「午後十時軍さん。大陸最難関の狩り場に興味はありませんか?」
私が取り出した水晶群蠍の素材を見て、カローシスUQさんが息を飲みました。
「……驚きました、あの蠍の群れを倒したんですか。一体どうやって?」
「前向きに考えてもらっている、と思っていいでしょうか」
「そうですね。水晶巣崖の攻略を考えたことはありますが、陣形を整える前に潰されてしまうので諦めました。攻略手段があるなら、訓練としても金策としても価値は高いです」
「私のやり方とは違いますが、午後十時軍さんならお伝えする方法で大々的に戦えるはずです」
「ライザさんのやり方をお聞きしても?」
「孤立している個体を見つけて釣り出しました」
「【アクティブ・ソナー】でですか? 擬態中の蠍を刺激してしまうはずですが」
「別の索敵手段があるんですよ」
使用したのは聴覚系スキル『
実はこのスキル、ジークヴルムと戦う前から覚えていました。
手前のエリア『雲上流編の雲海地』の手強いギミックを思い出します。
エリア全体が雲に覆われていて視界が全く効かず、魔法【アクティブ・ソナー】の使い捨てスクロールがないとろくに攻略できないのです。
スクロールを切らした時になんとか敵の動く音を拾えないか耳を澄ませていたのですが、それがこのスキルに繋がりました。
「カローシスUQさん。私は水晶巣崖を攻略するための手がかりを持っていますし、レアエネミーの出現条件も知っています」
「はい。あの画像を撮れるくらいですからね、事実なのでしょう。それで、うちに何を求めますか? マーニで足りなければユニークシナリオも用意できますよ」
「私が求めるのは一つ。そちらの最大戦力で、一緒にこのレアエネミーを討伐してほしいのです」
「……共同討伐のお誘い、それもフルメンバーでですか。なるほど、つまりこのレアエネミーはソロで挑むような相手ではないと」
「蠍のボスに相応しい強さですし、取り巻きも大量に現れます。だから午後十時軍さんに声をかけさせてもらいました」
社会人のみで構成された、非常に統率が取れた実力派クラン。
数の暴力に対抗するにはこれ以上なく適任な人たちです。
「……分かりました、その条件を飲みましょう」
「取引成立ですね。これからよろしくお願いします」
◇
二週間後。
いよいよ水晶群老蠍に挑むということで、指定された集合場所にやってきました。
「こんばんは、今日はよろしくお願いします。……多いですね、30人くらいいませんか?」
「あんたが横道を教えてくれたっていうライザさんか。今日は一緒に頑張ろうな」
「こんばんは。半分は討伐班、もう半分はサポート班です。物資の補給や死亡したメンバーの穴埋めですね。【
「うわ、めちゃくちゃガチじゃないですか」
「企画力だけが取り得ですから」
「そう思ってるのはリーダーだけだぞ」
そうして、私たちの遠征が始まったのです。
「タンクは真正面から受けないように! 位置取りを調整して相討ちさせるんです!」
「右から新手、二体来ます!」
「やっぱり集団戦に強いですね。あ、そっち私も行きます!」
「あの人たちは何をしてるんですか?」
「採掘ポイントの探索と、リポップ防止のための視界確保ですね」
「リーダー、この前のリハーサルで見てない素材が出ました! きっとレアアイテムです!」
「幼体は絶対に傷つけるな! 可能な限り通常個体を減らすんだ!」
「魔法は巻き込むので使えません、前衛は体力に気を付けるように」
午後十時軍の快進撃は続きました。
私が挑戦した時は一体釣り出すのも手間だったのですが、今回は嘘のような順調さで攻略が進んでいます。
原作はソロ活動する主人公の英雄譚でしたが、こうして見るといかにパーティープレイが強力なのかが分かりますね。
あっという間に横道の大部分を制圧してしまいました。
ですが、ここからが本番です。
「どうですか、ライザさん。レアエネミーの様子は」
「問題ありません、『索敵音界』はずっと感知してます」
「……よし、では五分後に始めましょうか」
討伐戦は熾烈を極めました。
事前に周囲を制圧していた分だけ楽になっているはずですが、それを実感する暇もありません。
「騒ぎを聞きつけた蠍どもが集まってきます!」
「サポート班を中心に対処を! 討伐班の邪魔をさせないように!」
「予想通り、あの柱みたいな鋏はまったく使ってきません!」
「自重を支えるので精一杯ですか。押し潰されないようにだけ注意を!」
「『キャノンシュート』『破山閃断』『パイルピアス』――関節、破壊しました!」
「デカブツがダウンします、退避!」
「……おーおー、あれだけ重いと落下ダメージも凄そうだな」
私が提供した画像をカローシスUQさんが分析してくれました。
鋏の形状から巨大過ぎることのデメリットを見抜き、関節破壊からの落下ダメージ作戦を立案したのです。
ですが当然、それだけで攻略できる相手ではありませんでした。
「立ち上がった!? 鋏は切り離したはずでしょう!」
「魔力で再生して繋げ直したみたいです!」
