にモンスターと呼ばれる人を襲う異形の生命体の退治である。

 

 

「気を付けてください、新作期になってレベルも落ちている筈ですから、無理はしないで下さいね」

 

 

 イストワールは少し心配そうな顔をする。

 

その姿はネプギアの母親のように見える。

 

ネプギアはイストワールの言葉に、「はい」と素直に返事をする。

 

ちなみに【新作期】と言うのはゲイムギョウカイに定期的に訪れる期間で、今まで上げたレベルがリセットされるが代わりに上げたレベル分の基礎値が高まる現象。

ネプギアの仲間の【日本一】の言葉を借りれば転生らしい。

 

 

「あっ、変なところないかな?」

 

 

 ネプギアはそう言いながら、壁に備え付けられたスタンドミラーに自分の姿を映す。

 

髪の毛はキチンとセットされている、右側に少しクセがあるけど直らないし自分でも気に入っているのでこのままにしている。

 

 

「いってきまーす」

 

 

 ネプギアが元気よく右手を上げて左右に振りながら部屋を出ていくと、「いってらっしゃい」とイストワールは小さく手を振って答える。

 

その姿は愛娘の登校を見守る母親のようだった。

 

 

「ネプギアさんは真面目に仕事をしてくれるので助かりますね」

 

 

 イストワールは嬉しそうに言う。

 

時計を見ると九時半過ぎ、ネプギアは朝八時前から事務仕事を始めて今はそれを終わらせて今度はクエストに向かった。

 

ペンネルを駆使して三つのパソコンを同時操作しているとは言え、一日分の事務仕事を二時間掛からず終わらせてしまうのは彼女の優秀さが伺える。

 

 

「……それに比べてネプテューヌさんは……」

 

 

 そう言うとイストワールは一転して暗い顔になり、胃が痛くなるような気がした。

 

前述したように現在九時を過ぎている。

 

プラネテューヌの職員たちは九時始業の十七時終業の八時間勤務となる。

 

女神であるネプテューヌに就業規則は当てはまらないだろうが、イストワールとしてはもう少し上の者として、周りに示しを付けて欲しいと思ってしまうのだった。

 

 

 イストワールの執務室を出たネプギアはそのままプラネタワーを降りて、プラネテューヌの街へ出かける。

 

プラネテューヌの街はプラネタワーを中心に、白を基調しつつ薄紫などの明るい色をした独創的な形の建物が多くある。

 

その光景は近未来のようで、ゲイムギョウ界一の先進国家と呼ばれるプラネテューヌに相応しい街並みであった。

 

 

 ネプギアはプラネタワーから出てネプギアは歩道を歩く。

 

近未来的な見た目の街であるが、施設は現実世界の日本の街と大きく変わりがない。

 

歩道には人々が歩き、その横にはビルや商店が並び、車道には車やバイクが通っている。

 

 

現在ゲイムギョウ界はG.C.2019の3月27日水曜日。

 

快晴で風も無く、ネプギアは穏やかで温かい春の匂いを感じながら日当たりの良い歩道をゆっくりと歩いて行く。

 

 

 ネプギアは幼い頃からイストワールから女神としての立ち居振る舞いを教え込まれ、自然と優雅な動作を取ることができる。

 

過度に格好良く見せるようなものではなく、あくまで自然な動きである。

 

清楚で可憐なネプギアが姿勢よく淑やかに綺麗な髪を揺らしながら歩く姿は、それだけで行きかう人々を振り向かせる。

 

 

****

 

 

 ネプギアは暫く歩くと、【ギルド】と書かれた看板のある店のような建物の前で立ち止まる。

 

ネプギアが左腕に着けた服と同じカラーをした可愛らしい腕時計を確認すると、時間は九時五十分だった。

 

建物のシャッターは開いているが、開店時間のopenの表示が10:00となっているので、律義な彼女は店側と通行人の邪魔にならないように端に寄って開店を待とうとする。

 

すると店の中から、店員と思われる紺のジャケットを羽織った中年でやせ気味の男性が、まだ作動していないガラス張りの自動ドアを手で空けてくる。

 

 

「おはようございます、ネプギア様。今日もお早いですね」

 

 

 男性は軽く頭を下げてネプギアに挨拶をすると、「おはようございます。今日もクエストを探しにきました」ネプギアは丁寧に軽く一礼して挨拶を返すと、簡潔に用件を伝える。

 

ネプギアは友人やイストワールなどの親しい人達には少し砕けた態度で接するが、普段は礼儀正しく前述したようにイストワールに教え込まれた礼儀作法をキチンと守っている。

 

今も、姿勢正しく両手は下に降ろし右手を左手でカバーするように前で重ねており、可愛らしくも上品な印象を受ける。

 

 

「どうぞ中にお入り下さい」

 

 

 男性は自動ドアをネプギアが通れる広さに開けるとネプギアを招き入れる。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 ネプギアはお礼を言うと素直に自動ドアをくぐり店内に入った。

 

男性はこの店の受付担当のようで、ネプギアを招き入れると奥の受付カウンターに入る。

 

 

「ネプギア様は、ご自分から仕事を探しに来ていただけるから本当に助かりますよ」

 

 

 受付の男性はネプギアの方を向いて、にこやかに話しかける。

 

女神と呼ばれているが、現在のゲイムギョウ界の女神は、今のように人間とのコミュニケーションを普通におこなっている。

 

しかし、十年ほど前は女神は人間との距離をおいており、人前には女神化という変身した姿で現れ、今のネプギアという人間の姿は世を忍ぶ仮の姿であったのだ。

 

主な理由は騒がれずに自由に行動が出来ることと、女神化していない隙を突かれた暗殺を避けるためであった。

 

現に天王星うずめが女神だった頃は人間の姿で、リアカーを引いたりするパフォーマンスを見せたりしたが、それが仇になり反対勢力から何度か暗殺をされそうになったことがある。

 

 

 それにより近年は女神化する前の人間時の姿は非公開が普通だった。

 

しかし、当時の女神達の敵であった【犯罪組織マジェコンヌ】に対抗する為の旅で、その姿はゲイムギョウ界の住人の知るところとなってしまった。

 

主な原因はネプギア達女神候補生が人間の姿のままで女神と名乗りコンサートに出演したり、姉である守護女神達が互いの人気の優劣を競う為に選挙を開いたことなどだ。

 

その為に今は開き直って人間の姿のままでテレビなどのメディアに出演したり、ライブなどのイベントもしている。

 

 

「少しでも早く困ってる人を助けたいですし、それに直接ギルドに来ないとわからない依頼とかもありますから」

 

 

 ネプギアは受付の男性に向けてそう答えると、ゆっくりと歩いて備え付け端末に移動するとタッチパネルを操作し始める。

 

 

 ギルドは冒険者にクエストを仲介したり、何かあったときに情報を提供してくれるという組織である。

 

クエストの内容は多種多様で、大はモンスター退治から小は犬の散歩や草むしりまであり、要約すれば【何でも屋の仲介業者】になる。

 

ギルドは冒険者には手に負えないようなモンスター退治を教祖を通して女神にクエストを依頼をする。

 

 

 その為、待っていればネプギアの元にクエストの連絡は来るのだが、ネプギアは少しでも姉やゲイムギョウ界の人々の力になりたくて、こうして足しげくギルドに通っている。

 

彼女は自分宛てに届いたクエストは昨日の内に済ませており、今はフリーなのでギルドまで直接足を運んで自分にできるクエストはないかを探しているのだ。

 

今でこそ直接足を運ぶまでになったネプギアだが、十年前の犯罪組織に対抗する旅を始めたころはギルドの存在すら知らず、友人のアイエフに色々と教わっていた。

 

 

 受付の男性はそんなネプギアの横顔を嬉しそうに眺めている。

 

プラネテューヌの街中でもそうだったが、彼女の可愛らしくも上品な振る舞いは人々を惹きつけるものがある。

 

立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花と言うのはネプギアのような子のことを言うのだろう。

 

更に毎日真面目に仕事を探しに来るとくれば好感度が高いのも当然だ。

 

 

 しかし、彼女も昔からここまで真剣にクエストに取り組んでいた訳ではない。

 

以前からしっかり者で自分の仕事はちゃんとしていたが、自分の分が終わると大好きな姉のネプテューヌの世話を焼いていた。

 

それが少し度が過ぎておりイストワールの悩みの種であった。

 

それが変わったのが、神次元に行ってからである。

 

 

 今までは殆ど姉と二人きりだったが、神次元にはネプテューヌと気が合う【プルルート】という女神がいた。

 

ネプテューヌはプルルートと遊ぶことに夢中になり、それによりネプギアと過ごす時間が減ってしまった。

 

最初はネプギアも寂しいとは思ったが、姉も楽しそうな姿に満足し、ネプテューヌの世話が減ったことによる空いた時間に女神の仕事に励んだり同居する子供の面倒を見ていた。

 

ネプギアは一人で女神の仕事に励む内に、仕事をして人の役に立つことや人に感謝されることへの喜びと素晴らしさを改めて知ることになる。

 

そして女神の仕事をとてもやりがいのある仕事だと思うようになる。

 

その後に天王星うずめとの出会い、命がけで世界を守ろうとする彼女の生き様に強い影響を受けて、更に女神に対する意識を高めて行く。

 

現在、うずめは自らが生み出した零次元と心次元を復興する為に日々努力を続けており、ネプギアもそれに負けないよう更に仕事に打ち込むようになる。

 

甘えん坊の彼女は今のネプテューヌの世話を焼きたい気持ちが無くもないが、仕事に励むことでネプテューヌも喜ぶので基本的には仕事をすることを優先している。

 

 ネプギアが暫くの間クエストを探していると、カウンターに一人の小奇麗な老婆が訪れていた。

 

 

「あのぅ……クエストを頼みたいんじゃが……」

 

 

 老婆はギルドに来るのは初めてのようで、たどたどしく受付の男性に話しかける。

 

 

「はい、どのようなご用件で?」

 

 

 先程の受付の男性が笑顔で丁寧に対応すると、老婆は少し安心したように表情を緩め、「家にある時計を直してほしいのじゃ……おじいさんとの思い出の品でのぉ」と伝える。

 

受付の男性は、「それなら、時計屋さんに連絡をしてみてはいかかでしょうか?」と勧めてみると、「時計屋は旅行に行っていておらんのじゃ……」と老婆は切なそうに言う。

 

恐らく朝一番で時計屋を訪れたが、休日のお知らせを見て、途方に暮れワラにすがる思いでギルドを訪れたのだろう。

 

 

「でしたら、機械に強い冒険者を探してみますので少々お待ちください」

 

 

 受付の男性はカウンターのコンソールを操作してギルドに登録している冒険者の一覧を呼び出す。

 

午後にもなれば、たくさんの冒険者がギルドを訪れ、時計の修理程度なら誰か一人ぐらい手を上げてくれるのだが、今は午前中でしかも開店したばかり。

 

ギルドの中にはネプギアと受付の男性そして老婆の三人しかいない。

 

 

 ネプギアはタッチパネルの操作を止めて老婆と受付の男性のやり取りを遠目に眺めていた。

 

受付の男性はスマートフォンでクエストを受けてくれそうな冒険者に連絡を取っているようだが、誰も出てくれないようだ。

 

冒険者の多くは夜遅くまで仕事をしており、朝起きるのは遅い者が多い。

 

 

 受付の男性が何度目かの電話を切ると、「無理かのぉ……」と老婆が再び切なそうな声を出す。

 

老婆が肩を落とし背中を丸くする様は、悲しみが漂っていた。

 

その姿にネプギアはとっさに声を出す。

 

 

「あの、私でよければみますけど?」

 

 

 ネプギアは老婆の切なそうな声に同情して、本当に大切な時計なんだなと思い自分から名乗り出たのだ。

 

老婆が、「おお、お嬢ちゃんできるのかい?」と嬉しそうな声を出す。

 

しかし、受付の男性はカウンターを出てネプギアに近づくと、「ネプギア様にしていただくような依頼じゃありませんよ」と耳打ちする。

 

 

 男性の言う通り、女神などの高い戦闘能力を持つ者はモンスター退治などの荒事になるクエストを担当する。

 

このようなお使いクエストは駆け出しの冒険者などに譲るのが定例である。

 

 

「こういうお仕事は新米の冒険者さんに譲るべきなのはわかってますけど、おばあさん困ってるみたいなので……」

 

 

 ネプギアはそう言うが、「そうは言われてもねぇ……」と受付の男性は難しい顔をする。

 

受付の男性も心優しいネプギアの気持ちは分かるが、このような雑用クエストを女神にさせたと上に知られたら減俸ものである。

 

 

「もう少し待ってもらって……」

 

 

 受付の男性はネプギアを説得しようとするが、「お願いします。やらせて下さい」とネプギアが大きく頭を下げる。

 

 

「わわわ! 頭を上げて下さい、わかりました! お任せしますから」

 

 

 受付の男性は慌ててネプギアに言う。

 

女神とも普通にコミュニケーションをとるが、さすがに頭を下げてもらうのは恐れ多いようだ。

 

心優しく感受性や共感力が高いネプギアは困っている人を助けるためなら、自分の立場も構わずに行動してしまう。

 

 

「それでは準備しますので、こちらにご記入をお願いします」

 

 

 受付の男性はそう言うとA4サイズの依頼書を老婆に手渡すが、「ううん? どう書けばいいじゃ……」と老婆は困惑顔になる。

 

 

「それじゃあ、私が説明しますね。こっちに来て下さい」

 

 

 ネプギアはそう言うと老婆の手を優しく引いてペンの置いてある机に誘導していく。

 

 

「いや~……本当にいい子だな。女神様じゃなければほっておかないんだが」

 

 

 その姿を見ながら受付の男性はしみじみとつぶやく。

 

受付で毎日のように真面目なネプギアの仕事ぶりを見ている彼はすっかりネプギアの信者になっているようだ。

 

その間に、老婆はネプギアの丁寧な説明に従って依頼書の空白を埋めていく。

 

 

「お嬢ちゃんは若いのに礼儀正しくて親切じゃのぉ……」

 

 

 老婆はネプギアを眺めながら嬉しそうな顔で言う。

 

彼女は親切かつ可愛らしく上品な振る舞いのネプギアのことをすっかり気に入ったようだ。

 

 

「ありがとうございます。私もおばあさんのお役に立てて嬉しいです」

 

 

 ネプギアはそう言いながら、先程の様子からこの老婆は自分が女神だということを知らないようなので、余計な気遣いをさせないよう、このまま言わないことにしようと思った。

 

テレビなどのメディアに出演しているとはいえ、出ているのは主に姉達守護女神でネプギア達女神候補生はあまりメディアに出ることはあまりない。

 

その為、知らない人がいても不思議ではない。

 

 

 老婆は依頼書を埋めて受付の男性に提出すると、男性はキーボードを操作して依頼書の情報を端末に入力していく。

 

 

「はい、登録できましたので受注入力して下さい」

 

 

 受付の男性がネプギアにそう言うとネプギアは、「はい」と答えて、右の太ももに付けている専用のケースから携帯ゲーム機型万能デバイス【Nギア】を取り出す。

 

携帯ゲーム機型万能デバイスとは簡単に言えばスマートフォンである。

 

先程、受付の男性が持っていたようにゲイムギョウ界にもスマートフォンはあるので競合する形になっている。

 

携帯ゲーム機型万能デバイスはスマートフォンに比べて専用のゲームソフトが遊べ、ゲームに関する機能が優れている。しかし、その分他の機能がやや劣るところがある。

 

その為、子供やゲーム好きの大人は携帯ゲーム機型万能デバイスを好んで使い、その他の人々はスマートフォンを使っている。

 

 

 ネプギアはNギアに付いているボタンとタッチパネルの操作で素早く、【クエスト】と表示されたアプリケーションを選択する。

 

すると、【NEW】の表示がされた【時計の修理依頼】の項目にタッチする。

 

ネプギアはクエストの説明文、期限、報酬額を全て確認した上で【受注する】のボタンをタッチした。

 

これにより正式にギルドからクエストを受けたことになる。

 

 

「はい、受注終わりました」

 

 

 クエストの受注操作が終わったネプギアは、「おばあさん、直す時計はどこにありますか?」と早速クエストに取り掛かるべく老婆に時計のことを聞き始める。

 

 

「家にあるんじゃ……大きな古時計でな、おじいさんが生まれた時から百年休まず動いていたんじゃが……」

 

 

 老婆が説明をすると、「じゃあ、おばあさんの家におじゃましますね」とネプギアが言い、先程と同じように優しく老婆の手を引いて行く。

 

 

 

****

 

 

 

 ネプギアは老婆に道案内してもらい街中を進みながら、老婆の夫で先日亡くなったという、おじいさんとの思い出話に耳を傾けていた。

 

 

「いいおじいさんだったんですね」

 

 

 ネプギアがしみじみと老婆に答えながら頷く。

 

真面目なネプギアは真剣に老婆の話を聞き、あいづちをうったり感想を述べたりしていた。

 

そうしている内に老婆の家に着いたネプギアは老婆に案内されて、修理する古時計のある部屋に案内される。

 

確かに古いが綺麗に掃除されておりアンティークとして十分価値がありそうな逸品であった。

 

老婆の家も上品なアロマの匂いがして、時計の雰囲気とマッチしていた。

 

 

「わー、すごい立派な時計ですね」

 

 

 ネプギアはそう言って素直に関心すると、「じゃあ、さっそく見させてもらいますね」と言って、Nギア取り出してを操作する。

 

画面の【ポケット】表示されたアプリケーションを選択し、【ネプギア特製工作ツール】を選択するとネプギアの手元に工具一式が現れる。

 

 携帯ゲーム機から工具が出てくるのは非常識に見えるが、ゲイムギョウ界では常識である。

 

少し前にネプギアがペンネルと呼んだ宙に浮くペンを収納したが、あれは思考一つで出し入れ出来るポーチに対してこれはNギアを操作して呼び出す方のポケットを使用したものである。

 

ちなみにこのような便利な携帯端末が流通する前は道具袋にアイテムを保管していた。

 

冒険者は装備の他に傷薬や鍵などのアイテムを細かく管理し、持ちきれないアイテムを預かる【預かり所】などの商売があったとされている。

 

 

「ええと……ふんふん……なるほど」

 

 

 ネプギアは古時計を分解して構造を確認しながらつぶやく。

 

 

「どうかのぉ……直りそうかい?」

 

 

 老婆が心配そうに尋ねると、「大丈夫です。何個かすり減ったパーツがあるので、それを交換すれば直るはずです」とネプギアが老婆を安心させようと力強く言う。

 

 

「おお、頼もしいのぉ~」

 

 

 老婆もネプギアの言葉に安心したのか嬉しそうに微笑む。

 

 

「それじゃあ、私パーツを探しにジャンクショップに行ってきますので少し待っていて下さい」

 

 

 ネプギアはそう言って立ち上がると、「ジャンクショップ?」と老婆が質問をする。

 

 

「ジャンク品って言う、そのままじゃ使える見込みがないパーツや古くて使い道がない品物が売っているんですよ。この時計古いですからピッタリなパーツがあると思います」

 

 

 ネプギアが説明すると、「お代はどうしたらいいかねぇ?」と老婆が心配そうに言う。

 

ネプギアはニコリと微笑んで老婆を安心させると、「領収書を切ってもらいますから心配しないで下さい」と言う。

 

そして、時計の修理に必要な部品を再チェックしながらNギアにメモをしていく。

 

 

 

****

 

 

 

 ネプギアは老婆の家を後にするとプラネテューヌの街のジャンクショップに向かう。

 

ネプギアがジャンクショップの自動ドアを通ると、少し暗めの店内に鉄の匂いがしてくる。

 

同時に、眼鏡をかけて私服の上に店の名前が書いてあるエプロンを付けている男性が、「いらっしゃいませネプギア様、今日は何をお探しで?」と声をかけてくる。

 

 

 機械が好きなネプギアはジャンクショップの常連である。

 

彼女は女神という立場でありながら贅沢な高級品はあまり使用せず、ジャンクショップに足しげく通ってリサイクルできる部品を探しているのだ。

 

真面目で堅実な彼女の考え方は作る機械にも表れており、常に最新で最高の性能を有する部品よりも、確実に動作する信頼性の高い部品を選んで使う。

 

その為、ジャンクショップには思いがけないお宝があることがあるのだ。

 

 

「こんにちは店長さん。今日は歯車を見に来たんです」

 

 

 ネプギアは挨拶をした後に用件を伝えると、「じゃあ、こちらですね」と店長はネプギアを案内する。

 

ネプギアは、「ありがとうございます」とお礼を言いながら店長の後ろに付いて行く。

 

ネプギアが案内された場所には箱の中に大量の歯車が無造作に入っていた。

 

ネプギアはNギアから取り出した軍手をはめると、それを一つ一つ手に取って状態や寸法を調べ、使えるものと使えないものを分けていく。

 

 

「ネプギア様楽しそうですね」

 

 

 店長は楽しそうに作業するネプギアを見て声を掛ける。

 

ジャンクショップ自体があまり人が大挙して訪れる場所ではない。

 

その上に今は午前中ということで、暇を持て余している店長は歯車を選別するネプギアを邪魔にならない程度の距離から眺めていた。

 

 

 この店長もギルドの受付の同様にネプギアの信者である。

 

ジャンクショップのような女っ気のない店で、ネプギアのような真面目で朗らかな美少女が常連客ともなればファンになってしまうもの仕方ないことかもしれない。

 

 

「はい、私歯車って大好きです。一つ一つは小さいけど、たくさん組み合わせて大きな仕掛け動かす姿を見ると、どんなに大変ことでもみんなで協力すればできるんだって思えるんです」

 

 

 ネプギアは店長の言葉に嬉しそうにそう答える。

 

 

「ネプギア様の名前にも【ギア】って付いていますしね」

 

 

 店長はネプギアの名前に歯車を意味するギアの文字が入っていること言う。

 

すると、「はい、私この名前大好きです。私も歯車みたいに、みんなと一緒に楽しくて平和なゲイムギョウ界を作りたいです」とネプギア答える。

 

 

「社会の歯車になるのが嫌だって言う人が多い中で、ネプギア様のような立派な考えを持ってる子は貴重だね」

 

 

 店長はネプギアの考え方に関心したように何度も頷きながら言う。

 

 

「ありがとうございます。でも、私は一人じゃ怖くて何も出来なくて、すぐにお姉ちゃんや友達を頼っちゃうから、そう思うだけで立派なんかじゃありませんよ」

 

 

 店長の誉め言葉に対してネプギアは丁寧に謙遜をする。

 

店長はそんなネプギアを見ながら嬉しそうに微笑んだ。

 

ネプギアの言動や行動が彼の琴線に触れたようだ。

 

 

 先述したが、ネプギアは神次元から戻って来て頻繁に街に顔を出して仕事をするようになった。

 

それによりG.C.2012からギルドやジャンクショップ等の彼女がよく訪れる場所でネプギアの信者は少しづつ増え始めていた。

 

尖った特徴は無いが、内面も外面も非の打ち所がない彼女は、この店長と同じように多くの人に好意的に受け入れられている。

 

逆にネプギアの優等生ぶりが鼻に付く言う人物もいるが、それはごく僅かである。

 

 

「あっ、これで揃いました」

 

 

 ネプギアは会話しながらも歯車の選別をしており、ちょうどその作業が終わったようだった。

 

ネプギアは歯車を購入して領収書を切ってもらうと、Nギアを操作して、ポケットアプリを呼び出すと購入した部品をインベントリ倉庫に収めるとジャンクショップから出る。

 

 

****

 

 

 ネプギアは早速老婆の家に戻ろうとするのだが、彼女の視界に一人の少女が入ってくる。

 

年のころは六~七歳程度、身長は130センチ前後。

 

髪は薄い金髪を腰まで届くお団子ツインテールにして、前髪は長めの姫カットで綺麗に揃えられている。瞳の色も金色で年相応の幼い顔をしている。

 

肌は雪のように白く、美しい金髪と相成って人形のような印象を受ける。

 

幼い少女特有の愛らしさだが、その美しさは脆く儚いようにも見えた。

 

青のゴスロリドレスを身にまとい、お団子ツインテールにも同じデザインの可愛らしい髪飾りがかぶさっており、可愛らしい動物の耳か蝶の羽のようにも見える。

 

両手には自分と同じデザインの服を着た白いウサギのぬいぐるみを抱えている。

 

ウサギのぬいぐるみは時計を持っており、不思議の国のアリスの時計ウサギのように見えた。

 

良家のお嬢様のように見えるが、近未来的な建物とカジュアルな服装の住人の多いプラネテューヌではやや浮いている雰囲気がある。

 

 

「あの子、迷子かな?」

 

 

 最初は物珍しさで見ていたネプギアだが、少女が困った顔で辺りをキョロキョロしているのに気付いて、迷子だと思ったようだ。

 

 

(おばあさんのクエストの途中だけど、声だけかけてみよう)

 

 

 ネプギアはそう決めると少女を警戒させないようにゆっくりと近づく。

 

ネプギアは少女の目の前に立つと、しゃがんで少女と目線を合わせるとにっこりと微笑む。

 

 

「?」

 

 

 少女は困惑の顔を浮かべるが、驚いた様子はなく逃げるようなそぶりも見せない。

 

ネプギアは若いながらも子供の扱いが上手い。

 

彼女は神次元で赤ん坊を三人を育てたことがある。

 

 

 勿論、彼女の子供ではないのだが、神次元の居候先であるプルルートの教会が託児所をしていたのだ。

 

しかし、託児所を始めたのに自分以外の人手は、遊び人であるネプテューヌと寝ぼすけのプルルートしかいないので、遊ぶ時以外に子供の面倒を見てくれない。

 

かといって赤ん坊を放り出す訳にも行かないので、育児のほとんどをネプギアがやったのだ。

 

当然初めての経験ではあるが、彼女らしく真面目かつ真剣に勉強して子供達と向き合い育てて来た。

 

それにより、三人の子供の他にも、彼女達の友達やその親達と交流していく内に、子育てや子供に接する時のスキルを学んだのだ。

 

 

「お嬢ちゃん、迷子かな?」

 

 

 ネプギアはゆっくりと優しい声で少女に質問をすると、少女は左右に首を振る。

 

首を振ったことによりお団子ツインテールが揺れて、同時にネプギアの鼻に子供特有の甘い匂いがする。

 

 

「そうなんだ。じゃあ、誰か探してるの?」

 

 

 ネプギア次の質問をすると、少女は首を上下に振る。

 

ネプギアの優しく穏やかな雰囲気と声により、少女はネプギアに対して警戒心が薄くなったようだ。

 

 

「そうなんだ」

 

 

 少女の答えにネプギアは頷くと、(両親とはぐれちゃったのかな? まだ迷子って自覚はないみたいだけど……)と少女の状況を自分なりに分析する。

 

ネプギアはおばあさんには悪いとは思ったが、先にこの子の両親を探すか、それがダメなら警察やギルドなりに保護してもらった方が良いと思った。

 

 

「誰を探してるのかな? お母さん、それともお父さん?」

 

 

 そう決めたネプギアは少女との会話を続ける。

 

 

「……姉様」

 

 

 少女が初めて口を開く、見た目通りの幼い声だ。

 

 

「……プラエはプロテノール姉様を探しているの」

 

 

 少女が続けて言う。

 

その瞳は心細くて、ネプギアにすがりつきたいように見える。

 

ネプギアは少女の心境を察してか、優しく両手を少女の両肩に置くと、「お姉さんか……どこで、はぐれたか分かるかな?」と質問をする。

 

少女が勇気を出して自分に心を開いてくれたのだから、その期待に応えて近くにいるようなら自分が見つけてあげたいと思っての行為だ。

 

 

「……ずっと前から帰ってこないの。もう十年も……」

 

 

 少女の予想外の言葉に、「えっ……」とネプギアは驚きの声を上げてしまう。

 

親とはぐれたと思っていた子供が十年前から帰って来ない姉を探していることにも驚いたが、目の前の少女はどう見ても十歳以下である。

 

人を疑うことを知らないネプギアには、この少女がウソをついているという考えは浮かんでこなかった。

 

 

「……お姉さんは姉様のことを知らない?」

 

 

 少女は悲しそうな声でネプギアに質問をする。

 

 

「お姉さんはプロテノールさんって言うの?」

 

 

 ネプギアが少女の姉の名前を確認すると、少女は小さく頷く。

 

ネプギアは一呼吸して、「ごめんね。お姉さん、プロテノールさんって名前の人のこと知らないの」と正直に少女に伝えると、少女は悲しそうに目を伏せてしまう。

 

 

「でも、お姉さん人探しが得意な友達を知ってるの。その人に聞けば分かるかもしれないよ」

 

 

 ネプギアは少女を励ますように少し明るい声で言うと、少女は顔を上げて、「本当に?」と質問をする。

 

ネプギアは優しく微笑みながら、「うん」と頷くと、「だけど、お姉さん、今おつかいの途中なの。それが終わるまで待っててくれるかな?」と続けて言う。

 

 

「……うん、待ってる。お姉さん凄くいい人だから信じる」

 

 

 少女は少し嬉しそうな顔で頷く。

 

今までのやりとりで少女はネプギアのことを信用したようだ。

 

 

「お姉さんの名前はネプギアって言うの。あなたはプラエちゃんでいいのかな?」

 

 

 ネプギアは自分の名前を名乗ると、少女が少し前に口にした自分の名前であろうものを確認する。

 

 

「うん、わたしの名前はプラエ。プラエ=パピリオって言うの」

 

 

 プラエと名乗った少女が頷くと、「よろしくね、プラエちゃん」とネプギアが微笑む。

 

 

「うん……」

 

 

 プラエが少し恥ずかしそうに頷く。

 

 

(パピリオか……本当に蝶々みたいに可愛らしい子だなぁ)

 

 

 ネプギアはその姿を見ながら、プラエの姓が蝶を意味するパピリオであることに思いを巡らせる。

 

 

「それじゃあ、私はおつかいを済ませちゃうからね。プラエちゃんはどこかで待ってる? それとも私と一緒に来る?」

 

 

 ネプギアがプラエに問いかけると、「プラエ、ネプギアお姉さんの側がいい。ネプギアお姉さん好き」と即答する。

 

どうやら思っていた以上に懐いてくれたようだ。

 

 

 プラエは両手に抱いていたウサギのぬいぐるみを左手だけで持つと、右手でネプギアのスカートの端をちょんとつまむ。

 

ネプギアはそのプラエの姿を見て微笑む。

 

 

「私もプラエちゃんのこと好きだよ」

 

 

 ネプギアは左手で自分のスカートをつまんだプラエの右手を握ろうとするが、「あっ……」とプラエは手を引っ込めてしまう。

 

 

「ごめんね。嫌だったかな?」

 

 

 ネプギアが申し訳なさそうにプラエに謝る。

 

すると、プラエは激しく首を左右に振って、「そうじゃないの……プラエの指、人と違うから……ネプギアお姉さんに嫌われちゃうかなって……」と悲しそうに答える。

 

ネプギアはゆっくりと首を左右に振ると、「そんなことないよ。プラエちゃんの指が人と違っても、私は絶対にプラエちゃんのこと嫌いにならないよ」と力強く言う。

 

プラエはそのネプギアの言葉を信じたようで、ぬいぐるみを脇に抱えるとおずおずと両手の甲をネプギア見せる。

 

小さくて可愛らしく傷やシミ一つない綺麗な手。

 

しかし、確かにプラエの言う通り、人とは違っていた。

 

 

「六本指……」

 

 

 ネプギアが少し驚いたように呟く。

 

彼女の言うようにプラエの両手には、小指の隣に親指のような指が生えており指が六本あった。

 

 

「……っ……」

 

 

 驚いたネプギアを見てプラエは慌てて両手を引っ込めてしまう。

 

 

「ごめんね! 少し驚いただけだから。プラエちゃんのこと嫌いになったりしてないよ!」

 

 

 ネプギアは慌てつつも力強くプラエにそう言うと、「……本当」とプラエが不安そうに問いかける。

 

 

「うん、だから手繋いで行こう」

 

 

 ネプギアがニッコリと微笑んでゆっくりと左手を差し出すと、プラエはおずおずと右手でネプギアの手を握る。

 

 

「それじゃ、行こっか?」

 

 

 ネプギアが優しくも力強くプラエの手を握ると、「うん」とプラエもネプギアの手を握り返す。

 

僅か十数分の出来事ではあったが、プラエはネプギアに対してかなり好意を抱いてくれたようだ

 

これも、優しく穏やかな態度でプラエのことを真剣に心配したネプギアの行動の賜物だろう。

 

 

 

****

 

 

 

 ネプギアはプラエを手を繋いで老婆の家に戻りインターホンを鳴らす。

 

 

「お帰り。どうだったかの?」

 

 

 玄関を空けた老婆が質問すると、「大丈夫です。これで直りますよ」とネプギアは老婆を安心させるように言う。

 

 

「そっちのお嬢ちゃんは?」

 

 

 プラエに気付いた老婆が不思議そうに首を傾げる。

 

ネプギアは、「お姉さんを探しているそうなんです。おばあさんの時計を直し終わったら手伝ってあげようと思って」と簡単にプラエのことを説明する。

 

 

「そうなのかい? お嬢ちゃんは働き者だねぇ」

 

 

 老婆はネプギアに対して感心の声を上げると、今度はプラエの方を見て、「お嬢ちゃん、お菓子食べるかい?」と質問をする。

 

老婆は小さくて人形のように可愛らしいプラエのことが気に行ったようだ。

 

 

「……いいの?」

 

 

 プラエがやや遠慮気味に言うと、「いいよ、たくさん余ってるから、いっぱいお食べ」と老婆が微笑む。

 

 

「それじゃあ、その間に時計直しちゃいますから、プラエちゃんはおばあさんとお話してて」

 

 

 ネプギアはそう言うと、Nギアを取り出して、ポケットアプリで購入した歯車と工具を呼び出し手に取る。

 

プラエは老婆に別の部屋に案内され、お茶とお菓子をご馳走になっているようだ。プラエは老婆のことも気に入ったようだが、六本指は気付かれないように隠していた。

 

 

 それから十数分後……。

 

ネプギアは古時計の修理を終えて、その蓋を閉じる、

 

工具を片付けて、老婆の居る部屋に行くと、「直りましたよ」と老婆に伝える。

 

 

「本当かい?」

 

 

 老婆は嬉しそうに時計を見に来ると、「おお、ちゃんと動いておる」と動いている時計に感激の声を出す。

 

 

「よかったですね、おばあさん」

 

 

 ネプギアは自分のことのように微笑むと、「その時計さん、凄く長い間生きているんだね」とプラエが時計をまじまじと眺める。

 

 

「そうだよ。おじいさんが生まれた時に買って来たらしいよ」

 

 

 老婆が少し誇らしげにプラエに説明をする。

 

プラエはニッコリと笑うと、「……うん、おじいさんが居なくなって寂しいけど、これからはおばあさんと一緒に時を刻むって言ってるよ」と言う。

 

 

「そうかいそうかい。ありがとよお嬢ちゃん」

 

 

 老婆はプラエの言葉を本気で信じているわけではないが、彼女の励ましの言葉が嬉しくて、【うんうん】と頷きながら答える。

 

 

「それじゃあ、お代を……」

 

 

 老婆がネプギアの方を向くと財布を取り出す。

 

しかし、ネプギアは、「報酬はギルドからもらいますから、おばあさんは後でギルドから連絡が来たらお支払いをお願いします」と老婆に説明をする。

 

ギルドは基本的には成功報酬となっており、クエストが成功するとギルドが冒険者等に報酬を支払い、後日にギルドが依頼者に料金を請求する形になる。

 

 

「そういえば、お嬢ちゃん名前は?」

 

 

