野生児少女は魔法剣を使いたい   作:とらいあ

11 / 15
蠍フィーバーはオリ主の嗜み

新大陸中央、シグモニア前線渓谷(フロントライン)

 

ドーナツ状の渓谷に囲まれた中心部の丘は全体がツァーベリル帝宝晶の結晶に覆われており、日中の今は太陽の魔力で碧色に輝いています。

 

水晶の冠とも称される幻想的な景色。

 

私はその光景を、離れたところに設置したセーブテントから眺めていました。

 

ツァーベリル帝宝晶は魔力の吸収効率に非常に優れており、武器や防具にすればその性能を生かした効果を付与します。

 

また、ここにはツァーベリル帝宝晶を餌とする、水晶群蠍の亜種である帝晶双蠍(アレクサンド・スコーピオン)が生息しています。

 

どちらもカラドボルグの強化素材としてうってつけです。

 

そのためにはるばる樹海を抜けて、その先の砂漠も踏破してここまでやってきたのでした。

 

さて、目的地は深い渓谷の先にあります。

 

渓谷の下はモンスターたちの二大勢力が戦争し続けている危険地帯であり、とても生きては通れません。

 

中央の丘へ行くには渓谷を飛び越えるしかありませんが、渓谷の幅は最低でも100メートルはあり、越えるには空を飛ぶしかないのです。

 

そして私は、この状況を打開する手段をちょうど手に入れていました。

 

 

崖の縁へとやって来た私は、自己バフをかけた後に一つのスキルを発動しました。

 

――空中跳躍スキル『ヘルメスシュート』。

 

レベルキャップを解放したことで習得したこのスキルは、同じヘルメスシリーズの『ヘルメスブート』と違い、一度しかジャンプすることができません。

 

方向転換も減速もできない、使い勝手の悪いスキルです。

 

ですがそのデメリットを補って余りある魅力があるのです。

 

それは、圧倒的な跳躍力。

 

『ヘルメスブート』の総距離よりもかなり長い距離を『ヘルメスシュート』なら移動できます。

 

バフでステータスを盛っている私なら、100メートル程度、文字通りひとっ飛びなのです。

 

空を飛ぶ、いいえ、跳ぶ私。

 

ぐんぐんと帝宝晶が近づいてきます。

 

一面碧色の結晶地帯に、同じく碧色の蠍が紛れているのが見えました。

 

――横向き『爆心降撃(グラウゼロ・ダイブ)』!

 

こんにちは、お邪魔します!

 

 

 

 

勝ちました。

 

個体としては水晶群蠍よりもかなり強い帝晶双蠍ですが、水晶群蠍と違って複数で襲ってくることはありません。

 

1対1なら私の得意分野です。

 

避けにくい魔力ビームだって、高い魔力抵抗を持つ水晶群老蠍の鎧を装備していますし、これで負けたら修行し直しですよ。

 

そんなわけで、目の前には倒したばかりの帝晶双蠍のドロップ素材が散らばっているのですが。

 

あえて、これを拾いません。

 

原作を読んだ時から疑問でした。

 

どうして帝晶双蠍は、仲間の危機には無関心なのに、仲間が倒された途端に駆けつけてくるのでしょうか。

 

ずっと戦いを監視していたならまだ分かります。

 

ですが明らかに見えるはずのない位置にいた個体まで駆けつけています。

 

このゲームはシャンフロです。妙なことが起きる時、そこには必ず理由があります。

 

 

【帝晶双蠍の貴宝殻】

ツァーベリル帝宝晶と同質の甲殻。極めて濃密な蓄積魔力を発している。

 

 

鍵はドロップ素材のフレーバーテキストでした。

 

つまり、このアイテムがプレイヤーに拾われてインベントリに収納されるとその分だけ一帯の魔力濃度が低下することになります。

 

その変化が周囲の個体を呼び寄せているのだとしたら?

