流行らせたいので縛りプレイをしようと思います。 作:正体不明の筆者A
決闘のフィールドは古びた決闘場の様な場所です。私は過去に何度か特定のプレイヤーに決闘を挑まれていましたので見慣れた光景となってしまいました。
「さて、御託は結構です。早速始めることにしましょうか」
「あぁ。ではこのコインが落下した瞬間を合図としよう」
ペインはそう言うと手に1枚のコインを持ちました。それを指で弾きコインは回転しながら宙を舞います。不気味な程の静寂が辺りを包む中……コインが地面に落ちる音が聞こえようとしていました。
「っ!」
私は開始早々不可視の速度で彼に攻撃します。彼はそれを理解していたのかしっかり両手剣で私の一撃を防いで見せます。なるほど、不意打ちのような一撃では効果が薄いですか。
「ほう、今の攻撃を防ぎますか」
「俺も伊達にトッププレイヤーやってないもので、なっ!」
彼は即座に剣を切り返して私に斬りかかってきます。当然一撃でも食らったら即アウトなため最低限の動きだけで攻撃を回避します。私は彼に追撃の隙を与えないように即座に片手で魔法詠唱の準備を整えます。
「速攻っ!【
「甘いっ!『退魔の聖剣』!」
彼は私の魔法詠唱が終わる前に十八番の聖剣技で斬りかかってきます。私とてこの魔法を彼に直接当てようだなんて考えていません。魔法はあくまでブラフ、私はメイスを正面に突き出し彼の刀身に思い切りぶつけ合わせます。
彼は魔法の被弾を避けるために一度後方に飛び退こうとしますが、私はそれを見逃さず即座に追撃します。彼は私の攻撃を剣でしのぎながら自分の体勢を整え、隙あらば私の喉元を掻っ切ろうと両手剣を振り下ろしてきます。
「今っ!【狂気反転】っ!」
「そうはさせるかっ!」
私は一瞬の隙を突いてスキルを反転させます。ですが生半可なスキルで彼を止めることなど出来はしないでしょう。ですが私も今やMPはほぼ無尽蔵と言って良い程潤沢です。彼の一撃を躱して瞬間的に20m後方に飛び退くと、追撃が来る前にスキルを発動しました。
「【オーバーヘイスト】っ!」
「『退魔の聖剣』っ!」
私は意図的にどちらにも【オーバーヘイスト】をかけました。ふふ、流石ペインです。この速度でも正確に私に攻撃を加えようとしてきます。やはりAGI10倍如きで彼を翻弄する事などできませんかっ!
私はメイスで、彼は両手剣で、もはや常人では推し量ることの出来ない超速度で攻撃を続けます。静寂に包まれていた闘技場に重々しい金属が打ち合わされる音だけが鳴り響き、端から見たら影すらも見えない高速のやりとり。あは、あはははっ!!さすがはNWOトッププレイヤーっ!!この私と同等に打ち合って来ますかっっ!!!!
「ぁはっ……あははははっ!!良いっ!実に素晴らしいですペインっ!」
「お褒めに預かり光栄だなっ!!」
「もっと、もっとですっ!!貴方の限界を私に見せてくださいっ!!そして圧倒的な力に抗いなさいっ!【狂気反転】っ!!【堕天騎士の密法】っっ!!!」
あぁ、彼との戦いでは出し惜しみなどしてはなりません。彼が私を全力で殺しに来るのなら、私もそれ相応の態度で返すのが礼儀と言うものでしょうっ!?私は新スキルで装備を変え、両手に持つ双剣で彼に向かって突撃しました。彼は即座に私のスタイルが変わった事を認識します。ですがその程度ではこの一対の凶刃を捌ききる事など不可能ですよっ!