 老婆が思いついたようにネプギアに尋ねる。

 

ネプギアはややためらいながらも、「ネプギアです」と正直に答える。

 

すると老婆は驚いた表情になり、「おおう! 女神様だったとはこれは失礼しました」とかしこまる。

 

ネプギアはそんな老婆を見ながら、「そんなにかしこまらないで下さい。私は当然のことをしただけですから」と言う。

 

だが、老婆は両手を合わせて、「ありがたやありがたや……」とネプギアを一心に拝む。

 

 

「おばあさんの気持ち、ちゃんとシェアエネルギーになって伝わってきます」

 

 

 ネプギアは胸に手を当ててしみじみとそう言う。

 

シェアエネルギーは人々の信仰心から生まれ、その大きさや強さに応じて女神の力が左右される。

 

その為、老婆の強い信仰心が力になるのをネプギアは感じられるのだ。

 

これで彼女の信者がまた一人増えたことになるだろう。

 

 

「これは次の老人会で、みんなに話てあげないとねぇ」

 

 

 老婆が嬉しそうにそう言うと、「それじゃあ、私はこれで失礼しますね」とネプギアは一礼し、隣にいたプラエの左手を右手で優しく握ると、「プラエちゃん、行こう」と言う。

 

ネプギア達は老婆に玄関まで見送られ、ギルドへの帰路につく。

 

 

****

 

 

「……ネプギアお姉さんは女神様だったの?」

 

 

 プラエが不思議そうな顔でネプギアを見上げながら尋ねる。

 

 

「うん、まだ候補生なんだけどね」

 

 

 ネプギアが気恥ずかしそうに言うと、「女神様って、悪いモンスター達からみんなを守る凄い人なんだよね」とプラエが目を輝かせながら言う。

 

ネプギアは相変わらず恥ずかしそうに、「凄いのはお姉ちゃん達で、私はそんなに凄くないよ」と謙遜をする。

 

真面目で謙虚な彼女は、女神だからと言って自慢したり偉ぶった態度をすることがない。

 

むしろ、自分のような特徴のない子が女神なんて、おこがましいとすら思っているところがある。

 

 

「ネプギアお姉さんは凄いよ。プラエ、ネプギアお姉さんと一緒にいると、心がフワッとして胸がポカポカする。これ女神様の魔法?」

 

 

 プラエが不思議そうにネプギアに尋ねると、「それは好きな人と一緒にいるとなるんだよ。私もプラエちゃんと一緒にいると心が温まるよ」とネプギアがニッコリ笑いながら答える。

 

人を安心させて信頼させる。これは優しく穏やかで真面目なネプギアの人徳によるものだが、彼女はそれを当たり前のことだと思い特別視をしていない。

 

 

「そういえば、プラエちゃんは時計さんとお話が出来るの?」

 

 

 ネプギアが話題を変える。

 

先程、老婆の家で言ったプラエの時計と会話できるような発言、ネプギアはちゃんと信じており、どういうことなのかと本人に聞いてみる。

 

 

「時計じゃなくて、時間とお話が出来るの。プラエは時間とお友達なの。あの時計の側にあった時間が、おばあさんと時を刻みたいって言ってたの」

 

 

 ネプギアの問いかけにプラエは真面目な声で答える。

 

ネプギアも同じように真面目な顔で頷くと、「そうなんだ。プラエちゃんはどうしてそんなことができるの?」と興味深そうに質問を続ける。

 

 

「分からない。生まれた時から出来るの」

 

 

 プラエはそう言って首を左右に振ると、「姉様やあんみつは、この六本目の指のことを【時指】って呼んでいて時間に干渉できる力があるって言ってるの」と説明を続ける。

 

 

「そうなんだ……時間と同じ十二本のある指が関係しているのかな?」

 

 

 ネプギアは頷いて自分なりに思ったことを言うと、「ところで、あんみつって誰のこと? お友達」と別の質問をする。

 

プラエは少し困ったように首を傾げると、口を開く。

 

 

「えっと、あんみつは、葛切あんみつって名前でプラエは友達だって思ってるけど、あんみつは自分のことをプラエに仕えるメイドだっていつも言ってる……」

 

 

 プラエは少し寂しそうに答える。

 

 

「大丈夫だよ。プラエちゃんが友達だと思ってるなら友達だよ。きっと、あんみつさんはお仕事があるからそう言ってるだけど、本当にプラエちゃんのこと大事にしてるんだよ」

 

 

 ネプギアは優しく励ますように言う。

 

彼女としても何の根拠も無い訳では無く、素直で育ちの良いプラエを見て大事に育てられているんだなと思っての発言だ。

 

 

(やっぱり、一人で暮らしてるって訳ないよね)

 

 

 ネプギアは心のなかで呟く。

 

 

(多分、あんみつさんも心配してるだろうから、プラネタワーに戻って、いーすんさんとプロテノールさんのこと調べながら、探し人のクエストとかもチェックしてみよう)

 

 

 ネプギアは続けてそう考えるとプラエの願いである姉を探しつつ、保護者と思われるあんみつのことを調べることに決めた。

 

彼女がプラエに今まで保護者のことを尋ねなかったのは、プラエが真剣に姉を探しているという気持ちを最優先していた為である。

 

保護者の心配も分かるが、プラエも真剣なのだから、まずはそれに答えてあげよう。

 

その為に、保護者のことを聞くのは家に帰されると思わせてしまうので今まで聞かなかったのだ。

 

 

「……あのね、時指のことは本当は秘密なんだけど、ネプギアお姉さんいい人だからお話したの」

 

 

 プラエが顔を赤くして少し恥ずかしそうに言う。

 

六本目の指のこともあまり隠そうとしなかったし、時間のことも重要な秘密であろうが、彼女はネプギアのことを相当気に入ったらしく素直に話してしまったようだ。

 

 

「うん、ありがとう。じゃあ、私も秘密にしておくね。誰にも言わないよ」

 

 

 ネプギアもその事に気付いており、プラエの信頼に応えるように優しく言いながら力強く頷く。

 

 

****

 

 

 ネプギアとプラエはギルドまで戻って来ると店内に入る。

 

店内は相変わらず人は少ないが、開店時と違って数人の従業員が掃除や端末のチェックをしている。

 

ネプギアはカウンターまで行くと受付の男性に、「さっきのおばあさんのクエスト成功しました」と伝える。

 

 

「ご苦労様です、なにか経費が掛かりましたか?」

 

 

 受付の男性がそう質問するとネプギアはジャンクショップの領収書を机の上に置いて、「これだけです」と伝える。

 

 

「了解です。それでは報酬をお支払いしますね」

 

 

 受付の男性は請求書を受け取るとキーボードを操作する。

 

同時にネプギアはNギアを取り出して画面を確認すると、金色の硬貨に【C】と書かれたアイコンの横の数字が増加する。

 

 

 これは【クレジット】と呼ばれるゲイムギョウ界の通貨で、四つの国共通のお金である。

 

ギルドの仕事に成功したので、ネプギアに報酬が支払われたのだ。

 

ギルドは後でそれに仲介手数料を加えて依頼者である老婆に請求書を送るのだ。

 

 

「報酬受け取りました。ありがとうございます」

 

 

 ネプギアは報酬のクレジットが入ったのを確認して受付の男性にお礼を言うと、「こちらこそありがとうございます。またよろしくお願いします」と受付の男性が嬉しそうに笑う。

 

以前からゲイムギョウ界を救う為の冒険をしているネプギアやその仲間達は過去に大量のクレジットやアイテムを持っていた。

 

しかし、平和になるとそれら全てを荒れ果てた地域の復興や福祉に当てている。

 

 

「ところで、その子は?」

 

 

 受付の男性がネプギアと手を繋いでいるプラエを見ながら言う。

 

 

「迷子なら預かりますけど」

 

 

 男性がそう言うと、プラエは不安そうな顔でネプギアの顔を見上げると手を強く、【ぎゅっ】と握る。

 

ネプギアは安心するようにプラエに微笑むと、優しく手を握り返す。

 

 

「お姉さんを探しているそうなんです。プロテノール=パピリオって名前らしいんですけど、ギルドのデータベースに何か情報はありませんか?」

 

 

 ネプギアが受付の男性に質問に答えると同時にプラエの姉のことを尋ねる。

 

受付の男性は、「冒険者と過去の依頼者の名前から検索してみますね。少しお時間かかりますので、お好きなところで休んでいて下さい」とカウンターのコンソールを操作し始める。

 

プラエの捜索願いのことに関して尋ねなかったのは、前述したようにプラエの姉探しの気持ちを優先させてあげたい為だ。

 

 

「それじゃあ、その間に他のクエストを探してみます」

 

 

 ネプギアはそう言ってギルドの備え付けの端末に移動してクエストを探す。

 

ネプギアがコンソールを操作するのに合わせて、プラエは素直に手を離すが彼女の隣を離れようとはせず、ネプギアの服の端をちょんと摘まむ。

 

暫くクエストを探していると、先程は無かったクエストを見つける。

 

 

「あれ? モンスター退治のクエストが入ってますね」

 

 

 ネプギアが受付の男性に声をかける。

 

 

「ネプギア様が出かけている時に入ったんですよ。街の入り口なんですけど、相手がひよこ虫が一匹だけなんで衛兵にでも回そうかなと思ってたところです」

 

 

 受付の男性がコンソールを操作しながら説明をする。

 

ゲイムギョウ界の国を護るのは女神だけではない。

 

女神と共に国を護りたいという有志が集まり軍を組織しており、女神や教祖は時にはそれを率いて強大なモンスターと戦うこともある。

 

その為、大して強くないモンスターは街を警備する衛兵が倒すなり追い払うなりするのである。

 

駆け出しの冒険者が居れば、そちらに回したかもしれないが、先述したように午前中は冒険者が少なく今もギルドには誰も来ていないので、ギルドは衛兵に仕事を回そうとしたのだ。

 

 

 ちなみに女神が普段は兵士を同行させないのは、女神達が物々しい雰囲気を好まず自由に行動したいこと。

 

それと、軍隊の力ではなく【女神の偉大なる力で国民を護っている】ということを人々に示す為である。

 

また女神のハイレベルな戦闘についてこられる人間は少なく、逆に足手まといになったりするのだ。

 

 

「プラエちゃん、モンスターが出て困ってる人がいっぱい居るから助けに行ってもいいかな?」

 

 

 ネプギアがプラエに向かってそう言うと、「いいよ。ネプギアお姉さん優しいもんね」とプラエは快く頷く。

 

しかし、同時に右手でネプギアの左手を握ると、「でも、プラエも連れて行ってね? 一人にしないで」と上目遣いですがりつく。

 

ネプギアは優しく微笑んで、「うん、もちろんだよ」と答える。

 

 

「そのクエスト、私が行ってきます」

 

 

 プラエの快諾を得たネプギアが受付の男性にクエストの受注を申し出る。

 

ひよこ虫というのは強力なモンスターではないが、街の入り口とのことなので一般人に被害が出ないよう早急に対処する必要があるからである。

 

 

「わかりました。それじゃあ、お願いしますね」

 

 

 受付の男性がそう言うと、ネプギアは先程と同じようにNギアを取り出してクエストの受注の操作をする。

 

 

「行ってきます」

 

 

 そう言ってネプギアがプラエを連れてギルドから出ていくと、「お気を付けください」と受付の男性がネプギアを見送る。

 

 

 

****

 

 

 

 ネプギアはクエストの現場に到着すると、街の外に側に一体の生き物がいた

 

その姿は体長一メートルほどで、丸くデフォルメされたエビのような姿をし、つぶらな瞳をしたニワトリの様なトサカが生えた生き物がいた。

 

 

 これが【ひよこ虫】である。

 

前述したとおり強力なモンスターではないが群れをなして襲ってきたりすると少々厄介になる。

 

 

 街の人々がニ十メートルほど遠巻きにひよこ虫を眺めている。

 

その様子はモンスターに対して不安を募らせているようだった。

 

 

(まずは街の人達を避難させなくちゃ)

 

 

 そう思ったネプギアは遠巻きにひよこ虫を見ている人達に近づいて、「これから討伐をしますので、安心して下さい。危ないのでみなさんは下がっていて下さい」と言う。

 

すると街の人々は「おお、ネプギア様だ」、「ネプギア様が退治して下さるんですか」と口々に喜びの声をあげる。

 

 

「はい、任せて下さい」

 

 

 ネプギアは人々を安心させるように力強くそう言うと、ひよこ虫に向かって行く。

 

同時に人々がネプギアに対して道を空けていく。

 

 

 こうやってネプギアが緊急のモンスター退治をするのはこれが初めてではない。

 

前述したが、神次元から帰って来たG.C.2012より、今まで姉にべっとりだったネプギアはクエストに励むようになり、今日のようにこまめにギルドに足を運んでいる。

 

その為、このような事態には何度も遭遇しており、その度に街の人々もネプギアがモンスターを退治する姿を見ており、彼女の知名度も上がっている。

 

こうやって人々が素直に道を開けるのも彼女に対する信頼の証だろう。

 

 

 ネプギアは人垣を抜けると、プラエの手を離して、「プラエちゃんはここで待っててね」と諭すように言う。

 

プラエは素直に頷いて、「うん」と言う。

 

 

 ネプギアは数歩歩いて、人垣とひよこ虫との間に立つ。

 

街の人達はネプギアの雄姿が見たいようで帰る者はいないようだ

 

 

 ネプギアは、右手を前に出して人差し指を立てる。

 

すると人差し指が白く光り、同時にネプギアはその光を使って宙に模様を描き始める。

 

その模様は十センチ程の円の中に五芒星がある、【魔法陣】である。

 

魔法陣は魔法を使う為の触媒であり、今ネプギアは魔法を使おうとしているのだ。

 

 

「来て、ネプギアンダム」

 

 

 ネプギアがそう言うと、魔法陣が光り輝きその中から何かが盛り上がるように出て来る。

 

魔法陣から出て来たのは、先程プラネタワーにいたネプギアンダムであった。ネプギアンダムは地面に着地すると、「タダイマサンジョウシマシタ」とネプギアに応える。

 

ネプギアンダムはロボットであると同時に召喚獣でもあるので、ネプギアの召喚魔法に応じて現れたのだ。

 

 

「今からモンスター退治をするから、何かあった時は街の人達を避難させてあげて」

 

 

 ネプギアがそう言うと、ネプギアンダムは首を九十度動かして人垣を見る。

 

 

「ニンムリョウカイ」

 

 

 ネプギアンダムは角を光らせながら応答すると、人垣の方に向かって歩いて行く。

 

ネプギアンダムは街の人々の前で足を止めると、両手を大きく開いて大の字になり、「キケンデスカラ、ワタシヨリマエニデナイデクダサイ」と人々に呼びかける。

 

 

「ネプギアンダムだー!」

 

「ネプギアンダムー!」

 

 

 同時に人垣から、子供達の高い声が聞こえてくる。

 

手を振る子供たちに対して、手を振り返すネプギアンダム。

 

 

 ネプギアは慎重な性格で、どんな些細なモンスター退治でも一般人が居る際はネプギアンダムに彼等を守らせている。

 

それが幸いしてかネプギアの知名度と同時にネプギアンダムの知名度も上がり、プラモデルや超合金の売り上げに貢献している。

 

見た目はアレだが、ネプギアンダムはネプギアと同じく穏やかで友好的な性格をしているので子供は勿論、保護者達にもウケが良い。

 

デザインがシンプルなので、子供でも簡単に描けて、おもちゃも複雑な部分が無いので安価で頑丈なものが作れるからだ。

 

 

 ネプギアンダムが人々に呼びかけたのを確認したネプギアは、更にひよこ虫に近づき、その距離は五メートル程に縮まる。

 

ひよこ虫も遠巻きに見ていた人々に気付いており、その中から近づいてくるネプギアに対して、「ぴー!」と威嚇の咆哮を上げる。

 

やや迫力に欠けるが叫びだが戦意は十分のようで逃げるような気配はないようだ。

 

 

(逃げてくれれば、傷つけずに済んだんだけど……)

 

 

 ネプギアは心の中でそうつぶやく。

 

心優しいネプギアは相手がモンスターといえども傷つけることをためらってしまう。

 

 

(でも、みんなを守る為に頑張らないと)

 

 

 ネプギアはそう思い自分を奮い立たせる。

 

同時にネプギアの右手に金属で出来た剣の柄が現れる。

 

それは彼女の着ているセーラー服型のワンピース【セーラーワンピ】によく似た色合いで、グリップの先に付いている円盤のような部分にはネプギアの【N】と書かれていた。

 

ネプギアはその剣のグリップをしっかり握ると、円盤の部分から一メートルほどのピンク色の光の刀身が現れる。

 

これがネプギアの武器である【ビームソード】である。

 

 

 プラネテューヌの最新技術を使った光の剣で、金属の剣より軽い上に切れ味も抜群なのである。

 

一瞬で手に現れたのは、ポーチに収納され思考するだけで呼び出すことが出来るよう準備してあるからだ。

 

このような思考コントロールをブレインマシンインタフェースと呼ぶ。

 

 ポーチの携帯倉庫のユニットは装飾品の一部として使用されている。

 

ネプギアの場合は【ヴァイオレットリング】という名前のイストワールからプレゼントされたシンプルなスミレ色をした腕輪の中に収められている。

 

遠隔操作も可能であり、ユニット本体から多少離れていても武器等を呼び出すことが出来る。

 

尚、ゲイムギョウ界では腕輪などの装飾品が防具として機能し、防御力などが上昇するので、物々しい鎧などを装備する必要がない。

 

 

(そう言えば、色々忙しかったせいか自分のステータス確認してなかった)

 

 

 ネプギアは戦闘前になって新作期に入ってから一度も自分のステータスを確認していなかったことを思い出す。

 

現実とは違いゲイムギョウ界のステータスは数値化されており、いつでも自分の能力を確認することが出来る。

 

 

(戦闘に入る前にステータスの確認をしよっと)

 

 

 ネプギアが自分のステータスを呼び出そうと思考するとネプギアの目の前に文字と数字が表れる。

 

最初に現れたのがネプギアの名前。

 

次にレベルという文字が表れ、続く数字が1になっている。

 

 

(いーすんさんの言う通り新作期になったから、レベル1に戻ってる。前はお姉ちゃん達と999まで上げたのにな)

 

 

 レベルと言うのは最も基本的な強さの基準で数値が高い程強い。ネプギアの言う前とは天王星うずめと冒険をしたG.C.2015の時の事を言っている。通常のレベルは99で終わりだが上限解放アイテムを使用して999まで上げたのだ。

 

 

(あれ? ウソ?)

 

 

 レベルが1になっていたことに気落ちしていたネプギアだが次の文字に目を丸くする。

 

 

(私の最大HP低すぎ!?)

 

 

 次に現れた文字は最大HPと言う文字。HPはヒットポイントと呼び、ゲイムギョウ界ではメジャーな生命力を数値化したものだ。

 

 

(HP30って……何かの間違いじゃ……)

 

 

 次に現れた文字は最大HPと言う文字。HPはヒットポイントと呼び、ゲイムギョウ界ではメジャーな生命力を数値化したものだ。

 

 

(いつもなら百単位の筈なのに……)

 

 

 ネプギアが何度見直しても、数字は30のままだった。ネプギアの住むゲイムギョウ界では今までならレベル1でもHPは300程度。99にもなれば一万ぐらいにはなるものだ。

 

 

「ぴー!」

 

 

 ネプギアが色々考えている内に、ひよこ虫がじりじり距離を詰めてくる。

 

 

(いけない。今は戦いに集中しないと!)

 

 

ネプギアはそう考えながらビームソードを下段に構える。

 

ひよこ虫は地を這うように動くモンスターなので攻撃するには下段の構えが有効なのだ。

 

 

 ひよこ虫はそれに合わせて、「ぴー!」と雄叫びを上げると左右にある四本ずつ計八本の足を動かして地面を走りネプギアに向かって来る。

 

走ってきたひよこ虫が五メートルの距離を埋め正面から体当たりでネプギアに飛び掛かる。

 

 

 ネプギアはそれを左手でガードして、「くっ!」と受け止めると、ネプギアのすぐ横に【3】という数字が現れる。

 

同時に緑色のバーも現れ、それが一割ほど赤くなる。この緑色のバーはHPをゲージ化したものである。

 

先述したようにゲイムギョウ界では生命力がHPと呼ばれるもので数字化されており、攻撃を受けると直接傷は負わないものの【ダメージ】という形でHPが減少するのだ。

 

今のはひよこ虫の攻撃をネプギアが受けて3のダメージを受けたことになる。

 

HPゲージの色は最初は緑色だが、HPの減少に合わせて緑から黄色、黄色から赤と変色していく。

 

ゲージがすべて赤くなるとHPが0となり戦闘不能になって、助けてくれる味方がいない場合はそのまま消滅して死亡してしまう。

 

または戦闘不能の状態で、頭を吹き飛ばされたり心臓を貫かれるなどの致命的損傷を受けた際にも死亡してしまう。

 

逆を言うとHPがある戦闘不能状態でなければ銃で撃たれても剣で切られても即死することはない。

 

 

(ダメージが3? これは間違いじゃなくて、ゲイムギョウ界全体のバランスが調整されている?)

 

 

 ネプギアは、ひよこ虫から受けたダメージが想像以上に低かったことに、自分の最大HPが低いのは間違いじゃなく、ゲイムギョウ界全体の数値が変化をしていると感じた。

 

 

(よし! これなら戦える。みんなを守れる)

 

 

 ネプギアはそう判断すると下段に構えたビームソードで、体当たりから着地したばかりのひよこ虫を素早く薙ぎ払う。

 

ひよこ虫が、「ぴぎゃっ」と悲鳴を上げると同時に8とダメージが現れ、ひよこ虫のHPゲージが約三割減っていく。

 

 

「ぴー!」

 

 

 再びひよこ虫が雄叫びを上げてネプギアに攻撃しようとする。

 

 

「……っ!」

 

 

 ネプギアは咄嗟に左手を上げて先ほどと同じくガード態勢に入る。

 

 

「ぴいいいーーー!」

 

 

 しかし、ひよこ虫は八本の足を巧みに動かしてネプギアの右側に回り込む。

 

 

「しまった!」

 

 

 驚きの声を上げるネプギア。

 

ひよこ虫は右側面に回り込むことで、ガードをさせず、更に側面からの攻撃によって攻撃の威力と命中率を上げようというのだ。

 

側面や背後など優位な場所から攻撃することは戦闘の初歩とは言え、ひよこ虫のような低レベルなモンスターがこのような戦法を使ってきたことに驚いようだ。

 

 

「ぴーーーーーー!」

 

 

 ひよこ虫はネプギアの驚きように、勝ち誇ったように雄叫びを上げながら飛び掛かる。

 

 

「ごめんなさい! フェイントなんです!」

 

 

 ネプギアはそう叫ぶと同時にガードを解いて左側にサイドステップする。

 

 

「ぴっ!?」

 

 

 ネプギアの思いがけない回避運動に、ひよこ虫の体当たりが空振りをすると、【avoid】と表示される。

 

これは【アボイド】と読み回避を意味する。見ての通り、ネプギアがひよこ虫の攻撃を避けたので、この表示が出たのだ。

 

 

「ていっ!」

 

 

 体当たりを避けられて、無防備で宙に浮いているひよこ虫に対してネプギアはビームソードで素早い突きを繰り出す。

 

 

「ぴぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 渾身の攻撃を避けられて完全に死に体になっているひよこ虫の正面にビームソードが突き刺さる。

 

ひよこ虫に14のダメージが当たると同時に、【counter】と表示される。

 

これは【カウンター】と読み、カウンターアタックを意味する。相手の攻撃モーション中に攻撃を当てることで発生し通常より高いダメージを出すことが出来る。

 

ひよこ虫のHPゲージが一気に減少し赤くなる。

 

 

「とどめです!」

 

 

 ネプギアがビームソードを引き抜くと同時に体を捻る。

 

 

「たああああっ!」

 

 

 左足を軸にしたネプギアの右回し蹴りが、ひよこ虫に襲い掛かる。

 

刺突攻撃は速度が速く、大きな隙を晒したひよこ虫に対して更に追撃が可能なのだ。

 

 

「ぷぃぃぃぃ~!!!」

 

 

 未だ空中で無防備を晒しているひよこ虫に避けられる筈もなく、ひよこ虫は7のダメージを受けるとHPゲージがゼロになる。

 

更に回し蹴りの勢いで、サッカーボールのように大きく放物線上に吹き飛ばされるひよこ虫。

 

 

(勝てた。先制攻撃を受けちゃったけど、その後に回避からのカウンターも入れたからシェアも伸びるはず)

 

 

 ネプギアが軽く今の戦闘を振り返る。

 

女神たるもの、ただ勝つだけではなく華麗に勝たねばならない。

 

華麗に勝つことにより、強さと美しさを魅せつけ信者の尊敬を集めシェアを上げることが出来るのだ。

 

このようなギャラリーが多い戦闘はまたとないチャンスだろう。

 

だが、ネプギアはこれ以上何かをするつもりはなく、危なげなく終われたことに感謝していた。

 

それに何かをしようにも、吹き飛んでいるひよこ虫には何もできない筈だった。

 

 

「ネプギアお姉さん! まだ行けるよ!」

 

 

 後ろからプラエがネプギアに叫ぶ。

 

同時にネプギアは不思議な感覚に襲われる。

 

吹き飛んでいるひよこ虫が非常に遅く見えるのだ。

 

 

(追いつける!)

 

 

 ネプギアは一瞬でそう判断する。

 

 

「オーバーキル!」

 

 

 プラエが続けて叫ぶ。

 

 

「シルフィードフェザー!」

 

 

 プラエに応えるようにネプギアが叫ぶ。

 

それと同時に彼女の両足のくるぶしに小さな白い羽が現れる。

 

続いてネプギアは一瞬で思考してビームソードをポーチにしまうと駆け出す。

 

素早く飛び出すその姿は野生の豹のようだった。走る速度も一瞬で時速60km以上に到達し、まさに豹だ。

 

ちなみに我々の世界のオリンピック100メートルの金メダリストのトップスピードの時速が45kmだと言うのだから、その速さが異常なのが分かるだろう。

 

【シルフィードフェザー】は風属性の補助魔法。

 

素早さを上げる魔法で、使うことで今のネプギアのような高速ダッシュが一時的に可能になる。

 

 

「「おおっ!!」」 

 

 

 ギャラリーが、吹き飛んでいくひよこ虫にグングンと追いついていくネプギアに驚きの声をあげる。

 

 

「たああっ!」

 

 

 ネプギアが落下を始めているひよこ虫に飛び掛かる。

 

 

「ごめんなさい! オーバーキルさせてもらいます!」

 

 

 ひよこ虫に覆いかぶさるように跳躍したネプギアの空中からの右パンチがひよこ虫に炸裂する。

 

ひよこ虫は3ダメージ受けると地面に叩きつけられてバウンドをする。

 

着地したネプギアは、「アッパー!」と言いながら左手でバウンドしたひよこ虫にアッパーパンチですくい上げ、4ダメージを与える。

 

続けて小さくしゃがみ込んでタメを作ると、右手で「りゅーしょーけーーーん!」と大きくカエル跳びアッパーを食らわせる。

 

ひよこ虫は6ダメージを受けながら、今度は大きく上空に吹き飛ばされる。

 

 

「「「おおおおおおーーーーー!!!」」」

 

 

 後方のギャラリーが沸き上がる。

 

 

「あれは格ゲーの伝統的連続技【ジャンプ強パンチからのアッパー龍昇拳】!」

 

 

 ギャラリーから声が上がる。

 

格闘ゲームにおいて、【ジャンプ攻撃→着地後の攻撃→前の攻撃をキャンセルした発生の速い必殺技】、は連続攻撃のセオリーである。

 

その中でも龍昇拳は有名格闘ゲームの主人公の必殺技でギャラリーの言う通り、アッパー龍昇拳は伝統的な連続技名になる。

ギャラリーが沸き立つ中、ネプギアはその歓声には応えず次の行動に移っていた。

 

 

「グラビティカット! エアリアルレイヴ始動!!」

 

 

 そう叫ぶと同時にネプギアはジャンプして、龍昇拳で上空に吹き飛んだひよこ虫を更に追う。

 

その跳躍力は常人を遥かに超えており、十メートル以上飛んでいたひよこ虫にあっという間に追いつく。

 

 

「ビームソード」

 

 

 ひよこ虫に追いついたネプギアがそう言うと再びネプギアの右手にビームソードが現れる。

 

 

「ていっ!」

 

 

 ネプギアが空中のひよこ虫をビームソードで切りつける。

 

続けて、「えいっ!」と左手で正拳突きを当てると、「とおっ!」と次に右足で蹴りを当てる。

 

 

「おおっ! なんて基本に忠実なチェーンコンボ! 安定したエアリアルレイヴだぜ」

 

 

 ギャラリーの一人が熱い声援をネプギアに送る。

 

チェーンコンボとは弱攻撃→中攻撃→強攻撃→‥‥のように速くて軽い攻撃から強くて重い攻撃に繋げて連続して技を出すこと。

 

エアリアルレイヴとは、今のひよこ虫のように上空に打ち上げた相手を追撃して連続攻撃をしていくことだ。

 

 

「すごいわ。さっきのジャンプも今のエアリアルレイヴも重力魔法を使ってて、普通のエアリアルレイヴより速くて高くて長い」

 

 

 別のギャラリーが声を出す。

 

先程のネプギアの【グラビティカット】というのは、イストワールが宙に浮いていたように魔法で重力を調整したもの。

 

それにより、いつもより高いジャンプが出来た上に、重力の調整範囲に巻き込んだひよこ虫を空中に浮遊させて、より長くエアリアルレイヴをしていられるのだ。

 

ギャラリー達が沸き立っている間に、ネプギアは、「渦巻旋風脚!」と叫びながらエアリアルレイヴの最後の攻撃となる、左足を軸にバレリーナのように回転する連続の回し蹴りをひよこ虫に当てて叩き落とす。

 

 

(くっ……息が上がって……)

 

 

 沸き立つギャラリーとは真逆にネプギアは苦しそうな表情をしていた。

今までのゲイムギョウ界だったら走って攻撃をした程度で息切れをするようなことはなかったのだ。

 

 

(これはスタミナ制……これも新作期のルールなの?)

 

 

 スタミナとは生命力であるHPとは別のもので走ったり攻撃したりすると減少し、休むと回復していくという人間の体力と同じようなものである。狩りゲーなどのリアル志向のゲームに用いられることが多い。

 

 

(これ以上の追撃はスタミナが持たない……でも、出来ればもう一撃)

 

 

 ネプギアがそう思うと同時にネプギアの脳裏に炎の矢のイメージが浮かぶ。

 

 

(攻撃魔法!? 行けるの私に? 今はやってみるしかない)

 

 

 ネプギアが左手の人差し指をひよこ虫に向けると、ネプギアの左人差し指が赤く光る。

同時にネプギア足元にペンネルが現れ高速で魔法陣を描くと、魔法陣が足場のようになりネプギアが空中で静止する。

 

 

(溜め技? ならギリギリまで!)

