Pieces of a Story about the Fleet Girls   作:青色3号

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それゆけ!天然涼月ちゃん -涼月-

じょうろから水滴がアーチを描いて家庭菜園に降り注ぐ。透明な水滴が地面を濃くしてゆくのを透き通った少女の瞳が見つめる。自ら手に持つじょうろが家庭菜園を潤していくのを涼月は微笑んで見守る。

 

 

「かぼちゃか」

 

「ええ、今日植え付けをしたんです」

 

 

後ろからかけられる提督の声に涼月はそのままの姿勢で応える。うんしょ、と腰を上げじょうろを片手に提督の方に振り向く。

 

 

「提督も、水遣りしてみますか?」

 

「いいのか?」

 

 

涼月からじょうろを受け取り提督は少しぎこちない手つきで家庭菜園に水を遣る。隣で、涼月が銀の髪をそよ風に揺らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

寮の部屋に帰って涼月は同室の冬月に嬉しそうに語りかける。

 

 

「……と、いうことで今日かぼちゃの植え付けをしたんです。美味しくできるといいな」

 

「ああ……うん。ところで涼」

 

 

ベッドに腰掛ける涼月を見下ろす形で立つ冬月はその涼月に問いかける。

 

 

「この前も、そんな話を聞いた気がするのだが……その前も」

 

「そうでしたっけ?」

 

「提督は、涼の恋人だよな?」

 

「そ……そうですよ」

 

 

顔を赤らめもじもじと身を揺すりながら涼月は冬月の言葉を素直に認める。その涼月に冬月は更なる言葉向ける。

 

 

「もう少し、恋人らしいことの報告はないのか?」

 

「恋人らしい?」

 

「キス、とか」

 

「キス!?」

 

 

爆発しそうなほど顔を真っ赤に染め突っ張った両手をぱたぱたさせながら涼月は必死にまくしたてる。

 

 

「だ、だめですキスなんて!赤ちゃんできちゃう!」

 

「おいマジか」

 

 

表情を変えぬまま愕然とする冬月の前で涼月はこほんと咳払いし、落ち着きを取り戻して少し恥ずかしそうな声で言う。

 

 

「失礼しました、つい取り乱しました……私だって赤ちゃんの作り方くらい知ってます。本当です」

 

「だったらいいんだがな。涼のことだからうっかりすると……」

 

「お冬さんは私のことをどーゆー目で見てるんですか」

 

 

頬を膨らませる涼月に冬月は話題の続きを振る。

 

 

「なんにせよ、付き合い始めてだいぶ経つんだ。そろそろそういう色気のある話がでてきてもいいんじゃないか?」

 

「はあ……」

 

 

ぽけらっとした顔を見せながら涼月は冬月に問う。

 

 

「どうすれば、いいのでしょう?」

 

「涼はマジメだからな。そこがいいところでもあるが……少しスキというか、可愛げのあるところを見せてみたらどうだ?」

 

 

冬月の言葉に、涼月は考えるような表情になる。曲げた人差し指を唇に当て、涼月はなにやら思案に耽るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて提督執務室、様々な艦娘が出入りするその部屋に涼月も現れる。

 

 

「涼月、参りました」

 

 

綺麗な敬礼ひとつ捧げる涼月に提督は嬉しそうな顔をする。

 

 

「涼月か、よく来てくれた。なにか、用事か?」

 

「いえ、特に用があったわけではないのですが……」

 

「顔を見せてくれたのか。まあゆっくりしていってくれ」

 

 

椅子から腰を上げて提督は涼月の前に立つ。その提督を見上げながら涼月は考えを巡らせる。

 

 

 

冬月に、可愛いところを見せろと言われた。でも可愛いところってなんだろう?」

 

 

可愛いもの可愛いもの可愛いもの……

 

 

両手を丸くして手首を曲げ、肩の高さに持ってきて涼月は一言発する。

 

 

「にゃあ」

 

 

落雷、提督の頭上に落ちる。

 

 

 

――なんだこの可愛い生き物!

