野生児少女は魔法剣を使いたい   作:とらいあ

12 / 14
聖女とエルフ、あと半裸

「マスター、アップルパイ一つ」

「……あいよ」

 

新大陸調査船『ズィーズィー』号に乗って早三日。

 

私は今日も船内のカフェ『海蛇の林檎』で食事をとっていました。

 

リアリティを重視するシャンフロですが、味覚だけは制限されていることで有名です。

 

ですが美味しい料理を食べると制限が解除されるらしく、ここのメニューはまさにその条件を満たす美味しさでした。

 

暇でしょうがない船旅のささやかな楽しみですね。

 

そうして食事を楽しんでいたところ、他のプレイヤーが話しかけてきました。

 

「君がライザさんだね。食べ終わってからでいいから、私の話を聞いてほしいな」

 

どうやら暇ではなくなりそうです。

 

 

 

 

「初めまして、私はイリステラ……僭越ながら聖女と呼ばれています」

「ん、は、初めまして。わたしはライザ……です」

 

どうしてこんなことに。

 

私は今、船の一室で超重要NPC『慈愛の聖女イリステラ』と面会していました。

 

三神教の象徴的存在である聖女が私に会いたがっていると聞いた時は耳を疑いましたが、こうして実際に対面できたとなれば疑いようもありません。

 

助けを求めようと、私をここへと連れてきたプレイヤー、ジョゼットさんの方を見ますが、彼女は直立不動で聖女を見つめるばかりです。

 

「貴方とは一度お会いしたかったのです。水晶群老蠍を討ち、英傑武器を蘇らせ、コーウェン様の推薦を得た貴方に」

 

コーウェン、あなたの伝手って教会ですか!?

 

というか、私ごときの経歴をどうして聖女が知っているのですか。

 

「嬉しい、あっ、光栄です」

「さて、そんな貴方に一つお願いがあるのです」

 

『クエスト「聖女の護剣(ソード・オブ・セイント)」を受注しますか? はい・いいえ』

 

 

「新大陸では国王の暗殺が行われます」

「……助けろってこと、ですか?」

「いいえ、そちらはすでに協力者がいます。彼の人は国王と王女を助け、森林族(エルフ)と合流して帰還します」

「んん? じゃあなにが問題なの、ですか?」

「問題はありません。ええ、ありませんとも。王族と森林族の友好、そして「赤」の討伐という偉業の前に、犠牲は些事でしかありません」

「……」

 

まるで未来を知っているような話しぶりです。

 

原作ではどうでしたっけ。

 

「ですがやはり、犠牲がないに越したことはありません。ほんの僅かな可能性でも、それに届きうる手があるのなら……ライザ様、どうか無辜の命を「赤」からお守りいただけないでしょうか」

 

 

 

 

大変なことになりました。

 

新大陸の樹海を進みながら、聖女から受けた依頼を再確認します。

 

クエスト名は『聖女の護剣(ソード・オブ・セイント)』、種別は護衛クエスト。

 

「赤」から無辜の命を守り通す、それが依頼内容です。

 

かなりあやふやな依頼ですが、原作知識を通すと見えてくるものがあります。

 

「赤」とは、レイドモンスター『貪る大赤依』。

 

無辜の命とは、レイドモンスターに襲われるNPCたちのこと。

 

いや無理では?

 

ですがすでに、前払いで報酬を貰ってしまっています。

 

本人は「無理は承知ですのでお気になさらず」なんて言っていましたが、失敗したら確実に好感度は下がるでしょう。

 

あとジョゼットさんの視線が怖い。

 

ですのでこうして、指定された日時に指定された方角へと向かっているのです。

 

そうしてどれだけ進んだころでしょうか、索敵スキルの端に反応がありました。

 

NPCの集団です。

 

一名のプレイヤーを中心に、索敵スキルの効果範囲内だけでも数十人のNPCが一団となって移動しています。

 

おそらくあれが森林族の集団、そして森林族と友好を結んだ唯一のプレイヤーとして有名なトットリ・ザ・シマーネさんですね。

 