 

 

 溜め技とは、一定時間【力を溜め】て通常より強力な攻撃や必殺技を発動する形式の技。

ネプギアの左人差し指の赤い光が一回り大きくなる。溜めが完了した合図だ。

同時に先ほどネプギアに蹴り落された、ひよこ虫が地面に衝突しようになる。

 

 

「炎の矢よ敵を撃て! ファイアーアロー!」

 

 

 ネプギアが叫ぶと同時に、左人差し指の赤い光が矢の形の炎になって一直線にひよこ虫に向かって行く。

炎の矢はあっという間にひよこ虫に追い付き、ひよこ虫を貫くと爆発をして、22のダメージが当たる。

すると【15HIT COMBO TOTAL 103】と表示される。

 

これは15回の連続攻撃で合計103のダメージを与えたことを意味する。

 

コンボ(COMBO)とは、コンビネーション(COMBINATION)の略語で、集合体、組み合わせなどの意味を持つ英語。

 

ゲイムギョウ界において、一繋がりの連続攻撃など、まとまったゲーム的成功を連続させることをコンボと呼ぶ。

 

今回は、ネプギアのカウンター刺突からファイアーアローがコンボとして繋がったのだ。

 

続けて、【OVER KILL × 4】と表示が現れる。

 

これは相手のHPをゼロにしてから、更に相手の最大HPの4倍のダメージを与えたことになる。

 

プラエが叫んだ、オーバーキルとはこの意味で、プラエの叫びにネプギアが応えたのだ。

 

 

「すごいな。斬撃、刺突、打撃の他にも補助魔法。更にエアリアルレイヴ後に攻撃魔法。こんなマルチな戦いが出来るのはネプギア様ぐらいなものだ」

 

 

 ギャラリー達がネプギアを褒め称えるのを、プラエは嬉しそうに眺めていた。

 

 

「ぴー」

 

 

 ひよこ虫が断末魔を上げて消滅する。

 

戦闘不能から助けてくれる味方がいないひよこ虫は戦闘不能になった時点で死亡してしまったのだ。

 

 

「勝ちました!」

 

 

 着地したネプギアが嬉しそうに右手でVサインをすると、ギャラリーから、「わああああああああ!」と大歓声が上がる。

 

 

「すごいわ! 新作期でレベルが低いはずなのにオーバーキルなんて、さすがはネプギア様ね」

 

 

 ギャラリーの一人がそう言うと、「華麗なエアリアルレイヴだったなー」、「単に力技じゃなくて、補助魔法や攻撃魔法を使いこなしてるもの素晴らしいね」と他のギャラリーも沸き立つ。

 

そんな中、ネプギアはひよこ虫が消えた場所を見ると、少しだけ心の中で悲しい顔をした。

 

 

(ごめんね。オーバーキルなんてひどいことしちゃって)

 

 

 ネプギアは心の中で呟く。心優しいネプギアはあまりオーバーキルを好まない。

 

確かにオーバーキルは死体蹴りのようなもので、その内容によってはシェアが落ちることがある。

 

例えば延々と小技でいたぶるようにオーバーキルしたり、同じパターンでハメてオーバーキルすると落ちる可能性が高い。

 

あくまで、女神の全力全開を出し切った高速の連続攻撃や渾身の一撃で、美しく華麗にオーバーキルさせなくてはならない。

 

ちなみにHPゼロから戦闘不能と判断されるまでがオーバーキルの受付時間で、その間のダメージは身体の欠損や即死には繋がらない。

 

 

(でも、あなたの死は決して無駄にはしません)

 

 

 沸き立つギャラリーを見ての通り、華麗にオーバーキルを決めることにより、ネプギアは信者の尊敬を集め大きくシェアを上げることに成功したのだ。

 

更にボスモンスターや特定のモンスターをオーバーキルで倒すと、その場所は女神の加護に護られしばらくはモンスターが近づけなくなる。

 

今回のひよこ虫はその対象であったようで、ネプギアはこの場所が自分の加護で護られたことを感じていた。

 

これによって、しばらくはプラネテューヌの街にはモンスターは近づかないだろう。

 

 

(これでしばらくはプラネテューヌの人達も安全だし、無用な殺生もせずに済むよね)

 

 

 ネプギアはそう思いながら、ギャラリーの待つプラネテューヌの街に歩き出す。 

 

同時にネプギアの右手からビームソードが消滅する。

 

戦闘が終了したのでネプギアがポーチの中に収納したのだ。

 

 

「ネプギア様お疲れ様でした!」

 

「さすがはネプギア様だ!」

 

 

 人々の近くまで戻ってきたネプギアに対して、人々が口々に感謝の言葉を述べながら駆け寄って行く。

 

モンスターは倒したので、ネプギアンダムも止めるような野暮な真似はしないようだ。

 

 

「ネプギア様お怪我は大丈夫ですか?」

 

 

 人々からネプギアを心配する声があがったので、「これぐらい大丈夫ですよ」とネプギアが答えると、「ヒール」と呟く。

 

するとネプギアの周りに緑色の光の粒子が現れて、一割ほど赤くなって減っていたネプギアのHPゲージが全て緑色になる。

 

【ヒール】とは傷を癒す魔法で、この魔法を唱えると減少したHPを回復することができる。

 

 

「おお、HPが回復したぞ」

 

 

「うんうん、ネプギア様は攻撃と防御のバランスがよいですね」

 

 

 人々から自分でHPを回復したネプギアに対して周囲から感心の声が上がる。

 

 

 ネプギアがヒールを唱えた後に今度は青いバーが現れる。

 

そのバーは既に四割ほど赤くなっていたが、今のヒールで更に六割まで赤くなる。

 

これは【MPゲージ】と呼ばれるゲイムギョウ界で魔法を使う源である【MP(マジックポイント)】を表すものである。

 

HP同様にMPも数字化されており、MPを消耗する魔法を使うたびに減少していく。

 

四割ほど赤かったのは、先程シルフィードフェザーやグラビティカットにファイアーアローを使用したからだ。

 

 

「ネプギア様、龍昇拳や渦巻旋風脚なんていつ覚えたんですか?」

 

 

 人々から質問が出ると、「ゴールドサァドのシーシャさんから教わったんです。エアリアルレイヴも同じです。それを自分流にアレンジしました」とネプギアが答える。

 

すると人々は再び、わっと沸き、「あの勇者ゴールドサァドからか!」、「教わってすぐものにしてしまうなんて、さすがはネプギア様だ」と感心の声が次々と上がる。

 

ゴールドサァドとは四年前の天王星うずめの事件で関わり、最初はネプギア達の敵であったが後に心強い味方になった四人組の女性だ。

 

今は女神を助けた勇者として慕われている。

 

シーシャはその中でもリーダー格の人物で格闘技や様々な武器を扱うことに長けている。

 

 

「魔法もかなり強力でしたけど、これはラム様から教わったんですか?」

 

 

 人々が沸き立つ間にも別の質問が出る。

 

ネプギアは立て続けの質問にも嫌な顔一つせずに、「はい、ラムちゃんから教わりました」とにこやかに答える。

 

更に、「四女神オンラインで、魔法使いをしてる内に魔法にものめり込んじゃいまして」と続ける。

 

 

 彼等の言う通り、ラムは非常に強力な攻撃魔法の使い手だ。

 

又、ネプギアの言う【四女神オンライン】とはゲイムギョウ界で大人気のインターネットを使用したMMORPGだ。

 

MMORPGとは【Massively Multiplayer Online Role-Playing Game (マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)】の略称。

 

大規模多人数同時参加型オンラインRPGで一人一人が色々な職業を選んで、他の人達と協力してゲームを進めるものである。

 

ネプギアはこれを女神候補生の友人や姉達守護女神と一緒にプレイしている。

 

その中で彼女は魔法使いを選んでプレイする内に、魔法への興味や理解を深め、今のように実際の戦闘でも使用するに至っている。

 

 

 人々に囲まれて質問に答えるネプギア。

 

その姿を少し離れた場所でプラエが、つまらなそうにウサギの人形の耳をいじくりながら眺めていた。

 

明らかに拗ねている表情だ。彼女もネプギアに駆け寄ろうと思ったが出遅れてしまったのだ。

 

 

 ネプギアの視界にそんなプラエの姿が映ると、「あっ……」と声を上げる。

 

声を上げたネプギアに人々が不思議そうな顔をすると、「ごめんなさい。私、そろそろ行かないと」とネプギアが人々に言う。

 

その言葉に、人々もネプギアのあまりの活躍に熱狂し彼女を引き留めてしまったことに気付く。

 

人々は、「お引き留めして申し訳ありません」などと口々に謝ると、ネプギアに対して道を開ける。

 

 

 ネプギアはその道を小走りに通るとプラエの元に行き、「待たせちゃって、ごめんね!」と真剣に謝る。

 

プラエはその姿に感動をしたのか、一転して花が咲いたような笑顔を浮かべ、「ネプギアお姉さん、すごくカッコよかった!!」と目を輝かせながら言う。

 

 

「ありがとう」

 

 

 ネプギアはニッコリと微笑む。

 

しかし、すぐに真面目な顔に戻ると、「でも、私なんてまだまだだよ。お姉ちゃんなら、きっとノーダメージで倒してたよ」と謙遜の言葉を続ける。

 

ネプギアは今度はネプギアンダムの方を向き、「ネプギアンダムご苦労様。戻っていいよ」と言うと、先程と同じように右手の人差し指で光の魔法陣を描く。

 

すると、ネプギアンダムが魔法陣に吸い込まれるように消えていく。

 

 

「それじゃあ、みなさん。私はこれで失礼します」

 

 

 ネプギアがは人々にそう言うと、左手でプラエの右手を握り、プラエと二人で来た道を歩いて戻って行く。

 

 

「ありがとうございましたー!」

 

「ネプギア様のおかげで安心して暮らせます」

 

 

 ネプギアは背中に人々の感謝の言葉を受けながら、人垣から離れて行く。

 

 

 

****

 

 

 

 ひよこ虫を退治してクエストを達成したネプギアはプラエの手を引いてギルドへ向かっていた。

 

 

「すごーい。ネプギアお姉さんは本当に女神様なんだね。強いし、いっぱいの人に好かれてる」

 

 

 暫くしてプラエが興奮しながら言う。

 

しかし、ネプギアは、「みんなが私を信仰してくれるから、みんなを守る力が貰えるんだよ。わたし一人だけが凄いんじゃないの」と落ち着いて声で答える。

 

ネプギアは子供の世話をしたことがあるので、子供は基本的に強い人が派手で自信満々の態度を好むのは知ってはいるが、彼女の謙虚さは子供の前でも失われない。

 

しかし、プラエはネプギアの言葉に少し困ったような顔をする。

 

 

(ちょっと失敗しちゃったかな……せっかく褒めてくれたのに)

 

 

 ネプギアは内心でそう思う。

 

見せかけだけでも、そういう態度をとった方が人々も安心するし、子供が喜ぶとは分かっていても、真面目過ぎてそれが出来ないのだ。

 

彼女自身もそういう柔軟さが無い自分の性格を少し自己嫌悪していたりする。

 

 

「ネプギアお姉さんはこんなに凄いのに、何で自慢しないの?」

 

 

 プラエが心底不思議そうな顔で小首を傾げる。

 

ネプギアの態度に不満があるようではなく、本当に不思議なようだ。

 

 

「うーん、そういう性格だからかな? あと、私って調子に乗るといい事ないから出来るだけ自重してるの」

 

 

 プラエがガッカリしてないことに少し安心したネプギアは自分なりの考え方を彼女に伝える。

 

プラエは相変わらず不思議そうな顔で、「調子に乗るといいことないの?」と尋ねる。

 

 

「私はね。お姉ちゃん達はその勢いで何でもできちゃうけど、私はダメみたい」

 

 

 ネプギアが続けて質問に答える。

 

彼女の姉であるネプテューヌを始めとする守護女神は強気でテンションが高く、勢いに任せて無理難題もこなしてしまうことが多い。

 

対してネプギアは純粋さからくる感情的な面はあるものの、基本的には冷静な彼女は無理難題に挑む前に、どうしても理知的に分析をして慎重な行動を取ってしまう。

 

 

「どんなふうにダメなの?」

 

 

 プラエが更に質問を続ける。

 

ネプギアは眉を八の字にして苦笑いをして困ってしまう。

 

 

(うーん……これを話すのは少し恥ずかしいんだけど)

 

 

 ネプギアは心の中で呟く。

 

説明するには、自分の失敗談を話すことになるので、少々恥ずかしいのである。

 

 

(でも、プラエちゃんも自分の秘密を話してくれたんだし……)

 

 

 ネプギアはそう思いながら、ちらりと左腕の時計見る。

 

時計は11時5分を示していた。

 

 

(お昼にはまだ時間はあるし、ギルドで調べてもらってるプロテノールさんの件もまだ時間かかるだろうから、少しお話しする時間はあるかな?)

 

 

 そう判断したネプギアは、「少し長くなるけどいいかな?」とプラエに問いかける。

 

プラエは素直に頷くと、「うん、ネプギアお姉さんのお話聞きたい」と即答する。

 

 

「それじゃあ、あっちの公園でお話しよっか?」

 

 

 ネプギアが今歩いてる方向とは別の方向を指差すと、プラエが、「うん」と頷く。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 ネプギアとプラエが向かった先はプラネテューヌの中央公園。

 

綺麗に整備された芝生と木が並び、爽やかな草木の匂いがする。

 

中央には大きな噴水があるプラネテューヌ市民の憩いの場だ。

 

 

 お昼前ということもあり人はまばらで、ネプギアは噴水の前の日当たりの良いベンチを指差すと、「あそこでお話しよっか?」と言う。

 

プラエが、「いいよ」と頷くと二人はベンチに移動する。

 

 

 ベンチに着いたネプギアは、「ちょっと待ってね」と言うとセーラーワンピのポケットから白いハンカチを取り出す。

 

ネプギアはハンカチでベンチの汚れを払うと、そのハンカチをベンチに敷く。

 

 

「ここに座って」

 

 

 ネプギアがハンカチを敷いた場所にプラエを座らせると、プラエはニコニコと微笑む。

 

高級そうな服が汚れないようにとのネプギアの些細な気遣いがプラエには嬉しかったようだ。

 

ネプギアはプラエの隣に座ると、「今日はあったかくて気持ちいいね」とプラエに話しかける。

 

プラエは空を見上げながら、「うん、あったかい」と目を細める。

 

 

「プラエちゃんは犯罪組織マジェコンヌって知ってる?」

 

 

 ネプギアがプラエに質問をすると、プラエは【ぷるぷる】と首を左右に振り、「知らない」と答える。

 

 

「簡単に言うと、人の物を盗む悪い人達なの。今から十年前その人達のせいでゲイムギョウ界はめちゃくちゃにされちゃったの」

 

 

 ネプギアが簡単に犯罪組織の説明をすると、プラエは興味深そうにそれを聞いている。

 

ネプギアはプラエが聞いているのを見ながら、「私はその犯罪組織に負けて捕まったお姉ちゃん達を助ける為に友達と協力して旅をしてたんだ」と話を続ける。

 

 

「色々あったけど、旅は順調に進んで、私も少し自信が付いて来た時に、調子に乗って失敗しちゃったの」

 

 

 ネプギアは少し恥ずかしそうに眉を八の字にする。

 

 

、「リーンボックスって国で、教祖に変装した犯罪組織の人に私が凄く優秀で噂になってるっておだてられたら、その気になって一人で強いモンスターに戦いを挑んじゃったんだ」

 

 

 ネプギアが少し自嘲気味に話を続ける。

 

プラエは少し意外そうな顔をして、「それでどうなったの?」と質問する。

 

ネプギアは相変わらず恥ずかしそうな顔で、「全然敵わなくて、友達に助けてもらったの」と答えると苦笑いする。

 

 

「ネプギアお姉さんがそんなことするなんて、意外」

 

 

 プラエはポカンとした顔でネプギアを見る。

 

ネプギアは照れくさそうに、「私って、よくしっかりしてるって言われるけど、全然そんなことなくって、周りの人に助けてもらったり、いっぱい失敗したりしてるんだよ」と答える。

 

 

「ネプギアお姉さんがいっぱい失敗するの?」

 

 

 プラエはまたポカンとした顔でネプギアを見る。

 

出会ってから優しくて頼りがいがある上に女神であった女性が失敗ばかりというのが信じられないようだ。

 

 

「私、機械をいじるのが好きで色々作ったりするんだけど、それも成功より失敗の方が多いんだよ」

 

 

 ネプギアはそう言うと、「何度も何度も失敗して、数えられないぐらいのトライアンドエラーを繰り返してようやく成功するの」と続ける。

 

そして恥ずかしそうに右手の人差し指で頬を掻くと、「女神なんて言われてるけど、私はほとんど普通の女の子と変わらなくて、お姉ちゃん達みたいなスーパーマンじゃないの」と言う。

 

 

 「ごめんね。少しガッカリさせちゃったかな?」

 

 

 ネプギアが申し訳なさそうに謝ると、プラエは激しく首を左右に振って、「そんなことない」と即答する。

 

更にプラエは、「もっとネプギアお姉さんの話聞きたい」と願い出る。

 

 

「でも、そろそろお昼の時間……」

 

 

 ネプギアがそう言って左腕の腕時計を見ると、時計は11時15分を示している。

 

ネプギアは不思議そうに首を傾げる。

 

彼女の感覚では先程時計を確認してから、三十分近くは経っているだろうと思ったのに、その三分の一しか過ぎていないのだ。

 

 

(おかしいな……そんなに急いで話したつもりはないのに……)

 

 

 ネプギアがそう思っていると、「時間ならまだあるよ」とプラエが言う。

 

しかし、その直後にプラエは、「こほっこほっ……」とせき込んでしまう。

 

 

「大丈夫!?」

 

 

 ネプギアはとっさに両手でプラエの両肩を持つ。

 

プラエはやや辛そうな顔をしているものの、「大丈夫だよ。お話して」と再びネプギアにお願いをする。

 

ネプギアは数秒考えた後に右手をプラエの額に当ててる。

 

 

「あっ……」

 

 

 プラエはそう呟いて恥ずかしそう頬を赤く染める。

 

ネプギアは少し安心したように、「お熱はないね」と言うと右手を引っ込めて、今度はポケットの中に入れると、あめ玉を一つ取り出す。

 

 

「のど飴だけど、舐める?」

 

 

 ネプギアがプラエに質問すると、プラエは返事の代わりに恥ずかしそうに小さく口を開ける。

 

ネプギアは少し戸惑うものの、プラエの可愛らしいお願いに【クスッ】と微笑むと、飴の包装を剥がして、右手であめ玉をプラエの口の中に入れる。

 

 

「おいしー」

 

 

 プラエが嬉しそうに飴を舐めると、「それじゃあ、もう少しお話しよっか」とネプギアが言う。

 

プラエは飴を舐めながら、「うん」と元気よく頷く。

 

 

 

****

 

 

 

 

 ネプギアはプラエとの話を続ける。

 

この先は、更に自分の未熟さを告白することになるので、あまり人に話すようなことではないが、自分に秘密を話してくれたプラエの気持ちに応える為に正直に話すことを決めていた。

 

 

「私達はお姉ちゃん達を助けて、犯罪組織も倒したんだけど、そこでまた私は調子に乗っちゃうの」

 

 

ネプギアが話を続けると、「今度はどんなふうに?」とプラエが質問をする。

 

 

「四つの国の守護女神様と私達四人の女神候補生、この八人の女神が揃えば何も怖くない。どんな困難でも乗り越えられるって」

 

 

 ネプギアがそう言うと、プラエは不思議そうな顔で、「それはどこがいけないの?」と質問をする。

 

先程のように一人で無謀な戦いをする訳でもないのに、どこが調子に乗ったのかが分からないようだ。

 

 

「犯罪組織を倒した後、お姉ちゃんは遊んでばかりで、他の女神様もよく遊びに来ていたんだ」

 

 

 ネプギアはその時のことを思い出しながら少し苦笑いをする。

 

楽しそうに遊んでいる姉達が微笑ましかったようだ。

 

 

「けど、私はそれでもみんなが居れば大丈夫だって楽観的に考えてて、みんなのお世話をするだけで注意も何もしなかったの」

 

 

 しかし、今度はその時のことを反省するかのように沈んだ声で言うと、「本当は国民のみんなの為にお仕事しなきゃいけないのに、女神失格だよ……」と肩を落とす。

 

プラエはそんなネプギアの落ち込んだ様子を見ながら黙って話を聞いている。

 

 

「そんな時、お姉ちゃんが行方不明になる事件が起きたの。急にお姉ちゃんが居なくなって、私はオロオロ慌てた挙句に落ち込んでばかり」

 

 

 ネプギアが気を取り直して話を続けると、「プラエも昔は姉様が戻って来なくて、泣いてばかりいたよ」とプラエがネプギアを励ますように言う。

 

ネプギアはプラエの励ましに、「ありがとう」と言うと、「でも、私の場合はそれだけじゃないの」と続ける。

 

 

「お姉ちゃんの居場所は分かったんだけど、そこは神次元って言う別の次元で、戻って来るにはたくさんのエネルギーで作った次元を行き来する道を使う必要があったの」

 

 

 ネプギアは話を続け、プラエも大人しく話を聞いている。

 

 

「その次元を行き来する道を作った時、私はお姉ちゃんに会いたい一心で取り乱しちゃって、誤ってその道を使って神次元に行っちゃったの」

 

 

 ネプギアは自己嫌悪して肩を落とすと、「それで道は何度も作れないから暫くお姉ちゃんと私は神次元に滞在することになっちゃったんだ」と続ける。

 

 

 ネプギアはそう言うと、「本当にダメな子だよね、私」と言ってがっくりと項垂れてしまう。

 

 

「う、うーんと、それでどうなったの?」

 

 

 プラエも上手いフォローが思いつかなかったようで、眉を八の字にして困った顔をしながら話を続けるように促す。

 

 

「長い間、神次元で頑張ってシェアを溜めて、超次元に戻ることは出来たの」

 

 

 ネプギアはそう言うと、とても悲しそうな顔をし、「……でもね」と続けて一旦口を閉じてしまう。

 

プラエはネプギアの本当に悲しそうな顔に息を吞む。

 

ネプギアは一呼吸おくと、再び口を開く。

 

 

「私達が戻った時にはプラネテューヌの街は悪い人にボロボロに壊されていたの」

 

 

 ネプギアはそう言いながら俯いてしまう。

 

 

「その時になって私は自分の大きな過ちに気付いたの。女神でありながらお姉ちゃんに会いたい一心で、国とそこに住む人々を見捨ててしまったんだって」

 

 

 ネプギアは悲しい声で懺悔するかのように言った。

 

プラエはそれを黙って聞いており、ネプギアはそんなプラエの様子を少し気にしながらも、「……私が超次元に残って街を守っていればこんなことにはならなかったって……」と言う。

 

 

 ネプギアは悲しそうな顔で公園の噴水を眺めながら、「この公園もボロボロにされちゃったの……」と呟く。

 

更に、「店や家も壊されて……亡くなった人は居なかったって、いーすんさんは言ってたけど、怪我した人や怖い思いをした人もいっぱいいると思うの」と言う。

 

 

「神次元では少し辛い目に遭ったけど、それは国を見捨てた私に対する罰なんだって……罪の意識で眠れなかった日もあったよ」

 

 

 そう言ったネプギアの目は少し潤んでいて泣きそうなようだった。

 

プラエは何も声を掛けることが出来ず、ただネプギアの横顔を眺めるだけだった。

 

ネプギアはあまりプラエに心配を掛けないように、少し無理をして微笑む。

 

そして、「でも、後悔してるだけじゃ何も始まらないから、みんなを励ます為にお姉ちゃんとライブを開いたり、仕事に一生懸命励むようにしたの」と言う。

 

当時はネプギア自身も神次元で女神の仕事のやりがいを覚えたところなので、彼女としては仕事に励むことが一番の償いであった。

 

また余計なことを考えて落ち込むことを避ける為に何かに熱中するのは必要なことでもあった。

 

 

「今はプラネテューヌの街も綺麗に戻ったけど、あの時、私は誓ったの。二度と自惚れたり自分の甘えを優先するようなことはしないようにするって」

 

 

 ネプギアは力強くそう言うと、「でも、このことがあったおかげで、あの時うずめさんを助けられたんだなって思うと、私でも成長できるんだなって思えるんだ」と続ける。

 

プラエは不思議そうな顔で、「うずめさん?」と首を傾げる。

 

 

「あっ、ごめんね。うずめさんって言うのは零次元っていう、また別の次元の人なの」

 

 

 ネプギアがそう言うと、「色々な次元があるんだね」とプラエは興味深そうに頷く。

 

その様子を見たネプギアは、「今度、機会があったら別次元のことお話してあげるね」と言うと、「うん」とプラエは嬉しそうに頷く。

 

 

「少し前なんだけど、私とお姉ちゃんは今度は零次元って次元に迷い込んだんだの」

 

 

 ネプギアがそう言うと、「ネプギアお姉さんは事故に巻き込まれやすいの?」とプラエが首を傾げて質問する。

 

ネプギアはくすっ、と小さく笑うと、「そうかも。でも、巻き込まれ体質なのはお姉ちゃんの方かな?」と答える。

 

 

「それで、色々あって超次元に帰れることになったんだけど、その時、零次元でお世話になったうずめさんがピンチになっちゃったの」

 

 

 ネプギアが話を続けると、「それをネプギアお姉さんが助けたの?」とプラエが言うと、「うん」とネプギアが頷く。

 

 

「その時お姉ちゃんと一緒に超次元に帰りたいって気持ちを抑えることが出来たんだ」

 

 

 ネプギアはその時の自分を褒めるように力強く言うと、「それで気が付くとお姉ちゃんの隣から離れて、うずめさんを助けに行ってたの」と続ける

 

 

「昔の私だったらお姉ちゃんのことで頭がいっぱいで出来なかったと思う」

 

 

 そう言うネプギアの姿に、「ネプギアお姉さんはいっぱい失敗するけど、その分成長するんだね」とプラエが納得したように頷く。

 

 

「うん、私は平凡な子だから、そうしないと成長できないの」

 

 

 ネプギアは小さく頷いて苦笑いする。

 

 

「それに、まだまだ治さなきゃいけないところがいっぱい。その後にうずめさんに化けた悪い人がお姉ちゃん達をさらった時は取り乱して友達に助けられちゃったし」

 

 

 更にそう続けると、「そういうことだから、私はあんまり自慢とかして調子に乗らないようにしているの」と話を締めくくる。

 

 

「うん、わかった」

 

 

 プラエが頷くと、「ごめんね。頼りになるお姉さんじゃなくて」とネプギアが申し訳なさそうに言う。

 

しかし、プラエは激しく首を左右に振って、「プラエ、ネプギアお姉さんの事もっと好きになっちゃった」と微笑む。

 

 

「そうなの?」

 

 

 ネプギアは不思議そうに首を傾げながら、時間が気になったので左腕の時計を確認すると、時計は11時35分を示していた。

 

 

(やっぱり時間が流れるのが少し遅い気がする)

 

 

 ネプギアはそう思いながらも、「そろそろギルドに戻ってプロテノールさんの情報が無かったか聞いてみようか」と言って立ち上がりながら、プラエに向けて左手を差し出す。

 

 

「うん」

 

 

 プラエは頷いて右手でネプギアの左手を取って立ち上がろうとするが、「あっ……」とバランスを崩してしまう。

 

ネプギアがとっさにプラエを支えたので転倒はしなかったが、ネプギアがプラエの顔を見ると少し苦しそうに見える。

 

 

「プラエちゃん、大丈夫? 疲れちゃった」

 

 

 ネプギアが心配そうにプラエに尋ねると、「……うん、そうかも」とプラエが呟く。

 

ネプギアはベンチのハンカチをポケットにしまうと、プラエの前にしゃがみ込んで、「じゃあ、おんぶしてあげるから、ギルドまで頑張れる?」と尋ねる。

 

プラエが、「いいの?」と質問をすると、「もちろんだよ。そしたら柔らかいソファーで休も」とネプギアが頷きながら言う。

 

 

「えへへ……」

 

 

 プラエは嬉しそうにネプギアにおぶさると、ネプギアはプラエをおぶって立ち上がる。 

 

プラエはネプギアの首にしっかり両手を回すと、ネプギアの後ろ髪に顔をうずめて、「ネプギアお姉さん、いい匂いがする」と頬ずりをする。

 

 

「うふふ、くすぐったいよ」

 

 

 ネプギアは楽しそうに笑い、プラエは頬ずりを続ける。

 

 

(何だか、神次元で子育てしてたこと思い出すな……)

 

 

 ネプギアが心の中で呟く。

 

 

(あの時はピーシェちゃんに髪を引っ張られたり、居眠りしちゃってヨダレで髪を汚されたりして大変だっけど、プラエちゃんは大人しいから助かるな)

 

 

 ネプギアはプラエをおぶりながら、神次元での子育てのことを思い出しつつ、ギルドへ向かって行った。

 

 

****

 

 

 ギルドに着いたネプギアは自動ドアをくぐり、受付カウンターに向かう。

 

受付の男性はプラエをおぶっているネプギアを一瞬驚きの目で見るが、彼女の人となりを考えると不思議ではないと思い、その姿を微笑ましく見つめる。

 

 

「クエスト完了しました」

 

 

 ネプギアが受付の男性にひよこ虫討伐のクエスト完了の連絡をすると、「ありがとうございます」と受付の男性は頭を下げてお礼を言う。

 

 

「プラエちゃん、このソファーで休んでてくれるかな」

 

 

 ネプギアはそう言いながらソファーに近づいてしゃがみ込むと、「うん」と言ってプラエは素直にネプギアの背中から降りるとソファーに座る。

 

ネプギアは再び受付カウンターに向かうと、Nギアを取り出してクエスト完了の操作をする。

 

クレジットの入金を確認したネプギアは、「報酬受け取りました。ありがとうございます」と丁寧にお礼を言う。

 

 

「あの、お願いしていたプロテノール=パピリオさんの件はどうなりましたか?」

 

 

 ネプギアが受付の男性に質問をすると、「申し訳ございません。プロテノールと言う方は冒険者にも依頼者にも見当たらないようです」と男性は申し訳なさそうに答える。

 

 

「そうですか……」

 

 

 ネプギアは右手をあごに当てながら少し残念そうに考え込むと、「でも、パピリオって姓は一つだけ該当するものがありました」と受付の男性が話を続ける。

 

 

「本当ですか!」

 

 

 ネプギアが嬉しそうに言うと、男性は少し暗い顔で、「ですが、G.C.1950年代に滅びたネオジェネシスの守護女神様の名前らしいですよ」と言う。

 

さすがに昔過ぎる上に女神の名前では参考にならないと思ったのだろう。

 

だが、ネプギアは心の中で、(プラエちゃんも女神だから、年をとらない?)と呟くと、最初にプラエに会った時の見た目に対する違和感が解けた気がした。

 

 

「それでもいいので教えて下さい!」

 

 

 ネプギアが真剣に訴えると、その迫力に押された受付の男性は、「クストゥス=パピリオって言うんですけど……あと、妹にアテネって子が居たらしいです」と素直に答える。

 

次に受付の男性は今度はカウンターを出てネプギアに近づく。

 

そして小さな声で、「あと、あの子のことですけど、捜索願いのクエストとかは来ていないみたいです」とプラエに聞こえないように言う。

 

ネプギアは男性の気配りに感謝し、「色々ありがとうございます」と軽く頭を下げる。

 

 

「後はプラネタワーに戻ってデータベースにアクセスしてみます。また何か情報があったら教えて下さい」

 

 

 ネプギアは男性にそう言うとプラエの座っているソファーに近づく。

 

プラエと目線を合わせるようにしゃがみ込むと、「ごめんね。ここにもプロテノールさんを見たって人はいなかったみたい」と少し申し訳なさそうに言う。

 

プラエは【ぷるぷる】と首を左右に振ると、「いいの。ネプギアお姉さんは凄く頑張ってくれたった分かるから」と言う。

 

その様子を見て少し安心したネプギアは、「プラエちゃんは、クストゥス=パピリオさんって人知ってる? あとアテネって人も」とさっきの受付の男性に聞いた名前を質問してみる。

 

プラエはまたも【ぷるぷる】と首を左右に振ると、「知らない。プラエはプロテノール姉様しか知らないの。パパとママの名前も知らないの」と答える。

 

 

「そうなんだ……」

 

 

 ネプギアは両親の名前も知らないプラエのことを可哀そうに思った。

 

そして、(お姉さんとメイドのあんみつさんの三人で暮らしてて、それでお姉さんが行方不明になって今はあんみつさんと二人で暮らしてるのかな?)とプラエの境遇を分析する。

 

それと同時に、【くぅ~】と可愛らしい音がする。

 

ネプギアがその音で我に返ると、プラエが恥ずかしそうにお腹を押さえて俯いていた。彼女の腹の音が鳴ったらしい。

 

 

「私のお家でお昼ご飯食べる?」

 

 

 ネプギアが優しい声でプラエに言うと、「……いいの?」とプラエが控えめに問いかける。

 

ネプギアは軽く頷くと、「うん、もちろん。私もプラエちゃんとご飯食べたいし」と微笑みかける。

 

するとプラエは花の咲いたように微笑み、「うん! プラエもネプギアお姉さんとご飯食べたい!」と元気よく言う。

 

 

「それじゃ、行こっか。立てる?」

 

 

 ネプギアが問いかけると、「うん」と言ってプラエは元気よくソファーから立ち上がり、今までと同じように右手でネプギアの左手を握る。

 

ネプギア達はギルドを後にすると、プラネタワーに向かって歩いて行った。

 

 

****

 

 

プラネタワーに近づくと、男の子一人と女の子二人の合計三人の子供を連れた母親の姿が目に移る。

 

両手に大量の荷物を持ちつつ、子供達から目を離さないようにしている母親は傍目に見ても大変そうだった。

 

アイテム保管に便利な携帯端末のポケットがあるものの、物を保管するにはインベントリ倉庫のスペースが必要となる。

 

無料分はあるものの当然あまりスペースは無く、子供の三人を養う家の買い出し分の荷物を収めるのは難しいだろう。

 

更によく見れば男の子が街路樹を見上げて泣き叫んでいる。

 

 

「プラエちゃん」

 

 

 ネプギアがプラエに向けて彼女達の手伝いをしたいと申し出ようとすると、「ネプギアお姉さんはあの人たちをお手伝いするんだよね」とプラエがネプギア言うより早く答えてしまう。

 

更には、「プラエもお手伝いしたい」と自らも手伝いを願い出る。

 

ネプギアはプラエの言動に驚きながらも素直に、「ありがとう」とまずはお礼を言う。

 

 

(お姉さんとあんみつさんの教育がいいのかな?)

 

 

 ネプギアはそう考えつつプラエと一緒に母親に近づくと、「どうかしましたか?」とネプギアが母親に話しかける。

 

母親は困った顔で、「それがウチの子の風船が木に引っ掛かってしまって……」と振り向くがネプギアの顔を見ると、「こ、これはネプギア様!」と慌てて頭を下げる。

 

ネプギアは落ち着いた声で、「そんなにかしこまらないで下さい」と言う。

 

そして、街路樹を見上げて泣き叫んでいる男の子に、「あの風船を取ればいいのかな?」と木に引っ掛かった風船を指差しながら優しい声で問いかける。

 

男の子は一旦泣くのを止めて、「お姉ちゃんできるの?」と答える。ネプギアは力強く、「うん」と頷く。

 

続いて右手で先程のひよこ虫戦の前で見せた光る魔法陣を宙に描くと、魔法陣が盛り上がりネプギアンダムが現れる。

 

母親と子供達はその光景を驚きの顔で眺めている。

 

その間にネプギアンダムは着地し、「オヨビデスカ」とネプギアに質問をする。

 

 

「あの風船を取ってあげて」

 

 

 ネプギアが木に引っ掛かった風船を指差しながら言うと、「ニンムリョウカイ」とネプギアンダムが返事をする。

 

ネプギアンダムが風船に向けて右手を上げ、「ターゲットロックオン」と言うとネプギアンダムの右手がアンカーのように伸びる。

 

 

「「「わー!」」」

 

 

 子供達が感嘆の声を上げる。

 

ネプギアンダムの右手がどんどんと風船の紐に近づく。

 

突然、風が吹く。

 

風船が風に飛ばされて、ネプギアンダムの右手からどんどんと遠ざかっていく。

 

 

「……っ! プロセッサユニット」

 

 

 ネプギアが咄嗟に叫ぶ。

 

 

「ダメ!」

 

 

 同時にプラエも叫ぶ。

 

 

「え……」

 

 

 ネプギアが驚いてプラエの顔を見ると、彼女の目が蒼い光を放っているのが見えた。

 

ネプギアはその蒼い瞳を綺麗だと思いつつも、直ぐに我に返り風船を見上げる。

 

 

 この一瞬で高くまで飛んでしまったと思っていた風船が、ふわふわと宙に留まっている。

 

 

(止まってる?)

 

 

 一見止まっているように見えた風船は微妙に上昇をしていた。

 

 

(止まっているんじゃなくて、もの凄く動きが遅い……)

 

 

 それはまるでビデオのスローモーションのようだった。 

 

 

(さっきのひよこ虫と同じ……?)

 

 

 ネプギアが宙に留まっている風船を不思議そうに眺めている間に、ネプギアンダムの右手が風船の紐に追い付きそれをキャッチする。

 

すると、「やったー!」と泣いていた男の子が嬉しそうな歓声を上げる。

 

ネプギアンダムの右手がスルスルと手元に戻って来て、「ニンムカンリョウ」とネプギアンダムがネプギアに報告をする。

 

 

「……っと、風船をそこの男の子に渡してあげて」

 

 

 風船の不思議な挙動を考え込んでいたネプギアだが、ネプギアンダムの声で考えるのを一旦止めて指示を出す。

 

 

「ドウゾ」

 

 

 ネプギアンダムが男の子に風船を差し出すと、「ありがとう、ネプギアンダム!」と男の子が元気よくお礼を言う。

 

 

「ネプギアンダム、カッコイイ!」

 

「ネプギアンダム、すごーい」

 

 

 二人の女の子がネプギアンダムを嬉しそうに褒める。

 

男女問わず子供達の間でネプギアンダムの人気は高く、女の子達もネプギアンダムの活躍に大喜びだった。

 

その横で母親がネプギアに頭を下げて、「ありがとうございます。ネプギア様」とお礼を言う。

 

 

「いえ、大したことじゃありませんし、女神として……人として当然の事をしただけです」

 

 

 ネプギアが落ち着いてそう答えると、母親は感激の顔でネプギアの顔を眺める。

 

しかし、「わー! ネプギアンダムー!」と子供達が楽しそうにネプギアンダムをペタペタ触るので、「こら! 勝手に触っちゃダメでしょ!」と慌てて子供達を叱る。

 

 

「いいんですよ。それより、御自宅までネプギアンダムに荷物を運ばせますね」

 

 

 ネプギアがそう申し出ると、母親は驚いた顔で、「そ、そんなことまでしていただくわけには……女神様の貴重なロボットなのに」と恐縮してしまう。

 

ネプギアはゆっくりと左右に首を振ると、「いいんです。この子は人助けをするロボット。人に喜ばれる為のロボットですから」と言うと、ネプギアンダムの方を向く。

 

 

「ね? ネプギアンダム」

 

 

 ネプギアがそう問いかける。

 

ネプギアンダムは嬉しそうに角をピカピカ点滅させると、「ソノトオリデス。オマカセクダサイ」と力強くガッツポーズをする。

 

 

「で、では……お言葉に甘えて……」

 

 

 母親も重い荷物と子供達の面倒に疲れていたのか、あっさりとネプギアの厚意を受ける。

 

すると、ネプギアンダムが母親に向けて両手を突き出し、「オニモツ、オモチシマス」と言う。

 

 

「それではお願いします」

 

 

 母親が遠慮気味に荷物を差し出すと、「リョウカイシマシタ」とネプギアンダムは軽々と荷物を両手に持つ。

 

 

「それじゃあ、その人達を自宅に送り届けたら召喚のサインを送ってね」

 

 

 ネプギアがそう言うと、「リョウカイシマシタ」とネプギアンダムが答える。

 

母親が、「こちらです」と先導すると、ネプギアンダムは子供達の相手もしながら母親の後を付いて行く。

 

ネプギアは、そんなネプギアンダムの姿を誇らしい思いで見つめていた。

 

それと同時に、ネプギアの腰に【とさっ】と何かがもたれかかって来る。

 

 

「?」

 

 

 ネプギアがとっさに腰に目を向けると、プラエがネプギアの腰にもたれかかっていた。

 

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 

 プラエは荒い呼吸をして顔も少し青ざめ汗もかいているようだ。

 

ネプギアは慌ててしゃがみ込んで両手でプラエの両肩を持つと、「大丈夫? どうしたのプラエちゃん」と必死に問いかける。

 

 

「……だいじょ……ぶ……だよ。……ふうせん……よかった……ね」

 

 

 プラエは力なく微笑みながら、先程の風船のことを喜ぶと同時に【ガクリ】と全身の力が抜ける。

 

 

「プラエちゃん!」

 

 

 ネプギアは慌てて両手でプラエを抱きしめる。

 

ネプギアの首筋にプラエの浅い呼吸が当たる。

 

 

(どうしてこんな急に……)

 

 

 ネプギアはプラエの体調の急激な変化に戸惑うが、(とにかく、どこかで休ませないと)と考えを切り替える。

 

一瞬考えて、(ここからならプラネタワーまですぐだから、私の部屋で!)と決めると、優しくプラエをお姫様抱っこすると、早足でプラネタワーに戻る。

 

 

****

 

 

 プラエを抱きかかえたネプギアはプラネタワーの自室に戻ると、彼女を自分の寝る場所である二段ベッドの下の段にプラエを寝かせる。

 

ネプギアは目視でプラエに外傷が無いことを確認すると、「何が原因なの?」とやや焦りながら、Nギアを取り出して操作をする。

 

画面の中の【アナライザー】のアプリを選択しNギアをプラエに向ける。

 

画面に【解析中】と表示されると、次々と数値が表示される。

 

これはネプギア自作のアプリケーションでゲイムギョウ界の生き物の能力をある程度解析することが出来る。

 

ネプギアはその表示を目で追って行く。

 

 

NAME:プラエ

 

ELEMENTAL:ICE

 

CLASS:???