 

 

 

震える声を絞り出し、提督は涼月に問う。

 

 

「す、涼月さん?今のは、なんですかな???」

 

「あ、えっと……お冬さんに、可愛いところを見せろと言われて……可愛いものというと子猫が思い浮かんで……」

 

 

恥ずかしそうに指で口を隠し赤い顔を提督から背けながら涼月はそんな説明をする。顔を逸らしたまま目線だけを提督に向け涼月はか細い声発する。

 

 

「お気に、召しませんでしたでしょうか?」

 

 

火山、提督の背後で噴火する。

 

 

 

――なんなんだこの可愛すぎる生き物!

 

 

 

ごくりと唾を飲み込んで提督は一歩涼月に近づく。手を伸ばしてその薄い肩を抱きしめようと――

 

 

ノックの後に扉が開き、秘書艦の加賀が姿を見せる。

 

 

「提督、ただいま整備工廠から戻りました」

 

「あ、ああ……加賀、ご苦労」

 

 

自分の身に何が迫ったかは知らぬまま、涼月はつかの間の逢瀬が終わったことを惜しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮の部屋に戻り、冬月に一部始終を報告する。

 

 

「……というわけで猫さんの真似をしたのですが……今ひとつ反応が薄く……」

 

「涼、お前意外とあざといな」

 

 

冬月の言葉にベッドの上から涼月を見上げ涼月は素直に疑問を口にする。

 

 

「あざとい、とはなんでしょう?」

 

「知らずにやったのか。天然物はすごいな」

 

 

ふいに冬月は笑顔見せ、涼月を覗き込んでいた姿勢を正す。もったいぶった姿勢と声で冬月は涼月に御神託告げる。

 

 

「まあ、もう一度執務室に行ってみろ。なにかが、変わるかもしれないぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

冬月の言葉通りに再び涼月は執務室を訪れる。上品なノックのあと扉を押し開け、机の向こうの提督に敬礼捧げる。

 

 

「涼月、参りました」

 

 

頷きながら提督は腰を上げ涼月に近づく。足を進めながら提督は涼月に言葉向ける。

 

 

「いつもの、涼月だな」

 

「え?」

 

「いや、さっきほら……なんというか、インパクトある格好を……」

 

 

あれもう一度、と言いかけて言葉を飲み込み提督は涼月の前に立つ。その瞳見上げ、涼月はくすりと笑う。

 

 

「どちらも、私ですよ?」

 

 

まっすぐに提督を見つめながら涼月は言葉捧げる。

 

 

「提督を大好きな、涼月です」

 

 

涼月に釣られたように提督の表情にも笑み浮かぶ。「そうだな」と応えて提督は涼月の肩を抱く。

 

 

 

ふたりの顔が近づく。唇が、触れ合う。柔らかな感触が涼月を満たす――

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく、寮の食堂に向け廊下を歩く涼月と冬月の姿があった。

 

 

くふ、くふ、くふふふふと涼月は小さな笑い声立て続ける。傍らの冬月に染まる顔を向けて涼月は甘い声漏らす。

 

 

「キスってレモンの味がするって聞いてましたけれど、違うんですね。なんというかこう……」

 

「あーそーですかそーですか。何度目だそのセリフ」

 

 

げんなりしていた冬月だったが、ふと優しい瞳になる。

 

 

「それにしても一度きっかけがあると早かったな。これは涼がオンナになる日も意外と近いんじゃないか?」

 

 

大胆な冬月のセリフに涼月は顔を真っ赤に爆発させて冬月の背中をバシバシ叩く。

 

 

「いやですよ、冬月さん!そんなはれんちな!」

 

「涼、痛い、痛い」

 

 

顔を破顔させて嬉しそうに涼月は冬月の背中をどついていたが、ふと真顔に戻ると独り言のように口にする。

 

 

「でも私、その時どうすればいいのかよく知らないんですよね……どんな感じなんだろう」

 

「そんな時こそ秋雲さんにお任せ!」

 

 

冬月ではないその声に涼月が顔を上げると目の前にいたのは駆逐艦秋雲。手に持っていた小冊子を涼月に差し出す。

 

 

「この秋雲先生のウスイホンに男女のことが余すところなく描かれているよ!特別サービスで無料で涼月にあげちゃおう!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

両手を差し出して涼月は秋雲から18禁同人誌を受け取る。何が描かれているんだろうと期待しながら涼月は笑顔で同人誌の表紙をめくる。

 

 

 

 

いきなり高熱を発してぶっ倒れた涼月が医務室に運び込まれたのは、それからまもなくのことであった。

 

 

 

 

 

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