 

 

 

「こんなところで何してるんだい? ただの通りすがりならこのまま去ってくれると嬉しいんだがな」

「こんにちは。聖女ちゃんのクエストで来ました」

 

ファーストコンタクトの感触はあまり良くありません。

 

トットリさんは他のプレイヤーが絡んでくることに乗り気でない様子です。

 

向こうはユニークシナリオを攻略するためにノーデス縛りを課されているようですし、余計なリスクは負いたくないのでしょう。

 

ですが、こちらもノープランではありません。

 

「――というわけで、そちらの護衛に加えさせてほしいのです」

「……なるほど。そっちの事情は分かったけど、こっちにメリットはあるのか? 正直、プレイヤー一人増えたくらいじゃ戦力は大して変わらんぜ」

「顔のこれ、ユニークモンスターの呪い(マーキング)です。言いたいことは分かりますか?」

「……モンスター避けか、それは確かに魅力的だな。けど新大陸のモンスターは強いしなあ、どれだけ効果があるか……」

「私のレベルは140です」

「ぜひお願いします」

 

そういうことになりました。

 

 

 

 

「えっ、魔法って最大MPと現在MPで威力変わるんですか?」

「魔法職の間じゃ常識だぜ。一応魔法使えるんだろ、ずっと初期値だったとかうける」

「はあー……どうりで使いづらかったわけです」

 

道中ではトットリさんと情報交換をしていました。

 

プレイヤー同士が交流するのは普通のことです。

 

ですがNPCからすれば、彼らの救世主であるトットリさんがぽっとでの相手につきっきりなわけで。

 

それが面白くないのでしょう、トットリさんにエリナと呼ばれていた少女が、ちらちらとこちらをうかがっています。

 

「……」

「ひうっ」

 

視線を向けると目をそらされました。

 

「トットリさん。あれ、いいんですか?」

「ん? あー、エリナか。……どうした、エリナ? 何か気になることがあるのか?」

「あっ、トットリ様……」

 

そんなエリナさんですが、トットリさんに話しかけられた途端に顔を赤くしました。

 

トットリさんはそんな彼女にあの手この手で話題をふり、上手に機嫌を取っています。

 

なんだかあの人、一人だけギャルゲーやってませんか。

 

さしずめ私は、二人の仲を進展させるための当て馬キャラでしょうか。

 

やれやれです。

 

 

 

 

「奇遇だな、こっちもNPC護衛のクエスト進行中で厳戒態勢なんだ……こちとら王族ですぜ」

「マジ?」

 

ああ。

 

ああ!

 

サンラクさん!

 

シャンフロで一番の有名人、鳥マスクと半裸の変態、その神出鬼没さにつけられたあだ名はツチノコ。

 

――原作主人公。

 

夜の樹海で、私たちはとうとう邂逅しました。

 

王様と王女様を引き連れて遭難していたはずのサンラクさんは、こんな時でも楽しそうに、不敵な笑みを浮かべています。

 

目の前ではトットリさんが相手をしていますが、サンラクさんは交渉もお手の物。

 

あっという間にトットリさんを丸め込み、共同攻略の段取りを取りつけていました。

 

「そっちのあんたは……ライザっていうのか。まあよろしく」

「……よろしくお願いします。サンラクさんのことは聞いてますよ」

 

ええ、よく知っています――生まれる前から。

 

 

「は? レベル140? 何したらそんなになんの?」

「見かけだけですよ。レベルダウンを繰り返した上位勢なら、ステータスは同じくらいあるんじゃないですか」

「あー、サイガ-100とかステータス高いらしいな。でも実際大したもんだよ、その赤い水晶みたいな防具だって見たことないぜ」

「またまた、新大陸でも無装備のサンラクさんには負けますよ」

「それは言うな……」

 

 

