流行らせたいので縛りプレイをしようと思います。 作:正体不明の筆者A
「はぁ……っはぁ……っき、君はほんとにバケモノかっ」
「ふふっ。どうです新スキルの味とやらは」
俺は例の如くリーフに挑みボロボロに敗北していた。これで通算戦績20戦20敗。本当に彼女に勝てる気がしないのは俺だけではないはずだ。
そんな彼女はまたもやどこからか新スキルを拾ってきていた。彼女はこれらのスキルの総称として【四神の加護】と言う言葉を使っていた。曰く第二回イベントの専用マップにて、マップボーダーに居たらしいボス4体を撃破して入手したらしい。
まずあのイベントにそんなバケモノが居たという事実も驚きだ。雪山頂上の銀翼や遺跡群の巨大な頭足類のボスについては知っていたのだが。ちなみに彼女は例の如くソロでこの2体のボスの討伐に成功したらしい。少しばかり次元が違いすぎないか?
「【変天】【零天】【黒天】【廻天】。このスキルは正直1プレイヤーに付与されて良いスキルではありません。その効果はその身をもって知って頂いたと思います」
「あぁ……まさか今回の長期メンテナンスは」
「おそらくこのスキル関連で発生したシステムの挙動修正のためでしょうね。ペインもゲームをやっているなら知っているでしょうが、普通マップボーダーに居る敵に撃破時のボーナスを加える方が珍しいと思いませんか?」
確かにその通りだ。オープンワールドでは、プレイヤーがマップ外に行くのを防ぐために様々な施策をしているという。中でもマップ外に絶対に倒せないボスを配置するなんてありきたりな仕様だろう。
だがその様なボスはもはや倒す事を想定されていないため、ドロップ品や報酬の様な物は付与されない事が多い。あって実績の解放に止まるだろう。ではなぜこの【四神の加護】が彼女に付与されたのか。その原因が恐らくゲームシステムに類する何かにあるのでは無いかと言うことらしい。
「どこかの解析班が出していた情報ですが、このゲームにはある程度システム全体を管理する高性能AIが搭載されているらしいですね。恐らくはそこが不具合を起こして存在しないスキルを出力したのでしょう」
「なるほど……君はこのスキルをどうするつもりなんだ?」
「基本的には今までのスキルで事足りますのでむやみに使用する事はないでしょう。ですが少しばかりノリに乗ってしまうと制御が効かなくなるかもしれません」
「是非とも理性的であってくれ」
特に【黒天】やその反転スキルである【極天】は発動された瞬間に敗北が確定する。付与される状態異常が尋常では無い強さをしているだけならまだ良いが、範囲がとてつもない広さなせいでほぼ回避不能なのがダメすぎるだろう。
そして俺は一通りスキルの説明を受けた上で、リーフの秘密の一端に触れることになる。
「それにしても……君がまさかリアルでも隻眼を患っているとは」
「えぇ。故に【変天】だけは今後も頻繁に使うことになるでしょうね。やはり視えると言うのはそれだけで莫大なアドバンテージになりますから」
「ふむ……それにしてもそんな情報をわざわざ俺に教えて良いのか?」
「ふふ、ペインは口が硬いでしょう?私は貴方を信頼しているのですよ」
そう言いながらも彼女の瞳は『バラしたら分かってるな?』という視線をしていた。素直に怖いから止めて欲しい。しかも過去に誰にも明かされていない極秘中の極秘だからもし漏洩したら100戦では済まない
「ペインは間違い無く『集う聖剣』のギルドマスターになるでしょう?」
「あぁ。君はどうするつもりなんだ?」
「ふふ、私は表だって動くより裏からコソコソする方が得意なのですよ。ですのでギルドマスターは辞退するつもりです。そうですね……メイプルあたりに頼むのが無難ではないでしょうか」
「メイプルか……彼女も君に負けず劣らずの強敵だな」
「まぁメイプルは私には勝てませんがね。彼女の弱点は明確ですので」
リーフはそう言いながら目に闘志を宿らせて不適に微笑んだ。俺からしたらメイプルとの交戦経験のなさから弱点が見えてこないが、彼女からすればメイプルとて御しやすい相手なのだろう。つくづくレベルが違うと思わされる。
だが俺とて連敗の中でも確実な経験を積んでいる。最近集う聖剣で行った模擬演習で、俺対他全員の試合で無傷で突破したのは良い思い出だ。確実に俺が強くなれている証でもある。やはり経験こそがものを言うのだと思い知らされていた。
「それにしても、君は本当にどこを目指しているんだ?」
「ふふ。プレイヤーがゲームに望むことなんてただ一つでしょう?自分の理想を叶えるためにゲームをするのですよ」
「君の理想は強くなる事なのか?」
「えぇ。何事もとことんまで極めたい。誰も到達出来ない領域に到達したい。かつて空っぽで何もなかった私にとって、何かを極めると言う事はそれだけの価値を持ちます。そのためならどんな苦行でも耐える覚悟がありますし、我が身を捨ててでも挑む覚悟があります」