 

LV:1

 

HP:13/13

 

 

 ここまで見てネプギアは【ホッ】と胸をなでおろす。

 

HPがゼロではないので、とりあえず命にかかわる状態ではないようだからである。

 

彼女の適正である、CLASS【クラス】が不明なのは気にはなったが、後回しにして引き続き表示を追う。

 

 

MP:20/20

 

ST:0/50

 

CONDITION:FATIGUE【LV2】

 

 

「スタミナが0のまま回復してない? どうして……」

 

 

 ネプギアが不安げに画面を眺める。

 

プラエが倒れてからかなりの時間が経っている。

 

これだけの時間がかかってもスタミナが回復しないというのは普通ではありえない現象だった。

 

 

「ファティーグ?」

 

 

 ネプギアは【CONDITION】の項目に示された、【FATIGUE】の項目に首を傾げる。

 

CONDITIONはそのままコンディションで現在の体調であり、毒や麻痺などの状態異常が表示される。

 

 

「これは、スタミナ関係の新しいバッドステータスかな?」

 

 

 ネプギアはNギアを操作して、先日イストワールから渡された新作期についてのマニュアル、名付けて【おしえて、いーすん】でファティーグについて調べ始める。

 

ファティーグについての項目を見つけたネプギアはその項目を読み始める。

 

 

「えーと……。スタミナを消費する行動を限界以上に使用した際に起こる現象。極度に疲労した状態で長時間の休憩が必要になる。特効薬や治療する魔法も無く、食事がとれるようになったら、水分補給と柔らかい食事を与え休息を取ること……」

 

 

 ファティーグについて調べ終わったネプギアは、「ファティーグって名前の通り疲労してるから栄養と休息が必要なんだ……」と呟く。

 

スタミナ関係にもバッドステータスがあり、ファイティーグの他にも空腹で力が出ないことを示すHUNGRY【ハングリー】がある。

 

 

 ネプギアはぐったりとベットに横たわるプラエの顔を覗き込み、「プラエちゃん、お食事とお水用意するから待っててね」と優しく小声で言うと、それを用意する為に厨房に向かう。

 

 

****

 

 

 ネプギアが厨房に入るとコック姿の男性が、「おかえりなさいませ。お食事の準備はできております」と深々と頭を下げる。

 

 

「ごめんなさい。食事はもう少し待って下さい」

 

 

 ネプギアは申し訳なさそうにコックの男性に言うと、「おかゆを作りたいんですけど、ご飯は余っていますか? あと卵もあったらください」と質問をする。

 

それを聞いたコックの男性は、「ありますが、それなら私達がご用意します」と申し出るが、「いえ、私にやらせて下さい」とネプギアがやや強い口調で言う。

 

ネプギアにしては強い口調にコックの男性は、「わかりました」と大人しく引き下がる。

 

そして、小さめの土鍋を持つと炊飯器からご飯をよそり、「これぐらいでいいですか?」とネプギアに確認をする。

 

ネプギアが、「はい」と答えるとコックの男性はネプギアに土鍋を渡すと、次に冷蔵庫から取り出した卵も渡す。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 ネプギアはそれを受け取るとコンロに火を点けて、卵おかゆを作りはじめる。

 

何でもそつなくこなすネプギアだが、料理はあまり得意ではない。

 

しかし、壊滅的と言う訳ではないしネプギアはマニュアルには忠実に従う性格なので、マニュアルさえあれば普通に作ることができる。

 

友達とお菓子作りをすることもあり、得意ではないが嫌いという訳でもない。

 

 

「お姉ちゃんといーすんさんはもう食べましたか?」

 

 

 ネプギアはおかゆを作りながら、少し心配そうにネプギアを見守るコックの男性に質問する。

 

ネプギアは基本的には姉のネプテューヌと教祖のイストワールと一緒に食事を取るのだが、先程の親子を手助けしプラエの容態を調べたことで、二人が待てずに先に食べたかもと思ったようだ、

 

コックの男性は少し困った顔で、、「それがまだでして……担当部署の者によりますと、二時間ほど前にイストワール様がネプテューヌ様を呼びに行ってから戻っていないそうで……」と男性が答える。

 

 

「いつもすみません……」

 

 

 ネプギアがせっかく料理を用意してくれたコックに対して少し申し訳なさそうに謝ると、「いえ、いつものことですし……」とコックの男性は諦めたふうに言う。

 

ギルドの男性に対してもそうであったが、ネプギアは女神という身分でありながらもそれに奢ることはなく、一般人に対しても悪いと思ったことには素直に謝るし、何かを頼むときは頭も下げる。

 

悪く言えば威厳がないとも言えるが、清楚で穏やかそうな見た目どおりの性格は多くの人に好意的に受け入れられている。

 

 

「ところで、なぜおかゆを?」

 

 

 今度はコックの男性が質問すると、「衰弱した子供がいるので、その子に食べさせようと」とネプギアが素直に答える。

 

ネプギアのことをよく知る男性はそれで大体の事情を察したようで、「そうですか」と心優しいネプギアの行動に感心したように頷くと、「差し出がましいようですが、イストワール様にはキチンと報告した方がいいですよ」と忠告をする。

 

 

「はい、落ち着いたらそうします」

 

 

 ネプギアがそう言ってコンロの火を止める。

 

それを見たコックの男性は病人でも水を飲めるように吸い飲みと水の入ったポットを用意すると、それをお盆に乗せてネプギアに、「どうぞ」と差し出した。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 ネプギアはそう言うと両手にミトンをはめて、土鍋をお盆に乗せると、それを持ってプラエの待つ自室に向かう。

 

 

****

 

 

 ネプギアはお盆を右手に持って左手でそーっと自室のドアを開ける。

 

部屋は先程出た時と変わらず、二段ベッドの下の段にプラエが横になってる。

 

ネプギアは丸型の机にお盆を置くと、ゆっくりとベットに近づき、「プラエちゃん?」とプラエの顔を覗き込む。

 

 

「……ネプギアお姉さん……」

 

 

 プラエは力なく返事をするが、先程よりは顔色は良いようだ。

 

ネプギアは【ホッ】と胸をなでおろし、「気が付いたんだね。よかった」と安心した声を出す。

 

 

「……ここは、ネプギアお姉さんのお部屋?」

 

 

 プラエが尋ねると、「そうだけど、よくわかったね?」とネプギアが不思議そうに質問する。

 

プラエは鼻を【ひくひく】と小さく動かすと、「このお布団、ネプギアお姉さんの匂いがする……」と呟く。

 

 

「あっ、嫌だったかな? ごめんね。他に寝かせられる場所が思いつかなくて」

 

 

 ネプギアが少し恥ずかしそうに言うと、「ううん、凄くいい匂いがして安心する」とプラエが微笑むと掛け布団に顔をうずめる。

 

ここまで会話できるまで回復したプラエにネプギアは少し安心をすると、「お水とおかゆ持ってきたけど、食べられそう?」とプラエに尋ねる。

 

 

「……うん、食べたい。おいしそうな匂いがする」

 

 

 プラエがそう言うと、ネプギアは机に乗せたお盆を持って来て、ベットの前にしゃがみ込み、その隣にお盆を置く。

 

 

「まずはお水飲もうか」

 

 

 ネプギアが水の入った吸い飲みを両手で持って寝ているプラエの口元に当てると、プラエは少し恥ずかしそうにするが素直に口を開けると吸い飲みからゆっくりと水を飲む。

 

水を飲んだプラエが吸い飲みから口を離すと、ネプギアも吸い飲みをお盆の戻す。

 

次にネプギアが土鍋の蓋を開けると、アツアツの湯気が立つ卵がゆが現れ、その匂いがより一層漂ってくる。

 

 

「おいしそう」

 

 

 プラエが素直な感想を言うと、「ちょっと熱いかな?」とネプギアがれんげで、土鍋からおかゆをすくう。

 

そして自分の口元に持って来て、「ふぅーふぅー……」と息をかけておかゆを冷ます。

 

 

「はい、あーん」

 

 

 プラエは嬉し恥ずかしといった感じで顔を赤くするが、「あーーん」と素直に大きく口を開く。

 

ネプギアはゆっくりと丁寧にプラエの口の中にれんげを入れると、プラエは【ぱくっ】と口を閉じて、おかゆを食べる。

 

プラエの咀嚼が終わっておかゆを飲み込むと、「おいしい?」とネプギアたずねる。

 

 

「おいしーー」

 

 

 プラエは元気よく言うと、おかゆを要求をするように、また口を開く。

 

ネプギアは元気になって来たプラエに安堵と喜びを感じつつ、次のおかゆをすくうと、「ふぅーふぅー……」と先程のように息をかけておかゆを冷ます。

 

そんなやり取りを繰り返して、プラエは土鍋に入ったおかゆを完食する。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

 プラエが丁寧に両手を合わせて言うと、「お粗末さまでした」とネプギア微笑みながら、お盆を机の上に置きに行く。

 

お盆を机の上に置いたネプギアは再びプラエの側によると、「食べた後だけど、少しプラエちゃんのこと聞いていいかな?」とプラエに向かって質問する。

 

プラエは小さく頷くと、「いいよ」と答えベットから上半身だけ起こす。

 

 

「プラエちゃんは時間とお友達で時間に干渉できる力があるって言ったけど、それって時間の流れる早さとかを変えられるってこと?」

 

 

 ネプギアはプラエが正直答えてくれるのを祈るかのように両手を合わせて真剣な声で尋ねる。

 

彼女はプラエと出会ってから何度か感じた時間の流れの遅さはプラエの力ではないかと思っていた。

 

 

「……やっぱり気づかれちゃった……ネプギアお姉さん頭いいね」

 

 

 プラエがうなずきながら素直に認めると、「プラエちゃんから時間のこと言われなければ、気づいてたかどうかわからないけど」とネプギアが答える。

 

 

「それで、その力を使うともの凄く疲れちゃうんだよね。それが倒れた原因?」

 

 

 ネプギアは続けて質問すると、「うん……あんみつには時間操作は一日二回までって言われてるけど、今日四回もしちゃった」

 

 

 プラエが少し反省しているかのように、声のトーンを落としながら答える。

 

 

「ひよこ虫の戦いの時に一回、私との話で二回、そして風船の時に一回で合計四回?」

 

 

 ネプギアが確認するように尋ねると、「うん、ネプギアお姉さん、やっぱり頭がいい」とプラエが頷く。

 

 

「最初以外は、プラエちゃんの具合が悪くなったタイミングと時間の流れが変だった時を合わせてみただけだよ」

 

 

 ネプギアは落ち着て答えると、「どうしてそんなに無茶したの? 一日二回って言われていたんだよね」とネプギアが尋ねる。

 

その声は優しく穏やかであったが、真剣に心配している気持ちがプラエには十二分に伝わってきた。

 

 

「……ネプギアお姉さんのこと好きになっちゃったから……」

 

 

 プラエは恥ずかしそうに掛け布団で顔の半分を隠しながら言う。

 

 

「優しくて綺麗で一緒にいると凄く安心する……だから、好きになっちゃって、お手伝いしたくてモンスターや風船の時間を遅くしたり、お話いっぱい聞きたくて、プラエとネプギアお姉さんだけ時間を速くしたり……」

 

 

 プラエの告白を真剣な顔で聞くネプギア。

 

見てのとおり、ネプギアは男女関わらずモテる。

 

彼女が本格的な女神の活動を始めるG.C.2009より前ですら、その存在を知る一部の人に告白を受けたりラブレターをたくさん貰ったりして、姉のネプテューヌを驚かせた程だ。

 

プラエのような子供に関しても、神次元で三人の赤ん坊の面倒を見た時にも様々な告白の経験を受けている。

 

面倒を見た三人の子供は残念ながらネプギアには懐かなかったが、彼女達の友人からは男女問わず何度も告白を受けている。

 

とは言え、出会ったその日にこんな熱烈なアプローチを受けるのは初めてのことであった。

 

 

「ありがとう。プラエちゃんの気持ち、もの凄く伝わってくるよ」

 

 

 ネプギアはそう言いながら目を閉じて両手を胸の中心に重ねるように置く。

 

その姿はプラエの想いを真正面から受け止めているように見えた。

 

 

「私は女神だから、一人の女の子としてはプラエちゃんの気持ちに応えることはできないけど、女神としてプラエちゃんのことを愛し護り続けることを誓うよ」

 

 

 ネプギアは優しく穏やかかつ真剣な声でそう言うと、プラエの頭を優しく撫でる。

 

 

「ありがとう、ネプギアお姉さん。出会ったばかりのプラエにそこまで言ってくれて嬉しい」

 

 

 プラエはその答えに満足したように、嬉しそうに目を細めて、ネプギアに頭を撫でられ続ける。

 

 

「……でも、少し慣れた感じがする。やっぱり、ネプギアお姉さんモテるの?」

 

 

 プラエは頬を膨らませて少し不満そうに言う。

 

 

「あはは……。お姉ちゃんから言わせればモテるみたい」

 

 

 ネプギア右手の人差し指で頬をかきながら言う。

 

先述したように何度も告白を受けてラブレターをもらってはいるが、自己評価が低めな彼女は自分自身をモテモテな子とは認めにくいらしい。

 

 

「でも、テンプレじゃないよ? プラエちゃんの言葉を受け取った上で出て気持ちと言葉だから」

 

 

 ネプギアが真剣な続けて言うと、「うん、わかってる。プラエにもネプギアお姉さんの本当の気持ち伝わってくるから」とプラエが目を閉じて右手を胸に当てながら言う。

 

【テンプレ】とは【テンプレート】の略語で定型文やひな形という意味がある。

 

普段からよく告白されるので、その時の為に用意してある共通の言葉ではないとネプギアが主張し、プラエもそれを理解してくれたのだ。

 

 

「ネプギアお姉さんは今まで何人ぐらいの人から告白されたの?」

 

 

 プラエが不思議そうに尋ねると、「聞きたい?」とネプギアが言う。

 

プラエは素直に頷いて、「うん」と答える。

 

 

「昨日までの時点で、99,822人だよ!」

 

 

 ネプギアはそう言ってドヤ顔を決める。

 

 

「へ?」

 

 

 プラエが目を丸くすると、ネプギアが目頭を押さえ、「私を好きだと言ってくれた人は全員記憶してるよ。ノペンタ、セプデム、へンティ、トーリアン、ワッカー、オウトー、ブンド……みんな、忘れられぬ人達」としみじみと答える。

 

 

「……ネプギアお姉さん?」

 

 

 プラエは訝し気にネプギアを眺める。

 

 

「私は死者に対し、哀悼の意を表することしかできない。けど、プラエちゃんもこれだけは知っていてほしいの。彼等は決して無駄死になどしていない。そして……」

 

 

 ネプギアが続けて言うと、「……何で死んじゃったことになるの!」とプラエがツッコミするように、【ぺちん】とネプギアの頭を軽く叩く。

 

 

「あはは、私の冗談もまだまだかな」

 

 

 プラエに叩かれたネプギアが苦笑いすると、「よくわからないけど、ネプギアお姉さんおもしろーい」とプラエがニコニコと笑う。

 

ネプギアが、「私の好きなアニメのパロディなんだ」と言うと同時に右太もものNギアのケースから【ピピピピピピ……】と電子音がなる。

ネプギアはNギアを取り出して画面を確認する。

 

 

「ネプギアンダムのおつかいが終わったみたい」

 

 

 ネプギアはそう言うと今までと同じく右手で魔法陣を描いてネプギアンダムを呼び出す。

 

 

「ニンムカンリョウシマシタ」

 

 

 呼び出されたネプギアンダムを見て、「わっ、折り紙がいっぱい」とプラエが驚きの声を出す。

 

ネプギアンダムの角や腕にはたくさんの折り紙で出来たメダルのようなものが垂れ下がっていた。

 

 

「オコサマタチニ、クンショウヲイタダキマシタ」

 

 

 ネプギアンダムは機械的な声で説明をするが、心なしか嬉しそうに聞こえる。

 

プラエは更にネプギアンダムの頭を指さすと、「お花の冠や首飾りもある……」と少し羨ましそうな声を出す。

 

恐らく子供たちが以前に作って保管していたものをお礼として貰ってきたのだろう。

 

 

「サシアゲマショウカ」

 

 

 プラエの気持ちを察したネプギアンダムが言うと、「いいの!?」とプラエが驚きと喜びの混じった声を上げる。

 

 

「ハイ。マスターモ、ヨロシイデスネ」

 

 

 ネプギアンダムがそう言うと、「うん、もちろんだよ」とネプギアが微笑む。

 

 

「それじゃあ、私が付けてあげるね。どれがいい?」

 

 

 ネプギアがそう言いながらネプギアンダムに近づくと、「その……青いお花の冠……」とプラエがおずおずと青い花の冠を指を差す。

 

 

「これだね」

 

 

 ネプギアがネプギアンダムの角に掛かっている青い花の冠を取る。

 

更に、「それなら、こっちの首飾りもセットの方がいいかな」とネプギアンダムの右手に掛かっていた同じ花を使った首飾りも取る。

 

 

「二つもいいの?」

 

 

プラエが驚きの声を上げると、「うん、プラエちゃんが付けた方が似合うと思うし」とネプギアが微笑みながら花の冠と首飾りをプラエに持っていく。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

 ネプギアはプラエの頭から首飾りを通すと、続けて頭に冠を乗せる。

 

プラエは嬉しさで顔を真っ赤にしていた。

 

 

「うん、似合う似合う。すごくよく似合うよ」

 

 

 花冠と首飾りを付けたプラエを見て、ネプギアは嬉しそうに両手を合わせる。

 

 

「カガミヲオモチシマシタ」

 

 

 ネプギアンダムが部屋にある手鏡を持ってきてネプギアに手渡す。

 

 

「ありがとう」

 

 

 ネプギアはネプギアンダムにお礼を言うと、「はい、プラエちゃん」とその手鏡をプラエに手渡す。

 

 

「わぁ……」

 

 

 手鏡で自分の姿を見たプラエは喜びの声を上げた。

 

自分の思っていた以上に似合っていたからだ。

 

 

「ネプギアお姉さん、ありがとう。プラエ、これ宝物にする」

 

 

 プラエは喜びの頂点と言った顔でネプギアにお礼を言うと、今度はネプギアンダムを見て「ネプギアンダムもありがとう」とお礼を言う。

 

 

「どういたしまして」

 

 

 ネプギアがそう応えると、「オヤクニタテテウレシイデス」とネプギアンダムも角を光らせながら応える。

 

 

「マスター、オテガミヲアズカッテイマス」

 

 

 ネプギアンダムはそう言うと、便せんを持った右手をネプギアに差し出す。

 

 

「ありがと」

 

 

 ネプギアはお礼を言うと封を開けて手紙を読み始める。

 

最初は子供達の元気で無邪気なお礼の言葉が書かれていた。

 

あの後、母親からネプギアが女神であることを聞いたらしい。

 

 

「ふふっ……」

 

 

 子供達の純粋な気持ちにネプギアは思わず笑みがこぼれてしまう。

 

続けて母親からの丁寧なお礼が書かれていた。

 

またネプギアに対する称賛の言葉が多数書かれており、これからネプギアを更に信仰し周りにも布教しますと締めくくられていた。

 

 

「ここまで褒めてくれなくてもいいのに……」

 

 

 ネプギアは恥ずかしそうにそう言うと手紙をしまう。

 

 

「ネプギアお姉さんはそれだけのことをしたんだよ。もっと胸を張っていいと思うな」

 

 

 プラエがそう言うと、「え? 見えちゃった」とネプギアが驚きの表情を浮かべる。

 

プラエはすぐ側にはいるが、手紙をのぞき見できる角度とは思えなかった。

 

 

「ううん、なんとなくだけど、書いてあることわかるよ。あのお母さん凄く感謝してたから」

 

 

 ネプギアはその言葉に更に驚き、「そんなことわかるの?」とプラエに問いかける。

 

 

「うん、なんとなくだけど、人の心の色が見えるの。ネプギアお姉さんは髪の色と同じでピンクに近い薄紫色。とっても温かくて優しい光を放ってる」

 

 

 プラエはそう言うと、「姉さまは紅蓮の炎のように燃えてるの。あんみつは茶色でちょっと美味しそう」と続ける。

 

 

「姉さまはクールだけど心の中に熱い情熱を持っている人だから、ゲイムギョウ界は常に戦い続け、強いものが治めるべきだって言ってた」

 

 

 プラエが更にしゃべり続ける。

 

ネプギアは今はプラエの話を聞くべきだと思い、彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 

「でも、プラエはそれは少し違うと思ってた。それを姉さまに言ったら、じゃあ、プラエはどうしたい? って質問されて、その時プラエは何も言えなかった」

 

 

 プラエの独白が続く。

 

ネプギアは真剣に話を聞きながら、プラエの目を真っ直ぐに見つめる。

 

 

「姉さまは何も言えなかったプラエにこう言ったの。【私が戻らなくなって十年経ったら、プラネテューヌを訪れろ。そこにお前の求める答えと進むべき道がある】って」

 

 

 プラエは両手を胸に当てて、「その時は、姉さまが居なくなるなんて嫌って泣いて話が終わっちゃったけど……次の日から姉さまは帰って来なかった」と悲しそうに言う。

 

 

「……ネプギアお姉さん、教えて。プラエの求める答えと進むべき道を」

 

 

 プラエはネプギアの目を真っ直ぐに見つめ返す。

 

彼女は姉の言った言葉を信じ、その答えを持つ者がネプギアだと確信したようだ。

 

 

「………」

 

 

 ネプギアは暫くの間黙ったままだった。

 

プラエに言うべき答えを真剣に考えているのだ。

 

普段の彼女なら他人の運命を決めるような重大な選択肢に尻込みしてしまうところだが、今の彼女は違った。

 

 

(プラエちゃんの為に、私の想いを乗せた言葉を!)

 

 

 ネプギアはプラエのことを知りすぎたし、何より今さっき彼女を護ると誓ったのだ。

 

ユニやうずめは、このように迷いのないネプギアは誰よりの強いと言っている。

 

 

「私も、プラエちゃんとおんなじだよ。プロテノールさんの考えは少し間違ってると思う」

 

 

 ネプギアがそう言って小さく頷くと、プラエは少し明るい表情を浮かべる。

 

 

「話は少し変わっちゃうけど、ネプギアンダムの作られた世界は機界フレイラルって言って、昔は高度な機械による文明を誇ったの」

 

 

 ネプギアは更に話を続け、プラエも静かに話に耳を傾ける。

 

 

「召喚獣として呼び出すロボット達もどれもカッコよっくて凄い武器を持ってた。でも、大規模な戦争によって荒廃してしまって廃墟の世界になっちゃったの」

 

 

 ネプギアはそう言いながらNギアを操作してホログラムを呼び出す。

 

そこには倒壊したビルや壊れた工場の並ぶフレイラルの光景と、フレイラルから呼び出される強そうな戦闘用ロボットの数々が映っていた。

 

プラエはそのホログラムを真剣な顔で眺めながら、「だから戦い続けるのはよくない?」と質問をする。

 

 

「うん、そうだね。でも、それだけじゃないの」

 

 

 ネプギアはそう言うと、「ある日、そんなフレイラルの最新鋭の護衛ロボットを私の召喚獣してくれるって言われた時、すごいワクワクした」と続ける。

 

プラエは再び大人しくネプギアの話に耳を傾けた。

 

 

「その時出来たのが、このネプギアンダムなんだよ」

 

 

 ネプギアの言葉に、「最新鋭???」とプラエが訝し気に首を傾げる。

 

 

「私も最初はそう思った。もっと自由とか正義とか運命みたいな感じのロボットが出来ると思ってたから」

 

 

 ネプギアがそう言うと、「自由? 正義? 運命???」とプラエは更に意味が分からないと言った感じの顔をする。

 

 

「あっ、分かりにくいよね、ごめんね。とにかくカッコよくて、武器がいっぱい付いてるの想像してたの」

 

 

 ネプギアが説明をすると、「あっ、うん。プラエもそう思ってた」とプラエがようやく理解できたという顔をした。

 

 

「正直すっごくガッカリしたけど、フレイラルの人達は【ネプギアンダムこそが、より良い未来を作るロボットだ】って自身満々だったから、とりあえずそのまま受け取ったの」

 

 

 ネプギアはそう言った後少し恥ずかしそうに右人差し指で右の頬をかく。

 

 

「でもね、ネプギアンダムのマニュアルを見て、私、自分がすごく恥ずかしくなっちゃったんだ」

 

 

 ネプギアの態度と言葉に、「どうして?」とプラエは不思議そうに問いかける。

 

 

「そこには、人の役に立つこと、困っている人を助けること、人を護ることが山ほど書かれていたの」

 

 

 ネプギアは静かに胸の中心に両手を重なるように当てながら目を閉じる。

 

 

「その時、私、気付いたの。いつの間にかロボットを戦いの道具として見てたことを。本当のロボットは人を幸せにする物であるべきだって」

 

 

 ネプギアの言葉にプラエも【ハッ】と驚いた表情を浮かべ、「プラエもそう思ってた……そうだよね。人を幸せにするロボットの方がいいよね」と【うんうん】としきりに頷く。

 

 

「ネプギアンダムには、世界を戦争によって荒廃させてしまったフレイラルの技術者の人達の後悔と警告の意味が込められていて、それを私に伝えようとしてくれたんだって思う」

 

 

 ネプギアはしみじみと言うと、「それに固定火器をたくさん積むより、シンプルな素体に換装パーツを付ける方が拡張性や汎用性が……」と早口にしゃべり始める。

 

プラエが慌てて、「お姉さんお姉さん、話がズレてるよ!」と止めると、「はうあっ! ご、ごめんね! ロボットのことになるとつい我を忘れちゃって……」と正気に戻るネプギア。

 

 

「こほんっ……」

 

 

 ネプギアは咳払いをして気を取り直すと、「私はそれを見て女神も同じなんじゃないかって思ったの」と言う。

 

 

「女神も遥か昔から、人々を護る為、ゲイムギョウ界の覇権を握る為に戦い続けて来たけど、それだけじゃダメなんだって」

 

 

 ネプギアは祈るように目を閉じて両手を組んでしゃべり続ける。

 

 

「女神の持てる力を戦いや国の発展で争うことに使うだけじゃなくて、調和と協調に使えばゲイムギョウ界をもっと良くできるんじゃないかって」

 

 

 そう言ったネプギアをプラエは尊いモノをみるような目で見つめていた。

 

 

「私達女神だけじゃなくて、信者の人たち。それに今は悪いことをしている人たちやモンスターですら心を入れ替えて手を取り合って暮らせる世界」

 

 

 ネプギアはゆっくりと目を開けて、「私は女神の力をそんな世界を作るために使いたい。今はお姉ちゃんに甘えて目の前の人達を護るだけで精一杯だけど、いつかきっと!」と力強く宣言する。

 

 

「それに、超次元現象を使えば、ゲームの世界から別のギョウ界とかにも調和と協調による平和を呼び掛けられると思うの。だから、私はこの夢を諦めない」

 

 

 ネプギアがそう言い切ると、「それだよ……! プラエの求めてた答えと進むべき道は、やっぱりネプギアお姉さんが持ってた!!」とプラエがネプギアの両手を握る。

 

 

「お願い。プラエをネプギアお姉さんの側に置いて。プラエ、エスパーだから役に立つよ!」

 

 

 プラエが熱っぽくそう言うと、「でも、お姉さんは?」とネプギアが問いかける。

 

プラエは静かに首を左右に振ると、「プラエもそこまで子供じゃないよ。十年も帰って来なっかった姉さまがすぐに見つかるなんて思ってないよ」と答える。

 

更に、「諦めた訳じゃないけど、姉さまはネプギアお姉さんに協力しながら見つける。多分そうした方が見つかると思うの」と言う。

 

 

「そっか……」

 

 

 ネプギアはそう言うと、プラエの手を握り返し「それじゃあ、プラエちゃん、私に力を貸してくれる?」とプラエに問いかける。

 

プラエは満身の笑顔で、「うん! もちろんだよ」と頷いた。

 

 

 「プラエ、何したらいい? プラエ、ネプギアお姉さんの為なら何でもするよ!」

 

 

 プラエが元気よくそう言うと、「気持ちはわかるけど、今日は休んでなきゃダメだよ」とネプギアがたしなめるように言う。

 

続けてNギアでアナライザーを起動してプラエを再び解析すると、Nギアにプラエの状態が映し出される。

 

 

NAME:プラエ

 

ELEMENTAL:ICE

 

CLASS:エスパー

 

LV:1

 

HP:13/13

 

MP:20/20

 

ST:25/50

 

CONDITION:FATIGUE【LV1】

 

 

 ネプギアは先程と比べて、クラスが判明したことと、スタミナが半分まで回復し、ファティーグのレベルが下がっていたことに、「ほっ……」と安堵のため息をつく。

 

 

「今日一日休めばファティーグも治ると思うから、ネプギアンダムと一緒にゆっくりしてて」

 

 

 ネプギアが優しい声で言うと、「……うん」とプラエは素直に頷く。

 

 

「マスター、オショクジヲトッテクダサイ。アト10プンデ、ハングリーノバッドステータスガフヨサレマス」

 

 

 今まで黙っていたネプギアンダムがネプギアに言う。

 

その声は機械的ではあったが、ネプギアを心配するように聞こえる。

 

 

「あっ……、ごめんね。プラエのせいでご飯遅くなっちゃったよね」

 

 

 プラエが申し訳なさそうに小さくなって謝ると、「今から食べれば全然平気だよ」とネプギアが優しく微笑む。

 

 

「プラエサマハワタシニマカセテ、ハヤクオショクジヲ」

 

 

 ネプギアンダムがそう言うと、「ありがとう、ネプギアンダム。それじゃあ、食べてくるね」とネプギアがプラエとネプギアンダムに小さく手を振って部屋を出ていく。

 

プラエとネプギアンダムが手を振り返すと、ネプギアはゆっくりと部屋のドアを閉める。

 

 

「お姉ちゃんといーすんさんは食べたかな?」

 

 

 ドアを閉めたネプギアはそうつぶやくと、テレビとゲーム機が置いてある女神用のリビングに向かう。

 

 

 

****

 

 

 

「ネプテユーヌさんっ!」

 

 

 ネプギアがリビングの扉を開けると同時に叱りつけるような大きな声が聞こえてくる。

 

声の発生源は部屋の中で浮いているイストワールのようだ。

 

 

「ちょっと、聞いているんですか!」

 

 

 イストワールが再び怒号を向けた先にはネプテユーヌと呼ばれた小柄な少女がテレビゲームに夢中になっていた。

 

髪は紫色で、ショートカットだが前髪の両サイドだけ首の辺りまで伸ばしていて、全体的に癖あって跳ね上がっている。

 

頭にはネプギアと同じ十字型のゲームコントローラーのような髪飾りを左右に二つして、瞳の色は紫色。

 

肌はネプギアと同じ薄橙色だが、ネプギアに比べると僅かに濃く、良く言えば健康的に見える。

 

身長は140センチ程度で、白い生地に紫色の模様が入ったパーカーを着て水色と白のストライプのニーソックスをはいていた。

 

パーカーがワンピースのようになっているのでズボンやスカートの類は穿いていない。

 

ある意味刺激的な姿であったが、何故か違和感はなかった。

 

ネプテユーヌはイストワールの怒号を意にも介せず、ゲームのコントローラーを握りしめ、顔もゲーム画面に釘付けである。

 

 

「今日が期限のお仕事はどうしたんですか!」

 

 

 なおもネプテューヌに詰め寄るイストワール。

 

小さいながらも浮いているので、その姿はネプテユーヌの顔の真横まで迫る。

 

 

「よっ! ほっ! たーーー!」

 

 

 しかし、ネプテューヌはイストワールの問いかけにも、いかにも【聞いていませんよ】と言わんがばかりにゲームに向けて掛け声を上げる。

 

そんなネプテユーヌの態度に、イストワールは怒りでわなわなと肩を震わせる。

 

 

「まあまあ、いーすんさん」

 

 

 怒り心頭のイストワールとネプテユーヌの間にネプギアが割って入る。

 

 

「ネプギアさん」

 

 

 イストワールはネプギアの存在を確認すると少し表情が和らぐ、怪我もなく帰ってきたのが嬉しいのだろう。

 

 

「お姉ちゃん、やる時はやる人ですから、その時が来たらキチンとやりますよ」

 

 

まずはネプテューヌを擁護するネプギア。

 

 

 ネプテューヌを【お姉ちゃん】と呼ぶネプギアはネプテューヌの妹。

 

身長140センチ台の小柄なネプテューヌに対して150センチ台のネプギア。

 

落ち着いた雰囲気のあるネプギアに対して子供っぽいネプテューヌ。

 

どうみても姉妹逆なのだが、ネプギアが妹である。

 

 

「やる時とかその時とか一体いつですか!」

 

 

 ネプギアのフォローに対して、食ってかかるイストワール。

 

 

「えーと……世界の危機とかにはちゃんと立ち向かってくれますし、ほら! この前の転換期を含めた一連の騒動も乗り越えられたじゃないですか」

 

 

 イストワールの剣幕に圧されながらも、何とかしてネプテューヌを庇おうとするネプギア。

 

 

「女神様は用心棒とは違うんです! 平和でもやるべきことはいっぱいあるんです!」

 

 

 だが、イストワールには焼け石に水どころか火に油を注ぐ結果になってしまっていた。

 

イストワールに予想以上の反論を受けて小さくなってしまうネプギア。

 

そして、我関せずの顔でゲームを楽しむネプテューヌ。

 

こう見えてもネプギアの姉であるネプテューヌは守護女神であり、このプラネテューヌの守護者であり統治者なのである。

 

 