「なあ、サンラク」

「ねえ、サンラクさん」

「なんだい、トットリくん、ライザくん」

「さっきアリュールって森林族が怪人に脅されたって泣きついてきたんだが」

「どうか怪人を倒してって、部外者の私にまでお願いされたんですが」

「なんてこった、もう王国の刺客がキテイタノカー」

 

 

「会いたかった……会いたかったよ、サンラクくぅぅぅん!」

「うわでた」

「ディープスローターさんとなんかあったのか?」

「少なくとも良い関係ではなさそうですね」

 

 

わいわい、がやがや。

 

そんな表現ができるほど賑やかに、穏やかに攻略は進んでいました。

 

ですが、これは嵐の前の静けさでしかありません。

 

そして、それは始まりました。

 

『モンスター急襲(レイド)!』

『討伐対象:貪る大赤依』

『レイドバトルが開始されます』

『参加人数:4/45』

 

 

 

 

「Puyarrrrrrrrrraaaaaaaaa!」

 

接敵してすぐに、私は必要なスキルを全て発動していました。

 

だからこそ『貪る大赤依』が吠えた瞬間、私は全てを悟りました。

 

レベルキャップ解放で覚えたスキル、『真界聴完覚(ウェイブアンプリフ)』は特殊なスキルです。

 

背後や物陰などの死角を把握できるという基本効果だけでも十分有用ですが、真価はもう一つの効果のほうにあります。

 

それは、一瞬後の敵の攻撃を予測できること。

 

言葉で表現するのは難しいのですが、思考が誘導されたかのように「あ、こう来るな」と分かるのです。

 

だから、大赤依の攻撃がサンラクさんを通してディープスローターさんに当たって。

 

そして、二人の森林族に直撃すると理解したのです。

 

――『雷霆閃走(ケラウノス)』!

 

攻撃スキルを高速移動するためだけに空撃ちし、射線に割り込みます。

 

直後に大赤依が体を変形させて触手を勢い良く伸ばしました。

 

それをサンラクさんがしゃがんで回避し、ディープスローターさんが弾き飛ばされ、触手はそのままこちらへと襲いかかります。

 

対してこちらは、高速移動した直後で体勢が良くありません。

 

――『倶利伽羅刹那』!

 

再びスキルを空撃ちします。

 

素早い斬撃のスキルを発動させた次の瞬間、私の体は触手に正面から向き合って剣を切り上げていました。

 

慣性を生まないこのスキルは、一瞬で体勢を切り替えるのに役立つのです。

 

そしていよいよ間近に迫る触手に対し、私は最後のスキルを発動させて剣を振り下ろしました。

 

――『ハーキュリー・スラッシュ』!

 

このゲームにはパリィのシステムがあります。

 

敵の攻撃を真正面から弾くこのシステムを、私は使ったことがありません。

 

一度も使ったことのないものをぶっつけ本番で成功できるほど、私のプレイヤースキルは高くありません。

 

ですが。

 

ただの切り下ろしなら、『破山閃断』のときからずっと使っているんですよ――!

 

 

 

 

そうして、原作では死亡するはずだった二人の森林族、アリュールの両親は生き残りました。

 

あとはほぼ変わりません。

 

一応私も活躍しましたが、特に語ることはないでしょう。

 

 

「おいおいDPS足りてるじゃん! そのまま伐採頼むぜ!」

「大物狩りは得意です、任せてください!」

 

 

「あっ、その武器」

「ふっ、これぞ秘密兵器『別離れなく死を憶ふ(メメント・モリ)』……って、あんたも持ってんのかよ!?」

「すみません、今思い出しました」

 

 

「報酬強いねえ」

「デメリットやばくね?」

「どこかで役に立つかもしれないですし」

 

 

レイド報酬は屍肉喰らいの鉤爪(ネクロファジィ)でした。

 

今のところはインベントリの肥やしですね。

 

報酬に一喜一憂している私たちプレイヤーの向こうで、アリュールとその両親が抱き合っているのが見えました。

 

あの光景が一番の報酬、そういうことにしておきましょう。




・屍肉喰らいの鉤爪
かなり後で出番がある。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。