夜のシグモニア
赤く輝くツァーベリル帝宝晶に照らされたこの地は、普段はまるで眠っているかのように静まり返っています。
ですが今日は騒がしく、地上から空へと向けて何本もの赤い光線が放たれていました。
光線の正体は帝晶双蠍が放つ魔力ビームです。
普段は己のテリトリー外のことに無頓着な彼らですが、今は一斉に尾を上へと伸ばし、上空の何かを撃ち落とそうと躍起になっていました。
――そこに、上空から一筋の光が降ってきました。
蠍たちの放つものと比べれば細いその光は、蠍たちのいる水晶の丘へと到達。
直後に大爆発を起こしたのです。
「……砲撃成功。『
蠍たちが撃ち落とそうとした上空の存在、砲撃の主。
それは戦術機と合体した私でした。
戦術機『
想定通りの戦果を挙げたことを確認し、そのまま戦術機を脱ぎ去ります。
当然、上空に身を投げ出されることになりますが、私は構わずインベントリアを操作しました。
バラバラになった戦術機はそのままインベントリア内部に転送。
防具も戦術機を扱うための特殊強化装甲【龍骨】から普段のものへと戻します。
そして体勢を整え、スキルを発動しました。
――『
『
高熱の衝撃波を纏いながら勢いよく落下し、遥か下の地面へあっという間に到達すると、着弾と同時に衝撃波を周囲に撒き散らしました。
戦術機で飛ぶような高さから繰り出された落下攻撃は、その威力も強烈。
先ほどの砲撃をなんとか生き残った蠍たちが、追撃の衝撃波で次々と倒れていきます。
代償として、私にも即死級の反動ダメージが襲いますが――。
――『
高級食いしばりとでも言うべきエグゾーディナリー・スキルによって、全損したHPは次の瞬間には全回復していました。
そうして、周囲一帯に動く敵はいなくなったのです。
◇
「ん、成果は上々。これなら使っていける」
リヴァイアサンで特注した戦術機の実地試験は大成功に終わりました。
上空に飛来し、大火力で敵陣を撹乱し、主力である私自身が切り込む隙を作り出す。
対空砲火に優れた帝晶双蠍を相手にこれだけ戦果をあげられたのです、ワンオフ機の面目躍如と言えるでしょう。
大量のドロップ素材を拾い集めた私は、悠々と渓谷を飛び越えて外縁部へと着地しました。
――その時です。
「
プレイヤーがほとんど誰も到達していないはずのこの地で、いつからかそこにいた女性が私に話しかけてきました。
「……そっちから話しかけてくるとは思わなかった」
「
「誤爆したら格好悪いもの。地上のターゲットを判別する機能は搭載済み」
それはプレイヤーではありませんでした。
人間とは異なる球体関節を持ち、特徴的な喋り方をするNPC。
この時点ではまだ一部の例外を除いて登場したばかりの新種族、征服人形です。
「わたしはライザ。あなたは? 見たところエルマ型みたいだけど」
「回答:征服人形エルマ=318と申します。征服人形を知っているのなら、話は早いですね」
そして彼女は惚れ惚れするほど綺麗なお辞儀をして、こう言いました。
「提案:
「――そこで
「へえー」
「そして実際にこうして契約を果たしたのです、
「うんうん」
「これでもうエルマ=317に大きな顔はさせません。まったく、なにが
「すごいね、
「
「ん、ありがとう」
あの後契約を結んだエルマ=318、もといミーヤですが、かなりのお喋りさんでした。
原作のエルマ=317、サイナとはかなり性格が違います。
容姿や人格のモデルは同じでも、経験が違えば別人になるという見本ですね。
サンラクさんの誤配信でサイナが人気者になった後、エルマ型に契約を迫って玉砕するプレイヤーが続出したそうですが、さもありなん。
彼女たちは一人一人が個性を持っているのです。
決して誰かの代わりではありません。
「
「……あー」
すみません、それ初手制圧用なんですよ。
◇
『おや、開拓者ライザ。どうされましたか? 製造した戦術機に問題でも?』
「ううん、新しいの造りに来た」
「
◇
「ライザさん!」
「ん? ……ああ、アリュール。久しぶり」
前線拠点で過ごしているのはプレイヤーだけではありません。
以前にトットリさんと一緒に前線拠点へと連れてきた
そんな森林族の一人、見覚えのある少女が話しかけてきました。
「
「ひうっ!?」
