「貴様が持ち込んだ長老個体の水晶だが、特徴はまずなんと言っても凄まじい硬さだ。通常個体の水晶でさえ僕ら鍛冶師にとってはいずれ越えるべき最強の試金石と言われているのに、まさかそれをはるかに凌ぐとは! 天才の僕でさえ思わず己の未熟を痛感するところだったぞ、まあ僕は天才だから乗り越えてみせたけどな。素材の硬さは刃の鋭さでありこの剣が凄まじい切れ味を持つのは言うまでもないが、一般的に硬すぎる刃は刃こぼれしやすく衝撃にも弱い。これは水晶素材の武器が共通して持つデメリットだがさすがは長老個体、靭性も通常の水晶の比ではなく弱点は無いに等しい、つまりこの剣は高威力と高耐久を両立しているということだ。それだけではないぞ魔力蓄積力もだ、貴様は王国騎士団長の持つ盾を見たことがあるか? あれも長老個体の水晶が使われているらしく古くから伝わる逸品でありながら作られた当時の魔力がまだ残っているのだぞ、規格外の蓄積力だこれを生かさない手はない。水晶は魔力で成長するからそのような剣にしようかとも思ったが貴様は両手剣にこだわりがあるみたいだからな、サイズはそのままになるようにしておいた。言っておくがこんなことは本来不可能なのだぞ、今回できたのは長老個体の素材とりわけ超密晶核があったからだ、自重に耐えられるよう結晶構造そのものを変えて密度を増した水晶という見本がなければいくら天才の僕でも無から作り出すことはできない。それと鍛えている最中に気付いたのだがどうも剣の機嫌がいい、かつての敗北を払拭したからだろうか、これからはより一層力を発揮するだろうな」
コーウェンのテンションが振り切れました。
今日は強化の終わったカラドボルグを受け取りに来たのですが、彼は開口一番この調子です。
水晶群老蠍の討伐後、素材と一緒に強化を依頼した時も怪しかったのですが、とうとう限界を迎えてしまったようですね。
「ん、つまり最高の武器が出来たってこと」
「そうだとも! 名付けて『カラドボルグ・リバース』、いやその段階はとうに過ぎている、相応しき銘はそう、『
ハイテンションが収まらないコーウェンが指し示した先には、いよいよ再生成に成功した英傑武器がありました。
リペア当初の銀色鉄鉱の輝きは完全になくなり、今や青く透き通った水晶の刀身を持つ神秘的な剣になっています。
恐る恐る手を伸ばし、剣の持ち手に触れました。
『最上位職業転職クエスト「英傑の影法師よ、遺されし偉業を継げ」をクリアしました』
『ジョブチェンジ! メイン職業が「
ふうっと深く息を吐きます。
そうしてようやく、緊張で息が止まっていたことに気づきました。
『
ですが詳しい検証は後です。
まずは目の前のこの剣を確かめましょう。
『
両手剣
かつての敗北を雪ぎ、誇りを取り戻した一振りの剣。新たな偉業を糧とし、かの水晶群老蠍の名を冠した。
・巨獣を屠る剣
一定サイズ以上のモンスターに対するダメージ量を強化する。
・
同名の魔法を使用できる。
要求STRと威力が増加し、耐久値を回復する。
・
同名の魔法を使用できる。
装備者のMPを消費し、魔力を300まで蓄積できる。
蓄積した魔力は装備者が消費するMPを肩代わりする。
強い。
まず巨体特効は今まで通りですね、再生成前と同じ説明文です。
新たに増えた効果は二つ、威力強化魔法とMPタンク効果ですか。
「武器の威力があがる魔法……さっき密度が増えるって言った?」
「うむ、さっそく使ってみるがいい」
「ん、それじゃ……【
魔法を唱えるとMPが減り、代わりに剣がずんと重くなりました。
私はSTR寄りのステータス振りなので以前のカラドボルグは正直やや軽く感じていたのですが、水晶剣となってからは良い感じの重さになっています。
魔法を唱えるとさらに重くなり、見た目は変わっていないのにまるで大剣のようなイメージを抱きました。
「ん、なかなかの重さ。これで切ったらいいダメージが出そう」
「振りの速さを重視した基本形態と重さを重視した強化形態、上手く使い分けるといい。ちなみに重ねがけしても意味はないが耐久力は回復するからな」
「ん。元から丈夫だし機会はなさそうだけど、一応覚えておく」
「では次だ。魔力を蓄積する機能を試してみろ」
「……ちょっと待って、今回復するから」
インベントリからマナポーションを取り出して使用します。
MPは初期値のままなので10しかありません、【晶結】1回で空っぽになってしまいました。
ですが、そんな私の欠点を補う効果をカラドボルグは与えてくれます。
【
マナポーションで回復する手間を挟まずに300もMPを用意しておけるのは破格の性能です。
「ん、これでいざという時に備えられる。見た目もかっこいい」
「ふはははは、当然だろう! 僕は天才なんだ、デザインだってお手の物さ!」
そうしてひとしきり武器の性能を堪能した後、私は転職した最上級ジョブの性能を確認しようとしました。
