ユニークモンスター、またの名を七つの最強種。
世界に一体ずつしか存在しない、シャンフロを代表するモンスターたちです。
サービス開始当初から公になっているのはその内の二体、『夜襲のリュカオーン』と『天覇のジークヴルム』。
既に遭遇報告がネット掲示板にちらほらと書き込まれていますね。
さらに、ジークヴルムは特定の場所で遭遇しやすいのですが、それも予想され始めています。
これなら原作知識をばれずに使えます。
サードレマで足止めをくらった時はどうなることかと思いましたが、そのおかげで得するなんて、怪我の功名とはこのことです。
ようやく装備も整いましたし、いざ『気宇蒼大の天聖地』へ向けて出発しましょう。
◇
道中はカットです。
強いて言えば『雲上流編の雲海地』は地形ギミックが最大の敵でした。
◇
やってきました『気宇蒼大の天聖地』。
天を突くようにそびえ立つ巨大な岩山と、そこを中心とした急勾配の傾斜が特徴のエリアです。
原作のコミカライズでも少し描かれましたが、実際にこの目に写る光景は想像以上に圧倒的でした。
この大陸そのものが一匹の巨大生物の死骸という設定だったはずですが、この岩山もどこかの部位なのでしょうか。
ここの頂上にジークヴルムがいるのですね。
そうして登り始めた私ですが、その道中は困難を極めました。
このエリアでは高く登れば登るほど強いモンスターとエンカウントします。
ワイバーンの群れに襲われた時などはあっという間にやられてしまいました。
岩陰に隠れながら進めるルートを見つけられなければ、まだ道中でまごついていたかもしれません。
リスポーン地獄に正直心が折れかけましたが、その度に、原作で描かれたゲームマスターの言葉を思い出しました。
『端役に踏破できるほどシャングリラ・フロンティアは甘くない』
ここで諦めてしまうようでは、この先も大したことはできないでしょう。
そうやって心を奮い立たせ、何日目かの挑戦でやっと登りきれば。
そこには金色の巨大龍、『天覇のジークヴルム』の姿がありました。
こちらに気づいたジークヴルムが話しかけてきます。
私は剣を構えて一歩踏み出しました。
『新しい挑戦者か。近頃は勇ましい開拓者が多くてなによりである』
「……ジークヴルム、あなたに挑みに来た」
『ふはは、威勢が良いな! では貴様が英傑たり得るか、証明してみせよ!』
そして私は、金色のブレスに一撃で消し飛ばされました。
◇
2回目の挑戦です。
『む、また来たのか。折れぬのは喜ばしいがいささか性急だぞ。まずは腕を磨いてくるがよい』
「……別にわたしは、今すぐあなたに勝てるとは思ってない」
『ふむ?』
いい流れが来たのでロールプレイの時間です。
そもそも、私がジークヴルムに会いに来たのは彼に認めてもらうためです。
力を示すのも大事ですが、彼が好む英雄らしさを持っているかどうかも、認められる条件に含まれているでしょう。
このゲームはそういうところがあります。
「わたしが悔しいのは、とっさに動けなかったこと」
「わたしが憧れた人なら、あなたのブレスにだって剣を振ってみせた。たとえそれが何の意味もなかったとしても」
これはライザの原点です。
「あの人ならそうした」という、根拠のない、けれど純粋な理想への憧れ。
私もです。
このライザが、私が勝手に考えただけの妄想に過ぎなくても。
「ライザならそうする」、その思いに向き合い続けていくんです。
「できないからって、しない理由にはならない」
「今日できないからって諦めてたら、いつまでもできないまま」
「だからせめて、
ジークヴルムが愉快そうに喉を鳴らしました。
『英傑ではなく、英傑の卵ですらなく……卵になるために龍へと挑むか!』
『よかろう、若く小さき英傑志願よ! その刃を我が喉元に届かせてみせよ!』
◇
ジークヴルムの口に光が灯った瞬間、スキルを発動します。
――横に飛び退くスキル『パンサーステップ』!
直後に、さっきまで居た場所をビーム状のブレスが通り抜けました。
まずは先ほどの二の舞は避けられましたね。
まったく、スキルを出し惜しんで抱え落ちするなんて、いかにも素人らしいミスです。
つくづく、私には
ですがない物ねだりをしてる暇はありません。
回避した次の瞬間には、私は相手の元へと駆け出しました。
狙うべきは逆鱗。
ここに攻撃を当てればこの試練はクリアできると、原作知識で知っています。
先ほど喉元という単語が出ましたから、竜の喉元には逆鱗があるという逸話を連想するのは自然です。
ジークヴルムが翼を動かしました。
その巨体は羽ばたくだけで攻撃になる。
駆け寄る私に、左右から小型の竜巻が挟み撃ちにしようとしてきます。
――前に飛び込むスキル『二艘跳び』!
悩んでいる時間はありませんでした。
自滅も覚悟の上でしたが、どうにか竜巻の間をすり抜けられたようです。
ですがそこを押し潰そうと、ジークヴルムの手が振り下ろされました。
まだ『パンサーステップ』のリキャストタイムが明けていません。
とっさに、走る方向を相手の体の外側へと変えました。
姿勢を低くする私の頭を、黄金の鱗に覆われた腕が掠めていきます。
そうして私はジークヴルムの下へとたどり着いて、しかも相手は今の攻撃で頭の位置が下がっていて。
――そして、そこまででした。
攻撃手段がありません。
低くなったといっても、相手の喉元はまだまだ、剣を振っても届かない高さです。
対してこちらは上を攻撃するスキルなんて持っておらず、空中ジャンプするようなスキルもありません。
ジークヴルムと目が合いました。
『ここまでか?』
「――まだ!」
逆鱗に向けて剣をブーメランのように放り投げます。
それは破れかぶれの行動でした。
口では啖呵を切っていても、実際はただのロールプレイで、内心では諦めていました。
次の挑戦ではそういうスキルを用意してこよう、と。
ですが。
放り投げた剣が回転しながら、喉元に吸い込まれるように飛んでいく動きが、やけにゆっくりと見えて。
刃が逆鱗に当たった甲高い音が、やけに耳に残りました。
◇
『ふ……ふぅーはっはっは! 本当に我が喉元を、我が逆鱗を穿つとは! 見事なり英傑の卵よ!』
「…………え」
まだ信じられません。
ここに来るときのように、成功するまで何度でも挑戦し直すつもりだったのに。
たった2回でクリアできてしまうなんて、こんな都合の良いことがあっていいんでしょうか。
『くっくっくっ。どうした呆けおって。誇るがいい、貴様は我が期待に応えたのだ』
「……でも、今のは、たまたまで」
『運も実力のうちよ。貴様も言っていたであろう、無意味でも剣を振るうと。幸運を掴めば無意味でなくなることもあろう』
私が呆けている間にひとしきり盛り上がったジークヴルムがこちらに向き直りました。
その口に最初と同じく光が灯ります。
『では、しばしさらばだ。願わくば、真に英傑となった貴様とまた会おうぞ!』
そうして私は、黄金の光に包まれて消滅したのでした。
『「ジークヴルムの
・ゲームマスターの言葉
正確にはコミカライズ第1話のセリフ。
・パンサーステップ
スライドステップあたりから分岐した機動力系スキル。
瞬発力が高く、反応が遅れても回避が間に合いやすい。
・兎の国への招待
致命武器も持っていないし、ことあるごとに死にまくっているのでヴォーパル魂が足りていない。