野生児少女は魔法剣を使いたい   作:とらいあ

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第一部完。続きはある程度形が見えてから。
感想評価等、お待ちしてます。


これが私の魔法剣

レイドモンスター『貪る大赤依』との戦いは、シャンフロの世界設定に一つの変化をもたらしました。

 

二つ名モンスター「傷だらけ(スカー)」が「緋色の傷(スカーレッド)」に進化したことに端を発した、モンスターカテゴリーの仕様変更。

 

エクゾーディナリーモンスターの実装です。

 

その余波はここ、シグモニア前線渓谷(フロントライン)にも届いていました。

 

 

『モンスター不世出の発見(ディスカバー・エクゾーディナリー)!』

『討伐対象:帝晶双葬蠍(アレクサンド・デス・スコーピオン)"輪廻転晶(モンテクリストル)"』

『エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されます』

 

「ん! 今日こそお前を()()()()!」

 

水晶の丘に現れたのは、水晶群老蠍よりは小さいものの、それでも小山程度の大きさはある巨大蠍でした。

 

テリトリーを侵されることに敏感なはずの帝晶双蠍たちは姿を隠しており、私とエクゾーディナリーモンスターの一騎討ちとなっています。

 

一対一は私の得意分野。

 

おまけに相手は、カラドボルグとハーキュリー・スラッシュの特効が二重に乗る巨大モンスター。

 

にも関わらず、私はこの数日間、このモンスターを倒すことが出来ずにいました。

 

というのも――。

 

 

「『バニシングポイント』! ……あとちょっと、今度こそ!」

 

索敵スキル『心音理界(ビートアニマ)』のサブ効果によって、生物系モンスターの残体力を把握できるようになりました。

 

それによれば、モンスターの体力は残り1割。

 

『ハーキュリー・スラッシュ』の確殺圏内です。

 

とどめを刺すべく心臓のある位置へと駆け寄りますが……今回も敵の方が早かったようです。

 

蠍の尻尾が動き、その鋭い針で()()()()()()()()()()()

 

体力が一気にゼロになり、蠍の体がポリゴンとなって消えていきます。

 

敵が倒れた証明として経験値が私に流れ込んできます。

 

ですが私の顔は苦いままでした。

 

素材もドロップせず、撃破報酬のスキルも手に入らず。

 

それどころか()()()()()()()()()()()()()()、モンスターが出現したからです。

 

『モンスター不世出の再生(リバース・エクゾーディナリー)!』

『討伐対象:帝晶双葬蠍(アレクサンド・デス・スコーピオン)"輪廻転晶(モンテクリストル)"』

『エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されます』

 

「んんんんんんんんん!!」

 

 

 

 

『モンスター不世出(エクゾーディナリー)……解明(クリア)!』

『討伐対象:帝晶双葬蠍(アレクサンド・デス・スコーピオン)"輪廻転晶(モンテクリストル)"』

『エクゾーディナリーモンスターが撃破されました』

『称号【転生者】を獲得しました』

『称号【解脱】を獲得しました』

不世出の奥義(エクゾーディナリー・スキル)輪廻転勝(モンテクリストル)」を習得しました』

 

「はあ、はあ……わたしの、勝ち!」

 

自害することで全回復する転生モンスター。

 

結局、()()()を使わなければ倒し切ることはできませんでした。

 

本当はジークヴルムとの決戦用の手段なのですが。

 

最初に出会った時に仕留めきれなかったのが致命的でした。

 

再誕しても同一個体のままらしく、何度も戦ったせいでこちらの火力や射程を完全に見切られてしまったのです。

 

経験値はきちんと入ってくるうえ、自害する度に敵もレベルが上がっているようなので、レベリングとしては有用なのですが……それで良しとはしたくありませんでした。

 

「レベル148……これ以上は無理、かな」

 

ネット掲示板を開くと、先日出たばかりの新情報が話題になっています。

 

『慈愛の聖女イリステラがユニークシナリオEXの内容を予言』

『八日後、新大陸の前線拠点で最終決戦』

 

ユニークシナリオEX『来たれ英傑、我が宿命は幾星霜を越えて』。

 

とうとう、ジークヴルムとの決戦の時がやって来ました。

 

 

 

 

『おぉ、人よ……英傑よ、今宵こそがその輝きを示す日と知れ』

 

時刻は午後九時。

 

新大陸の前線拠点、その空に七つの最強種が一体、『天覇のジークヴルム』が現れました。

 

プレイヤーもNPCも、赤竜ドゥーレッドハウルや白竜ブライレイニェゴといったレイドボス級モンスターさえも、その場の全員が天を見上げます。

 

そして。

 

龍法律(ノトーリアス)悪性増大重力圏(バッド・インクリース・グラビティ)】!』

 

人の英傑たるかを測る重圧が戦場を満たし、ワールドストーリー「竜災大戦」のクライマックスが始まりました。

 