「私は女神として最低限の責務を果たして下さいとお願いしているだけなんです!」

 

 

 なおもネプギアに食ってかかるイストワール。

 

かなりストレスが溜まっているようで顔が真っ赤であった。

 

 

「それは分かりますけど……」

 

 

 ネプギアはイストワールの剣幕に押されて続け、もう何も言えなくなっていた。

 

要はイストワールの言うことは全て正論であり、反論の余地がないのだ。

 

 

 国や国民たちを守り導く守護女神、その仕事はゲイムギョウ界にとって非常に重要なもの。

 

イストワールはその仕事をせずに毎日遊んでいるネプテューヌを教祖として諫めているのである。

 

 

 確かにネプギアのフォローするように、ネプテューヌはゲイムギョウ界に大きな事件があった時には、他の三国の女神やネプギア達女神候補生達と協力しそれを退けている。

 

 

「それを毎日毎日遊んでばかり! 書類の決裁とかモンスター退治なんて、もう山盛りなんです!」

 

 

 しかし、ネプテューヌの不真面目さはそれを差し引いても余りあるもので、イストワールも堪忍袋の緒が切れているのである。

 

女神用の執務室にあった書類の山、あれは全てネプテューヌの女神としての仕事であり、放置しすぎてあんな状態になっているのだ。

 

 

「それに他の女神様達にも差を付けられる一方です!」

 

 

 更にゲイムギョウ界は平時は四つの国が切磋琢磨し競い合う関係なのである。

 

ネプテューヌがこうして怠けている間に他の三国は着々と国力を蓄えているのだ。

 

ゲイムギョウ界の四国の立場は基本的に対等であり、危機を乗り越えたのもネプテューヌだけの力ではない。

 

 

 つまり、ネプテューヌだけがこうして仕事をせずにゲームに没頭しているのは十分な職務怠慢なのである。

 

又、過去にゲイムギョウ界は何度も国家間の戦争が繰り広げられている。

 

今は戦争時ではないがこんな状態で他国に攻められたら手も足もでないだろう。

 

 

「ごめんなさい! 私の力不足です!」

 

 

 流石に庇いきれないと思ったネプギアがイストワールに向かって頭を下げる。

 

女神候補生であるネプギアは女神に近い仕事をしている。今日の書類の決裁やクエストなどがそれにあたる。

 

ネプテューヌと違い真面目で勤勉なネプギアは自分の仕事を全部こなしつつ、たまにネプテューヌの仕事も肩代わりしている。

 

ネプギアはその力が足りなかったと感じたのだろう。

 

【仕事をしないネプテューヌが悪い】の一言で片ずく問題なのだが、ネプギアはネプテューヌのことを慕っており事あるごとに姉を甘やかしている。

 

現に今もこうして、女神という立場に構わずネプテューヌの代わりにイストワールに頭を下げているのだ。

 

 

「あ、頭を上げて下さい! ネプギアさんの所為じゃありませんよ」

 

 

 必死で頭を下げるネプギアに慌てるイストワール。

 

実際にネプギアはよくやっている。

 

物事の飲み込みが早く何でも要領よくこなすネプギアは候補生以上の働きを見せているが、それでも他国の守護女神には及ばない。

 

それに候補生では権限の及ばない仕事もある。

 

 

「あー! いーすんがネプギアいじめたー! いーけないんだいけないんだ! イジメかっこわるーい」

 

 

 ネプテューヌはゲーム一旦止めて、ここぞとばかりに小学生のようにイストワールを煽る。

 

 

「ネプテューヌさんがお仕事をしてくれないから、こんなことになっているんです!」

 

 

 その態度にイストワールは更に顔を真っ赤にしながら、ネプテューヌに詰め寄るが、ネプテューヌは、「えー? またこのパターン?」と、うんざりしたように答える。

 

 

「パターン化しているのは、ネプテューヌさんのせいです!」

 

 

 イストワールが素早くツッコミを入れる。

 

実際その通りであり、何度イストワールが叱ってもネプテューヌの放蕩癖は治る気配を見せない。

 

 

「でもさー、毎回同じじゃ見てる人も飽きちゃうよ? マンガやアニメも入れたらこのパターン一万回くらいやってる気がするよ」

 

 

 ネプテューヌお得意のメタ発言。

 

彼女はこの手のネタを使うことが多い。

 

何故彼女がこのようは発言が出来るのは謎である。

 

 

「流石に一万回は盛りすぎだと思うよ……」

 

 

ネプギアは少しためらいながらもツッコミを入れるが、「いやいや! このシリーズも、もう十年過ぎてるし、それぐらいは行くでしょ」とネプテューヌは自分が叱られていることをドヤ顔で自慢する。

 

 

「それでも毎日三回は怒られてることになるんじゃないかな……」

 

 

 一年が365日、10年間毎日3回怒られたら10,950回、と丁寧に暗算して答えるネプギア。

 

 

「それにそんなに怒ったら、いーすんさんの胃が持たないよ」

 

 

 更に冷静にツッコミをするネプギア。

 

 

「……私も好きで怒ってる訳じゃないんですよ」

 

 

イストワールはそんな二人のやり取りをみて呆れたように言う。

 

 

「だったら、そろそろ別パターン考えない? わたしって褒めて伸ばすタイプだから褒めた方が良いと思うよ」

 

 

 ネプテューヌはさも名案というように自信満々に提案してくるが、「ネプテューヌさんを褒める要素がまるで見当たりません」イストワールはネプテューヌの提案を即答で切り捨てる。

 

その態度に情けはひとかけらも感じなかった。

 

 

「ガーン!」

 

 

 ショックを受けるネプテューヌ。

 

流石の彼女もこれには堪えたようだ。

 

 

「いいですか、ネプテューヌさん、【働かざる者食うべからず】女神様も同じです。シェアエネルギーが尽きたらどうするつもりなんですか?」

 

 

 シェアエネルギーは人々の守護女神に対する信仰心からなるエネルギーであり、守護女神の力の源である。

 

基本的にはクエストなどをこなして、国や国民を守り導くことで得ることが出来る。

 

つまり、イストワールの言うお仕事をしないとネプテューヌも弱っていく筈なのだが……。

 

 

「いーすんはわかってないな。わたしはありのままの姿が国民に受け入れられているんだよ。真面目に仕事をするわたしなんてわたしじゃないね」

 

 

 自らの不真面目をドヤ顔で宣言するネプテューヌは「それに、わたしみたいな美少女を養えるって、国民のみんなにとって至高の幸せだと思うよ」と続けて言う。

 

ネプテューヌ的には【今のままで十分にシェアエネルギーを確保できてるんだからいいじゃん】らしい。

 

 

「更に、わたし主人公だよ」

 

 

 更にネプテューヌは両手を腰に当てて自信満々に言い放つが、「主人公なら、少しはネプギアさんを見習ってそれ相応の働きをして下さい」とイストワールは素早くツッコミを入れる。

 

 

「いーすんは本当にわかってないなー。主人公っていうのはちょっと欠点があった方が共感が得られて人気が出るんだよ。逆にネプギアみたいな完璧超人は主人公としては失格なんだよ」

 

 

ネプテューヌがうんちくを語るように偉そうに言うと、「……私、完璧じゃないけど、お姉ちゃんに主人公失格って言われると落ち込むよ」とネプギアは【しゅん】と落ち込んでしまう。

 

 

「落ち込む必要ないってば、ネプギアには攻略難度Sクラスのヒロイン役が似合ってるよ。試しに【一緒に帰って、友達に噂とかされると恥ずかしいし】って言ってみて」

 

 

 ネプテューヌはそう言ってネプギアの肩を優しく叩くと、「さあ、言ってみて」ともう一度要望する。

 

 

「えっと……い、一緒に帰って、友達に噂とかされると恥ずかしいし?」

 

 

 ネプギアは訳も分からず、素直にネプテューヌの言う通りにしてしまう。

 

 

「いいねいいね! 今度は好感度上げて【家も隣同士だし、たまには一緒に帰ろうかなって】」

 

 

 調子に乗ったネプテューヌは更にネプギアに要望を出すと、「い、家も隣同士だし、たまには一緒に帰ろうかなって……?」とまたも要望に応えてしまうネプギア。

 

本当に素直な子である。

 

 

「いい加減にしてください!」

 

 

 イストワールは話を脱線させて妹で遊んでいるネプテューヌを注意する。

 

 

「仮にネプテューヌさんの言う通りだとしても、現に国民のみなさんからお仕事のお願いが届いているんです。これを何日も放置してどう顔向けするつもりですか?」

 

 

 イストワールは説得の方法を変えてみる。

 

確かにプラネテューヌでのネプテューヌの人気は相当なものである。

 

しかし、それだけでは女神は務まらない。

 

国民の要望に応え信頼を得る必要もあるのだ。

 

 

「ゲームに夢中でお仕事忘れちゃった~♪」

 

 

 ネプテューヌはそう言うと、自分の頭を軽く小突くと「てへぺろ」と舌を出してウインクする。

 

 

「はぁ~……」

 

 

 説得の方法を変えても相変わらずなネプテューヌに対して、イストワールは大きなため息を付き肩を落とす。

 

怒りを通り越して呆れている様だった。

 

 

「それに、わたしは国の象徴として君臨してればいいんだよー」

 

 

 ネプテューヌが自信満々に言い放つ。

 

しかし、「ネプテューヌさん、まさかとは思いますが、世の中の国の象徴と言われる王室や皇室の人々が一日中寝て食べて遊んでると思っているのですか?」とイストワールが冷ややかな視線を向ける。

 

 

「え? 違うの? 【パンがなければプリンを食べればいいじゃない】とか言ってればいいんだよね?」

 

 

 ネプテューヌが不思議そうに問い返すと、「……それはあんまり良い王妃様の言葉じゃないんだよ」とネプギアが困った顔でツッコミをする。

 

 

「冗談だよ冗談。国の象徴って言うのは、たまーにお祭りとかに出て、国民に手を振れば良い簡単なお仕事だよね」

 

 

 ネプテューヌが両手を後頭部に置きながら気楽そうに言うと、「はぁ~~……、そんなことだろうと思いました……」とイストワールが盛大なため息を吐く。

 

 

「え? 違うの?」

 

 

 ネプテューヌが心底不思議そうに問いかけると、「えっとね、書類の決裁とか、偉い人の任命とか色々な仕事があるんだよ。朝早いし残業もあるみたいだよ」とネプギアが説明をする。

 

 

「えー? 労働条件が聞いてた話が違うー。労働基準法違反だよー! 訴訟も辞さない!」

 

 

 ネプテューヌが右手を振り上げて抗議するようにいうが、「お姉ちゃん……誰も手を振るだけなんて労働条件出してないと思うよ……」とネプギアが至極真っ当なツッコミをしてくる。

 

 

「でもさ、女神って、もっと華やかな仕事をするべきだと思うんだよね。書類決裁は地味だし、モンスター退治も害虫駆除みたいじゃん」

 

 

 ネプテューヌは腕組みをしながら、【うんうん】と自分を納得させるように何度も頷く。

 

そして、「わたしにはスポットライトが似合う!」と訴えるように言う。

 

 

「はぁ……なんで、ネプテューヌさんは、ああ言えばこう言うんでしょうか……」

 

 

 イストワールはため息をつくと、心底困ったように右手で額を押さえる。

 

 

「それは、わたしの戦いが自由を求める崇高なものだからだー!」

 

 

 イストワールの愚痴に素早く訴えるネプテューヌ。

 

しかし、「仕事をしたくないから、駄々をこねているだけじゃないですか!」と即座にイストワールに反論されてしまう。

 

ネプテューヌは負けじと、「そんなことないよー。わたしは、いーすんからの不等な圧力には断じて屈しない!」と右手で力強いガッツポーズを作る。

 

 

「お姉ちゃん、その情熱を少しでもお仕事に傾けられないかな? そうすれば全て解決すると思うんだけど……」

 

 

 二人を見ていたネプギアがそう提案をするが、「無理」と即座にネプテューヌに切り捨てられてしまう。

 

 

「即答なの!?」

 

 

 あまりの切り捨てぶりに驚きの声を上げてしまうネプギア。

 

 

「我が軍に降伏の二文字はない! さあ、働かざる者達よわたしに続け! もしも、わたしが倒れるような事があれば、わたしの屍を越えてゆくのだ!」

 

 

 ネプテューヌが演説をするように両手を広げながら言うが、「……屍になるくらいなら素直に働いた方が良いと思うんだけど……」とネプギアに呆れた声でツッコミを受けてしまう。

 

 

「わたしには自分の世界があるんだよ。例えるなら、空をかける一筋の流れプリンなんだよ!」

 

 

 そんなネプギアに対して、意味不明な主張をするネプテューヌ。

 

ネプギアは律義にも、「流れプリンって? プリンって空を流れるものなの?」と話しに乗ってくる。

 

ネプテューヌはネプギアの疑問に両手を腰に当てて自信満々に、「流れるよー。宇宙魔界には他にもハンバーガーやお寿司も流れてるだから」と答える。

 

 

「宇宙魔界って、日本一さんやがすとさんが話してくれた、戦女神リーゼリアルと犬魔王カナタの話だよね」

 

 

 ネプギアはネプテューヌの話から、かっての仲間から聞いた話を思い出す。

 

するとネプテューヌは、さも当然かのようにドヤ顔で、「そう、その宇宙魔界にプリンが流れてるから、ゲイムギョウ界の空にもプリンは流れるんだよ」と宣言する。

 

ネプギアは右手の人差し指を唇に当てながら、「そういうものなのかな?」と半ば納得してしまったようだ。

 

こんな感じで少々流されやすいところのあるネプギアは、しょっちゅう姉の勢いに流されて、いろいろなデタラメを信じてしまう。

 

 

「うーん。ネプギアにはまだ早かったかな? とにかく、孤独な笑みをプリンにさらして、背中で泣いてる、わたしの美学なんだよ」

 

 

 イマイチ煮え切らないネプギアに対して更なる追い打ちをかけるネプテューヌ。

 

しかし、ネプギアは困った顔で、「そっちもよく分からないよ」と首を傾げてしまう。

 

 

「風をはらい、荒れ狂うプリンの世界で、都会の闇に体を溶かして、プリンを食べてる、わたしの美学の方がよかった?」

 

 

 そんなネプギアにまたも追い打ちをするネプテューヌだが、「えっと、プリンは街の暗いところで食べない方がいいと思うよ」とネプギアからやや的の外れたツッコミを受けてしまう。

 

 

「ネプギアさんで遊ばないで下さい!」

 

 

 さすがのイストワールも堪忍袋の緒が切れるて大声でネプテューヌを叱る。

 

そして、「はぁ……」とため息を吐いて、「まったく困ったものです……そもそもどこが不等なんですか? 私は国民から選ばれた教祖としての義務を果たしているだけです」と呆れた声を上げる。

 

 

「とか言いながら、本当はわたしに期待してるんでしょ。なんてったって、わたしは主人公だからね。わたしが居ないとゲイムギョウ界は始まらないよ」

 

 

 ネプテューヌはそう言いながら期待を込めた眼差しをイストワールに送る。

 

しかし、「いえ、国を治めてくれるなら、ネプテューヌさんでなくても構いませんよ」とイストワールは冷ややかな対応をする。

 

 

「もー、いーすんのツンデレ~」

 

 

 ネプテューヌはイストワールが照れ隠しにそんな冷たい態度を取っているのだと言った感じで言うが、「……」とイストワールは冷たい沈黙を返すだけだった。

 

ちなみにツンデレとは、特定の人間関係において敵対的な態度【ツンツン】と過度に好意的な態度【デレデレ】の二つの性質を持つ様子、またはそうした人物を指す。

 

 

「え……なに? その沈黙は?」

 

 

 さすがのネプテューヌもイストワールの沈黙に不安げな物言いをしてしまう。

 

そこに、「そう言えば、ゴールドサァドの人達がゲイムギョウ界を治めてた時、いーすんさん、お姉ちゃん達のこと憶えてたのに、探さずに普通にビーシャさんと一緒にプラネテューヌ治めてたような……」とネプギアが無自覚の追い打ちをかけてくる。

 

 

「ネプギアーーー! それ今言う必要ある?」

 

 

 悲しさ全開の絶叫をするネプテューヌ。

 

ネプギアは今になって失言に気付いたらしく、「あっ、ごめんね。つい……」と胸の前に両手を出して、申し訳なさそうに【あわあわ】と左右に振る。

 

以前のユニの時もそうであったが、ネプギアは素直で真面目過ぎるゆえの無自覚な毒舌がたまにある。

 

ちなみにビーシャとはゴールドサァドの一人で以前に出たシーシャの友人でもある。

 

四年前ゴールドサァドは守護女神に代わり四つの国を治めていたことがある。

 

その際に人々の記憶から女神の記憶が無くなっており、素直にゴールドサァドの統治を受け入れていたのだ。

 

しかし、イストワールはネプテューヌのことを憶えていたのだが、プラネテューヌの統治を優先し、特別なアクションを起こさずにゴールドサァドに従っていたのだ。

 

 

「お姉ちゃん、少しはやる気出そうよ。このままじゃ、いーすんさんかわいそうだよ」

 

 

 基本的にネプテューヌの味方であるネプギアだが、今回はさすがにイストワールが気の毒なのでイストワールに味方することにしたようだ。

 

 

「えー? ネプギアまでそんなこと言うのー?」

 

 

 ネプテューヌは不満そうに口を尖らすが、「だって、いーすんさん本当にかわいそうだし……」ネプギアは真剣にイストワールのこと思って悲しい顔をする。

 

 

「あー! そんな顔しちゃダメダメ。ネプギアは笑ってた方がかわいいよ」

 

 

 ネプテューヌは手を横に振りながらそう言うが、「だって……」と言ってネプギアは黙ってしまう。

 

 

「仕方ない。それじゃ、クエストに行こうかなーー」

 

 

 ネプテューヌが観念したかのように立ち上がって伸びをすると、「本当!」ネプギアの顔が喜びの表情に変わる。

 

 

「ほんとほんと」

 

 

ネプテューヌはそう言うと、直後に「うっ!」と、呻いてお腹を抱えてうずくまる。

 

 

「お姉ちゃん? どうしたの!」

 

 

 ネプギアはとっさに心配の声を上げると、「クエストに行こうとしたらお腹が……これはちょっと無理かも……」とネプテューヌはさも残念そうに言う。

 

ネプギアも、「そんな……」と落胆の声を出す。

 

 

「ああっ……だれか代わりにやってくれないかな……」

 

 

ネプテューヌはうずくまりながらそう言うと、「チラッチラッ」と言ってネプギアに視線を向ける。

 

 

「へ? 私?」

 

 

 ネプギアはキョトンとした顔で言うと少し考えるような仕草をして、「ええと、お姉ちゃん行けそうもないので、私に出来るお仕事でしたら私がやりますけど……」とイストワールに提案する。

 

優しく純粋なネプギアは人を疑うことを知らない。

 

 

「……そうですね……お願いできますでしょうか」

 

 

イストワールからすれば、ネプテューヌは行動はバレバレの芝居なのだが、それを指摘するもの疲れたようで素直にネプギアの提案に乗る。

 

 

「やったー! じゃ、お姉ちゃんはゲームの続きしてるねー!」

 

 

 ネプテューヌはこれ幸いとバンザイするとゲームに戻る。

 

遊びに夢中のネプテューヌ。

 

それを諫めるイストワール。

 

両者の間を取り持って仕事に励むネプギア。

 

プラネテューヌではこれがいつもの光景である。

 

 

「あ、そうだ。お姉ちゃん、お昼ご飯できてるよ」

 

 

 ネプギアが本来の目的を思い出してネプテューヌに伝えると、「これが終わったら行く~」ネプテューヌはゲームをしながらそう言う。

 

 

「それでは私達二人で先に食べてしまいましょう。それで食休みをしたら一緒に行きましょうか」

 

 

 イストワールはそう言ってネプギアの顔の真横まで飛んでくると、「え? いーすんさんも来るんですか?」と自分一人で行くつもりだったネプギアはイストワールの同行を驚く。

 

 

「最近は運動不足ですし、何よりストレスが溜まっていますから」

 

 

 イストワールはちらりとネプテューヌの方を見るが、肝心のネプテューヌは我関せずの顔で口笛を吹いてゲームをしている。

 

 

「あはは……発散のお手伝いが出来るよう頑張ります」

 

 

 ネプギアは苦笑いを返しながらそう言ってイストワールと一緒に食事の置いてある部屋に向かった。

 

 

****

 

 

 昼食をとりながらネプギアはプラエのことをイストワールに話した。

 

 

「……まずはネプギアさん」

 

 

 食事を終えて専用の箸を置いたイストワールが神妙な顔でネプギアを見ながら口を開く。

 

 

「はい……」

 

 

 同じく食事を終えたネプギア。

 

こういう時は軽くお説教をされると知っているので、元気のない返事をしながら小さくなる。

 

 

「プラネタワーは国の中枢であり、国家機密も山ほどあります。その内部に部外者を入れるというのは感心できませんよ」

 

 

 ネプギアの予想通りお説教を始めるイストワール。

 

更に、「それが例え衰弱した子供とは言えです。病院なり他に適切な方法があったと思います」と言葉を続ける。

 

 

「……ごめんなさい。以後気を付けます」

 

 

 素直に頭を下げて謝るネプギア。

 

プラエのことを信用していたとは言え、少し軽率であったことは彼女も理解したようだ。

 

 

「教祖としてのお説教はこれぐらいにしまして……」

 

 

 イストワールの表情がにこやかなものに変わると、「困った子供を助けるという行為、一人の人としてとても感心できます。よくできましたね、ネプギアさん」とネプギアを褒める。

 

その姿は子供を褒める母親のようであった。

 

 

「街中でも目立っていたらしく、モンスター退治と合わせて、【みんつぶ】で話題になっていますよ」

 

 

 イストワールは更に笑顔になってネプギアを褒めた。

 

時には叱ることもあるが、基本的にはネプギアは褒められることの方が多い。

 

イストワールとしても、ネプギアを褒めるとネプテューヌの相手で溜まったストレスが癒されるので少々ネプギアには甘いところもある。

 

ちなみに【みんつぶ】とは色々なことを呟けるゲイムギョウ界のSNSで、現実世界のツイッターのようなもの。

 

大抵の人が自分によく似たアバターを使い他者との交流を行っている。

 

イストワールは人口生命体の能力で、手を使わずにこのようなSNSの閲覧ができるので、食事をしつつ、ネプギアの話を聞きながらも、みんつぶを見ていたのだ。

 

 

「本当だ。好意的な意見がいっぱい……うれしいな」

 

 

 イストワールに言われて、Nギアを使って、みんつぶを確認するネプギア。

 

そこには好意的な意見が山ほど書かれていた。

 

 

「あっ……なんだかシェアエネルギーが上がっている気がします」

 

 

 ネプギアがつぶやく。

 

ネプギアの行為が、みんつぶで拡散されたことにより彼女に対する信仰が上がり、シェアエネルギーを得ることが出来たのだ。

 

 

「ふふっ、この調子でよろしくお願いしますね」

 

 

 イストワールはそう言って微笑むと、「それではプラエさんと直接面会をしましょうか」と提案をする。

 

 

****

 

 

 昼食をとったネプギアとイストワール。

 

二人はプラエに会う為にネプギアの部屋を訪れていた。

 

休息の為にベッドに座った状態のプラエの側でネプギアとイストワールが立って会話をしている。

 

 

「なるほど……。話はわかりました」

 

 

 イストワールが納得したように小さく頷く。

 

プラエ本人を交えた三人で今までの経緯を事細かにイストワールに話したのだ。

 

 

「それでプラエちゃんのこと暫く預かりたいんですけど、どうでしょうか?」

 

 

 ネプギアがイストワールに尋ねる。

 

イストワール少し申し訳なさそうな顔をして、「申し訳ありませんが快諾は出来ません。身元を始め不明な要素が多すぎます」と冷静に答える。

 

 

「……っ」

 

 

 プラエはイストワールの言葉に、しゅんと縮んでしまう。

 

ネプギアもガックリと肩を落とし、「そんな……」と呟く。

 

 

「分かってください。私は教祖として女神様の安全を最優先する義務があるんです」

 

 

 イストワールはそう言うと、「最低でも、本人か保護者の身分証明書を提示していただきませんと」と続ける。

 

更にプラエを見ると、「プラエさん、貴方は何者なのですか? 時間を操る超能力者であり、外見も十歳以上に見えません」と質問をする。

 

 

「プラエはプラエなの。気付いた頃から時間と友達なの……」

 

 

 プラエがハの字眉毛の困った顔で質問に答えると、イストワールもハの字眉毛の困った顔で、「やはり、保護者と思われる、葛切あんみつさんからお話を伺うしかないですね」と言う。

 

 

「幸い、葛切あんみつという名前には聞き覚えがあります」

 

 

 イストワールが続けて言うと、ネプギアもプラエも驚いた顔をし、「そうなんですか?」とネプギアが尋ねる。

 

イストワールは小さく頷き、「はい、フィナンシェさんから伺ったことがあります」と答える。

 

フィナンシェとはルウィーと言う国に勤めるメイドで主に守護女神達の世話をしている女性だ。

 

イストワールとも交流があり、何年も前からメル友として交流をしている。

 

 

「今からすると十年以上前の友人で犯罪組織の暴漢から逃げる時に囮になって自分を逃がしてくれたと。その後音信不通で探し続けているけど見つからないと嘆いておりました」

 

 

 イストワールの説明に、「それなら、フィナンシェさんも大喜びですね」とネプギアがフィナンシェとあんみつが再開できることを、まるで自分のことかのように喜ぶ。

 

 

「ええ、それにフィナンシェさんにあんみつさん本人であることを確認出来た上で、あんみつさんに身分証明書を提示していただければ、身元の保証が出来ます」

 

 

 イストワールがそう言うと、ネプギアは明るい声で、「そうすれば……!」と言う。

 

イストワールはネプギアの言葉に頷くと、「はい、お二人のご希望を叶えることが出来るでしょう」と微笑む。

 

 

「そうなの!」

 

 

 プラエは喜びの声を上げると、「プラエどうしたらいい? 何したらいいの?」と逸る気持ちを抑えられないかのようにイストワールに問いかける。

 

イストワールは右手で軽くプラエを制すると、「できれば、あんみつさんのお写真などをいただけないでしょうか? フィナンシェさんをお呼びするにも何か証拠が欲しいので」と言う。

 

 

「あんみつの写真ならあるよ!」

 

 

 プラエはいそいそと服の下に入っていたペンダントを取り出して外そうとする。

 

 

「んしょんしょ!」

 

 

 逸るあまりペンダントを上手く取り出せないプラエを見かねたネプギアは、「プラエちゃん、落ち着いて。深呼吸」と優しく語り掛けながら彼女の肩に右手を置く。

 

 

「うんっ……すぅはぁすぅはぁ……すぅぅぅ……はぁぁぁぁ……」

 

 

 プラエは素直にネプギアの言うことを聞いて深呼吸を始める。

 

 

「しょっと、……このペンダントの中にプラエと姉さま、それと、あんみつが映ってる写真があるよ」

 

 

 深呼吸のおかげか、落ち着きを取り戻したプラエはスムーズに服からペンダントを取り出し、首からそれを外すと、「これだよ」とネプギアに手渡す。

 

 

「それじゃあ、ちょっと見せてもらうね」

 

 

 ネプギアはそう言いながらペンダントを開ける。

 

そこには一枚の写真が入っており、今とまったく変わらない姿のプラエが椅子に座り、その右隣に長身で赤いゴスロリ衣装の銀髪の女性、左隣に黒髪で和服の女性が立っていた。

 

 

「この黒い髪の人があんみつさん?」

 

 

 ネプギアは写真の和服の女性を指差してプラエに尋ねる。

 

プラエは、「うん」と頷き、「あんみつはプラエと姉さまに仕えるメイドで、大和魂の大和撫子で武士道なの」と答える。

 

 

「確かに、和メイドって感じだね」

 

 

 ネプギアが頷きながら納得する。

 

よく見ると、着物の上ににエプロンを付けてメイドカチューシャを付けている。

 

その姿はお洒落な甘味処の店員によく見られる和メイドの姿であった。

 

 

「大和魂の大和撫子で武士道……フィナンシェさんの言っていた口癖とも一致します。同一人物である可能性が極めて高いですね」

 

 

 イストワールが右手にあごを当てながら頷く。

 

ネプギアはその言葉に笑顔を浮かべると、「それじゃあ、この写真を画像データにして、見やすいように加工したら、いーすんさんに送りますね」とNギアを操作する。

 

 

「反対側の銀髪の方がプロテノールさんですか?」

 

 

 イストワールがプラエに尋ねると、「うん、姉さま。見たことあるの?」とプラエが期待を込めた声で尋ねる。

 

イストワールは少し困った顔をして、「申し訳ありません。今の私のデータベースに該当する方はおりません」と謝ると、プラエは、「そうなの……」とガックリとうなだれてしまう。

 

 

「しかし、十年前の無名だった頃のネプギアさんを知り、ネプギアさんが今の理想を持つであろうことを見抜いていた人物……謎ですね」

 

 

 イストワールが難しい顔で腕を組んで首を傾げる。

 

 

「それにしても、二人とも綺麗な人だね」

 

 

 Nギアの操作を終えたネプギアがプラエにペンダントを返しながら言う。

 

続けてイストワールに、「写真のデータ送りました」と伝えた。

 

 

「了解しました。早速フィナンシェさんにメールを送っておきます」

 

 

 イストワールがそう言うと同時に、彼女の目の色が薄い緑色になり瞳の中に電波のような波が描かれる。

 

これは人口生命体であるイストワールが機械的な能力を使う時に現れる現象である。

 

フィナンシェへのメールを作成し、それを送信しているんだろう。

 

 

「あんみつさんは、綺麗で長い黒髪に着物が似合ってて素敵だし、プロテノールさんは褐色の肌にプラチナに近い長い銀髪が神秘的で凄くカッコいい」

 

 

 ネプギアが再度、あんみつとプロテノールの容姿を褒めると、「うん、あんみつも姉さまも素敵な人だから」とプラエが自分のことのように嬉しそうに微笑む。

 

そしてプラエは両手でネプギアの右手を握ると、「姉さまの肌の色を差別しないネプギアお姉さんは、やっぱりいい人」と言う。

 

 

「肌の色? 差別???」

 

 

 ネプギアが心底不思議そうに首を傾げる。

 

するとプラエはネプギアからゆっくりと手を離し、「本当はプラエもよく分からないんだけど、姉さまのように黒やそれに近い肌の人はカラードとか呼ばれて差別されるって言ってた」と説明をしてくれる。

 

 

「そんな肌の色だけで……」

 

 

 ネプギアが悲しそうな顔をすると、「悲しい話ですが事実です」とメールを送信し終わったイストワールが話に加わってくる。

 

 

「人は自分と違う者を恐れ排他する習性があります。そして、黒や灰色の肌は悪魔や魔物を連想させると蔑まれるのです」

 

 

 イストワールがそう言うと、「姉さまは強く気高い人だから自分の肌の色に誇りを持って、差別された人達の拠り所になって戦い続けてるって言ってた」とプラエが言う。

 

イストワールは右手をあごに当てて考える仕草をすると、「そのあたりから、何かの事件に巻き込まれた可能性もありますね」と呟く。

 

 

「そんな……」

 

 

 プラエが悲しそうに言うと、ネプギアは優しい声で、「きっと大丈夫だよ。プロテノールさんはプラエちゃんを置いて行ったりしないよ」とプラエを励ます。

 

プラエを励ましつつ、ネプギアは別のことを考えていた。

 

 

(確かに私の親しい人達って、私と同じ黄色人種かベールさんやプラエちゃんみたいな白色人種だ……)

 

 

 ネプギアは次に黒や灰色の肌の人物がいないか記憶を探るが出てきた四人は全員ネプギアと敵対した者だった。

 

 

(黒い肌はクロワールさん、灰色の肌は下っ端にマジック・ザ・ハードとマジェコンヌ……)

 

 

 クロワールは今はある人物に捕まって改心してるかもと思えるが、他の三人は改心したとは言い難かった。

 

ネプギアはそこまで考えると、肌の色に人格が関わっているのかもと思ってしまう。

 

 

(…そんな筈ない。肌の色だけで人格が決まるなんて、そんな差別的な考え方よくないよ)

 

 

 そんなふうに思っていると、プラエが心配そうな顔でネプギアを見てくる。

 

 

「ネプギアお姉さん、どうしたの? 何か辛そうな顔してる」

 

 

 プラエの言葉に、「……心配させちゃってごめんね。ただ、私の会った灰色の肌の人達は前に言った犯罪組織の関係者が多くて……」とネプギアは少し落ち込んだ声を出す。

 

 

「姉さま言ってたよ、差別されると人格が歪んで悪い人になっちゃうって。だから、姉さまはその悪い連鎖を断ち切る為に戦うって」

 

 

 プラエがそう言うと、ネプギアは【ハッ】とした顔になり、「そっか、プロテノールさんってカッコいいだけじゃなくて立派な人なんだね」とただ沈んでいた自分に対して、行動をおこしていたプロテノールを尊敬するように言う。

 

プラエは誇らしげに、「うん、姉さまは立派な人」と言うが、すぐに声のトーンを落として、「でも、姉さまのやり方だけじゃきっとダメなんだと思う。だから、姉さまとネプギアお姉さんを合わせて二人の力で新しい道を探して欲しいと思う」と続ける。

 

 

「そっか、私もプロテノールさんに会って色々お話したいな。そうすれば、私の迷いや弱いところも改められる気がする」

 

 

 ネプギアが心の底からそう思い頷きながら答える。

 

 

「お話は変わりますが、あんみつさんと連絡を取る方法はありますか? 出来れば今すぐにスマホか携帯ゲーム機で直接話せれば良いのですが……」

 

 

 イストワールが話を、あんみつのことに戻す。

 

プラエは申し訳なさそうに、「ごめんなさい。プラエ、スマホも携帯ゲーム機も持ってないの」と答える。

 

イストワールは、「あんみつさんは?」と尋ねるが、「あんみつも持ってない……と思う。プラエ達、森の中に隠れるみたいに暮らしてるから」とプラエが答える。

 

 

「でも、お家にはプラネテューヌの街に行ってきますってメモしてきたから、お買い物から戻ってきた、あんみつがそれを見てプラエを探しに来てるかも」

 

 

 プラエの話に、「そうですか……」とイストワールは肩を落とす。

 

しかし、すぐに頭を切り替えて「街やみんつぶで、ネプギアさんとプラエさんのことは話題になっていましたし、ギルドや衛兵達にも、あんみつさんを見かけたら連絡するようお願いしておきましょう」と提案する。

 

同時にイストワールの目が先ほどと同じ薄い緑色になり通信モードに変わる。

 

ギルドや衛兵へ連絡をしているのだろう。

 

 

「オハナシチュウモウシワケアリマセン。プラエサマニヒロウノイロガミラレマス。キュウケイサレルコトヲテイアンシマス」

 

 

 今まで黙っていたネプギアンダムがそう言うと、「プラエ別に疲れてなんか……」とプラエが抗議しようとするが、「無理しちゃダメだよ。ネプギアンダムのメディカルチェックは優秀なんだから」とネプギアが右手でプラエをベットに寝かせるように優しく制する。

 

 

「……うん……ちょっと疲れたかも」

 

 

 プラエはそう言いながら、ネプギアに促されるままにベッドに横になる。

 

 

「それでは、プラエさんはネプギアンダムに任せて、私達はクエストへ向かいましょう」

 

 

 通信を終えたイストワールがそう言うと、「行っちゃうの?」とプラエが少し寂しそうに言う。

 

 

「ごめんね。また困ってる人がいるから助けに行かなきゃいけないの」

 