私は右の剣で彼の武器を受け止め、左の剣で彼の胴を薙ごうとします。彼も当然それが見えていますから、私の一撃を躱しながらつばぜり合いを解除して即座に斬りかかろうとします。私は空中に飛び上がり、彼もまた私を追随して空中に飛び、私達は滞空したまま打ち合いを続けていきます。
「【邪なる特異点】っ!!」
「させるかっ!!」
「あははっ無駄です、無駄ですよぉっっ!!!【リィンカーネーション】っ!!」
スキル【リィンカーネーション】。スキル【断滅】を反転させて生まれた私の新スキルです。効果は単純明快、私の放った攻撃が1度だけ再発動するというもの。
これはいかなるスキルにも反応する特性を持ちます。通常攻撃に魔法にと制限などありはしません。よって私はここから実質2回攻撃を手に入れた様な状態になるのです。
「まったく君は厄介な進化ばかり遂げるなっ!!」
「対戦というものは人が嫌がることをしたら勝ちなのですよっっ!!!【停滞のレコンキスタ】っっ!!」
【堕天騎士の密法】発動中は、全てのスキルが反転スキルとして使用可能になると言う特性があります。そもそも密法自体が反転スキル扱いで、自身で解除しようと思わなければ解除できない仕様上そうなっているのでしょう。
私は苛烈とすら言える攻撃の嵐を彼に注ぎ続けます。ですが彼とてこの程度で負けるようなプレイヤーではありません。避けるものは避ける、防ぐものは防ぐ、彼はその判断をこの一瞬で行っているのです。
そして隙あらば私に一撃加えようとしてくる。しかも常人では捉えきれない圧倒的速度で。彼がトッププレイヤーであるからこそ出来る荒技とも言える攻撃。私も一瞬でも気を抜いたらやられる緊張感と高揚感に心の昂ぶりを感じます。
「初めてですよペインっ!!私とここまで全力で打ち合えるプレイヤーと出会ったのはっ!!」
「君は本当にめちゃくちゃな強さだなぁっ!!だが俺にもプライドってものがある!!この勝負そう簡単にやられはしないっ!!」
「いい、良いですよぉっっ!!さぁさぁ勇者よっ!!私を倒してごらんなさいっっ!!その聖剣で私の喉元を掻っ切りなさいっ!!そして栄光ある勝利をつかみ取るのですっっ!!!」
リーフの高らかな叫びが決闘場内に響き渡る。彼女は狂気的に笑いながら、どこまでも楽しそうに俺に攻撃を加え続けてくる。俺は彼女の圧倒的物量の剣戟を取りこぼすこと無く処理していく。
あぁ本当にめちゃくちゃな強さだ。これほど苛烈な攻撃をしておきながら一瞬の隙も見せてくれたりはしない。それに過去に俺が分析した通り、彼女は死ぬことを恐れずに無茶とすら言える特攻を繰り返し続けてくる。
彼女は一撃でも食らったら死ぬという極限状態でプレイを続けている。だと言うのに俺の剣に恐れる素振りすら見せない。やはり人間如きの精神では彼女の無謀で野蛮な致命の一撃を防ぐことなど出来ない。
やはり彼女と対等に打ち合うためにはこちらも人間としての恐怖を捨てねばならないようだ。だが俺にそれが出来るのか?いやしなければならない。そうしなければ彼女と対等に並ぶことなど出来やしない。純粋な力だけで並び立つ好敵手になることすら叶わない。
「『断罪の聖剣』っ!!」
「【炎帝剣】っっ!!!」
俺は最大級の一撃を、彼女は特大の炎を纏わせた一撃を繰り出す。だが彼女が律儀につばぜり合いに応じるつもりがないのはもうわかりきっている。だからこそ俺は押さなければならない。彼女に追撃させる隙を作らせてはいけない。
この際男女のスタミナの差だなんて事を言うつもりは毛頭無い。俺はありとあらゆる面で彼女に大敗していることを自覚しているからだ。だからこそ無駄な考えを捨てて全力で彼女を叩き潰す。
「ぁはっ……素晴らしいっ。なるほどそうですかぁっ!このまま押しつぶそうとお考えのようですねぇっ!!」
「減らず口をっ!」
「あはははっ!!そうですよねぇっ!!貴方は私の対処や性格を知っておられるっ!!ならば取る選択肢は一つ!ですが甘い、甘いんですよぉっっっ!!!【海神剣】っっ!!」
リーフはそう高らかに宣言すると双剣の片方の属性を変更して来た。くっさも当然のように双属性で攻撃してくるつもりかっ!!しかもよりにもよって相反する火と水属性でっ!!
展開された火属性は水属性によって展開された水の温度は急速に跳ね上げていく。くっまさか水蒸気爆発を起こすつもりかっ!?自分まで巻き込まれるリスクがあるというのにっ!
「なっ!?」
俺は咄嗟に身の危険を感じて彼女から退避する。即座に周辺は大規模の爆発を引き起こし周囲が霧で覆われる。あ、くそしま……っ!