スキルや魔法はレベルアップ時にしか覚えませんが、例外として転職時は基本的なものを覚えることができます。
もちろん
「ところで、だ。……貴様なにやら妙な鎌を手に入れたと言っていたな? 見せてみろ」
おっと、忘れていました。
水晶群老蠍を討伐した後に出現した
たしかユニークシナリオに関わるアイテムだったはずです。
必要なもう一つのアイテム、喪失骸将の斬首剣もちゃんと用意済みです。
「はい、これ」
「……むう、これは!」
◇
件名:以前のお礼です
差出人:ライザ
宛先:カローシスUQ
本文:お疲れ様です、この前の共同討伐ではお世話になりました。
最後に出てきた死神がドロップした鎌を覚えていますか。
あの鎌に関するユニークシナリオが見つかったのでご報告します。
既にご存知だったら申し訳ありません。
(以下、ユニークシナリオの情報が続く)
件名:こちらこそありがとうございました
差出人:カローシスUQ
宛先:ライザ
本文:お疲れ様です。
貴重な情報ありがとうございます。
こちらでは把握していなかったので助かりました。
こちらこそお礼を差し上げたいのですが、確かライザさんはバフ重視ビルドでしたね。
相性の良いアクセサリーがありますので、よければお役立てください。
(以下、ユニークシナリオの情報が続く)
◇
『小さな応援花』
何の変哲もない小さな花。けれど込められた想いは世界に一つだけのものである。
自身に対するバフの効果量微増。
「んん……森の中じゃ花なんて特に気にもしてなかったけど。こうして貰ってみると綺麗に見えるから不思議。大事にしよう」
教えてもらったユニークシナリオのクリア報酬を手に、ロールプレイに励みます。
良いシナリオではありました。
小さな女の子が街を守る兵士さんに贈り物をするイベント。
プレイヤーは女の子の贈り物探しを手伝い、途中で色々とトラブルはあっても最後は無事に渡せてハッピーエンド。
そしてプレイヤー自身も、女の子からちょっとした贈り物を貰うのでした。
ベタですが良いですよね。
ただ贅沢を言えば、自分自身で見つけていればもっと楽しめただろうなとは思います。
人から聞いた攻略情報を元に行動することの、なんて平坦なことか。
ただ、自分でユニークシナリオを探す時間はもう残っていません。
ブラウザを開き、ブックマークしていたホームページを表示させました。
『シャングリラ・フロンティア、新章突入!?』
『夏の大型アップデート予告!』
『超大型調査船を完成させて新大陸に乗り込もう!』
とうとうこの時がやってきました。
原作が始まります。
ここからは怒涛の展開です。
七つの最強種が一体、『墓守のウェザエモン』が突如として倒され、その一ヵ月後には同じく『深淵のクターニッド』が撃破されます。
そして新大陸では多くのプレイヤーを巻き込んで、『天覇のジークヴルム』が。
――『願わくば、真に英傑となった貴様とまた会おうぞ!』
鼻を横切る
英傑武器は手に入れました。
真説英傑という、誰も見たことのない隠しジョブにも就けました。
それで私は、本当に彼が望む英傑になれたのでしょうか。
私のシャングリラ・フロンティア、そのターニングポイントがぼんやりと姿を現し始めていました。
◇
件名:新大陸に興味はおありですか?
差出人:カローシスUQ
宛先:ライザ
本文:お疲れ様です。
アップデート予告はご覧になりましたか。
午後十時軍はクラン全体で新大陸を目指しますが、実は新たな発見がありました。
つきましては、ライザさんのお力を貸していただけないでしょうか?
ご協力いただけるなら、驚くべきものをお見せできるかもしれません。
(フィフティシアのとある地点が指定されている)
・水晶剣カラドボルグ
魔力チャージ量は瑠璃天の星外套と同じく300。
説明文からは分からないが巨体特効の効果が増している。
天才鍛冶師コーウェン「ちゃんと説明したぞ」
カラドボルグの強みは所持者に適した成長を遂げることである。
カラドボルグにはアラドヴァルのような特殊な出自はない。
大陸の片隅でなした偉業は世界からすれば矮小で、いてもいなくても大差はない。
けれどそれゆえに自由であり、所持者の進む道を斬り拓く。
ゲーム的にはリソース値に補正がかかり、プレイヤーログを参照して能力を得る。
メタ的には作者が効果を盛りたかった。今後も盛っていく。
・耐久値回復は魔法
シャンフロでは耐久値は魔力と密接に結びついている。
これは耐久値回復の行使者があくまで所持者自身であり、外部である装備への干渉は魔法にあたるためである。
そのため所持者や月光などの外部から魔力を吸収する必要がある。
また、水晶の成長プロセスは表面に付着した魔力を結晶化すると明言されており、同じ英傑武器のアラドヴァル・リビルドのように武器を肉体の延長とみなしてスキルで干渉しようにもこの仕様に阻まれる。
回復魔法はあっても回復スキルは存在しないのだ。