 

 ネプギアがそう言うと、「うん、わかった。プラエいい子で待ってるから早く帰ってきてね」とプラエは素直に聞き分けをしてくれる。

 

 

「……本来なら、ネプテューヌさんが行くべきクエストで、ネプギアさんはプラエさんを診るなり、あんみつさんを探すなり出来た筈なんですけどね……」

 

 

 そんな二人を見ながら、イストワールが肩を落とす。

 

ネプテューヌの放蕩ぶりは勿論、それを止めることの出来ない自分の無力さを嘆いてるようだ。

 

 

***

 

 

 ネプギアとイストワールはプラネタワーを後にしてプラネテューヌの街に出かける。

 

プラネテューヌの街は一見平和のようだが、国のトップのネプテューヌがあんな感じな上に突如ナナメ上の発想で突き進み産業や貿易で大きな赤字を出すことがある。

 

その度に教祖であるイストワールが頭を悩ませながら国を立て直している。

 

イストワールが居なければ、この平和も発展もなく、他国の侵略を受けていたかもしれない。

 

 

「ところで今日のお仕事はどうでしたか?」

 

 

 イストワールはネプギアの午前中の仕事が気になったので尋ねてみると、「はい、特に問題なく終わりました。明日の予定もバッチリです」ネプギア素早く答える。

 

 

「流石はネプギアさんですね」

 

 

 ネプギアの期待通りの答えにイストワールは嬉しそうに頷く。

 

ネプギアは、「これぐらい普通ですよ」と謙遜すると「ところで、書類の決裁で聞きたいことがあるんですけど……」と尋ねる。

 

イストワールは優しい声で、「なんでしょう?」とネプギアの質問を聞こうとする。

 

二人はそんなふうに仕事の進捗の確認や質問を交わしながらプラネテューヌのギルドに向かう。

 

 

「それにしても、ネプテューヌさん宛のクエストならネプテューヌさんにやらせた方がいいと思いますけど」

 

 

 イストワールがネプギアに忠告をする。

 

ネプギアは午前中にギルドを訪れた際に、是非ともネプテューヌにやってほしいというクエストを数件見つけたのだ。

 

依頼者からの冒険者や女神の指名は自由であり、その辺りの調整もギルドの仕事である。

 

基本的には難易度の高いクエストが女神に回されるが、その中でも指名があると優先度が高くなる。

 

ネプテューヌは人気があるので、彼女に仕事を頼む者は多いのだが、本人があの調子なのでクエストが停滞を起こしており、ギルドも教会まで連絡ができずに一般冒険者を頼っている。

 

ネプギアはそのクエストも受けたいとイストワールに懇願したのだ。

 

 

「こんなことをしても、ネプテューヌさんの為にならないと思いますが……」

 

 

 イストワールが再び忠告をする。

 

あまり姉を甘やかせない方がいいと言いたいようだ。

 

イストワールの言いたいことを理解しているネプギアは小さく苦笑いをしながら、「でも、やるならいっぺんにやった方が効率がいいと思うんです」と答える。

 

 

「それはそうですが……」

 

 

 なおも難色を示すイストワール。

 

ネプギアは真面目な顔で、「それに困ってる人は一日でも早く助けたいですから」と言う。

 

 

「ですが、ネプテューヌさん宛のクエストであり……」

 

 

 まだ納得をしてくれないイストワールに、「サンタさんだって忙しいから、お父さんやお母さんが代わりをしてくれるんじゃないですか。それと同じです」とネプギアが大真面目な顔で言う。

 

見ての通り、ネプギアは今でもサンタクロースを信じている。

 

彼女はボランティアでプラネテューヌの子供にプレゼントを配ることもするが、それはあくまでもサンタクロースの代わりであり、本当はサンタクロースがいないからと思っているわけではない。

 

サンタクロースが来ないのは、彼が本当に恵まれない子供たちに優先的にプレゼントを配って忙しい為だと思っている。

 

その為、女神が庇護してるプラネテューヌの子供に関しては自分達が代わりをすべきだと考えているのだ。

 

サンタクロースが来ないから居ないじゃなく、彼にも理由があると考え、更にそれを手助けしようという考えに至るのは彼女らしいと言えば彼女らしい。

 

イストワールはそんなネプギアのピュアな心にほだされたようで、「わかりました……」と渋々と折れる。

 

 

(不真面目なサンタクロースもいたものです……)

 

 

 イストワールはネプテューヌのことをサンタクロースに当てはめて、心の中で愚痴をこぼした。

 

 

 

****

 

 

 

 ギルドに着いたネプギア達は建物の中に入る。

 

午後になったおかげか、何人かの冒険者がクエスト探して端末を操作していた。

 

 

「こんにちは」

 

 

 ネプギアはそんな冒険者達に明るく声をかける。

 

冒険者達は、「こんにちは!」、「お疲れ様です」などと返事を返したり労いの言葉をネプギアにかけてくれる。

 

ネプギアはカウンターに向かい、「こんにちは」と午前中も対応をしてくれた受付の男性に声を掛ける。

 

 

「あっ! ネプギア様、今日は本当にありがとうございます。おばあさんも喜んでましたよ」

 

 

 男性はネプギアの姿を見つけるなり、嬉しそうに声を掛ける。

 

どうやらあの後、老婆に請求の連絡をしたところ大変感謝をされてようだ。

 

 

「なにかあったのですか?」

 

 

 イストワールは男性の態度が気になり、ネプギアに問いかける。

 

ネプギアは、「おばあさんが壊れた古時計を直して欲しいって、一般向けのクエストがあったんですけど、それを私が受けたんです」と午前中の出来事をイストワールに話す。

 

このクエストはプラエとほぼ関係なので、先程の説明からは端折られていた。

 

 

「おじいさんとの思い出の時計だったそうで、一刻も早く治してあげたくて……勝手なことしてごめんなさい」

 

 

 ネプギアは女神でありながら雑用的なクエスト受けてしまったことをイストワールに謝る。

 

前述したが、女神はそれ相応のクエストを受けるべきだし、このような雑用までしてしまったら、依頼者からの女神に対する指名も増えてギルドにも迷惑が掛かるのだ。

 

 

「謝ることはありませんよ。時にはこういった小さな人助けも大切です。でも、本来のお仕事に影響しない程度でお願いしますね」

 

 

 しかし、イストワールはネプギアの行動を認めつつも、軽くたしなめる。

 

ネプギアの優しさを尊重し、その判断を信用している言葉であった。

 

前述もしたが、やはりイストワールは少々ネプギアには甘い。

 

 

「おばあさんには女神様の立場を伝えた上で、今回は特別ですよと説明しておいたので大丈夫でしょう」

 

 

 受付の男性はそう言うと、今度は不思議そうな顔で、「それにしても、午後もクエストですか?」とネプギアに尋ねる。

 

更に今度は心配そうな顔になると、「少しは休まれた方がいいですよ」と毎日真面目にクエストをこなしているネプギアの体を心配するように言った。

 

 

「えっと……忘れてたお仕事があって……」

 

 

 ネプギアは流石に姉の仕事を肩代わりとは言いにくいので、言葉を濁す。

 

しかし、「ははーん、さてはネプテューヌ様がまたサボってるんだな」と受付の男性はお見通しと言わんがばかりにネプギアの隠し事を言い当てる。

 

更に、「それで教会に送ったクエストと合わせて、ギルドにあるネプテューヌ様宛の仕事も片づけておこうってところですかね」とズバリとネプギアの行動を全て当てて見せる。

 

 

「ど、どうしてわかったんですか!」

 

 

 ネプギアは心底驚いたようだが、「ネプギア様はわかりやすいからな。それにネプテューヌ様の仕事の代わりなんて昨日今日の話じゃないですしね」と受付の男性は笑いながら言う。

 

 

「そんなに分かりやすいかな私……」

 

 

 ネプギアはそう言うと両手を頬に当て肩を落とす。

 

良くも悪くも素直なネプギア、隠し事はあまり得意な方ではない。

 

 

「そんなに落ち込まないで下さいよ。それにこちらでも今日が期限のクエストを把握してますから、いつネプテューヌ様が来るか待っていたんですから」

 

 

 受付の男性がそう答えると、ネプギアは、「あっ……」と呟きながら気まずそうな顔をする。

 

とっさのことは言え、隠し事をする相手が悪かったようだ。

 

 

「ギルドにもご迷惑をお掛けしているようで申し訳ありません」

 

 

 ネプギアの横にいたイストワールが受付の男性に頭を下げるが、「こんなのプラネテューヌでは日常茶飯事だぜ」と男性はイストワールに対して陽気に笑いかける。

 

 

「やっぱり、お姉ちゃんはありのままが受け入れられているんですね。私も見習わなきゃ」

 

 

 そんな男性の姿に、ネプギアは目を輝かせて姉に感心する。

 

ネプギア姉びいきは少々度が過ぎており、冷静に考えれば明らかにダメなことでもネプテューヌのすることなら感心してしまうことたまにある。

 

 

「見習わないで下さい! ネプギアさんがネプテューヌさんみたいになってしまったらプラネテューヌはお終いです」

 

 

 イストワールは、そんなネプギアに慌ててストップを掛ける。

 

受付の男性はそれを見ながら、「ははは、違いない」と笑うと、「今のプラネテューヌの女神様へのお仕事は全部ネプギア様が片付けているからな」とイストワールの意見に同意する。

 

 

「笑い事ではありませんよ」

 

 

 イストワールが眉を八の字に曲げると、そこにネプギアが、「でも、国民のみなさんには受け入れられていますし……」とそれとなくネプテューヌをフォローする。

 

 

「そこが問題なんです! 国全体がこんな状況に馴染んでしまったら、国家としての成長が望めなくなります!」

 

 

 しかし、イストワールはすぐさまにネプギアに反論をぶつけると、「はいっ!」とネプギアはイストワールの剣幕に圧されて思わず背筋が伸びてしまう。

 

 

「現にプラネテューヌの競争力はゲイムギョウ界で最下位なんです!」

 

 

 イストワールはそう叫ぶと、「それをなんとか改善しようと、毎日頭を悩ませているのにネプテューヌさんときたら……」とブツブツと愚痴を言い始める。

 

イストワールが危惧しているのはネプテューヌが仕事をしないことがプラネテューヌで当たり前になり、国の成長や競争力が失われることである。

 

 

「あぅぅ……やぶへびだったかな……」

 

 

 荒々しく肩を怒らせるイストワールを見ながら、ガックリと肩を落とすネプギア。

 

 

「ええと……ネプテューヌ様へのお仕事って言うとこれでいいのかな」

 

 

 受付の男性が苦笑いをしながらキーボードを操作すると、カウンターのモニターにクエストの詳細が書かれている画面を映し出される。

 

 

「はい、間違いありません」

 

 

 ネプギアが気を取り直すと画面を確認してOKを出す。

 

ネプギアはNギアを取り出して受注を済ませ、「えっと……採取クエストが二件ですね」とクエストの内容を確認する。

 

 

ピロリロリン!

 

 

 ネプギアがクエスト確認している最中に、Nギアから電子音が鳴ると、「達成したクエストがあります」と電子音声が聞こえてくる。

 

 

「あっ、この採取クエストのアイテム、私持ってます。さっきのひよこ虫との戦いで手に入れたみたいです」

 

 

 ネプギアはそう言うとNギアを操作する。

 

すると、Nギアから動物の皮らしき物が出てくる。

 

倉庫サービスのポケットを利用して取り出したものである。

 

ネプギアがその皮をギルドのカウンターに置くと「はい、これで間違いありません」と受付の男性は嬉しそうに頷く。

 

 

「オーバーキルのボーナスアイテムかな? プラエちゃんに感謝しなきゃ」

 

 

 ネプギアが嬉しそうに呟く。

 

先程のオーバーキルだが、シェアや加護の他にも、対象の落とすアイテムが増えることがある。

 

それがボーナスアイテムであり、これにより女神以外の冒険者なども積極的にオーバーキルを狙うことがある。

 

とは言えオーバーキルはスタミナやMPを大量に消費するので、ボスのトドメにするのがセオリーである。

 

ちなみに、最初にクエストを確認したときは、ひよこ虫と戦う前だったので、このアイテムを所持していなかったのだ。

 

 

ピロリロリン!

 

 

 続けてNギアから電子音と共に「クエストに必要なアイテムが合成可能です」と電子音声が聞こえてくる。

 

 

「このクエストも達成可能みたいです。これもボーナスアイテムのおかげかな」

 

 

 ネプギアそう言うと、またNギアを操作して機械の部品と工具を呼び出す。

 

 

「今作っちゃいますね」

 

 

 ネプギアはそう言うと部品をカウンターに並べ工具を手に鮮やかに手つきで部品を組み立てて行く。

 

 

「できました!」

 

 

 あっという間に筒形の機械が出来あがる。

 

ネプギアはその機械をカウンターに置くと、「ん? ちょっと違うようですけど……」受付の男性は今度は訝しげにその品物を見る。

 

 

「あっ! わかりますか! 実は出力が30%増しで追加機能が…」

 

 

 ネプギアは男性の表情を無視して嬉しそうに語りだす。

 

プラエと話した時にもあったが、機械の話になると我を忘れて生き生きするのはネプギアの癖である。

 

 

「と、とにかく凄いのはわかりました……依頼主にはよく説明しておきます」

 

 

 受付の男性はネプギアに気圧されながら何とか話を切り上げるが、「電子マニュアルもありますから安心ですよ」とネプギアは男性の引き気味な態度に気付かずニコニコしながら説明を続ける。

 

 

「クエストに必要なアイテムを合成可能かを自動検索できるなんて、また改造をしたんですか?」

 

 

 イストワールがネプギアに尋ねると、「はい! この子の性能はゲイムギョウ界一です」とネプギアが自身満々に答える。

 

ネプギアが所持しているNギアは彼女の趣味によって改造されており、夕飯の献立からハッキングまでなんでもござれな超ハイスペック仕様になっている。

 

しかも日々バージョンアップを重ねて成長中である。

 

 

「これであとは最初にあった討伐クエストだけですね」

 

 

 偶然とはいえネプギア活躍で一挙に二件のクエストが解決したイストワールはすっかり上機嫌になったようだ。

 

 

「それじゃあ、クエストに向かいましょう」

 

 

 ネプギアがクエストに向かうよう提案し、ギルドを出て行こうとすると「ネプギア様、大丈夫ですか?」と受付の男性は心配そうに声を掛ける。

 

 

「私だけじゃ頼りないかもしれませんけど、いーすんさんも一緒ですから」

 

 

 本来はネプテューヌが受ける討伐クエストは自分には荷が重いと思ったネプギアは、イストワールが同行するから大丈夫だと主張する。

 

イストワールは優秀な魔法使いで、女神程ではないが高い戦闘能力を持っているのだ。

 

 

「いえ、ネプギア様の実力を疑っているわけじゃないんです」

 

 

 しかし、受付の男性の心配事は別のようであった、何が心配なのか分からないネプギアは頭に?マークを浮かべて「え?」と言って首を傾げる。

 

 

「最近、お仕事ばかりでキツくありませんか? 私達の方で期限を延ばすようにも出来ますし、今日はもう休まれては?」

 

 

 受付の男性は真面目すぎるネプギアの体を心配をしていたのである。

 

 

「ご心配ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。私がお仕事をすることでプラネテューヌやゲイムギョウ界が少しでも良くなって、お姉ちゃんや国民のみなさんが喜んでくれるならそれで幸せですから」

 

 

 ネプギアが迷いのない純粋な瞳で答えると、「くぅ~! 尊い! 尊いねぇ! 流石は女神様だ。尊過ぎて心臓発作を起こしそうだ」と言いながら男性は左胸を押える仕草をする。

 

 

「えええっ! 大丈夫ですか! 救急車呼びましょうか?」

 

 

 ネプギアは本気で心配して、病院に連絡するようNギアを取り出すが、「演技ですから心配しなくて大丈夫ですよ」とイストワールは男性の見え見えの演技に騙されるネプギアを微笑ましく思いながら、ギルドの外に出るように促す。

 

本当に良くも悪くも素直な子である。

 

 

 

****

 

 

 

 ギルドを後にしたネプギアとイストワールはプラネテューヌの街を出て、クエストの目的地であるバーチャフォレストに向かう。

 

バーチャフォレストはその名の通り自然溢れる森である。

 

 

「んー! 天気が良くて気持ちいいですね」

 

 

 ネプギアが太陽の光を浴びながら、気持ちよさそうに伸びをする。

 

するとイストワールが、「そうですね。今度ピクニックで来ましょうか」とにこやかに提案する。

 

 

「わあー! いいですねそれ。私、お弁当作りますね」

 

 

 本当に嬉しそうに同意するネプギアに、「ふふっ……楽しみです」とネプギアを見ながら微笑むイストワール。

 

大きさで言えば圧倒的にネプギアの方が大きいのだが、ネプギアに接するイストワールの姿は保護者のようだった。

 

実際に昔から生きているイストワールの方が年長者なのだが。

 

 

「いーすんさん、機嫌治ったんですね」

 

 

 微笑むイストワールを見て機嫌が治ったことを安堵するネプギア。

 

先程まではネプテューヌをフォローするネプギアにでさえ食って掛かるほどにいきり立っており、常に怒りの漫符が付いていた程だ。

 

 

「ネプギアさんのおかげです」

 

 

 イストワールは目を閉じて胸に両手を当てながら、ネプギアに感謝の言葉を述べる。

 

ネプギアは、「え? 私何かしましたか?」と頭に?マークを浮かべながら首を傾げる。

 

ネプギアの中に特に心当たりになる行動や言動は思い浮かばないようだ。

 

 

「ネプギアさんは素直で良い子に育ってくれて本当に嬉しいんですよ」

 

 

 イストワールは今日のネプギアの何気ないが素直で真面目な行動に心癒されていた。

 

それがネプテューヌの不真面目さに対する負の感情を上回ったようだ。

 

 

「私、そんなに良い子でしょうか? 普通だと思います」

 

 

 ネプギアは唇に右手を当てながら不思議そうに言う。

 

彼女は自分のことを特別良い子だと思えなかった。

 

当たり前のことをしているだけだと思っている。

 

 

「その普通が出来ることが大切なのですよ。ネプギアさんならきっと良い女神様になれます」

 

 

 イストワールはネプギアに優しく微笑む。

 

しかし、逆にネプギアは表情を曇らせると、「……そうでしょうか……女神様って言うのは私みたいに地味な子じゃなくて、お姉ちゃんみたいに強くて明るくて綺麗な人じゃないと務まらないと思います……」と自信なさげに答える。

 

ネプギアにとって姉は女神の理想像であった。

 

それに比べて自分な華が無いと思っているのである。

 

 

「ネプギアさんにはネプギアさんの良いところがあります。それにネプギアさんはまだまだ成長段階です。自信を持ってください」

 

 

 イストワールはそんなネプギアを優しく励ますと、ネプギアは元気を取り戻し、「はい、私、少しでも立派な女神様になれるよう頑張ります」とイストワールの励ましを素直に受け取る。

 

その心中には大好きなゲイムギョウ界を守る女神として精進しようという決意が秘められていた。

 

 

「頑張って下さい。私も教祖として母としてネプギアさんを導きますから」

 

 

 イストワールはネプギアに満面の笑みを向ける。

 

 

「ありがとうござい……え? 母?」

 

 

 お礼を言おうとしたネプギアだが、途中でイストワールの発言を不思議に思い小首を傾げる。

 

 

「し、失礼しました! つい! 女神様に母などとおこがましいことを……」

 

 

 イストワールが顔を真っ赤にして頭を下げると、「い、いいんですよ! その……嬉しかったですし」と素直な感想を伝えるネプギア。

 

嘘偽りの無い彼女の本心だった。

 

 

「嬉しかった……」

 

 

 ゆっくりと頭を上げるイストワールに、「はい! 私もいーすんさんのことお母さんがみたいに思ってます」とネプギアはイストワールにしっかり目を合わせて自分の思いを伝える。

 

ネプギアにとってイストワールは、小さいころから見守ってくれて色々教えてくれた母のようで先生のような存在であった。

 

面白く奔放なネプテューヌとは別の意味でネプギアの育ての親と言っても過言でない。

 

イストワールの失言もネプギアを娘のように愛していることの表れであった。

 

その気持ちを察したネプギアは本当に嬉しかったのである。

 

 

「そう言っていただけると、心が救われます」

 

 

 イストワールは笑顔でそう答えると、「じゃあ、お母さんって呼んで甘えていいですか?」といきなり踏み込んだ提案をするネプギア。

 

 

「……え?」

 

 

 突然かつ大胆な提案に少し引き気味のイストワールに、「早速お願いします」ネプギアはイストワール向かって頭を突き出す。

 

 

「???」

 

 

 ネプギアの行動がイマイチ分からないイストワール。

 

 

「頭を撫でて褒めて下さい。お母さんみたいに」

 

 

 ネプギアはそんなイストワールに素直に言葉で要求をするが、「ええと……」とイストワールは困惑してしまう。

 

 

「さっきの採取クエストで活躍したから褒めて欲しいです」

 

 

 ネプギアが更にイストワール向けて頭を突き出す。

 

イストワールは観念したかのようにネプギアの頭に右手を伸ばした。

 

 

「えらいえらい。ネプギアさんが良い子に育ってくれて、お母さん嬉しいですよ」

 

 

 イストワールはそう言いながら、ネプギアの頭を優しく撫でる。

 

色々な葛藤はあったようだが、いざ撫で始めるとイストワールも嬉しそうに右手を動かしながら微笑んだ。

 

 

「えへへ……お母さんの教育のおかげです」

 

 

 嬉しそうに目を細めるネプギアに、「しっかり者のようで、まだまだ甘えん坊さんですね」とイストワールは呆れつつもどこか嬉しそうであった。

 

 

「だって……お姉ちゃん、忙しくて構ってくれない時があるし……」

 

 

 ネプギアは恥ずかしそうに両指をいじる。

 

真面目でしっかり者の優等生ネプギア。

 

一見隙の無いようだが、実はかなりの甘えん坊だったりする。

 

ちなみにネプテューヌの忙しいは勿論【遊ぶのに忙しい】である。

 

現にゲームしてる時のカーペットにジュースをこぼしても、ゲームに手いっぱいと言ってネプギアに拭かせることもある。

 

 

「ふぅ……ネプテューヌさんはダメなお姉さんですね。妹にこんな寂しい思いをさせるなんて」

 

 

 イストワールがネプギアの頭を撫でながらあやすような声で言うと、「そうですよ」と珍しくネプギアがワガママになる。

 

 

「お姉ちゃんは私を一日三回甘やかすことって法律作って下さい」

 

 

 普段のネプギアなら絶対に言わないようなワガママだが、甘えモードに入った彼女は平気でそれを言ってくる。

 

勿論、本気ではなくイストワールなら冗談と分かってくれるから言っているのだ。

 

イストワールもそれを分かってくれており、叱ったりツッコミをせず、「ふふっ……」と優しい微笑みを浮かべる。

 

 

「ダメですよ。そんな法律を作ってしまったら、ネプギアさんが甘えん坊な子になってしまいますし、何より私の可愛いネプギアさんがネプテューヌさんに取られてしまいます」

 

 

 イストワールもイストワールで母親役にノリノリなようで、撫でるだけじゃ足りないのか右手を止めると、ネプギアの頭に抱擁するように抱きつく。

 

ネプギアの鼻にイストワールの優しく甘い匂いが漂ってくる。

 

 

「いーす……お母さん……」

 

 

 ネプギアは少し驚いたようだが、素直にイストワールの抱擁を受けれると、目を閉じて気持ちよさそうにイストワールに身を委ねる。

 

その姿は大好きな飼い主に抱かれている子猫のようだ。

 

 

 十数分ほどそうしていた後に、ネプギアはゆっくりとイストワールから離れて、「うーーーーーん」気持ち良さそうに伸びをし、「充電完了です。いーすんさん、ありがとうございます」とイストワールにお礼を言う。

 

彼女の中の【甘えん坊成分】のようなものが十分にチャージされたらしい。

 

 

「どういたしまして」

 

 

 イストワールはそう言って微笑むと、「疲れたら、いつでも私のところに来てください」とネプギアに言う。

 

 

「はい!」

 

 

 ネプギアが嬉しそうに頷く。

 

 

「ただし、甘えてばかりだと、お母さん怒りますよ」

 

 

 イストワールは少し真面目な顔でそう言うと、ネプギアも真面目な顔で、「はい、気を付けます」と返事をする。

 

その姿は本当の仲良し親子のようであった。

 

 

 

****

 

 

 

 バーチャフォレストの奥に向かうネプギアとイストワール。

 

仲間と一緒に行動する【パーティ】で戦いに臨むにはフォーメーションと役割分担が重要である。

 

 

 HPや防御力の高い者は前衛となり敵の正面に立ち、近接武器で攻撃を与えつつも敵の攻撃も受け止める役目がある。

 

対して後衛は前衛に守ってもらいながら遠距離攻撃したり、前衛のHPを回復したりなどの支援をする。

 

 

 今回はHPが高く、更に敵から受けるダメージを軽減する【防御力】も高いネプギアが前衛。

 

HPも防御力も低いが、遠距離から強力な魔法を得意とするイストワールが後衛というフォーメーションである。

 

 

「この先からモンスターがいるみたいですね」

 

 

 ネプギアはNギアの画面を見ながら言う。

 

Nギアにはレーダー機能が搭載されており、モンスターの動きを察知できる。

 

レーダーには自分を中心にして、前方に敵がいることを示す小さな赤い点が点滅をしている。

 

 

 モンスターは基本的に人間や女神の敵として認知されているが積極的に掃討するようなことはない。

 

人間の生活を脅かすような者がギルドに報告され、クエストして女神や冒険者達に討伐される。

 

中にはモンスターの持つ希少アイテムが欲しいのでギルドにそれを依頼する者もいる。

 

 

「近隣の農家の皆さんが畑を荒らされたり、遊びに来た子供が入り口付近でもモンスターを見かけたそうですよ」

 

 

 イストワールがクエストの依頼された理由を説明してくれる。

 

彼女の言うように今回のクエストは前者であり、人間の生活を脅かすと思われるモンスターを退治して欲しいとのことである。

 

バーチャフォレストは自然豊かな場所なので、先程ネプギアやイストワールが話したようにピクニックに来る者もいる。

 

普段なら入り口付近はモンスターが近寄らないのだが、数が増えたらしく、入り口付近まで出てきたようだ。

 

畑を荒らされたという実害も出ているので、今回のクエストを依頼したらしい。

 

そろそろ、四月でピクニック日和となるので依頼の期限が今日だったのだ。

 

 

「気を引き締めていきましょう」

 

 

 イストワールが真面目な顔で言うと、ネプギアも真剣な声で、「はい」とうなずいて答える。

 

暫く歩くとネプギアの視界に、体長一メートルほどで巨大な水滴に犬の耳と尻尾と顔が付いたような生き物が映る。

 

 

「いました。スライヌです」

 

 

 これはスライヌと呼ばれるゲイムギョウ界では定番のモンスターである。

 

ひよこ虫に同様に強くはないが、徒党を組まれると厄介なモンスターである。

 

 

「ぬら~」

 

 

 スライヌが気の抜けるような声を上げる。

 

まだこちらに気付いてないようで、水滴のような体をボールのように弾ませて周囲をウロウロしている。

 

跳ねるたびに尻尾や耳が揺れて可愛らしい印象を受けるが、これでもモンスターである。

 

戦う力を持たない者が対峙すれば命を落とすこともありうる。

 

とは言え姿は可愛らしいので、スライヌのぬいぐるみやクッションなどのグッズも販売されている。

 

 

 クエストと立派な名前で呼ばれてはいるが、その実は野犬退治のようなもので、目立ちたがり屋で派手好きなネプテューヌが嫌がるのも仕方ないと言えば仕方ない。

 

しかし、こういう地道な市民の安全の確保や治安維持は大切なことだと言うのはイストワールが口を酸っぱくして説明している事だ。

 

真面目なネプギアは素直に理解を示してくれるが、快楽主義者的なネプテューヌはゲームなどで遊ぶ方を優先してしまう。

 

勿論、目の前で困ってる人がいればネプテューヌは快く手助けをするが、こういう事前に災いの芽を摘むというのは地味に思えて気が進まないようだ。

 

 

「ネプギアさん、落ち着いて先制攻撃を」

 

 

 イストワールはこちらに気付いていない様子のスライヌに対して、先制攻撃を提案する。

 

ネプギアは、「はい、お母さん」と真剣な顔で答えるが、イストワールは肩を落として脱力する。

 

 

「……呼んでいいとはいいましたが、クエスト中は止めて下さい」

 

 

 ハの字眉毛の困り顔で注意するイストワールに、「てへっ、嬉しくてつい……」と いたずらっぽく笑って舌を出すネプギア。

 

確信犯、彼女なりのお茶目である。

 

真面目な性格とは言え、彼女はできれば姉のように人を楽しませるようなことができるようになりたいと願っており、日々模索と努力を繰り返している。

 

 

「ネプギアさん!」

 

 

 ネプギアの名前を呼ぶイストワール。

 

怒っているのではない、スライヌが真後ろを向いたのだ。

 

 

「はいっ!」

 

 

 ネプギアは短く返事をすると駆け出す。

 

走るネプギアの表情は真剣そのものであった。

 

スライヌの姿が近づく。

 

ネプギアの右手にポーチから呼び出したビームソードが現れる。

 

スライヌはまだ振り向かない。

 

 

(捉えた! 行ける!)

 

 

 ネプギアはそう確信してビームソードを振り上げる。

 

 

「たあっ!」

 

 

 ネプギアは気合の入った叫びと共に、間合いに入ったスライヌに対してビームソードを振り下ろす。

 

 

「ぬらーーー!」

 

 

 避けることも防ぐことも出来なかったスライヌは26と大ダメージを受けて絶叫を上げる。

 

敵に気付かれていない状態での攻撃は【ハイドアタック】という不意打ちになり、普段より大きなダメージが出る。

 

以前にも書いたが、ネプギアは真面目な性格ではあるが常に正攻法で戦う程の自信家でもない。

 

本心では大好きな姉のように刀を振るい華麗な一撃必殺の戦いを夢見ているが、姉の真似をしても戦いに勝てないことを理解している。

 

しかし、謙虚なネプギアでも、自分が人より少し器用で、ある程度のことはそつなくこなせることは自認している。

 

その為、色々なところから貪欲に技術と知識を吸収し、勝つための手札を増やし、それを適切かつ惜しみなく使うのがネプギアの戦い方だ。

 

今のハイドアタックも近寄り方や気配の消し方を友人のアイエフに習って習得したものになる。

 

 

「ぬ、ら、ら……」

 

 

 大ダメージを受けながらも振り返るスライヌ。

 

 

「一撃じゃダメなの?」

 

 

 ネプギアが焦りの声を上げる。

 

見事なハイドアタックであったが、まだ倒してはいない。

 

スライヌのHPゲージはほとんど赤くなっているが、まだ二割ほど残ってる。

 

しかし、すぐさま炎がスライヌを包み、15のダメージが当たる。

 

 

「ぬら~~…」

 

 

 HPゲージが真っ赤になり地に伏せるスライヌ。

 

そしてその姿が消滅する。

 

 

「ふぅ……上手くいきましたね」

 

 

 安堵のため息を吐くイストワール。

 

炎を放ったのは彼女であった、ネプギアも使ったファイアーアローのチャージ無し版である。

 

ネプギアの攻撃するタイミングに合わせた連携攻撃であった。

 

イストワールの手には武器の類は握られておらず、丸腰に見えるが座っている本が魔力を持っており、それが触媒となり魔法を強化する。

 

イストワールのような魔法使いは初歩的な魔法なら剣を振るうように即座に出すことが出来る。

 

これは詠唱破棄と呼ばれる技術で、詠唱をせずに魔法を放つことが出来る反面、威力や範囲が劣ってしまう。

 

その為に今のような連携や牽制などに使われるのが主で、魔法使いの見せ場である高威力広範囲の大魔法を使う時は詠唱を行い魔法陣なども準備する必要がある。

 

ちなみに、術者の力が強大になると上級の魔法も詠唱破棄を行い強烈な魔法を連発することも出来る。

 

 

「いーすんさん、アシストありがとうございます」

 

 

 ネプギアはイストワールの見事なアシストに感謝の言葉を述べると、「前衛のネプギアさんの働きがあってこそです」とイストワールが言い互いを称賛する。

 

ネプギアがイストワールに手のひらを向けると、イストワールも手のひらを向けて軽くタッチを交わす。

 

 

「今の様子からすると、スライヌに斬属性と火属性は有効のようですね。この二つの攻撃属性で押していきましょう」

 

 

 イストワールがそう言うと、ネプギアも、「はい」と頷く。

 

【属性】とは攻撃の種類であり、剣で斬るなら【斬】、炎で燃やすなら【火】と割り当てられており、それぞれ、行使する者の得手不得手や、受ける側の耐性などの相性がある。

 

今の戦闘で、ネプギアのビームソードによる斬属性の攻撃と、イストワールのファイアーによる火属性の攻撃が通じたので、今後も同じ攻撃で行こうと言うのだ。

 

 

「ドロップアイテムがあるようですね」

 

 

 イストワールはそう言いながら、スライヌが消滅した場所を見ると、そこには透明な正六面体の箱が浮いていた。

 

正六面体の箱は浮かび上がり、ネプギアの右太ももに付いているNギアの中に吸い込まれるように消えて行く。

 

Nギアのポケットのアプリでミニゲートを通して、インベントリに保管したのだ。

 

 

【ドロップアイテム】とは敵を倒した時に落ちるアイテムのことである。

 

殆どは合成に使う素材や売却することでクレジットを得ることのできる素材だが、ごく稀にレアアイテムという希少なアイテムを手に入れることが出来る。

 

 

「やった! レベルが上がりました!」

 

 

 ネプギアは嬉しそうに手を上げて言うと、「私も上がったようですね」とイストワールも続く。

 

モンスターを倒したことで経験値を入手して、経験値が一定値に達したのでレベルが上昇したのだ。

 

ネプギアはレベルアップによる能力値の上昇を確認する。

 

ゲイムギョウ界の住人はレベルアップによる能力の上昇やスキルの習得により、行動の幅が広げ成長をしていく。

 

 

「ネプギアさんは、近接、射撃の攻撃力の他に魔法攻撃力の上昇も良いようですね」

 

 

 ネプギアの隣で画面を覗いていたイストワールが感心したように頷く。

 

ネプギアの能力は近接攻撃力を表す【POWER】の数値が15。射撃を示す【SHOT】と魔法攻撃を示す【MAGIC】が13の数値を示していた。

 

一般的な冒険者の専門職のレベル1の平均的な数値が10になる。

 

例えば近接攻撃を得意とする戦士ならPOWERが10、魔法を得意とする魔法使いならMAGICが10。

 

それと比較すればいかにネプギアが優秀なのかがわかるだろう。

 

 

「最近は四女神オンラインで魔法使いしたり、ラムちゃんやいーすんさんに攻撃魔法を習ったので、その成果が出たみたいです」

 

 

 ネプギアは嬉しそうに両手で小さくガッツポーズをする。

 

彼女の言う通り、努力の成果が数字として出たのが素直に嬉しいのだろう。

 

 

「それにHPと物理防御力と魔法防御力などの防御関連の上昇は素晴らしいですね」

 

 

 イストワールが更にネプギアを褒める。

 

彼女の言うように物理防御を示す【DEFENSE】は18で、魔法防御の【RESIST】も18であった。

 

 

「いーすんさんや、お姉ちゃん、それに他のみんなを守る為に、この数値は欠かせません」

 

 

 ネプギアは少し誇らしげに言う。

 