 

 

 

「『雷霆閃走(ケラウノス)』! 『ネヴァンガード』!」

 

ジークヴルムが現れるまで、私は白竜ブライレイニェゴの生み出す小竜を相手にしていました。

 

貪る大赤依の時は使い忘れていた大剣『別離れなく死を憶ふ(メメント・モリ)』を手に、片っ端から斬り捨てます。

 

セットで効果を発揮する防具『黒き死に捧ぐ嘆き(レクィエスカト・イン・パーケ)』もサンラクさんにダブりを売ってもらったのですが、回復すると溶けるという性質上、回復支援が無差別に飛び交うこの戦場では使えません。

 

ですが、キル数に応じて威力を保ったまま軽くなるという大剣の特性だけでも相性は十分でした。

 

「……ジークヴルム、来ましたか! すみません、離脱します!」

 

黄金の龍王が現れてすぐ、私は白竜との戦いを離れました。

 

前線拠点は広大で、おまけに今は乱戦の最中です。

 

ジークヴルムの下へたどり着くには少し時間がかかりましたが、それが逆に良いタイミングでの到着となったようです。

 

ジークヴルムに絡んでいた黒竜ノワルリンドが距離を取り、地面に降りていきました。

 

親交のあるプレイヤーの秋津茜さんを探しに行ったのでしょう――今がチャンスです。

 

武器をカラドボルグに持ち替え、それによって使用可能となった魔法を発動します。

 

「――【光刃(プリズムエッジ)】」

 

カラドボルグは帝晶剣(ツァーベリル)となったことで、今までの能力に加えて新たな能力を手に入れました。

 

その一つが魔法【光刃(プリズムエッジ)】です。

 

帝晶双葬蠍のように魔力の刃を展開して剣の射程を伸ばすこの魔法は、追加でMPを消費すればするほどさらに射程が伸びます。

 

そして魔法の例に漏れず、使用者の最大MPが高いほど大きな効果を発揮します。

 

貪る大赤依のレイド討伐ボーナスで得た大量のステータスポイント、そのほとんどをつぎ込んだ私自身のMPで、カラドボルグに溜め込まれた大量の魔力を一気に使用するとどうなるか。

 

その答えはすぐに出ました。

 

「『ハーキュリー・スラッシュ』!」

 

大上段に構えたカラドボルグから、膨大な魔力が立ち昇りました。

 

それは天を突かんとするような巨大な刃となり、私の振り下ろす動きに追従してジークヴルムへと迫ります。

 

剣とスキルによる二重特効の乗った斬撃が、黄金の龍王に確かな傷を刻みました。

 

『ぬうっ……ほう! ほうほうほう! 貴様、天に刃を届かせるか! 今の輝きは良かったぞ! しかもその剣は……カラドボルグだな!? ふはははは、かつての英傑も新たな英傑を祝福していると見える!』

 

傷つけられたというのにジークヴルムは上機嫌に笑います。

 

「――【晶結(クリスタライズ)】」

 

対して私はそれに答える余裕もなく、今の攻撃で大きく減った剣の耐久値を魔法で回復させました。

 

光刃(プリズムエッジ)】は反動で耐久値が削れる大技、使いどころは考えないといけません。

 

その時、秋津茜さんを乗せて黒竜ノワルリンドが舞い戻ってきました。

 

『ほう、ほう! 人よ、貴様、ノワルリンドと手を組むか!』

「お久しぶりです! えーと、顔を傷物にされた借りを返しにきました!」

 

そうして一人と一体は龍王と戦い、やがて鎖帷子のような魔法がジークヴルムを拘束しました。

 

『良い! 実に良い! ならば見せようぞ、我が「輝ける龍王(トゥーバック=アマル)」を!』

 

原作ではこの拘束は砕かれます。

 

ですから私は、天へと跳び上がりました。

 

「――『ヘルメスシュート』!」

 

 

周りの景色が勢いよく下へと流れていく中、実際には一瞬でしょうが、私はかつてのジークヴルムとの戦いを思い出していました。

 

届かない位置にある逆鱗。

 

存在しない攻撃手段。

 

破れかぶれで投げた剣が幸運にも当たった時、口にした言葉。

 

『……でも、今のは、たまたまで』

 

あれはライザではなく私自身の言葉でした。

 

幸運に二度目はありません。

 

私が原作の『ヘルメスブート』ではなく『ヘルメスシュート』を覚えたのも、あの経験が影響していたのかもしれません。

 

次は必ず、自分の意思で逆鱗を穿つために。

 

「――『バニシングポイント』!」

 

 

ジークヴルムの翼に複雑怪奇な光の模様が走り、体全体が輝き始めたその瞬間。

 

慣性を乗せた全力の突きが、龍王の逆鱗を貫きました。

 

『ぬっ!?』

「今度は、ちゃんと狙ったよ……!」

 

