野生児少女は魔法剣を使いたい   作:とらいあ

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野生児少女は交渉下手

大都市サードレマ。

 

石畳の大通りには昼過ぎの強い日差しが降り注ぎ、大小様々な露店が並びます。

 

毎週恒例の露店市。威勢のいい呼び込みの声が飛び交い、鉄と革が混じり合った独特の匂いが漂います。

 

売られているのは武器、防具、アクセサリーなど、私たち開拓者向けの品々です。

 

行き交う人々は思い思いに商品を手に取り、武器の性能を確かめる者もいれば、店主と値段交渉を繰り広げる者もいます。

 

 

もっとも、私にそれを眺める余裕はありませんでした。

 

「わたしがほしいのはもっと派手なやつ。ズバーンってぶった切れるような」

「馬鹿言うんじゃないよ、嬢ちゃん。そんなモン王都にだってそうそうないさ」

「この剣、ちょっと火が出るだけでしょ。他にないの?」

「ああん!? うちの品に文句があんならどっか行け!」

 

一人の少女が店主と言い争っていました。

 

15歳くらいの小柄な少女です。日によく焼けた小麦色の肌と猫を思わせる瞳が特徴的でした。

 

見るからに初心者らしい、簡素な革の防具を身につけています。

 

少女は店主を怒らせてしまったようです。背中を強く押され、石畳の上に追い出されました。

 

少女は肩を落として次の店へと足を向けましたが、そこでも同じことを繰り返します。

 

さらに次の店でも、その次も。

 

「……むう。なかなか見つからない」

 

大通りの端の方まで来て、少女はようやく立ち止まります。

 

この少女が私です。

 

 

 

 

『シャングリラ・フロンティア』発売。

 

そのニュースを聞いた時、私はとうとうその時が来たことを喜びました。

 

ネット小説の世界に転生したと気付いて早数年。

 

前世と性別が変わって女性になった戸惑いも、シャンフロの衝撃で吹き飛びました。

 

ネット小説に登場したVRMMOゲーム、『シャングリラ・フロンティア』。

 

それを実際にプレイできると気付いてからはシャンフロのことで頭がいっぱいでした。

 

しかも私には原作知識があります。

 

上手く立ち回ればかなりいい所までいけるのではないでしょうか。

 

発売と同時に購入し、さっそくアバターを作りました。

 

15歳くらいの褐色肌の少女。これが、私がシャンフロで操作するキャラクターです。

 

そして、演じる人物でもあります。

 

なりきりプレイというやつです。

 

私はゲームごとに専用の人物像を作るプレイスタイルで、VRゲームでもそれは変わりませんでした。

 

それにシャンフロはロールプレイが重要なゲームです。

 

プレイヤーとしての損得だけ考えるよりも、あらかじめ方向性を決めておいた方が動きやすいでしょう。

 

ジョブは剣士、出身は獣の子を選びました。

 

設定はこうです。

 

 

とある森の中に、獣に育てられた少女がいました。

 

少女はある日、剣士が強大なモンスターと戦っているのを目撃します。

 

剣士が輝く剣を振るうと、モンスターは一刀両断。

 

その光景に魅せられた少女は、自分もああなりたいと思い、たまたま拾った剣を手に人間の街へと向かうのでした。

 

 

こんなところですね。

 

ええ、分かっていますとも、シャンフロの世界観上ありえない設定であることは。

 

でもいいんです、これはゲームなんですから。

 

さあ、もう待ちきれません。

 

早くあのシャンフロの世界に飛び込みたい。

 

はやる気持ちのままに、私はゲーム開始のボタンを選択するのでした。

 

 

 

 

出身に獣の子を選ぶと、ゲーム開始地点が街の入り口ではなく森の中になります。

 

同じような目にあったサンラクさん(原作主人公)はうっかり最初の街をスキップしてしまいましたが、なぞる気はありません。

 

最初の街ファステイアを探し当てて、しっかりチュートリアルクエストをクリアしてきました。

 

剣士ギルドへの加入、サブジョブの設定やスキル秘伝書の説明など。

 

ゲームが発売されたばかりでまだプレイヤーがさほど多くなく、待たされることなくクエストを受けられましたね。

 

これがしばらく経つと神ゲーとしてソフトは連日売り切れ、この街も新規プレイヤーで混雑するわけですから、初日勢の特典と言えるでしょう。

 

その次は最初の森に戻ってレベル上げです。

 

ここでまれに出現するヴォーパルバニーが落とす武器が、ゲームの根幹に関わるユニークシナリオへと繋がっていくのが原作の流れ。

 

ですがスルーします。

 

というのも、その武器はクリティカル系の効果付きで、私のステータス方針には合わないんですよね。

 

私のキャラクターのLUCは1です。

 

シャンフロにおけるクリティカルは確率で発生するものではなく、プレイヤースキルが大きく影響します。

 

私のプレイヤースキルは高くないので、そこにLUCで多少の補正が入っても焼け石に水なのです。

 

だったら、STRやAGIなど確実に強さに繋がるステータスに振る方が性に合っているでしょう。

 

そんなわけで、私のシャンフロプレイ1日目はごく普通のプレイヤーと変わらないのでした。

 

 

 

 