「ふふっ……チェックメイトです」
耳元で彼女の声が聞こえた瞬間、俺は彼女の剣に貫かれていた。あぁ、完膚なきまでの綺麗な負けだった。俺は最後の最後に、死への恐怖に打ち勝てなかったのだ。
「どうぞ。感想戦のついでです」
「あぁ。ありがとう」
リーフとの決闘が終わった後、俺たちは感想戦も兼ねて第2層の個室がある料理屋に来ていた。元々料金を割り勘をする心づもりだったが、リーフがゴールドに余裕はあるからと全部頼んでしまった。
「さて。まず初めにペインさん。貴方はなぜ私に決闘を挑んで来たのですか?」
「なぜ、か。一つの理由でない事くらい察しが付いているだろう?」
「えぇ。貴方が何の気も無しに決闘を挑むなど有り得ない事でしょうから」
その通りだ。一つ目の理由はそもそも彼女と決闘する機会がほぼ無いと言うこと。二つ目の理由は今の俺の実力を彼女に見せること。三つ目の理由は……同じトッププレイヤーとして彼女の悩みを決闘で吹き飛ばすことだった。
俺がカフェに入ったとき、リーフは何かに思い悩んでいるような素振りを見せていた。俺はそれをリアルに関係する事だと思い特段追求しなかったが、彼女ほどのプレイヤーが思い悩むと言う事は、それほどの事があったのだと推測できる。
「別に手を差し伸べたつもりは無い。半ば決闘の口実にしただけとも言える」
「お陰様で悩みも何もかもすっかり消え失せました。やはりドーパミンは正義です」
「はは、俺より年下から出たとは思えない言葉だな」
「人間と言うものがなぜ趣味というものを持つのか。それはひとえにそれが一番面白く快感に繋がるからです。好きなものは続けたいし嫌いなものはすぐ止めたい。人間とは単純なものなのです」
彼女の顔は本当に悩みが吹き飛んだように晴れやかであった。それでこそ俺の知るリーフというプレイヤーそのものだ。好敵手と呼べるかはまだ分からないが、そんな彼女がゲーム以外の理由で思い悩んではいけない。
「さて、しんみりしそうな話はここまでにしましょう。
「あくまで他言無用にしろ、そう言いたいようだな」
「えぇ。特に【堕天騎士の密法】は極秘中の極秘です。特にお仲間やネットの皆様に拡散なさりませんようにと釘を刺そうと思いまして」
まさか、俺とて最低限の礼儀くらいは持ち合わせている。と言うよりもしばらした時のリスクを考えたら俺とて絶対に口は紡ぐだろう。報復に何されるかわかったものじゃない。
「うふふ、怖がる必要はありませんよ?ただちょ〜っと私の世界をペインさんに体感していただくだけです」
「俺に何をさせる気なんだ君は」
「ふふ、ここに【疑似体験】と言うスキルがございます。所謂練習モードを作り出すスキルですが、術者である私が他の対象に私と同じ環境を味わわせる事すら可能なのです。剣の先を掠っただけで500回は死ねる空間をご提供いたします」
「心の底から拒否させて貰う」
さすがVIT−255。ということは本当に俺は一撃も彼女に攻撃を入れられていなかったと言う事だ。本当にふざけたスペックをしている。
そんなイカれたプレイヤーが瞳孔をかっと見開いて高笑いをし、狂気的な笑い声を上げながら襲ってくるのだから、並大抵のプレイヤーでは彼女を視認するだけで発狂するだろう。そもそもあの笑い声はどうにかならないのか?
「リーフ。せめてあの高笑いはやめてくれないか?」
「ふむ……やはり気分が上がるとあぁなってしまうのですよね。諦めてください」
「せめて努力だけでもしてくれると俺は嬉しかった」
「昔からなのですよ。鬼畜なゲームをやって死んだら台パンくらいしますし、煽り厨をシバいたらそれはもう乙女とは思えない罵声が飛び出しますし、VR内で昂ぶりすぎてリアルに帰ってから数時間寝込んだこともあります」
ある意味ゲーマーの鑑とも言えるが、普段とのギャップがありすぎて脳が理解を拒みそうだ。無駄に敬語を保っているのも良くないと思っている。
「ささ、食べながら色んな話をしましょう。貴方とは今後『色々と』お世話になりそうですから」
リーフはそう言いながら今日1満面の笑みを浮かべた。