Pieces of a Story about the Fleet Girls 作:青色3号
黒髪ロングを彩るような白地に紫の金魚と水紋の意匠の浴衣、晴れやかな表情浮かべた美貌。その浴衣姿の少女・朝潮は傍らを歩く提督に華やいだ声を向ける。
「司令官、お祭りのお誘い、ありがとうございます!」
「なに、俺も朝潮を一度ここには連れて来たかったんだ」
艶やかな浴衣姿とは対照的とも見える飾り気のない紺のチノパンに半袖白ポロシャツの提督の姿、しかしその殺風景ともいえる私服姿がかえって傍らの朝潮の可憐さを引き立てているかのようにも見える。ふたり神社の鳥居をくぐり、鮮やかな照明が彩る屋台の並ぶ境内に足を踏みいれる。
「朝潮は、ここのお祭りは初めてか?」
「そうですね、去年は当直だったので…司令官は?」
「俺も改めて来たことはないな。着任してからは、なかなかそんな余裕もなかったし」
なにより誘う相手がいなかった、とは流石の提督も言いよどむ。話を変えるかのように隣を歩く朝潮に目を向け提督は誉め言葉を口にする。
「その浴衣、よく似合ってるぞ朝潮。かわいい」
「え、え!?そ、そうですか!?あ、ありがとうございます!」
夜目にもわかるほど朝潮の顔が朱に染まる。そんな初々しい朝潮の反応もまた可愛らしい。朝潮から目を外し屋台の列に目を向け、提督は朝潮に声を向ける。
「さて、なにも食べずに来たから腹も減っただろう…なにか、食べたいものはあるか?」
「いえ、お気遣いなく!」
笑顔できっぱりはっきりそう言われては提督も返す言葉がない。肩を竦めながらも朝潮の遠慮をそのままには受け取れず、さてどう朝潮におねだりをしてもらおうかと考えながら提督は朝潮と歩を進める。
「なあ、朝潮…」
「夢のようです……敬愛していた司令官と、おつきあいできてこのようにお出かけできるようになるなんて……」
少し足元に目線を落としながらうっとりと呟く朝潮の様子に提督は続ける言葉を失う。朝潮が足を止めるのにつられて提督も足を止めると、朝潮は提督を見上げ満開の笑み浮かべて力強く宣言する。
「司令官、この朝潮にできることがあればなんでもお申しつけください!朝潮は、司令官のご用命とあらばどんなことでも勤める覚悟です!」
一点の曇りもないきらきらした海色の瞳を輝かせて行われる朝潮の宣言、その宣言を聞いて提督はぼりぼりと頭の後ろを掻く。つきあう前から分かっていたことだが、どうも朝潮は従順すぎるというか、こう忠誠心が自己犠牲につながりかねない危うさがある。そんな朝潮にそのことを直接伝える代わりに提督は朝潮に向かって確かめるように問う。
「どんなことでも、か?」
「はい!どんなことでも!」
そうか、と呟き提督は朝潮の肩を抱き歩き出す。自分を支える逞しい感触に頬を熱くしながら朝潮は提督の誘うままに屋台の列の裏の雑木林に連れ込まれた。
お祭りの喧騒も、ちょっと雑木林の奥に入っただけで遠くなる。暗く静かな夜の雑木林に感じる本能的な恐れに朝潮はきゅっと提督のポロシャツの裾を掴む。艤装を纏っていれば薄れる恐怖心の類も、艤装のない今は年頃の少女のそれ相応に朝潮の心を侵食する。せめて提督が離れず傍らにいることを微かな勇気の拠り所として朝潮は提督の誘うままに雑木林の奥深く分け入る。
クヌギの大木の前まで来ると提督は朝潮の背中をゆっくりとその大木に押し付ける。まだ自分が何をされるのか理解していない朝潮に提督は覆いかぶさるような姿勢を取ると静かに朝潮の唇を自らの唇で塞ぐ。
「ん、…」
初めてではない、しかし決して慣れてはいない接吻、そのぴりぴりとした感触に朝潮は目を閉じ身を任せる。提督が自分のことを控えめに貪る感触にうっとりと朝潮は酔いしれる。しばらくすれば離れてゆくはずのその感触、しかしその時に限っては離れることなく、提督の唇は這うように朝潮の首筋に落とされる。
「え、司令官!?」
朝潮の肩を押さえていた両手のうち右手が外され、朝潮のまだ発育途上の乳房に浴衣の上から乗せられる。撫ぜるように慎ましやかな膨らみを愛撫しながら提督は朝潮の首筋に唇を這わせる。
「や、っ…!し、司令官!こんなところで…!」
処女の怯えが朝潮を貫く。身を竦め、身を捩ろうとするが提督に片腕と上半身で抑え込まれそれもままならない。恐怖に小さく震え始める朝潮の乳房から手を離すと、提督は外した右手で朝潮の浴衣の裾を割る。
「し、しれいかん…!」