彼女の攻撃は物理攻撃がメインだが、それ以上に大切なのはパーティの盾となって仲間を守ることだ。

 

ネプギアはそのことを誇りに思っており、自主鍛錬でも重点的に特訓する。

 

 

「更に、回復・補助能力に素早さや命中、回避、技量などの数値もそつなく上がって隙がありませんね」

 

 

 イストワールの言うように他の数値もかなりの高水準だった。

 

回復・補助能力の【SUPPORT】が13。

 

移動速度の【SPEED】が14。

 

命中率の【ACCURACY】が13。

 

回避率の【AVOIDANCE】が15。

 

技量の【DEXTERITY】が14であった。

 

 

「弱体化・状態異常能力と運の伸びはあまりよくないみたいですが、それでも平均以上になりましたね」

 

 

 今度は少し数値が下がって、弱体化・状態異常能力の【WEAKENED】と運の【LUCK】が11なる。

 

しかし、以前のネプギアはこの二項目を苦手としており、以前までは平均以下だったのだが、弱点を克服する為に努力を続け今回の新作期になって平均以上まで持ってきたのだ。

 

 

「とても高水準でバランスの良い能力値です。これからの活躍が期待できますね」

 

 

 イストワールはネプギアのバランスの良い能力値の上昇をまるで自分のことのように喜んでいた。

 

しかし、ネプギアは少し表情を曇らせて、「でも、これって器用貧乏ですよね……」と悲しそうに呟く。

 

彼女は物事の飲み込みが早く、勉強や戦闘をはじめ、何でも要領よくこなせてしまう。

 

しかし、裏を返せば良くも悪くも尖った部分が無く、それが彼女のコンプレックスになっている。

 

基本的にパーティーは色々な分野を得意とする仲間達を集め、役割分担をしてそれぞれの長所と活かしつつ短所を補うもの。

 

だが、ネプギアは自分がその役割分担が曖昧なのが不安なようだ。

 

現に目の前のイストワールは魔法が得意で、同じレベル2でMAGICが20になっている。

 

他にもネプテューヌのレベル1の数値を見た時、POWER、DEXTERITYが19でLUCKに至ってはレベル1で21だ。

 

攻撃力と技量と運を活かした一撃必殺の戦士のネプテューヌに相応しい特化型の能力値だった。

 

更に自信を持っている防御関係も女神最硬を誇るルウィーの守護女神なら更に上の数値だろう。

 

そんなメンバーが集まった時、自分の居場所が無いような気がしてならないのだ。

 

 

「器用貧乏とは、何事もうまくできるためにあちこちに手を出し、どれも中途半端となって大成しないことを言いますよね」

 

 

 イストワールが落ち着いた口調で言うと、「そうなんですよ。やっぱり一芸に秀でた方が良いですよね」とネプギアがしょんぼりしながら答える。

 

イストワールはそんなネプギアを優しい目で見つめながら、「ネプギアさんは十分に一芸に秀でていますよ」と言う。

 

ネプギアが心底不思議そうに、「え? どこがですか?」と質問すると、イストワールがニッコリと微笑み、「誰かの役に立ちたいという気持ちです」と答える。

 

ネプギアがイストワールの言葉に目を丸くすると、イストワールは、「ネプギアさんが色々なことに挑戦するのは、誰か役に立ち、誰かを守りたい為ですよね?」と質問する。

 

ネプギアが、「はい」と頷いて返事をすると、イストワールはネプギアに近づき右手で優しく頭を撫でてくれる。

 

 

「その強い気持ちがある限り、中途半端に終わることなどありません。ネプギアさんは全てに強い多芸多才なオールラウンダーになると、お母さんは信じていますよ」

 

 

 イストワールは微笑みながらそう言う。

 

ネプギアが顔を綻ばせ、「……お母さん……」と呟くと、「ですから、諦めずに頑張って下さい」とイストワールは頭を撫で続ける。

 

その言葉にネプギアは自信を取り戻し、「はい! 頑張ります」とネプギアは力強く頷く。

 

 

「それでは先に進みましょう」

 

 

イストワールがそう言うと、ネプギアは「はい!」と元気よく答える。

 

 

 

***

 

 

 

 ネプギアとイストワールはバーチャフォレストを道なりに進みながらスライヌを倒し、最深部まで向かっていく。

 

バーチャフォレストは一般人や冒険者も訪れることの多い場所なので、道もそれほど険しくなく障害となるスライヌを慎重に倒して行った二人は怪我もなく最深部に辿り着いた。

 

 

「多分あれが最後のスライヌです」

 

 

 ネプギアがNギアのレーダを眺めながら言うと「六体ですか……数的に不利ですね」とイストワールは難しい顔をする。

 

そこには六匹のスライヌが集まっていた。

 

二対六で数的な不利を不安に思っているようだった。

 

 

「でも、ここまでの戦いでレベルも上がってますし、慎重に戦えば大丈夫だと思います」

 

 

 ネプギアはイストワールの不安を払うかのように力強く言う。

 

ネプギアの言う通り、スライヌを倒しながら進んでいく内にネプギア達のレベルは3になっていた。

 

 

「ふむ……」

 

 

 イストワールは右手を口に当てて考え込むが、「そうですね。連携を乱さずに慎重に行きましょう」とネプギアの考えに同意する。

 

続いて、「では、今まで通り一体一体誘き寄せて倒しましょう」と提案する。

 

 

 ネプギア達は今までの道のりの中でも二、三体のスライヌの群れに出会ったが、その際には慎重に様子を見て、群れから離れた一体だけを攻撃して誘き寄せる戦法を使っていた。

 

これは昔からアクションゲームなどでよく見られるテクニックで誘引技などと呼ばれる基本戦法だ。

 

このテクニックを使わなかった為に格下のモンスターに囲まれて命を落とす冒険者も少なくない。

 

 

「はい、慎重にこつこつ行きましょう」

 

 

 ネプギアがそう言って頷いた時だった。

 

スライヌの群れの中の一体が黒い霧に包まれる。

 

 

「あれは!」

 

 

 イストワールが驚きの声を上げる。

 

 

「汚染!?」

 

 

 続いてネプギアが叫ぶ。

 

【汚染】とは過去に存在した犯罪神マジェコンヌへの邪な信仰心の影響でモンスターが狂暴化してパワーアップする現象だ。

 

ネプギア達が犯罪神を倒して以降は発生件数が下がったが、それでもゼロにはならない。

 

これはゲイムギョウ界のどこかにまだ犯罪神を崇める者が残っていることを意味する。

 

 

「くっ……こんな時に」

 

 

 イストワールが唇を噛む。

 

その間にも、黒い霧はスライヌを包む。

 

 

「ぬらああああああ!!!」

 

 

 スライヌが苦しそうな叫びを上げる同時に全身が黒く変色してしまう。

 

これが汚染である。

 

 

「ぬらあーーーーーー!」

 

 

 汚染されたスライヌはスライヌのものとは思えない荒々しい雄叫びを上げる。

 

 

「ネプギアさん、汚染モンスターは倒さないと増え続けてしまいます!」

 

 

 イストワールが焦りの叫びを上げる。

 

汚染モンスターは感染するように他のモンスターを汚染させていく。

 

その為に放置は厳禁で速やかに倒す必要があるのだ。

 

 

「はい、わかっています!」

 

 

 ネプギアが汚染スライヌに向かって走り出す。

 

ネプギアに気付いた汚染スライヌが振り向く。

 

 

(気付かれた! でも、もう遅い!)

 

 

 既にネプギアは汚染スライヌをビームソードの間合いに捉えていた。

 

本来ならハイドアタックを狙いたいところではあったが、何かの間違いで汚染モンスターを逃がすような間違いをすることは避けたかった。

 

 

「はあっ!」

 

 

ネプギアのビームソードが、振り返った汚染スライヌを切り裂くと22ダメージが当たる。

 

 

「ファイヤーアロー!」

 

 

 立て続けにイストワールのファイアーアローが汚染スライヌに当たると28ダメージを与えて、「ぬらああ!」と汚染スライヌが雄叫びを上げるが消滅するには至らない。

 

汚染してパワーアップしたせいで、耐久力も上がっているのだ。

 

汚染スライヌのHPゲージはまだ五割ほど残っている。

 

 

「ぬがーーーーー!」

 

 

 汚染スライヌが荒々しい叫びと共にネプギアの右足に噛みつく。

 

 

「いたっ!?」

 

 

 苦悶の表情を浮かべるネプギア。

 

12のダメージを受けるとネプギアのHPゲージが三割ほど減少する。

 

 

「ぬららっ!」

 

「ぬらー!」

 

 

 更に、残った五体のスライヌがネプギアに気付いて襲い掛かる。

 

まず一匹目が、汚染スライヌの後ろから飛び跳ねて、ネプギアに正面からの体当たり攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「きゃっ!」

 

 

 ネプギアに8ダメージが当たり、ネプギアのHPゲージが残り五割まで減少する。

 

続けて二匹目がネプギアの左側から迫り、同じように体当たりを仕掛けてくる。

 

 

「あうっ!」

 

 

二匹目の攻撃で9ダメージを受けたネプギアのHPゲージが残り三割まで減ってしまう。

 

 

(このまま攻撃を受け続けたら負けちゃう……)

 

 

 ネプギアは真剣な顔で、これから攻撃をしようとしてる残り三体のスライヌを見る。

 

三体が同時にネプギアの右側から迫ってくる。

 

 

「お願い、効いて! ダミーバルーン!」

 

 

 ネプギアが祈るように叫ぶ。

 

同時にネプギアの右手から小さな風船が飛び出す。

 

風船はあっと言う間に膨れ上がると、人の形になる。

 

 

「「「ぬらあ!?」」」

 

 

 驚愕の声を上げるスライヌ達。

 

三体のスライヌはネプギアへの攻撃を一旦止めて、突然登場した巨大な風船に向けて、「ぬらー!」と威嚇の叫びを上げる。

 

風船は雑ではあるが色合いと雰囲気はネプギアに似せているので、スライヌ達からすれば突然敵の援軍が現れたように見えたのだ。

 

 

「騙されてくれた……」

 

 

 ネプギアが安堵の声を上げる。

 

【ダミーバルーン】とは名前の通り、替え玉人形の風船である。

 

お気に入りのロボットアニメに出てくる兵装を参考にネプギアが作ったもの。

 

スライヌのように知能が低い相手や、知能が高い相手でも視界の悪い場所や、乱戦や遠距離などからなら、騙して攻撃を逸らすことが出来る。

 

少し狡い手のような気もするが、ネプギアにとっては勝つための、そして仲間を守る為の大事な手札である。

 

 

「今回復します」

 

 

 その隙にイストワールがそう言うと、「天の恵み!」と叫ぶ。

 

同時に白い光がネプギアを包む。

 

するとネプギアHPが八割近くまで回復する。

 

【天の恵み】とはイストワール専用の光属性の回復魔法である。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 ネプギアは三体のスライヌと対峙しながら手短にイストワールにお礼を言う。

 

HPが回復して余裕のできたネプギアは、再び汚染スライヌに狙いを絞り、右側から回り込む。

 

ネプギアは走って距離を一気に詰める。

 

 

「てえええぃ!」

 

 

 気合を入れて思いっきり上段からビームソードを斬り下ろす。

 

 

ザシュゥ!

 

 

 斬り付ける音が豪快に響くと、汚染スライヌに43の大ダメージが当たる。

 

 

「ぬらーーーー!」

 

 

汚染スライヌは絶叫を上げて戦闘不能になる。

 

 

「やったあ! クリティカルヒット!」

 

 

 左手でガッツポーズをしながら喜ぶネプギア。

 

【クリティカルヒット】とは低確率で通常よりも大きなダメージが与えられることである。

 

基本的には低確率で稀なことではあるが、技量や運または装備品によりその確率を上げることも出来る。

 

 

「ぬらー!」

 

 

 残ったスライヌの一匹が怒ったようにネプギアに体当たり攻撃を仕掛けるが、「見切りました!」と言いながらネプギアはビームソードを巧みに使ってスライヌの攻撃を受け流す。

 

するとネプギアに対してダメージは表示されず【parry】と表示される。

 

 

 これは【パリイ】と読み、今のネプギアのように武器を使って受け流したり弾いたりすることを意味する。

 

これもクリティカルヒットと同様に低確率で発生し、技量に素早さに運、それに装備品によりその確率を上げることも出来る。

 

又、パリイもアボイドも受ける側が何度も攻撃を見て、相手の攻撃を見切ると更に発動率が上がる。

 

これを学習能力と言い、真面目で何事もそつなくこなすネプギアはどんなタイプの敵の攻撃もすぐに学習するので、この数値が高い。

 

パラメータでは、LEARNINGと表示され、現在のネプギアは25もの数値がある。

 

その為、短時間でスライヌの攻撃を見切ったのだ。この数値の差が高ければ高いほど長期戦の命中率と回避率が高くなる。

 

ちなみに、勘と閃き、そして運による戦いを得意とするネプテューヌはこの数値が残念なことになっておりレベル1でも5しかない。

 

短期決戦なら、ネプテューヌの方が有利だが、長期戦になると学習能力が活きてくるネプギアの方が有利になる。

 

 

「ていっ!」

 

 

 更に無防備になったスライヌにカウンターの刺突攻撃を当てる。

 

スライヌは、「ぬらっ」と悲鳴を上げて、28のダメージを受ける。

 

 

「とどめです!」

 

 

 ネプギアがビームソードを引き抜くと同時に体を捻る。

 

 

「たああああっ!」

 

 

 左足を軸にしたネプギアの右回し蹴りが、スライヌに襲い掛かる。

 

ひよこ虫との戦いでも見せたカウンター連続攻撃だ。

 

 

「ぬら~~!!!」

 

 

 当然スライヌも避けられず、18のダメージを受けると大きく放物線上に吹き飛ばされ戦闘不能になる。

 

 

「ぬらら……!」

 

 

 残った一匹のスライヌはネプギア達の見事な連携に腰が引けてしまったようだ。

 

ダミーバルーンに騙された三匹は未だに風船に向けて威嚇をしている。

 

 

(お願い、逃げて。そうすれば倒さずに済むから)

 

 

 ネプギアはスライヌに向けて祈った。

 

心優しい彼女は無益な殺生を好まない。

 

このバーチャフォレストから去ってくれれば倒さずに済む。そう思っていた。

 

 

「ぬがああああ!」

 

 

 しかし、その願いは空しく、スライヌが苦しそうな叫びを上げる同時に全身が黒く変色してしまう。

 

既に感染していたのだ。

 

 

「ごめんなさい!」

 

 

 ネプギアは悲しみを抑えて、汚染した以上倒せなくてはいけないという判断を素早く下すと、ジャンプしてスライヌに襲い掛かる。

 

 

「ていっ!」

 

 

 ネプギアの右足によるジャンプキックが汚染スライヌに命中する。

 

汚染スライヌに20のダメージが当たると同時にネプギアは着地して、「アッパー」と左手によるアッパーを汚染スライヌに当てて、更に21のダメージを与える。

 

 

「この一撃で決めます! ミラージュダンス!」

 

 

 ネプギアがくるくると回転しながら舞うような剣技を次々と汚染スライヌに当てる。

 

最後に強烈な切り抜け攻撃と共に51の大ダメージが当たる。

 

【ミラージュダンス】はネプギアのオリジナル必殺技。

 

舞うような剣技が相手を幻惑しつつ切り裂く、斬属性の技。

 

先日のアッパー龍昇拳の応用で、アッパーミラージュダンスと言ったところだろう。

 

 

「ぬがあぁぁぁぁ!?」

 

 

 汚染してパワーアップしたスライヌもこれにはたまらず戦闘不能になる。

 

 

「あと三体!」

 

 

 ネプギアは素早く残り三体のスライヌに振り向く。

 

そこには、未だにダミーバルーンに騙されて吠えてる三体のスライヌがいた。

 

 

「あはは……思った以上に効果があったみたい」

 

 

 脱力して左肩を落とすネプギア。

 

 

(敵の戦力は半減してるし、これで逃げてくれれば……)

 

 

 ネプギアは再びスライヌが戦意喪失して逃げてくれることを願う。

 

しかし、その願いはまたしても叶わなかった。

 

 

「ぬらああああああ!!!」

 

 

 三体のスライヌが同時に苦しむと色が黒く変色し始める。

 

 

(汚染スライヌ三体は不利!)

 

 

 ネプギアは素早く頭を切り替えると、汚染中のスライヌ一体に狙いを絞り左手を突き出す。

 

 

「止まって、トリモチ!」

 

 

 ネプギアの左手から白い塊が汚染スライヌ目掛けて飛んでいく。

 

 

ベチャ!

 

 

 白い塊は粘着的な音を立てると、汚染スライヌとダミーバルーンに張り付く。

 

 

「ぬららら!?」

 

 

 汚染スライヌが困惑の声を上げる。

 

白い塊はガムのように伸びて、ダミーバルーンに張り付けられた汚染スライヌは上手く動けないのだ。

 

【トリモチ】は鳥や昆虫を捕まえるのに使う粘着性の物質。

 

それをネプギアがモンスター用に大型化改良したもの。

 

これも、ネプギアのお気に入りアニメに出てくる兵装なので、そこからも影響を受けている。

 

相手を傷を付けずに無力化できる点はネプギアらしいとも言える。

 

 

「「ぬらああああああ!!!」」

 

 

 残ったに二体の汚染スライヌがネプギアに襲い掛かる。

 

 

「いーすんさん!」

 

 

 ネプギアが後衛のイストワールに大声を掛けると。

 

イストワールは、「了解しました」と答えながら頷く。

 

同時にイストワールから二本のペンネルが発射され、彼女の真下に魔法陣を描き始める。

 

 

「ここは通しません」

 

 

 ネプギアはイストワールを守るように、二体の汚染スライヌに立ち塞がる。

 

その間に、イストワールは目を閉じて精神を集中させる。

 

するとイストワールの真下に赤く光る線で描かれた五芒星が点滅を始める。

 

 

「我が記憶に眠る地獄の業火よ……」

 

 

 イストワールは静かに魔法の言葉を唱える。

 

 

「爆炎となりて、敵を焼き尽くせ……」

 

 

 イストワールの詠唱中、ネプギアは不用意に攻撃をせず、回避と防御に徹しており上手な足止めと時間稼ぎをしている。

 

 

「炎の記録よ!」

 

 

 イストワールが叫ぶと同時に三体の汚染スライヌの周囲に巨大な炎が吹き上がる。

 

炎に焼かれた汚染スライヌに90以上のダメージが表示され、三体とも悲鳴を上げる間もなく一撃で戦闘不能になる。

 

 

 【炎の記録】とはイストワール専用の火属性の攻撃魔法である。

 

魔法陣と本を触媒に更に詠唱をして放つ強力な魔法。

 

強力な反面当然のように時間が掛かり、今のネプギアのような前衛の足止めや時間稼ぎのサポートが必須となる。

 

このような役割分担をするのがパーティの真骨頂だ。

 

 

 全滅したスライヌの群れが次々と消滅していく。

 

それを見ながら、「ふぅ……こんなものでしょうか?」とネプギアが軽く息をつく。

 

 

「そうですね。帰りま……」

 

「ぬらーーーーー!」

 

 

 イストワールがそれに答えようとした瞬間、イストワールの背後からスライヌが襲い掛かる。

 

 

「あうっ!」

 

 

 攻撃を受けて悲鳴を上げるイストワール。

 

ダメージも18とかなり大きなもので、イストワールのHPゲージが九割以上減ってしまう。

 

 

「しまった! バックアタック!」

 

 

 慌てて後ろを振り返るネプギア。

 

【バックアタック】敵の奇襲攻撃である。

 

隠れていたスライヌを見落としていたようだ。

 

バックアタックを受けると陣形が乱れる上に敵に先制攻撃を受け不利な状況に陥ってしまう。

 

陣形が乱れたせいもあり、イストワールはダメージが増加する背後から攻撃を受けてしまったのだ。

 

 

「ネプギアさん、落ち着いて下さい。まずは回復を!」

 

 

 イストワールは大ダメージの苦痛に顔を歪めながらもネプギアに指示を出すと、「はい!」とネプギアが頷き、続けて「ヒール!」と素早く回復魔法を唱える。

 

イストワールが光に包まれHPゲージが七割近くまで回復する。

 

現在のイストワールのHPが15、彼女の防御力の低さでは、正面からでも次のスライヌの一撃に耐えられるかは微妙なところだ。

 

 

「ぬらっ!」

 

 

 イストワールに対して二撃目を行おうとするスライヌ。

 

 

「いーすんさんはやらせません!」

 

 

 それに対してイストワールが素早く後方に下がり、ネプギアが前に出る。

 

 

 間一髪。

 

ネプギアがイストワールとスライヌの間に入り込みスライヌの攻撃を防ぐ。

 

これはネプギアの職業とも言える【CLASS】である【ナイト】の特別な能力で、弱った味方を素早く庇うことができる。

 

 

 ビームソードの刀身でスライヌの体当たりを防ぐネプギア。

 

互いの攻撃がぶつかり合っているこの状態を【鍔迫り合い】と言い、力比べを行い負けた方は大きな隙を晒すことになる。

 

 

「えーい!」

 

 

 ネプギアが力を籠めてスライヌを押し返すと、「ぬらー!」とスライヌは叫びながら大きく体勢を崩す。

 

 

「ていっ!」

 

 

 ネプギアは体勢を崩したスライヌに素早くビームソードで突きを繰り出す。

 

無防備なスライヌに27ダメージ当たる。

 

更にセオリー通りに右回し蹴りを当てると、「ぬら~~!!!」とスライヌは19のダメージを受け放物線上に吹き飛ばされ消滅する。

 

 

「いーすんさん大丈夫ですか!」

 

 

 ダメージを受けたイストワールを心配し駆け寄るネプギアに、「大丈夫です。ネプギアさんの回復魔法のおかげですね」とイストワールは落ち着いて、ネプギアに答える。

 

 

「バックアタックを受けるなんて油断していました……」

 

 

 ネプギアが素直に自分のミスを反省すると、「私もです」とイストワールもそれに続く。

 

 

「次は失敗しないように、もっとよくレーダーを確認しないと」

 

 

 ネプギアがそう言ってNギアのレーダーを見直す。

 

さすがにもう隠れている敵は居ないようだ。

 

 

「そうですね」

 

 

 イストワールがネプギアにそう答えると、二人はプラネテューヌの街への帰路に就く。

 

最後に油断はあったが、クエストは大成功である。

 

 

 

****

 

 

 

 ネプギアとイストワールがプラネテューヌの街へ戻ってくる頃には日は落ちていた。

 

 

「少し遅くなっちゃいましたね」

 

 

 ネプギアが腕時計を確認すると時間は18時となっていた。

 

 

「そうですね。ギルドに報告をしたら真っ直ぐ帰りましょう」

 

 

 イストワールがそう答えると、二人はギルドを目指して歩き始める。

 

 

「お仕事終わりました」

 

 

 意気揚々とギルドで成功の報告をするネプギア。

 

 

「助かりましたよ。ありがとうございますネプギア様」

 

 

 ギルドの受付の男性はコンソールを操作してネプギアにクエストの報酬を渡す。

 

 

「少し色を付けておきましたから、何か美味しいものを食べて下さい」

 

 

 ネプギアがNギアで金額を確認すると確かに少し多い。

 

ネプギアは慌てて、「そんな、悪いですよ。期限だってギリギリでしたのに……」と言って首を左右に振って遠慮をする。

 

 

「毎日頑張ってるネプギア様への感謝の気持ちですよ」

 

 

 男性はにこやかに言うが、「でも……私だけ贔屓されるなんて……」とネプギアはまだ遠慮をしているようだ。

 

 

「プリンでも買って帰ればネプテューヌ様も喜ぶんじゃないかな?」

 

 

 しかし、受付の男性の方が一枚上手のようで、上手くネプテューヌの名前を出す。

 

すると、「そういうことでしたら……」とネプギアは遠慮しながらも、姉の為と自分を納得させて素直に受け取ることにした。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 ネプギアは受付の男性に深々とお辞儀をする。

 

イストワールはそんなネプギアを優しい目で見守っていた。

 

自慢の娘が皆に認められているのが嬉しいようだ。

 

しかし、すぐに真面目な顔に戻ると、受付の男性に向かって、「今日のクエストで汚染モンスターが現れました。冒険者の方々にも注意喚起をお願いします」と伝える。

 

 

「汚染モンスターですか……」

 

 

 受付の男性は心底困ったと言った顔と声で言う。

 

ギルドに勤める彼は汚染モンスターにより、クエストを失敗したり最悪命を落とした冒険者を何人も知っているのだ。

 

 

「分かりました。口頭や張り紙で注意するよう伝えます」

 

 

 受付の男性はそう言うと、「未だに犯罪神を信仰して、汚染モンスターを作り出すマジェコン信者なんて消えてなればいいんですよね」と愚痴をこぼす。

 

 

「言いたいことは分かりますけど、出来れば改心して欲しいです。私は彼等を罪を償ってもらった後にみんなと同じゲイムギョウ界を愛する仲間として迎え入れたいです」

 

 

 ネプギアがそう言うと、「ぐわっ!? 尊い! 尊すぎて心臓発作がーーー!」と受付の男性が右胸を抑える。

 

イストワールは冷ややかに、「心臓は左胸ですよ」とツッコミを入れるが、「大変です! 救急車を呼びましょう!」とネプギアは真に受けてNギアを操作しようとする。

 

 

「あはは! 冗談ですよ」

 

 

 受付の男性は笑いながらそう言うと、「もぅ、そういう冗談は止めて下さい!」とネプギアはが頬を膨らます。

 

そんなネプギアを愛しそうに見つめる受付の男性を見て、イストワールはまた同じことをするだろうと思って、「やれやれ……」と言いながらお手上げのポーズをする。

 

 

パチパチパチ

 

 

 同時に拍手の音が聞こえてくる。

 

ネプギアが振り向くと、茶色い髪をポニーテールにして王冠のような髪飾りを付けた女性がいた。

 

瞳の色は緑色で、服装は赤と白の半袖シャツを着ておりファッションなのか少し腹部の見える。下は青い吊りスカートと白いニーソックスをはいていた。

 

 

「いやー、素晴らしい。優しく謙虚で礼儀正しくて姉思い。プラネテューヌの女神候補生様は噂通りだね」

 

 

 そう言いながら、女性はネプギアに近づいてくると、「あなたは?」とネプギアは女性に問いかける。

 

 

「私はファミ通、ゲイム記者をしています」

 

 

 ファミ通と名乗った女性は、「突然ですけどネプギア様を取材させていただけませんか」と言ってペンとメモを取り出す。

 

 

「しゅ、取材ですか?そんなこと急に言われても…」

 

 

 取材と言う言葉に気後れしてしまうネプギア。

 

戸惑うネプギアとファミ通の間に、「ファミ通さん、候補生とは言えネプギア様は女神様です。取材と言うなら、まずは教祖の私に話を通して下さい」とイストワールが割って入る。

 

 

「失礼しました。まずは名刺を……」

 

 

 ファミ通は一歩下がって、ネプギアとイストワールに名刺を差し出す。

 

 

「ふむふむ……」

 

 

 イストワールの目の色が薄い緑色になると同時に瞳の中に波形が現れる。

 

メモリーにアクセスして情報を調べているのだ。

 

 

「ちゃんとした記者さんようですね」

 

 

 イストワールが安心したように言うと、「でも、ファミ通ってゲイムギョウ界一の老舗ゲーム情報誌ですよね。それが私に?」とネプギアが驚きの表情を浮かべる。

 

イストワールはネプギアを安心させるよう微笑むと、「正式な記者であることは間違いありません。まずはお話を伺ってみませんか」と優しく言い聞かせるように言う。

 

ネプギアはその言葉に安心したのか、「はい、わかりました」と頷いた。

 

 

「では、ファミ通さんのご意向をお伺いしましょうか」

 

 

 イストワールがファミ通の取材の目的を問いかける。

 

するとファミ通は拳を握りしめながら、「女神様の陰に隠れてしまっていますが、候補生の皆さんの活躍は素晴らしいと思うんです」と力説する。

 

 

「そんな……他の候補生のみんなはともかく、私は素晴らしいと言う程じゃ……」

 

 

 ファミ通の迫力に若干引き気味のネプギア。

 

しかし、「そんなことはありません! ネプギア様はゲイムギョウ界を犯罪組織マジェコンヌの魔の手から救った英雄ですよ!」とファミ通は更に強く力説する。

 

何度か話には出てきているが、【犯罪組織マジェコンヌ】とは犯罪神マジェコンヌを崇拝しその復活を企む犯罪組織。

 

違法コピーツール【マジェコン】をゲイムギョウ界中に広め一時は世界の八割以上を支配していた。

 

その力は四人の女神を上回り、討伐に向かった女神を返り討ちにし捕らえる程であった。

 

 

 女神達に同行したネプギアも一緒に囚われてしまう。

 

そんな絶望的な状況の中、友人達の助けにより唯一ネプギアだけが救出される。

 

救出はされたが、四人の女神を圧倒した犯罪組織の力はネプギアのトラウマになってしまう。

 

 

 それでも女神達を救う為に立ち上がるネプギア。

 

ネプギアは長く苦しい旅の中で仲間達と助け合って成長していく。

 

そしてトラウマを乗り越え、ついには女神を救出し犯罪組織を壊滅させることに成功する。

 

最終的に犯罪神は復活してしまうが、ネプギアがゲイムギョウ界への想いの力で撃破する。

 

今は僅かな残党が水面下で活動しているだけである。

 

 

「……確かに犯罪組織は倒しましたけど、私だけの力じゃありません。多くの人達が力を貸してくれたおかげです」

 

 

 犯罪組織の壊滅後、ネプギアはゲイムギョウ界を救った勇者と騒がれた時期があった。

 

しかし彼女は決して驕らず仲間を尊重し、姉であるネプテューヌと他の国の女神を立て続けた。

 

 

 その結果、時間が経つにつれ、元々人気も高く自己主張の強い女神達に話題が移りネプギアの活躍は過去のものとされていった。

 

人々の中には犯罪神を倒したのは四女神だと思っている者も少なくはない。

 

しかし、ネプギアはそのことを不満に思ったことは一度もない。

 

平和な元の世界が戻ったことが喜ばしいと思っているほどであった。

 

 

「その多くの人達はなぜ力を貸してくれたのでしょうか?」

 

 

 今度はイストワールがネプギアの答えに質問を出す。

 

 

「それは……みんなも女神様を助けてゲイムギョウ界を救いたかったから?」

 

 

 ネプギアは少し考えてから自信なさそうに答える。

 

本当に多くの人達が力を貸してくれた。

 

友達の為、正義の為、ただのお節介だと言うものや商売の為と言う人も居た。

 

その中で理由を一つ選ぶとしたら、これしか思いつかなかった。

 

 

「それもありますが、私はネプギアさんの真摯な思いと行動に心打たれたからではないかと思っています」

 

 

 イストワールがそう言うと、「私もそう思います」とファミ通も即座に同意する。

 

 

「年よりくさい言い方かもしれませんけど、若い子がひたむきに頑張ってる姿って心打たれるものがあります。私は女神候補生の皆さんにそれを求めているんです!」

 

 

 ファミ通はずずいとネプギアに詰め寄る。

 

 

「私にファミ通さんの期待に応えることが出来るでしょうか……?」

 

 

 未だに自信が無さそうに答えるネプギアに、「ネプギア様でないとできません!」とファミ通は即答する。

 

 

(うぅ……そこまで持ち上げられると、その気になっちゃいそう……)

 

 

 少し流されやすいところのあるネプギア。

 

ファミ通の押しに、まんざらでもない気持ちになってきていた。

 

そこに、「私は良いと思いますよ」とイストワールまで加わってくる。

 

 

「いーすんさんまで……」

 

 

 少し困り気味のネプギアだが、最初の頃より表情が柔らかい。

 

 

「自己主張が弱いところはネプギアさんの女神としての弱点でもあります。ここはファミ通さんの力を借りてみては?」

 

 

 イストワールは落ち着いた声でネプギアに提案をする。

 

ネプギアの謙虚さは美徳ではあるが、それにより時には活躍をアピールすることも必要な女神としては自己主張が物足りないところがある。

 

 

「任せて下さい。私の記事でネプギア様の魅力を全世界中に伝えてみせます」

 

 

 イストワールの援護を得たファミ通はここぞとばかりに押し込んで来た。

 

その上に、「弱点を補う為に人の力を借りるのは恥ずかしいことではありませんし、女神様としても必要な資質でもあります」と更にイストワールの説得も続く。

 

ネプギアの心は完全に傾いていた。

 

 

「わかりました。自信はありませんが、全力で頑張ります」

 

 

 ハの字眉毛で困り顔だったネプギアの表情が引き締まり、力強くそう答える。

 

 

「ありがとうございます! では簡単な自己紹介と、先ほどクエストに行かれたそうですが、その時のお話をお願いします」

 

 

 すかさずペンとメモを取り出し取材を始めるファミ通。

 

 

「ええっ! いきなりですか?」

 

 

 流石に今すぐだと思わなかったネプギアは心の準備が出来ていなかったようで大慌てをしてしまう。

 

そんなネプギアにお構いなしに、「ネタは新鮮さが命ですから!」と詰め寄るファミ通。

 

 

「ファミ通さん。プラネタワーに一室設けますので、そこでお話しましょう。ネプギアさん、私もお付き合いしますから一緒に頑張りましょう」

 

 

 イストワールがすかさず二人に対して妥協案を出すと、「そうですね。落ち着ける場所の方が良い話が聴けますよね」とファミ通が、「はい、頑張ります」とネプギアが言ってイストワールの妥協案に乗る。

 

その後、ネプギアはネプテューヌへのお土産のプリンを忘れずに買い、イストワールと共にファミ通の取材を受ける為にプラネタワーに向かうのだった。

 

 

****

 

 

 ネプギア達がプラネタワーに向かっている頃。

 

ネプテューヌは変わらずゲームに没頭をしていた。

 

 

「うっそー! このボス強すぎー! 絶対チートだよ」

 

 

 ネプテューヌが画面に向けて不満そうに叫ぶ。

 

【チート】とはずるいこと。 いかさまをすること。

 

この場合はコンピューターゲームに改造を施し、自らに有利な動きをさせることを指すこと。

 

市販されているゲームなので、そんな筈はないのだが、そう思わせる程にネプテューヌはゲームオーバーを繰り返していた。

 

 

「あーあ、ベールに攻略法でも聞こうかなー」

 

 

 ネプテューヌは軽くコントローラーを放り投げると両手を後頭部で組んで後ろに倒れて寝転がる。

 

リーンボックスの守護女神であるベールはネプテューヌ以上のゲーマーで、その実力は世界屈指とも言われている。

 

 

「でも、ベールの言うことって難しいんだよねー」

 

 

 しかし、前述したがネプテューヌはやや頭が弱く学習能力が低い。

 

その為、敵の行動パターン憶えて攻略する憶えゲーはやや苦手。

 

 

「それに、こういうのって自力でやってナンボだよね。【プラ拳ねぷ】の凄さを見せてあげようかな」

 

 

 ネプテューヌはそう言いながら起き上がる。

 

彼女は憶えるのは苦手だが、その強運とひらめきで、普通の人には出来ない攻略法を編み出したりもする。

 

一昔前で言えば裏技と呼ばれる技だ。

 

ちなみに、プラ拳ねぷとはG.C.初期にルウィーの子供向けの雑誌で掲載していたゲーム漫画、【文拳リュウ】を自分用にアレンジしたものだ。

 

 

「そう言えばお腹が空いたなー」

 

 

 ネプテューヌはそう言いながらお腹を押さえつつ、可愛らしい壁掛け時計を見ると時間は19時を少し過ぎたところだった。

 