最初のエリアボス、貪食の大蛇は普通にレベルを上げて倒しました。

 

次のボス、原作ではソロ殺しと言われていたマッドディグは苦戦しました。

 

体力をある程度削ると泥の中からこちらを空高く突き上げてくるので、空を飛べでもしない限りは落下ダメージで即死です。

 

しかし再挑戦しているうちに、どうして泥の中からこちらの位置を正確に当てられるのだろうと考えるようになりました。

 

普通のゲームならそれがゲームだからで済みますが、シャンフロは普通のゲームではありません。

 

鼻先のヒゲを切断すればこちらを見失うと気付いてからは楽でした。

 

シャンフロがリアリティを重視していることは知っていましたが、実際に体験すると感動しますね。

 

 

そうして私は今、大都市サードレマに来ています。

 

ザ・ファンタジーといったこの都市は序盤のエリアでは最も大きく、後々は大勢のプレイヤーの拠点となっていきます。

 

必然的に、販売されているアイテムも各地から様々な物が集まっています。

 

私はこの街で、魔法が使える剣――魔剣を探し求めていました。

 

理想としては、前世のソシャゲで有名だった、光の刃で敵を一刀両断するエクスカリバーです。

 

まあ、序盤にそんなものがあるわけないと言えばその通りなのですが。

 

これはシャンフロ、攻略Wikiにも載りきらないほど隠しイベントが盛りだくさんの超大作ゲームです。

 

お店の品揃えにない物を探すのが隠しイベントのトリガーということもありえます。

 

そう思って尋ね回っていたのですが、残念ながら空振りだったようです。

 

仕方ない、普通の魔剣を買いますか――おっと、これは?

 

「……雷の魔剣? かっこいい! これちょうだい!」

「お客さん、お目が高いね。それは王都からの流れ物だよ」

 

珍しい雷魔法が使える魔剣ですか……使ったときの見た目が派手そうです、気に入りました。

 

「6,000マーニだね」

「……んんん! 買う!」

 

やれやれ、これで無一文です。でもその価値はあったと思いましょう。

 

 

 

 

街を出たところで突然、背後から斬りつけられました。

 

「良い装備持ってるね。くれよ」

 

プ、プレイヤーキラー!?

 

 

 

 

全財産をはたいて魔法の剣を手に入れたら、他のプレイヤーにキルされて奪われました。

 

今はリスポーン地点の宿屋の一室に閉じこもっています。

 

 

失敗しました。

 

そういえば、初期のシャンフロはPKが盛んな方でした。

 

途中でプレイヤーキラーへのペナルティがより厳しくされたほどです。

 

まだサービス開始したばかりなのに、もう遭遇してしまうなんて。

 

不相応な高級装備を持っていたから狙われたのでしょうか。

 

装備もマーニも失って、しばらくはこの街で足止めです。

 

ああ、いえ、それよりも。

 

胸のむかつきが収まりません。

 

よくも、よくも。

 

……いけませんね、こういう時は考え事をして気を紛らわせましょう。

 

前世のとある英国紳士の力を借ります。

 

『なに? PKされた上に装備を奪われて腹が立つ?』

『ライザ、それは弱くなったと思うからだよ』

『逆に考えるんだ、これは成長イベントだと考えるんだ』

 

 

私が演じる少女ライザは野生育ちです。

 

野生は弱肉強食。

 

では、食うか食われるかの日常を送っていたのでしょうか。

 

いいえ、違います。

 

縄張り争いを除いて、野生生物にとって狩りは食事にすぎない。

 

食事のたびに怪我のリスクを負っていては到底生き延びられません。

 

安全に仕留められる弱者だけ狙って、強者からは逃走するか身を隠す。

 

格下狩りが野生の戦いです。

 

では、ライザが憧れた剣士はどうでしょうか。

 

相対していたモンスターは明らかに格上、剣士は傷つき追い込まれていたでしょう。

 

逃げても誰も責めません。

 

にもかかわらず、その人は毅然と立ち向かい、ついには倒してみせた。

 

ライザが憧れたのはそんな、野生には存在しない格上殺しだったのです。

 

 

……ふむ、いいですね。

 

今後は格上殺しビルドを目標にしましょうか。

 

今のAGI重視のステータス振りを、これからはSTR重視に。

 

手数よりも一撃の重さを重視する決戦タイプです。

 

それからスキルを積極的に使って育てていきましょう。

 

装備は今回みたいに失う危険がありますが、スキルは奪われません。

 

 

 

 

さて、そうと分かれば向かう先は決まりました。

 

サードレマからは三方向に道が伸びていますが、格上と戦うなら道は一つです。

 

ユニークモンスター『天覇のジークヴルム』に会いに行きましょう。




・マッドディグのヒゲ
マッドディグは鮫の頭にナマズのヒゲを持つ、泥の中を泳ぐモンスターである。
ナマズのヒゲは視界の悪い泥中でも周囲の環境を感じ取るための感覚器官であり、シャンフロでも同じ役割を担っていることは想像に難くない。
即死攻撃に対する明確な攻略法が用意されているボスなのだ。
にも関わらずソロ殺しと呼ばれているのは、世界観と向き合うプレイヤーの少なさを物語っているのだろう。
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