 

そうして、いつでも拾えるようにしながら警戒することしばし。

 

答え合わせは済みました。

 

「……ふ、ふふふ、ふ」

 

成功です。

 

縄張りに空きができたというのに、周囲の個体がやってくる様子は一向にありません。

 

これが意味するところは一つ。

 

「採り放題!」

 

採掘の時間です。

 

 

 

 

「……出ない!」

 

一時間後、私は頭を抱えていました。

 

レアアイテムが出ません。

 

掘れども掘れども、手に入るのはツァーベリル帝宝晶ばかりです。

 

まさか、ここで手に入るのがこれだけということはないでしょうに。

 

……落ち着きましょう。

 

これだけ全く落ちないということは、おそらく入手条件が設定されているのでしょう。

 

考えられるのは特定の場所か、あるいは――特定の時間帯。

 

 

【ツァーベリル帝宝晶】

極めて魔力蓄積効率の高い水晶。日光と月光をそれぞれを浴びることで、蓄積した魔力の性質を全く別のものに変える。

 

 

昼と夜で性質を変える水晶……それなら、その中間は。

 

 

 

 

「あはははは! コーウェン、お土産には期待しとくべき!」

 

大当たりです。

 

日没直後の採掘では、今までが嘘のように次々とレアアイテムが落ちました。

 

地形オブジェクトの帝宝晶が突然はじけ飛んでリスポーンさせられた時は面食らいましたが、だからこそ何かがあると確信出来ました。

 

手に入ったのは【ポストイ・ツァーベリル】……まだ魔力が蓄積されていないツァーベリル帝宝晶、ですか。

 

外に出しっぱなしにしているとまずそうですね、コーウェンに渡す時は伝えておきましょう。

 

さて、今日はもう時間切れのようですが、ジークヴルムの決戦はまだ先です。

 

可能な限り持ち帰りましょう。

 

 

 

 

――なんて、欲張ったせいでしょうか。

 

何日目かの採掘でそいつは現れました。

 

『レアエネミー 帝晶双葬蠍(アレクサンド・デス・スコーピオン)

 

はっきりいって、そこまで強くはありませんでした。

 

周囲の帝宝晶に擬態する奇襲能力と、鋏から魔力の刃を出す能力が特徴的でしたが、ミミムゆずりの索敵能力を得た私にとっては前者は脅威ではなく、後者も十分対処できる範囲でした。

 

素材のフレーバーテキストから察するに、どうもこのモンスター、水晶巣崖の黄金独蠍とは違ってプレデターではなくスカベンジャーのようです。

 

そういうわけで、現れても倒すこと自体は問題ありません。

 

問題は。

 

「……むうううう! 出ない、時間切れ! こいつのせい!」

 

これと戦っているとポストイ・ツァーベリルを採掘できる時間帯が過ぎてしまうということです。

 

出現するのは日没直後と日の出直後だけで、普通の時間帯では全く出てこないのが腹が立ちます。

 

……はあ。

 

まあ、出てくるまでに最低一度は採掘できますし、試行回数でカバーしますか。

 

ため息をついてドロップ素材を拾い集めるのでした。

 

 

 

 

『シャングリラ・フロンティアをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します』

『現時刻を持ちまして、ユニークモンスター「深淵のクターニッド」の討伐を確認いたしました』

 

 

 

 

「受け取れ。これが新たなる姿、『帝晶剣(ツァーベリル)カラドボルグ』だ」

「……ん、確かに。今回もいい仕事だった、コーウェン」

 

クターニッド討伐後の時系列はうろ覚えです。

 

間違ってもタイミングを逃すことのないよう、早めに旧大陸に戻って武器を強化することにしました。

 

「なあ貴様……いや、ライザ」

「……なに、改まって?」

「この剣はここまでだ。少なくとも今はな」

「……今は?」

「理由は二つある。一つは、この剣がもはや貴様そのものに等しいからだ。使い手の貴様が新たな偉業を成し遂げれば、この剣はそれに応えるだろう。逆に言えば、偉業なくしてこれ以上の進化はない」

 

コーウェンから告げられたのは、おそらく英傑武器の神化に関する情報です。

 

今はここまで……新しい武器の性能は念入りに確認しないといけませんね。

 

「そして、二つ目だが」

 