龍王の逆鱗は弱点とはいっても、致命的なものではありません。

 

せいぜい、全身の魔力流動が一時的に止まる程度。

 

貫かれた傷だって、魔力流動が再開してから治せばいいだけです。

 

それでも、そのほんのわずかな時間が、今この時は値千金となるのです。

 

『死ねぇ! ジークヴルム!』

 

ノワルリンドの黒い火炎放射がジークヴルムに迫ります。

 

魔法を無効化する『輝ける龍王(トゥーバック=アマル)』を阻止されたジークヴルムにこれを防ぐ手はありません。

 

私も秋津茜さんも巻き添えで確実に死亡しますが、それに見合った戦果でしょう。

 

『――なぜ死地に飛び込んだ』

「負けて生きるより死んで勝つ、それがわたし()のやり方だから」

 

私の返事にジークヴルムが何を思ったかは分かりません。

 

直後に私は、黒い炎に包まれて消滅したのでした。

 

 

 

 

龍王機関(Dragon×Driver)、起動……さあ、どうする?』

「角を狙え! 奴の能力は角に起因している!」

 

ジークヴルムが5体の分身を出現させ、サンラクさんがその絡繰りを暴きます。

 

角破壊に向けて周りが慌ただしく動き出す中、私は討ち手として名乗りを上げました。

 

「一応聞いておくが、ここから奴の角を狙える者はいるか?」

「――はいっ、私がっ!! 私なら、あそこまで届く剣を出せます! 威力もあります!」

「ライザさん!? こっち側だったんですか、というか本気で言ってます、それ!?」

「あっ、さっきの馬鹿でかい剣はあんたか! よっしゃ、バフ部隊集まれ!」

『おお……かつて卵となるを望んだ者が、ついに我が角を折らんとするに至ったか……くくく!』

「げっ、ヘイト向けられてるぞ! なんとしても守り抜くんだ!」

 

様々な人たちが、私に支援魔法をかけてくれました。

 

様々な人たちが、私を攻撃から守ってくれました。

 

原作で知っている人。

 

シャンフロで知り合った人。

 

この戦場で初めて出会った人。

 

顔も知らないどこかの誰か。

 

多くの人の力が、多くの意思が、私のアバターへと積み重なっていきました。

 

それに応えるべく、私もすべてのバフを発動させます。

 

先ほどは使用タイミングが揃わず、けれどリスポーンして揃ったスキルを。

 

天命の龍兆(ドラゴニック・サイン)』『ピークアウトバーン』『タロス・ブラッド』『隻神の号令(オーディン・オーダー)』『心刀滅却』『武身極威』『大江山外道』

 

決戦中の副作用を避けて使っていなかったスキルを。

 

宣誓(ゲッシュ)不退転(アンエスケイプ)』『宣誓(ゲッシュ)不換装(アンチェンジ)』『宣誓(ゲッシュ)不摂生(アンヘルス)』『宣誓(ゲッシュ)不可逆(アンヒール)

 

HPが1になるという大きなリスクのあるスキルを。

 

『ラストワン・ブースト』

 

そして、()()()()()()()()()()()()()()が発動しました。

 

神秘(アルカナム)死神(デス)」』

 

 

『規定補正値観測、条件達成』

『称号【最大強化(ブーストホルダー)】を獲得しました』

 

 

「――【光刃(プリズムエッジ)】『ハーキュリー・スラッシュ』!!!」

 

 

 

 

プレイヤーたちは見た、NPCは見た。

 

知られざる空席が暴かれ埋まる瞬間を。

 

そして。

 

ジークヴルムの角、その左側が2()()()()断ち切られる様を。

 

 

 

 

『───幸運を、人間(ヒト)の征く未来に勝利の栄光があらんことを』

 

 

『天覇のジークヴルムは永き敗残の戦いを終えた』

『天より火が消え、新たな灯火は人の中へ』

『ユニークシナリオEX「来たれ英傑、我が宿命は幾星霜を越えて」をクリアしました』

 

最期の試練である「覇滅炉心(バスターピース)」を阻止されたジークヴルムは、最後まで人への激励を伝えて消滅していきました。

 

全体アナウンスが流れる中で、私は個人向けのシステムメッセージを眺めます。

 

それは私のシャンフロプレイに一区切りを告げるものでした。

 

ですが……今は、天の覇者たる龍王に哀悼の意を捧げましょう。

 

すべてが終わった空には朝日が昇り、透き通るほどの蒼さだけがそこにありました。

 

 

 

 

『最大レベル到達』

『プレイヤーリザルトを集計します』

 

『あなたは己の道を貫いた』

『あなたは武に身を捧げた』

『あなたは剣を友とした』

『あなたは世界の音を識った』

『あなたは幾多の死を乗り越えた』

『あなたは憧れに追い付いた』

 

到達技能(プライムアーツ)を習得しました』

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