お腹を満たそうにも、用意したお菓子は食べ尽くして、空き袋が散乱しているだけだった。

 

 

「ネプギアもいーすんも遅いな~。どこで油買ってるんだろ……」

 

 

 ネプテューヌが不満そうに口を尖らせると、「それを言うなら、油を売っているです」と背後から聞き覚えのない声がする。

 

 

「あーそれそれ。でも、油売って石油王になれるならいっかー」

 

 

 聞き覚えのない声であったが、ネプテューヌは一ミリも気にせずに振り返らずテレビ画面を見ながらコントローラーを握ってゲームを再開しようとする。

 

彼女のこの大胆な性格が誰とでも打ち解けられる秘密なのかもしれない。

 

 

「なぜ故に石油王なのです?」

 

 

 聞き覚えのない声が質問をしてくる。

 

ネプテューヌはゲームのスタート画面を呼び出すと、「そりゃ、油って言ったら石油でしょ。わたしヤバイよ。女神で石油王って最強じゃね」とドヤ顔で言い放つ。

 

 

「やはり、其方がプラネテューヌの女神か。我が主プラエ様を返していただこう」

 

 

 聞き覚えのない声はそう言うと、カチャと小さな金属の擦れる音を立てる。

 

 

「プラエ? そう言えばネプギアがプラスチックの原料は石油って言ってたよーな」

 

 

 ネプテューヌはゲームをプレイしながらそう言うと、「ってことはそれプラスチックの新商品? ちょっと待ってねー。そーゆーのは石油王になってからー」と軽いノリで言う。

 

 

「我が主を愚弄するか! いいから抜け。いざ、尋常に勝負だ」

 

 

 聞き覚えの無い声が興奮しながら言う。

 

ネプテューヌは【勝負】の台詞にピクリと反応すると、「わたしと対戦したいの? もー、人気者は辛いなー」と言いつつゲームを一旦止めて、二つ目のコントローラーを持って振り向く。

 

 

「あれ? お姉さん誰?」

 

 

 ネプテューヌはそこに来て見知らぬ女性が部屋にいることに気付く。

 

しかも、その女性は刀を持って中段の構えで切っ先をネプテューヌに向けていた。

 

 

「ちょっ!?」

 

 

 さすがのネプテューヌも驚きの声を上げる。

 

 

「なになに? なにごと!? ゲームをプレイせずにリアルファイトに発展とか、ゲーセンの動物園でもありえないんですけどー!」

 

 

 動揺するネプテューヌはコントローラーを放り投げて、素早く2メートルほど後ずさる。

 

【動物園】とはゲームセンターでプレイナマナーの悪い、対戦ゲームのプレイヤーが集まることを言う。

 

怒号が飛び交いケンカに発展する様を揶揄して動物園と呼ばれているのだ。

 

 

「女神がプラエ様らしき人物をかどわかしたのは街の者から聞いている。狙いは何だ? プラエ様の力か!」

 

 

 刀を持った人物が凛とした声でネプテューヌを睨みつける。

 

 

「ちょっと、人違いだってばー! わたしはそんなことしてないって~」

 

 

 ネプテューヌは不満そうに口を尖らせて刀を持った女性の人違いを指摘する。

 

 

「今更とぼけるか! 卑怯者め」

 

 

 しかし、その行為が相手の逆鱗に触れたようだ。

 

刀を持った女性は、「武器を持たぬ相手を斬るのは我が武士道に反するが、もはや問答無用!」と叫ぶ。

 

 

「我が名は、葛切あんみつ。いざ尋常に勝負!!」

 

 

 葛切あんみつと名乗った女性はネプテューヌとの距離を一気に詰めると、刀を振り下ろす。

 

 

 

****

  

 

 

 葛切あんみつがネプテューヌに襲い掛かる少し前。

 

 

ネプギアの部屋ではネプギアンダムがプラエに絵本を読み聞かせていた。

 

 

「オシマイオシマイ……」

 

 

 ネプギアンダムが本を読み終えると、「ネプギアンダム読むの上手ー!」とプラエが嬉しそうに拍手をする。

 

プラエは絵本の内容より、ロボットが上手に本を読むことが楽しかったようだ。

 

 

「ビーッ、ビーッ、ビーッ!!!」

 

 

 突然、ネプギアンダムが大きな警報音を鳴らす。

 

 

「ひゃあっ!」

 

 

 プラエはビクッとして驚くと、「ど、どうしたの?」とネプギアンダムに尋ねる。

 

 

「メガミサマノリビングデ、セントウオンヲカクニンシマシタ。ネプテューヌサマガオソワレテイルモヨウ」

 

 

 ネプギアンダムがそう答えると、「戦闘……ネプテューヌ様?」とプラエが不思議そうに首を傾げる。

 

 

「イマカラエングンニムカイマス。プラエサマハココデオマチヲ」

 

 

 ネプギアンダムはそう言うと動き出そうとするが、「待って、プラエも行く。ネプテューヌってネプギアお姉さんのお姉さんだよね。だったらプラエが助ける」とプラエが叫ぶ。

 

 

「リョウカイシマシタ。 ケッシテワタシカラハナレテハイケマセン」

 

 

 ネプギアンダムはそう言うと、両手でプラエを掴んでおぶる。

 

 

「わわっ!?」

 

 

 驚きの声を上げるプラエ。

 

そのままネプギアンダムの首にぶら下がるように、おぶられる。

 

 

「イソギマス。テヲハナサナイデクダサイ」

 

 

 ネプギアンダムはそう言うと、がっちょんがっちょんと音を立てながら走って、ネプテューヌの居るリビングに向かう。

 

走るたびに、プラエが揺れて、「わっ! わっ! わーー!」と驚きの声を上げる。

 

 

 

****

 

 

 

 その頃、女神のリビング。

 

 

キンッ!

 

 

 間一髪。

 

 

ネプテューヌがポーチから呼び出した刀が、葛切あんみつの振り下ろした刀を防ぐ。

 

 

「あのタイミングから防御が間に合う? なんという反応速度!」

 

 

 あんみつは刀を引くと素早くニ撃目の袈裟斬りを繰り出す。

 

 

「おわっとっとっと!?」

 

 

 ネプテューヌはおっかなびっくりな声をあげつつも、上半身を捻ってそれを避ける。

 

 

「もー! いい加減にしないと、温厚さに定評があるわたしでも怒るよー!」

 

 

 ネプテューヌは先ほどまでとは雰囲気が変わり、真面目な声で言う。

 

同時に刀を振り下ろして、あんみつに反撃をする。

 

 

「ちいっ!」

 

 

 あんみつは刀を使って、ネプテューヌの攻撃を防ぐ。

 

ネプテューヌの刀とあんみつの刀が激しい火花を散らしてぶつかり合う。

 

 

「眠れるねぷ子さんを起こした代償は大きいよー! プリン一か月分はもらわないと!」

 

 

 ネプテューヌは一旦刀を引くと、素早くあんみつの左側に回り込む。

 

 

「パープルチャリオット!」

 

 

 同時にネプテューヌの高速の刺突があんみつに襲い掛かる。

 

ちなみに【パープルチャリオット】と言うのはノリで叫んだ言葉で、ただの突きで特別な技ではない。

 

 

「なんの!」

 

 

 あんみつはネプテューヌの素早い攻撃を見事に刀で受け止める。

 

 

「わお! 今のを防ぐなんて、なかなかやるね」

 

 

 ネプテューヌが驚きと称賛の入り混じった声を上げる。

 

普段は【ちゃらんぽらん】としているが、いざ戦いとなると真面目になるネプテューヌ。

 

あんみつの技量の高さに、彼女のテンションも上がってきたようだ。

 

 

「ぬかせっ!」

 

 

 あんみつは刀で受け止めながら、左足でネプテューヌに蹴りを繰り出す。

 

 

「おっとーーー!」

 

 

 ネプテューヌは素早く刀を引きつつバックステップで、あんみつの蹴りを避ける。

 

 

「できる……さすがは女神」

 

 

 あんみつは驚きの表情を浮かべて後ずさり距離を取る。

 

先程からの激しい攻防でスタミナを消費したので一旦回復しようというのだ。

 

 

「ふざけた態度は敵を欺く為のモノか……あなどれん」

 

 

 あんみつがそう言うと、「ふざけてなんかないってばー。わたしはいつでも大真面目!」とネプテューヌが口を尖らす。

 

スタミナを消費したのはネプテューヌも同じで、口ではこう言っていても、彼女もあんみつと同じくスタミナの回復に集中している。

 

二人とも疲れた表情一つ見せないのは互いに戦い慣れしているからだろう。

 

 

 「奥義 旋風裂剣」

 

 

 突然あんみつが刀を大きく振り回す。

 

すると彼女の身長と同じ160センチ程の高さの小さな竜巻が起こり、それがネプテューヌに向けて飛んでいく。

 

 

「わわっ!」

 

 

 ネプテューヌは驚きつつも、横っ飛びでそれを避けると、「いきなり奥義とかズルくない!」と立ち上がりながら文句を言う。

 

 

「せめて、【女神が相手なら、旋風裂剣を使わざるを得ない】ぐらいの前口上は言うべきでしょー!」

 

 

 ネプテューヌは激しく大声で抗議をするが、あんみつはお構いなしに二発目三発目の竜巻を飛ばしてくる。

 

 

「わっ、とっ、とーーーーー!」

 

 

 迫りくる竜巻を左右の移動と、垂直ジャンプを駆使して避け続けるネプテューヌ。

 

 

「どうした? 避けているだけか?」

 

 

 あんみつが挑発をするように言うと、「そんなわけないで……」とネプテューヌはしゃがんで力を溜める。

 

そして、「しょっ!」と大きく飛び上がり、天井を使った三角跳びで、竜巻を飛び越えて避けるとあんみつに襲い掛かる。

 

 

「もらったーーー! ねぷねぷダイナマイトキーーーーック!」

 

 

 ネプテューヌの右足による急降下攻撃。

 

あんみつは旋風裂剣を撃ったばかりで動けないようだ。

 

 

「短慮!」

 

 

 あんみつが叫ぶ。

 

 

「奥義 弧月剣!」

 

 

 あんみつは弧を描くように刀を振り上げつつ跳び上がっていく。

 

ネプテューヌの顔が一瞬で青ざめる。

 

 

(やばっ! このわたしが、飛び道具からの対空技なんてベタな戦法にハマるなんて!)

 

 

 ネプテューヌが心の中で舌打ちをする。

 

彼女の言う通り、格闘ゲームにおいて飛び道具で相手のジャンプ攻撃を誘い対空技で落とすのは戦術の初歩であった。

 

 

 あんみつの刀がネプテューヌに迫る。

 

 

「ナマステ!!」

 

 

 ネプテューヌが叫ぶ。

 

しかし、この場合は【南無三】が正しいだろう。

 

 

 

ザシュッ!

 

 

 

 刀が切り裂く音が部屋中に響き渡る。

 

床に倒れるネプテューヌ。

 

 

「お姉ちゃん!!」

 

「ネプテューヌさんっ!!」

 

 

 そこへ、ネプギアとイストワールが走って駆け付けてくる。

 

プラネタワーの入り口で、あんみつに気絶させられた警備の兵を見て、慌ててここまで来たのだ。

 

ファミ通には入り口で待機してもらいつつ、警備の兵を看てもらっている。

 

ネプテューヌはうつ伏せになって、ピクリとも動かない。

 

 

 

「そんな……お姉ちゃん……」

 

 

 

 ネプギアが絶望の声と表情で崩れ落ちる。

 

 

「浅い!?」

 

 

 

 突然、あんみつが叫ぶ。

 

 

「馬鹿なあれを避けられる筈は……」

 

 

 あんみつがそう言うと同時に、「とりゃーーーー!」と倒れていたネプテューヌがあんみつに飛び掛かる。

 

ネプテューヌはあんみつを掴むと、「くんずほぐれつ! モンゴル相撲ーーーー!」と縦四方固めを決める。

 

 

「お姉ちゃん、それ柔道だよ」

 

 

 ネプギアが律義にツッコミをしてくる。

 

ネプテューヌの無事を理解できたようで落ち着きを取り戻したようだ。

 

 

「ネプテューヌさん! 服! 服がっ!」

 

 

 イストワールが慌てた声で叫ぶ。

 

よく見ればネプテューヌの服は正面から袈裟斬りに切り裂かれており、その状態で寝技に持ち込んだせいか服が破れてしまい下着姿になってしまっている。

 

あんみつの刀が切り裂いたのはどうやらネプテューヌのパーカーワンピだけだったようだ。

 

 

「服なんて、あとあと! それよりこのお姉さん、賊だよ賊! 賊って言っても珍走団の方じゃないからね」

 

 

 ネプテューヌがそう言うと、あんみつは、「このようなところで捕らわれるとは……プラエ様、お助けできず申し訳ありません」と呟く。

 

どうやら、ネプギア達が来た上に縦四方固めが極まったことで潔く諦めたようだ。

 

 

「プラエ……?」

 

 

 ネプギアがあんみつの言葉に首を傾げながら、縦四方固めでネプテューヌのお腹に隠れた彼女の顔を覗き込む。

 

 

「あっ! 葛切あんみつさん!」

 

 

 プラエに見せてもらった写真のあんみつにソックリだったので、思わず声を上げる。

 

 

「え? もしかしてお知り合い」

 

 

 半裸のネプテューヌが不思議そうに首を傾げる。

 

しかし、油断して縦四方固めを緩める気がないのは、さすが熟練の戦士だ。

 

 

「お姉ちゃんにはまだ話してなかったけど、今日迷子で知り合った子の保護者なの」

 

 

 ネプギアが簡単に説明をすると、「なに? かどわかしたのではないのか?」とあんみつが質問してくる。

 

 

「誤解です! 私はプロテノールさんを探しに来たプラエちゃんに協力しただけです!」

 

 

 ネプギアが両手を胸に当てて、自らの潔白を証明するよう精一杯訴える。

 

 

「だが、街の者は【女神様がまた新しい幼女に手を出した。想像が捗るぜ。夏の祭典は女神様のおねロリ漫画で決まりだぜムッハーーー】と言っていたぞ」

 

 

 それを聞いたイストワールは頭が痛いと言わんがばかりに右手で額を押さえると、「それは情報の入手元が悪いです……」と呟く。

 

さすがのネプテューヌも縦四方固めを解くと、「なんで、そういう特殊性癖なお兄さん達の言うこと真に受けちゃうかな~」とハの字眉毛の困った顔をする。

 

 

「え? え? ……どういうこと?」

 

 

 話についていけず置いてけぼりなネプギアはイストワールとネプテューヌを交互に見ながら質問をする。

 

 

「ほら、ルウィー寄りなプラネテューヌ民の中には、ネプギアがロムちゃんとラムちゃんにエッチなことしてるように見える人もいるんだよー」

 

 

 ネプテューヌがそう言うと、ネプギアは激しく首を左右に振って、「エッチなことなんてしてないよ。たまにお泊りして、一緒にお風呂入って寝るだけだよ」と言って慌てる。

 

 

「や、その時点で特殊性癖なお兄さん達の妄想は限界突破のR-18なんだって。で、そこにプラエちゃんって子が加わって、ネプギアのおねロリハーレムが充実しちゃった感じ」

 

 

 ネプテューヌが何も知らないネプギアに呆れるように言う。

 

R-18の【R】とは【Restricted(リストリクティッド)】の略で【制限、規制】などを意味する単語である。この場合はポルノ関係の意味だ。

 

そして、おねロリはお姉さんと少女という組合せのカップリングを示す。

 

つまり、ネプギアが年下好き同性愛者で、新しい女の子に手を出したと【一部】の界隈で話題になっていたものを、あんみつが信じてしまったのだ。

 

 

「えっ? えっ!? えーーーー?」

 

 

 ネプギアはネプテューヌの言うことに理解と理性が追いつかず、ぐるぐる目で慌てながら、頭から蒸気が噴き出すぐらい真っ赤になってしまう。

 

 

 そこへ突然何者かが割って入る。

 

激しいブレーキ音で停止したのは、ネプギアンダムであった。

 

 

「エマージェンシー! エマージェンシー! マスター。プラエサマノゴヨウダイガアッカシテオリマス」

 

 

 そう言うネプギアンダムの両手には、「はぁはぁはぁ……」と苦しそうな呼吸をするプラエが抱かれていた。

 

 

「プラエちゃん!」

 

 

 ネプギアは一瞬で正気に戻り、プラエの手を握る。

 

 

「AEDデソセイヲシマシタガ、スイジャクガヒドイデス」

 

 

 ネプギアンダムがそう言うと、「プラエ様! まさか時間を!?」とあんみつが大声で叫ぶ。

 

 

「みえたの……あんみつが、ねぷ、てゅー、ぬ、さんをこげつけんで、きるところ……、だから、すこしでいいから、あんみつのじかんをおそく……くはっ!」

 

 

 プラエが息も絶え絶えで言うと、「私のせいでプラエ様がご無理を……」とあんみつがガクリと肩を落とす。

 

完璧なタイミングであった、あんみつの対空迎撃が外れたのはプラエがあんみつの時間を遅くしたせいだったのだ。

 

だが、それを考慮しても、あれを紙一重で避けたネプテューヌの反射神経と幸運は並外れたモノだろう。

 

 

「ファティーグがレベル3です。そこのソファーで休ませてください!」

 

 

 イストワールがそう言うと、ネプギアンダムが優しくプラエをソファーに寝かせる。

 

 

「プラエちゃん、もう少し我慢して。私が治してあげるから」

 

 

 ネプギアはそう言うと、「芽の力よ、我が声に応え、衰弱した者を救え……」と呪文を唱え始める。

 

 

「ネプギアさん? ファティーグに効く魔法は、まだ発明されて……」

 

 

 イストワールがそう言うと、「だから新しく作りました」とネプギアが詠唱の合間に手短に答える。

 

イストワールが、「えっ!?」と驚きの声を上げる。

 

 

「スプラウト!!」

 

 

 ネプギアが魔法を発動させると同時に彼女の手が緑色の光に包まれる。

 

光がプラエを包み込むと、プラエの呼吸がゆっくりになって、「あ……」と言いながら目を開ける。

 

 

「なんと!?」

 

 

 あんみつが驚きの声を上げる。

 

 

「植物の発芽のエネルギーを人為的に与える……だから、スプラウト」

 

 

 イストワールが驚きつつも、ネプギアの使った魔法を解析する。

 

 

「よかった。効いてくれた」

 

 

 ネプギアがホッと息をすると、「ネプギアお姉さん凄い!」とプラエが抱きついて来る。

 

 

「ネプギアお姉さん大好き! ちゅっ、ちゅっ」

 

 

 更にネプギアの頬に何度も接吻をしてくる。

 

 

「ふ、ふふふしだらな!! やはり、かどわかして!!」

 

 

 顔を真っ赤にして激高するあんみつに、「……これじゃあ、特殊性癖のお兄さん達に誤解されるのも仕方ないよねー」と呆れた声でお手上げのポーズをするネプテューヌ。 

 

 

 

****

 

 

 

「申し訳ございません!!!」

 

 

 あんみつがネプギア達に見事な土下座をする。

 

プラエが回復したことにより、ネプギアとプラエが今までの経緯を事細かにあんみつに説明したのだ。

 

そして、自分の勘違いを猛省したあんみつがもの凄い勢いで土下座してきたのだ。

 

 

「おおっ! これって土下座? 土下座だよね。わたし初めて見たよ」

 

 

 ネプテューヌが物珍しそうに、あんみつの前後左右に移動して土下座をする彼女をしげしげと眺める。

 

ちなみに、服はネプギアが新しいパーカーワンピを持ってきて着せている。

 

 

「お姉ちゃん、あんみつさんに失礼だよ」

 

 

 ネプギアが叱るような口調でネプテューヌを注意する。

 

しかし、「けど、土下座なんて滅多に見られるモノじゃないよ。ねぇねぇ、写真撮っていい?」とネプテューヌは止める気配を見せない。

 

こういう場を注意するのはいつもイストワールだが、彼女は待たせてあったファミ通の取材をネプギアの代わりに受けていた。

 

 

「もー! ダメだってば~」

 

 

 さすがに、写真はあんみつがかわいそうなので、ネプギアは慌ててネプテューヌの構えたNギアを取り上げる。

 

 

「ネプテューヌさん、本当にネプギアお姉さんのお姉さんなの? プラエより子供みたい」

 

 

 プラエがジト目でネプテューヌを見つめる。

 

ネプギアには【お姉さん】が付くのに、ネプテューヌにはそれが付かないので、彼女のネプテューヌに対する評価はお察しである。

 

 

「葛切あんみつ、一生の不覚」

 

 

 あんみつはゆっくりと頭を上げると、「この場は腹を切ってお詫び申し上げます!」と右手で脇差を抜く。

 

 

「女神に対しての刃傷沙汰。私の命だけでは償えますせぬとは思いますが、どうかプラエ様には寛大なるご処置を!!」

 

 

 ネプギアが、「わわわわ!? ダメですってば!」と慌ててあんみつに飛び掛かり、両手で脇差を持った右手を押さえる。

 

 

「しかし、それでは女神としての示しがつきますまい」

 

 

 あんみつが真面目な顔で言うと、「そんな示しなんかより、あんみつさんの命の方が大事です!」とネプギアがキッパリと言う。

 

 

「そうそう。それに切腹なんてしたら、血がどぴゃどぴゃの内臓どばー、でR-18Gになっちゃうよ」

 

 

 必死のネプギアに対して割と軽いノリで止めるネプテューヌ。

 

【R-18G】とは18歳以上にしか見せてはいけないようなグロテスクなものの意味である。

 

 

「ですが……」

 

 

 まだ切腹を諦めないあんみつに、「ダメです! プラエちゃんがプロテノールさんに会って幸せな生活に戻るまで、あなたの命、私が預かります!」とネプギアが一喝する。

 

 

「ネプギア殿……」

 

 

 あんみつは少女にしか見えない目の前の女神候補生が予想以上に強い言葉を使うので、呆気にとられてしまう。

 

 

「ネプギアお姉さんカッコいい……」

 

 

 プラエは祈るように両手を組んでネプギアに熱い眼差しを送る。

 

 

「いい話なんだけど、アニメのパロなんだよね、これ」

 

 

 ネプテューヌはお手上げのポーズで、やれやれと言わんがばかりに言う。

 

 

「お、お姉ちゃん、それは言わないお約束だよ~」

 

 

 ネプギアがは顔を赤くしてネプテューヌの方を向くと彼女に抗議をする。

 

姉である彼女はネプギアのロボットアニメオタクぶりを知っており、時折無意識に劇中の台詞を言ってしまうことを知っていた。

 

 

「承知致しました。この命は既に主君であるプロテノール様とプラエ様に捧げたモノではありますが、この場の処置はネプギア殿に預けましょう」

 

 

 あんみつがそう言うと、ネプギアは手を離し、あんみつも脇差をしまう。

 

 

「再度確認しますが、プラエ様は暫くネプギア殿と行動を共にしたいと言うのですね」

 

 

 あんみつがそう言うと、「うん、ネプギアお姉さんの力になりたい。そして、一緒に姉さまを見つけるの」とプラエがハッキリと言う。

 

 

「……そうですか……」

 

 

 あんみつが辛そうな顔をする。

 

ネプギアはあんみつがあまりにも辛そうな顔をするので、「どうかしましたか?」とやや控えめに問いかける。

 

 

「何でもありません。プラエ様がそう望むのであればメイドである私も命を掛けて、ネプギア殿をお助けしましょう」

 

 

 あんみつはそう言うと、「粗忽者ではありますが、よろしくお願いいたします」とネプギアに深々と頭を下げる。

 

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 ネプギアもそう言って頭を下げると、右手を差し出す。

 

 

「プラエちゃんの為に一緒に頑張りましょう」

 

 

 ネプギアがにこやかに言う。

 

その行為は上下関係無しに、プラエの為に行動しようと言う意思の表れであった。

 

 

「かたじけない」

 

 

 それを理解したあんみつも右手を出して、二人はガッチリと握手を交わす。

 

 

 

****

 

 

 

 プラエとあんみつの件が解決したので、ネプギアは二人を連れてイストワールと合流し、みんなで夕食をとりながらファミ通の取材を受けていた。

 

ネプテューヌは先程まで遊んでいたゲームのボスにリベンジをすべく、食べてすぐにリビングに戻って行った。

 

 

「今日の取材はこれで終わりです。ご協力ありがとうございました」

 

 

 ファミ通が深々と頭を下げると、「夕食までご馳走になってしまって、本当にありがとうございます」と続けて言う。

 

 

「待たせてしまったのはこちらですから」

 

 

 イストワールがそう言うと、「私の勘違いで皆様にご迷惑をおかけして申し訳ありません」とあんみつが頭を下げる。

 

 

「それで、何かご質問とかありますか?」

 

 

 ファミ通がそう言うと、特に誰も手を上げる雰囲気はなかった。

 

それを確認したネプギアは、「はい」と右手を上げる。

 

 

「なんでしょう? 何でも聞いて下さい」

 

 

 ファミ通がそう言うと、ネプギアは少し申し訳なさそうに、「取材のことじゃないんですけど、ファミ通さんに聞きたいことがあるんです」と言う。

 

控えめな彼女は取材に関係ない質問なので、他の誰も手を上げないのを確認してから質問をしたのだ。

 

 

「いいですよ。私に答えられることなら何でも答えますよ」

 

 

 ファミ通がにこやかにそう言うと、「ありがとうございます。ファミ通さんはプロテノール=パピリオって名前の方は知っていますか?」とネプギアが質問する。

 

プラエとあんみつを取材に同席させたのは、この話をする為であった。

 

 

「プロテノール=パピリオ……? 申し訳ないのですが聞き覚えがありませんね」

 

 

 ファミ通はそう答えると、「その方がどうかしたのですか?」とネプギアに質問をする。

 

 

「プラエちゃんがお姉さんを探してるって話をしましたよね。その人の名前がプロテノール=パピリオって言うんです」

 

 

 ネプギアはそう言うと、プラエのことを超能力のことを隠しつつファミ通に話す。

 

ファミ通もその話に興味があったのか、真剣に聞きながらメモを取る。

 

 

「危ない危ない。こんな良いネタを仕入れ損なうなんて、私の記者としての勘もまだまだですね」

 

 

 ファミ通はそう言いながらしきりに頷くと、「良ければ、そのプロテノール=パピリオさんを探す件、私の記事で協力させてもらっていいですか?」と言った。

 

 

「えっ……!?」

 

 

 突然の申し出に慌ててしまうネプギア。

 

 

「ネプギア様の保護した謎の美少女の姉をみんなで探す企画。多分、編集部でも通ると思うんですよね」

 

 

 ファミ通は陽気に言うが、ネプギアは少し複雑な顔をする。

 

その表情を見たファミ通は、「ダメですかね? もちろん無理にとは言いません」と付け加えた。

 

 

「プラエちゃん、どうかな? 週刊ファミ通って言うのは凄く歴史のある有名な雑誌で、ここに協力して貰えば、かなり見つかりやすくなると思うんだ」

 

 

 ネプギアは好意的な意見を付け加えながら、プラエに尋ねる。

 

 

「しかし、プロテノール様は既に……」

 

 

 あんみつがそこまで言うと、「そんなことない! 姉様は絶対に生きてる!」とプラエが大声で叫ぶ。

 

 

「……失礼しました」

 

 

 あんみつは自らの失言を悔いるように頭を下げて謝罪する。

 

 

「……プラエ、よくわからない。ネプギアお姉さんに決めて欲しい……」

 

 

 プラエがすがるような上目遣いでネプギアを見る。

 

ネプギアは少し考えた後に、「それじゃあ、協力してもらうことにするね」と答えた。

 

 

「いいんですか?」

 

 

 ファミ通が念のための確認をすると、「うん、ネプギアお姉さんがそう言うなら」とプラエも頷く。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 ファミ通は嬉しそうにお礼を言うと、「それで話してる間に思い出したんですけど、パピリオって姓なら私知ってますよ」と続けて言う。

 

 

「えっと、ネオジェネシスの守護女神様、クストゥス=パピリオさんとその妹のアテネさんですか」

 

 

 ネプギアがそう答えると、「おおっ、お若いのに博識で……さすがは女神様」とファミ通が驚きの顔をする。

 

 

「今日、ギルドの方に聞いたんです。名前だけしか知りません」

 

 

 ネプギアが正直に答えると、「それでも凄いですよ」とファミ通が称賛する。

 

 

「ファミ通さんは詳しいんですか?」

 

 

 ネプギアがそう尋ねると、「そりゃ、記者ですからそれなりに。ウチの雑誌でも何度も取り上げてたみたいですから」とファミ通が答える。

 

 

「知ってる範囲で構いませんので、話してもらえませんか」

 

 

 ネプギアがそう言うと、「勿論いいですよ。私も話すつもりでしたし」とファミ通が快く頷く。

 

 

「ネオジェネシスを語るうえで外せないのが、当時大流行した年に一度の闘技イベントの【ゴッド・オブ・ウォリアーズ】です」

 

 

 ファミ通が話を始めると、全員が黙って話に耳を傾ける。

 

 

「三人一組のチームで、ゲイムギョウ界最強を目指して戦う大会で、当時大隆盛を誇っていたネオジェネシスが大々的に行ったんで凄い盛り上がりを見せたんですよ」

 

 

 ファミ通が熱っぽく語る。

 

記者だけあって話し上手なようで、ネプギア達はファミ通の話に引き込まれていった。

 

 

「なので優勝チームには莫大な栄誉と賞金が与えられるのですが、それだけじゃないんです。なんと当時謎に包まれていたネオジェネシスの守護女神とのエキシビションマッチの権利が与えられるんです」

 

 

 ファミ通がそこまで話すと、「えっ!? チームと戦うって一対三ですか? しかも優勝したチームと?」とネプギアが驚きの声を上げる。

 

 

「そうですよね。普通はネオジェネシスの守護女神が不利だと思いますよね」

 

 

 ファミ通が思わせぶりな言い方をすると、「その言い方って……もしかして勝っちゃうんですか?」とネプギアが恐る恐る尋ねる。

 

 

「ええ、最初は優勝チームが優勢なんです。ですが、途中でクストゥスが女神化するんです。血のような朱色の髪を持った隻眼の女神【ヴァーミリオンハート】に」

 

 

 ファミ通が真剣な顔で話すのを全員が固唾を飲んで聞いている。

 

 

「そして勝つんです。しかも圧勝で。なんのズルもなく圧倒的な力で優勝チームを捻じ伏せるんです」

 

 

 ファミ通の言葉に、「圧勝……」とネプギアが驚きの表情を浮かべる。

 

更にファミ通は、「特に、彼女の使う必殺技【ジェノサイダーカッター】は何者も寄せ付けず、優勝チームに恐怖を植え付けたそうですよ」と続ける。

 

 

「こうして、ネオジェネシスの守護女神クストゥス=パピリオことヴァーミリオンハートは華々しいデビュー戦を飾りました」

 

 

 ファミ通がそこまで話すと、「しかし、各国の女神様達はそれを指を咥えて見ているだけではなかった」とイストワールが話に入ってくる。

 

 

「翌年からは各国が精鋭チームを大会に紛れ込ませ、ヴァーミリオンハートを公衆の面前で打ち倒すよう指示をしたのです」

 

 

 ファミ通が、「さすがはイストワール様よくご存じで」そう言ってイストワールと称賛すると、「当事者ですから。しかし、思い出したくない苦い記憶ですね」とイストワールが暗い顔をする。

 

 

「……苦い記憶? もしかして……」

 

 

 ネプギアがそう言うと、「ええ、勝てませんでした。プラネテューヌもルウィーもラステイションまでもが一流の戦士を送り込みましたが、毎年ヴァーミリオンハートのHPを半分も減らせませんでした」とイストワールが答えた。

 

 

「今でも魔法の天才はフラッグハート。戦いの天才はヴァーミリオンハートと言われていますからね」

 

 

 ファミ通の言葉に、「フラッグハート?」とネプギアが首を傾げる。

 

 

「ルウィーの二代目女神の文子様のことです。現実世界の日本の国旗を模した白と赤の色を持った女神様なので、そう名乗っていたのです」

 

 

 イストワールがネプギアの質問に答える。

 

 

「しかし、ヴァーミリオンハートの快進撃はいつまでも続かなかった。格闘ゲームブームの終焉と共にヴァーミリオンハートも力を失い次第に苦戦し、妹のアテネを加えた二対三形式にするも辛勝が続くようになってきた」

 

 

 ファミ通がヴァーミリオンハートの話を続けると、「しかし、倒すには至らなかった」とイストワールが続ける。

 

ファミ通が頷いて、「ええ」と言うと、「格闘ゲームブームの終焉でネオジェネシスの運命は風前の灯火でした」とイストワールが言う。

 

 

「しかし、このままシェア低下によるネオジェネシスの滅亡を待つよりも、戦士としての敬意を表して最後に一戦を望んだプラネテューヌ、ルウィー、ラステイションの女神様は三人でチームを組み大会に参加し、ヴァーミリオン姉妹に勝利したのです」

 

 

 ファミ通がそう言って締めくくると、「最後にヴァーミリオン姉妹は自爆し行方不明。ネオジェネシスはそのまま滅亡しました」とイストワールが付け加える。

 

 

「何か参考になりましたか?」

 

 

 ファミ通がネプギアとプラエに尋ねる。

 

 

「よくわかりませんが、ヴァーミリオンハートが恐ろしく強かったと言うのは凄く伝わってきました」

 

 

 ネプギアがそう答えると、「ヴァーミリオンハート……仲間を頼らず一人で戦うの少し姉さまに似てる……」とプラエが答えた。

 

 

「…………」

 

 

 あんみつはそんなプラエを悲しそうな顔で黙って見つめていた。

 

 

 

 

****

 

 

 

 ファミ通の取材を終えたネプギアはプラエとあんみつを客室に案内していた。

 

 

「この部屋を自由に使ってください」

 

 

 ネプギアが案内した部屋は広さ四十畳程のスィートルーム。

 

家具も充実しており、一流ホテルのような佇まいだ。

 

 

「何から何までかたじけない」

 

 

 あんみつが深々と頭を下げるが、プラエは不安そうな顔でネプギアを眺める。

 

 

「うん? どうしたの? なにか欲しいものでもあるのかな」

 

 

 ネプギアが優しい声で問いかけると、「……ネプギアお姉さんと一緒がいい」とプラエが上目遣いでネプギアのスカートの端をを摘まむ。

 

 

「プラエ様! そのようなワガママ……」

 

 

 あんみつがそう言いかけるが、「それじゃ、今日は一緒にお風呂入って寝よっか?」とネプギアがプラエの頭を撫でると、「うんっ!」とプラエは花の咲いた笑顔を見せる。

 

 

「…………」

 

 

 呆気にとられて黙ってしまうあんみつに、「やっぱり色々と不安なんだと思います。暫く一緒にいようと思います」とネプギアが答える。

 

 

「しかし、ネプギア殿にも都合が……女神であらせられる貴女には様々な責務があるのでは?」

 

 

 あんみつがそう言うと、「それだったら、いくらでも調整しますから。安心して下さい」とネプギアが事も無げに言う。

 

 

「プラエもお手伝いする!」

 

 

 プラエがネプギアに続いて言うと、「ありがとう」とネプギアが微笑む。

 

 

「それじゃ、お風呂入ろっか?」

 

 

 ネプギアが左手でプラエの右手を握ると、「うん!」とプラエが握り返し、二人は浴室に入って行く。

 

 

「……優しすぎる……」

 

 

 あんみつはそう呟くと、「プロテノール様は何を思って、あの二人を引き合わせるようなことを……」と言って二人の入って行った浴室のドアを眺めていた。

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