「……逆に考えましょう! また落下ダメージを稼ぐチャンスです!」
「うわあああっ!? 上から降ってくる!?」
「何事ですか!? 上から何か、新手のモンスターでも!?」
「ミサイルです! あいつ、背中の水晶をミサイルみたいに撃ってきた!」
「っ、全員腹の下へ退避! 押し潰されないよう入り過ぎないで!」
「VLSかよ馬鹿野郎! シャンフロはファンタジーだろ!」
「ダウンしたぞ、背中へ登れ! ミサイルは背中には落ちてきてない!」
「だめだ、登った奴へのヘイトがすごい! 尻尾で纏めて吹っ飛ばされる!」
「地上の囮役がヘイトを引き付けるんです!」
「尻尾からの毒液を浴びるな! 一瞬で全身結晶になって即死だ!」
「地面に残ったのを踏むのもまずい、足が結晶化して動けなくなる!」
「なんだ、尻尾を振り回して……おいおい!?」
「即死する雨を降らすんじゃねええええ!」
気分は前世のモンスターハンティング系のゲームです。
超大型モンスターに張り付き、膨大な体力を必死に削り続ける作業。
ゲームと違うのは、それだけのサイズ差がありながら敵はこちらを殺す気満々という点です。
午後十一時ごろから始まった戦いですが、既に空が白み始めていました。
何度目かの落下ダメージを与えた時、様子が変わりました。
巨大な何かが砕けるような、低くて甲高い音が戦場に響き渡ります。
それはまるで、声を持たない蠍の悲鳴のようでした。
「……背中行ってきます! 援護お願いします!」
「ええ、手筈通りに。こっちは任せてください!」
全力の『キャノンシュート』で背中に飛び乗り、頭部から尻尾側へと駆け抜けます。
超巨大モンスターと戦う際、気を付けないといけないことがあります。
それは、弱点を攻撃しないと事実上倒せないということです。
巨大生物は生命力も膨大で当然、工夫もなく戦い続けても徒労に終わります。
オーバドレス・ゴーレムがいい例です。
だから調べました、蠍の弱点を。
ネットで検索してもほとんど出てこないので、図書館で図鑑を借りて。
体の構造が同じだろう水晶群蠍と戦って、本当に調べた通りか確かめて。
その答えが今、私の目の前に広がっていました。
水晶群老蠍の背中がぱっくりと割れて、深い裂け目ができています。
裂け目の底を覗いてみれば、水晶とは違う透明な膜のようなものが見えました。
あれが弱点。
蠍座におけるアンタレス。
蠍の心臓です。
裂け目に飛び込んで着地し、カラドボルグを構えました。
さすがの英傑武器も長引く戦いでボロボロ、耐久値がかなり減っています。
もうひと踏ん張りです、先人の敗北を一緒に雪ぎましょう。
落ち着いて大上段に構え、山のような蠍へ振り下ろしました。
『破山閃断』。
◇
「いやあ……倒せましたねえ……」
「ですねえ……」
長く苦しい戦いでしたが、その甲斐はあったようです。
私たちの前には水晶群老蠍のドロップ素材が大量に積もっていました。
さすがはレイドボス級モンスター、ドロップ量も山のようです。人の背丈の倍はありますよ。
「とりあえずドロップ拾いましょうか」
「えっと、分配計算とかは……」
「いや要りませんよこれ、全員で拾いきれるかも怪しいじゃないですか。好きに取っちゃってください」
「あー、じゃあお言葉に甘えますね」
水晶群老蠍の主柱晶鋏、支柱晶脚、飛晶弾殻、超密晶核……レア素材らしきものもごろごろあって、レアという言葉の定義が分からなくなりそうです。
黙々と拾い続け、終わったころにはすっかり日が昇っていました。
「ふう、お疲れ様でした。午後十時軍さんはこの後どうしますか?」
「せっかくなので狩りを続けます。レアエネミーがいなくなった今なら、もう少し探索範囲を広げられるので」
「えっ。あの、大丈夫なんですか?」
「問題ありません、有給休暇をとっていますので」
「そうではなく、もう六時間以上戦い続けて疲れているのでは……」
「まだ一徹目じゃないですか。そうだ、ライザさんもご一緒しませんか?」
そう提案するカローシスUQさんの目は、とても澄んでいたのでした。
◇
「なんだこの金ピカ蠍!?」
「この人数に敵うわけないだろ、こちとらレイドボス帰りだぞ!」
「蠍を狩ってたら死神が出たあ!?」
「攻撃が理不尽! というかこっちの攻撃が全然通りません!」
「死神なら回復でどうでしょう! ……あれっ、効いてない!?」
「……いえ、どのみちこのままでは全滅です。それに賭けます!」
勝ちました。
ガチ勢ってすごい、改めてそう思いました。
・蠍の群れ
Web版では一体に見つかると数十体が押し寄せるとあるが、コミカライズでは派手に逃げ回っても五体に囲まれる程度で済んでいる。
本作では後者を採用する、というか前者は無理。
・水晶群老蠍
作中の落下ダメージ作戦が正攻法。
取り巻きの全滅や体力低下で行動パターンが増えていく。
最終形態では弱点が露出し発狂モードになる、がオリ主が消し飛ばした。
・金晶独蠍
フルボッコした。
・
回復して倒すことは覚えていたが怯まないことは忘れていたので、カローシスUQの判断がなければ普通に負けていた。