「どんなことでも勤めるんだろう?」
「で、でも…!」
涙声でうわずった小さな悲鳴をあげる朝潮に触発されたように提督の掌が朝潮のすべすべした腿を捉える。そのまま提督の掌は上へ上へと這い進み、下着越しに朝潮のもっとも繊細な場所へ届こうとする。
「い、いや…し、しれいかん…!ゴメンナサイ、朝潮、無理です!ダメです!…司令官、ゴメンナサイ!」
す、と提督の身体から力が抜ける。掌を朝潮の脚から外し、朝潮から一歩離れ、提督は朝潮を解放する。はあはあと荒い息をつき目を閉じ両手で胸を押さえる朝潮を見下ろしながら提督は朝潮に向かい一言告げる。
「それでいい」
「…え?」
「朝潮は、物分かりがよすぎるというか従順すぎるところがあるからな…そうやって、嫌なことは嫌と俺にきちんと言えるようになった方がいい」
涙に濡れた目をきょとんと見開き朝潮は提督を見上げる。そこにある提督の穏やかな笑みに、もう自分を呑み込もうとはしない静かな佇まいに、朝潮はようやく提督の真意を知る。
「悪かったな、怖い思いをさせて」
「い、いえ!」
少し慌てたように提督にお返事する。今はまだ無理でも、いつか必ず、この優しい人に自分の全てを捧げ尽くそうと朝潮は決意する。そんな朝潮の決心知ってか知らずか提督は再び朝潮の肩を抱き今来た道を引き返す。引き返しながら提督は朝潮に聞こえぬようにひとり呟く。
「しかし結構理性削れるな、これ…あと10秒長引いてたら、ヤバかった…」
「司令官、なにかおっしゃいましたか?」
「いやなんでも」
雑木林から戻ってきた身には眩しいくらいの屋台の照明の列、その列に目移りしながら朝潮は一歩後ろを歩く提督におねだりする。
「あ、司令官!朝潮、そこの綿菓子欲しいです!」
「おう、お祭りでは定番だな」
「あ、その前にあそこの焼きそば買ってもらっていいですか?」
「いいけど、まずはその持ってる焼きイカ食っちまえよ」
はしゃいだ様子を隠そうともせず朝潮は手にした焼きイカにかぶりつく。そのまま朝潮はむしゃむしゃと焼きイカを腹に収めていたが、やがて気がついたように手にした焼きイカを提督に差し出す。
「司令官もひと口どうぞ!」
「もう食う部分ほとんど残ってねえじゃねえか…まあいい、それじゃ遠慮なく」
「あ、朝潮の分は残してくださいね?」
「…どーしろと…」
苦笑しながら提督はほんのひと口遠慮がちに朝潮の手から焼きイカを齧った。
屋台の列の切れるあたりからもう少し歩き神社の本堂の裏手に回ると、そこは開けた広場になっている。小高い丘の上にあつらえられた神社のこの場所からは鎮守府のある街の様子が一望できる。提督と朝潮たちと同じ目的で集ってきた人混みを掻き分けふたりは景色の開けた場所へ出る。
「わあ…」
燦燦と輝く街の灯りが朝潮の海色の瞳に映り込む。愛しき人々の生活の営み、その証が光となって朝潮の視界に広がる。
「すごい、すごいです…」
「朝潮たちの守っている生活の光だ、よく見ておけ」
街の光は奥の方で途切れ漆黒の海の水平線につながる。その見えぬ水平線に一度目を向け、手元の腕時計に目をやって提督は呟く。
「そろそろ、だな」
その言葉を合図にしたかのように空気を割いて何かが空に昇る音が響く。反射的に朝潮が夜空を見上げると、腹に響くような音とともに満開の光の華が夜空に咲く。
花火は次々と夜空に上がり漆黒の舞台を光の大輪で埋め尽くす。白が、赤が、青が、緑が、大きく広がり朝潮の瞳孔に反射する。
言葉を失くす、とはこのことだろう。朝潮は言葉忘れ夜空を彩る花火の饗宴にひたすら見惚れる。傍らに立つ提督の手を握りしめ、朝潮は知らず笑み浮かべ光の祭典見上げ続ける。
花火の光が朝潮の汚れを知らぬ白い肌に反射する。この無垢な少女、このあまりに無邪気で可憐な少女たちを自分達は戦いの場に駆り立てているのだ。それは、とても罪深いことなのだろうと提督は思う。せめて、だからせめて、艦娘たちに、朝潮に、自分たちの護る世界の美しさを知ってもらいたいと提督は思う。決してきれいな事ばかりではないけれど、それでも自分たちの護るこの世界は美しい、と朝潮たちに感じてもらいたいと思う。
そして朝潮が許してくれるなら───
───この戦いが終わってのちは、自分が朝潮をいつまでもいつまでも守り続けよう。
提督も多分気づいている、朝潮に許してくれるかと問うたらば彼女は必ずこう答えるだろう。
「朝潮は、いつまでも司令官と一緒に歩む覚悟です!」、と。
了