リーフはそう真面目な顔で言った。彼女の過去に何があったのかを俺が知るすべはない。だが彼女にそう思わせるような出来事があったのは確実だろう。彼女をここまで突き動かす情動は並大抵の覚悟でゲームに挑むプレイヤーには到達出来ない領域を生み出しているのだろう。
「ペイン、サリー、メイプル。もしかしたら私を超えるかもしれない貴方たちだからこそ、私は素直に闘志を燃やすことができるのです。私は取り組めば何でも並以上に極める事が出来ました。そこに今までは本当の意味で達成感を得ることが出来なかった。
ですがゲームは違います。自分のスタイルでいくらでもゴールを先延ばしにすることができるのです。そして今までの趣味とは違い競い合う相手がいるのです。私が燃え上がらない訳がないでしょう?」
天才故の苦悩と言えば聞こえは良いが、人間としては欠陥にも程があるのだろう。人間とは達成感ややりがいを得ることで精神の安定を得る生き物だ。それが無ければいずれ人は人生に楽しみを得ることが出来なくなってしまうのだろう。
彼女は多趣味だという。だが彼女の呼ぶ趣味とは俺たちが思い浮かべる趣味とは全く違うものだ。それらは全て極められてしまった、またはそれに近い領域に至っている。彼女にとって『楽しくない』ものに成り下がっているのではないだろうか。
「はは。俺が君に勝てるとは思えないがな」
「ご冗談を。私を倒すのは非常に簡単です。攻撃を一撃当てるだけで良いのですから」
「それが難しいと言う話をしようじゃないか」
「うふふ。でもロマンのある話しでしょう?自分より格上の相手に一矢報いるだけで勝てる可能性があるのです。私はそのスリルを求めて防御力を極限まで落としているのです」
「ほんと君というプレイヤーは……」
だからこそと言うのだろうか。今の彼女は本当に輝いて見える。本当にゲームというものを楽しんでいるのが目で見て判断出来る。極められないからこそ、それが彼女にとって最大のモチベーションに繋がっている。
俺がどこまで彼女を満足させられるかは分からないが、俺とて1プレイヤーとしていつまでも負けっぱなしでいる訳にはいかない。彼女自身が語っていた通り、彼女は一撃でも貰ったら倒されてしまう程貧弱なのだ。字面だけで見たら大して難しい事はないのだから。
「ふふ。楽しみにしていますよ。人間に限界はないのですから」
彼女は再び不敵な笑みを浮かべた。
四神とはかつて中国にて語られた方角にまつわる神々の事を言います。青龍、白虎、朱雀、玄武とそれぞれ加護が違う事から人々はかつてそれらに信仰を捧げていたのだとか。
私は別に四神に祈るものはありません。加護と言うのは最終的に自分でつかみ取らなければ意味の無いものだと自覚しているからです。生まれも、育ちも、決して幸せとは言えなかった私が導き出した結論の一つでした。
私はこの世に望まれぬ形で生まれ落ちました。両親からも愛されず、友達も出来ず、左目と言う欠損も抱えて幼少期を過ごしてきました。高校になって親友二人が出来るまでは、私はこの世に一人孤独に生きていたのです。
そのうち私は知ることになりました。私が誰にも求められていないのなら、望む物は全て自分でつかみ取る以外にこの世で生き残ることは出来ないと。誰も私に施しをもたらして下さらないと言うのなら、自らそれをつかみ取る以外に方法は無いと知ったのです。
私は育児放棄をされていたことを好機とばかりに自分と言うものをひたすらに痛めつけていました。私は一人で何でもこなせなければならない。そうしなければ生きられないと知っていたのですから、ひたすらに自分を完璧な存在へしようと思い続けていたのです。
私は信仰心を持ちませんでした。何かを信仰したとしてそれが私に加護をもたらして下さるなんて考えがなかったからです。全ては自分で勝ち取ることでのみ手に入ると思っていたからです。そしてかつての私の理念に他人と言うのは必要ありませんでした。
皆が聞いたらダブルスタンダードだと笑うことでしょう。私は望めば友人を手に入れる事くらい造作もありませんでした。人間とは幾らでも繕えるもの。人間達にとって都合の良い人間を演じる事など私には容易だったのですから。
ですが私は他人と言う存在が自分の発展を邪魔する異物としか認識していませんでした。親からは蔑まれ、クラスメイトは異様な雰囲気を持つ私を遠ざけ輪から隔離し、教師でさえ私を恐れて下手に関わろうとしませんでした。信じようなんて無駄な事を考える時間はないのです。
『へぇ〜それ○○でしょ?私それ買えなかったんだよね〜』
……だからこそ、私にとってあの時の出会いは人生を変える出会いだったのかもしれませんね。
次回はリーフの過去回が少し挟まります。お楽しみに。