絞り出すような声でコーウェンが続けます。

 

「……今の僕には、この剣の先を形にできる力がない……!」

 

 

「必ずあるはずなんだ! この剣を更なる先へと進ませる方法が! なのに僕には、その方法がさっぱり分からない!」

 

「なんだ、何が足りない!? 僕は天才だぞ、腕はある! 炉だって最上の物を用意した!」

 

「ああ、世界を見守りし三神よ! なぜ僕に天啓を授けてくださらないのか!?」

 

 

息を荒げるコーウェンの姿は今までに見たことがないものでした。

 

普段の自信満々な様子からは想像もつかないほど追い詰められています。

 

なまじ能力が高いだけに、自分が英傑武器を神化できないと分かってしまったのでしょう。

 

これがプレイヤー相手なら『古匠』のジョブを取得していないから、で済みますが、NPCには何と言えばいいのでしょうか。

 

「コーウェン」

「……すまない、取り乱した。悪いが今日はここまでにしてくれ」

「聞いて、コーウェン。わたしがここまで来れたのはコーウェンのおかげ。カラドボルグと出会えたのも、いい防具を揃えたのだって、コーウェンの力がないと無理だった。コーウェンにはずっと頼りっぱなし」

「……ライザ」

「だから今度はわたしの番。わたしを頼って、コーウェン。必要なもの、絶対に見つけて持ってくるから」

 

ジークヴルムとの決戦直後、神代の遺産であるリヴァイアサンが現れることは覚えています。

 

リヴァイアサン内部では、古匠になるために必要なアイテムが手に入ったはずです。

 

それを説明することはできませんが、決意は伝わったのでしょう。

 

コーウェンは弱々しく微笑みました。

 

「……そうだな、貴様はこの僕が認めた相手だものな。期待して待つとしよう」

「ん。……あちこち探すためにはいい装備が必要」

「……う、うん? まあ、そうだな?」

「じゃ、これとこれで防具を作って。予備も含めて2セットお願い」

「遠慮ないな貴様!? ええい分かった分かった、一週間待ってろ!」

 

 

 

 

「そら、約束の品だ。それとこれも受け取れ」

「ん、ありがとう。『三神の紹介状』……これは?」

「ここだけの話だがな、王家が騒がしい。亜人嫌いの第一王子が実権を握ることになりそうだ。……貴様のその耳、詳しくは聞かんが亜人関連だろう? 調査要員の枠を取ってきたから、しばらく新大陸でゆっくりしてこい」

「……んん? これを見せれば調査船に乗れるって言った?」

「そうだが」

 

コーウェンから新大陸調査船のチケットを貰いました。

 

なにこれ。

 

「えっ、コーウェンって有名人?」

「貴様は僕がどうやって生計を立てていると思ってるんだ。パトロンがいるに決まってるだろう」

 

い、言われてみれば。

 

ほとんどの依頼人を追い返すコーウェンがこうして自分の鍛冶屋を持てているということは、別口で収入の当てがあるということです。

 

いくら腕が良くても一人で作れる装備の数には限りがあり、逆に言うと一品物を必要とする相手と取引があるということで。

 

意外なところから出てきた意外なコネクションに呆然としてしまいました。

 

「ふん、勘違いするなよ。貴様ほどの相手がくだらん騒ぎに巻き込まれるのが嫌だっただけだからな!」

 

とりあえず、後で午後十時軍の船に断りの連絡を入れておきましょう。




・素材放置による安置作成
ゲーム的にはリソース値で判定しているのでレア素材だけ拾うのは無理。

・ポストイ・ツァーベリル
まだ魔力が蓄積されていないという設定から、本作では日の出後と日没後の短時間のみ入手確率が上昇すると解釈した。
原作での入手時は時間帯に言及されておらず、よって普段も出るはずだがオリ主は忘れている。結果的に功を奏した。

・帝晶双葬蠍
帝晶双蠍のレアエネミー。
突出しようとした同胞を葬っている内に死骸喰いに目覚めた。
特定の時間帯に素材放置を繰り返すと出現する。ポストイ乱獲対策。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。