港町フィフティシア。
大陸の西端に位置するこの街には、新大陸行きの計画が発表されて以来、超大型調査船を完成させるべく様々な物資が大陸各地から運び込まれています。
それらの物資を管理しているのは、フィフティシアのあちらこちらに数多く存在する商会の人たちです。
その中でも一際規模の大きな『黄金の天秤商会』。
その一室で、私はカローシスUQさんと話していました。
「ライザさん。今話題の新大陸ですが、希望者全員が行けるわけではない、というのはお分かりいただけていますね?」
「はい、それはもちろん。シャンフロですからね、船の定員を無視して何人でも乗れるなんてありえません」
「ええ。そして予想では単純な抽選というわけでもありません。物資の調達でどれだけ貢献できたか、あるいは、NPCとどれだけ強力な伝手を得られたか。様々な事情が絡んでくると思われます。失礼ですがライザさんは、ご自身が確実に選ばれる自信はありますか?」
「まさか。特別な伝手なんてないですし、いちプレイヤーが用意できる物資だってたかが知れているでしょう」
「単刀直入に申し上げます。こちらの提案を飲んでいただけるなら、我々は新大陸行きの席を確実に用意できます」
「……願ってもない話です。私は何をすれば?」
「水晶群老蠍の周回にお付き合いいただきたい。大型アップデートまでずっとです。また、一部の素材は優先的にこちらに回していただくことになります」
「周回ですか?」
少し考えます。
半ば予想していたことですが、午後十時軍は確実に新大陸へ行ける目途が立っているようです。
そのおこぼれに預かる対価として、私は戦力として役に立つことを求められているわけですね。
向こうの事情は分かりませんが、関わらせてくれるというのですからわざわざ聞き出す必要はないでしょう。
素材を持っていかれるのは別に構いませんし、Extendの経験値が溜まる分こちらにもメリットが――。
いえ、そうではありません。
元から断る選択肢はないのです。
かの黄金の龍王に再会するために、私はなんとしても新大陸に行かなければならないのですから。
その機会を逃してしまっては、「ライザ」は「ライザ」でなくなってしまいます。
「この話、ありがたくお受けします」
「よかった、ライザさんならそう言ってくれると思いました」
固く握手を交わしました。
「では、この後お時間をもらえますか。メールでお伝えした通り、秘密兵器をお見せしますよ」
◇
開いた口が塞がりません。
「
案内されたのはフィフティシアに多数ある造船ドックの一つでした。
厳重な警備が敷かれる中をカローシスUQさんに先導され、そしてその先にあった物に目を疑いました。
超大型新大陸調査船『トルヴァンテ・ディスカバリエ』号がフィフティシアで建造中であることは知っています。
しかし、それが行われているのはここではありません。
ここにあるのは、その程度の物ではありませんでした。
「今回お声がけさせていただいたのはそれもあります。以前の取引はかなりこちらに有利でしたし、ユニークシナリオの情報もいただきました。今後とも良いお付き合いをさせていただけたら、と。ですから一回限りとは言いません、都合が合う時にはなりますが、いつでも頼ってください」
「いや、あの、これ……」
「もうお分かりでしょうが、
そこにあった船は、今話題の調査船、つまりファンタジーらしい木造船とは全く異なりました。
蒼く煌めく水晶でできた船体。
大砲の代わりに積み込まれた、尖った水晶とその発射装置。
そして何よりも特徴的な、真っ平な甲板。
「これこそが新大陸調査に向けた我々の切り札。魔導推進大型征海船『天色彩島』号です」
「空母ですこれ!?」
◇
水晶群老蠍の周回は何事もなく終わりました。
途中からなぜか水晶群老蠍が最初から出現するようになりましたが、当の水晶群老蠍の素材で装備を一新した午後十時軍には大した問題ではありませんでした。
全員が水晶素材の武器防具を揃えていて、本当に軍のようで格好良かったです。
ただ、他のプレイヤーにばれないよう出発時は普通の装備だったので、街を離れてから一斉に装備を着替えていたのはシュールな光景でした。
そんな彼らに負けないように、私も水晶剣カラドボルグで水晶群老蠍を斬りまくりました。
武器が二段階強化されている上、真説英傑で自己強化スキルを覚えたのもあり、以前よりもかなり活躍できたはずです。
そうしているうちに大型アップデートがやってきました。
あれだけ周回を頑張ったのですが、『天色彩島』号の完成はぎりぎりでした。
完成した時は午後十時軍の皆さんと一緒にはしゃいだのを覚えています。
そんなこんなで、調査船『トルヴァンテ・ディスカバリエ』号が抽選に当たったプレイヤーを載せて出航し、抽選に敗れたプレイヤーたちがフィフティシアから去った後。
夜間に人目を忍んで港を発った『天色彩島』号は、その恐るべき速力であっという間に遅れを取り戻し、新大陸への一番乗りを目指して大海原を進んでいました。
私に割り当てられた一室で、物思いに耽ります。
……征海船。
これ、どう考えても
正直あまり覚えていないのですが、水晶巣崖を攻略したことがこんなすごい船に繋がるのなら、あの人が取りこぼすはずがありません。
きっと多くの注目を浴びて、沢山のプレイヤーを巻き込んだ流れが生まれたはずです。
私が英傑武器を再生成しようとして午後十時軍を巻き込んだことで、征海船は本来よりも早い段階で日の目を見ることになりました。
この変化がどのような結果をもたらすのかは分かりません。
多少の差異はありつつも原作と同様の流れを辿るのか、それとも決定的な違いを生み出し全く新しい流れになっていくのか。
ですがどちらにせよ、シャンフロを始める時に決めた通りです。
私は「ライザ」を作り上げるために、使えるものは全て使い、出来ることをしていくだけです。
――出航数日前の夜に響いた鐘の音を思い出します。
『シャングリラ・フロンティアをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します』
『現時刻を持ちまして、ユニークモンスター「墓守のウェザエモン」の討伐を確認いたしました』
世界が動き出しました。
ああ、サンラクさん。
あなたに負けないくらい、私もこのゲームを楽しんでみせます。
◇
新大陸の海岸に到着しました。
同乗していたNPCたちが積み荷を降ろしていく中、私は午後十時軍の皆さんに改めてお礼を告げます。
そしてタラップを下りながら、視界の向こうに広がる樹海を眺めました。
この先にあるのは新しい敵、新しい素材、新しい種族、新しい知識。
さあ、開拓を始めましょう。
まずはレベルキャップ解放を目指しますか。
『称号【未知への第一歩】を獲得しました』
・
ゲーム的には、いつまでも補助輪を外さないプレイヤーに「じゃあこれくらいやってみせろ」と叩きつけられた挑戦状。
再生成した武器種にのみ適性を得るため、内容の選り好みも難しい。
その分ジョブ性能は高く、ケルト英雄じみた制約付き自己強化スキルを覚える。
・『天色彩島』号
原作ではサンラクがラピステリア星晶体を提供して実現した新型船だが、本作では午後十時軍が水晶群老蠍の超密晶核を提供したことで実現した。
出来上がったシルエットはまさかの空母。
原作でサンラクは水晶群老蠍を空母と称したが、この度本物の空母になった。いずれ飛行型タイプメンがずらりと並ぶかもしれない。
本来の征海船はクルーザー程度の小型だが、本船は大規模クランが使用するため全員+αが乗れるよう大型化されている。その分お値段も馬鹿高い。
・未知への第一歩
新大陸に最初に辿り着いた船の乗員が得る称号。本作の独自設定。