「こら、脅かさない。アリュールは前に樹海で一緒に戦ったことがあるの。両親は元気?」
「あっ、はい! おかげさまで! あのっ、この前は本当にありがとうございました! これ、お礼です!」
そう言ってアリュールは木の枝を編んで作られた腕輪を差し出してきました。
以前にクエストで彼女の両親を助けたことがあるのですが、その続きのようです。
「前も言ったけど、あれは聖女イリステラの依頼。お礼ならそっちにしておいて」
「……それでも、実際に助けてくれたのはライザさんですから」
「
「んん、でも聖女からもう報酬貰ってるし。二重取りはなんていうか、格好良くない」
そう言いつつも念のため、差し出されたアイテムをチェックしてみます。
『
アクセサリー
セーブポイント作成スキル『
「……んんんっ!?」
「
「い、いや、なんでもない」
なんですか、この壊れアイテムは。
NPCの名前が入っているということは、まさか森林族の数だけ存在するのでしょうか。
これさえあれば、樹海の攻略……いいえ、新大陸の攻略が一気に進みます。
いけません、俄然欲しくなってきました。
ですが時すでに遅しです。
「……分かりました。それじゃあ、聖女さんに渡しておいてもらえますか」
「…………うん、分かった」
「ありがとうございます、ライザ様。森林族よりの贈り物、ありがたく受け取らせていただきます」
「ハイ、アリュールモヨロコビマス」
ですよね。
聖女イリステラへの謁見はすんなりと実現し、森林族の腕輪は無事、彼女の元に渡ってしまいました。
内心で苦い顔をしていると、聖女がくすりと微笑みます。
「改めて、私からもお礼を。難しいお願いを成し遂げてくださり、本当にありがとうございました」
「ん、光栄……です」
「ライザ様は謙虚でいらっしゃいますが、やはり何か対価を……あら、そのお花」
「……これ、ですか? 普通の花ですけど」
聖女が興味を示したのは、以前にユニークシナリオで手に入れた『小さな応援花』でした。
アクセサリーは壊れませんが、装備し続けていたこともあって少し汚れて見えます。
「少し萎れてしまっていますね。お節介ですが、力添えをさせてください。【
「えっ」
聖女が祈ると、『小さな応援花』が一人でに浮かび上がり輝きだしました。
そして輝きが収まるとそこにあったのは、元の花をベースにデザインされた豪華な耳飾りでした。
『
聖なる想いの籠ったイヤリング。耳元を彩る永久の花は、決して枯れない声援である。
自身に対するバフの効果量と効果時間が増加する。
以前のユニークシナリオの続き……いえ、さすがにあり得ません。
まさかシャンフロは、今この瞬間に新しいイベントを作り出したのでしょうか。
驚いて言葉も出ない私に、聖女は意味深に告げました。
「ライザ様、どうか忘れないでください。貴方を慕う方々が確かにいるのだということを……」
◇
「やあ、ライザさん。少しいい?」
「ジョゼットさん。はい、なんでしょうか」
「この前のクエスト繋がりなのだけれど、もしもサンラクさんと会うことがあったら言ってちょうだい。早く報酬を取りに来てって」
「……ああ、王族を護衛してたあれですか。別にフレンド登録はしてないんですが、まあ分かりました」
「出来たらでいいわ。あの人って神出鬼没だし」
「あはは、違いないですね」
「……
謁見室を出た後でプレイヤーのジョゼットさんと話していると、待機していたミーヤが割り込んできました。
「
「…………えーっと、ちょっと違うかな……ライザの話し方はこっちの方が正しくて」
「
「…………はい、分かりました」
NPCとプレイヤーが一緒にいる時に、どちらの口調で話すべきか困ったことはありますが。
これからはミーヤの前でも気をつける必要がありそうでした。
・輪廻転勝
自傷・反動ダメージで死亡する時、HP・MP・STMを全回復し、このスキル以外のリキャストをリセットする。
・森林族の腕輪
なんやかんやと理由を付けてプレイヤーに配られ始めているアイテム。
一向にエルフへの改宗が増えないので、これで早く開拓を進めろとシステムにせっつかれている。
・枯れない讃花
元のアクセサリーは本来、もっと低レベル向けのアイテムである。
シャンフロサーバーはプレイヤーログを踏まえ、150レベル相応にグレードアップすることを報酬とした。