現代桃太郎の悪党(おに)退治   作:カギフライ

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02 邂逅

 武装探偵、縮めて『武偵』。

 凶悪な犯罪者に対抗するために新設された国際資格であり、お金さえもらえれば『武偵法』という法律の範囲内で犯罪者の逮捕等を行うことができる人々の総称である。

 僕、吉備 桃哉の通う学校はその武偵を育む教育機関の一つである『東京武偵高校』。レインボーブリッジの南に浮かぶ南北およそ2キロ・東西500メートルの人工島に浮かぶそこの生徒として、硝煙の香る日々を送っている。

 

 今日はそんな日常の新たな一幕、つまりは始業式。2年生へと進級した僕たちは、新たなクラス分けされた教室に座っていた。

 新たなクラスメートには見知った顔はもちろん、初めましての生徒もそれとなくいる。

そんな中で一つ気になっていたのは、

 

「……キンジが来てない?」

 

 遠山(とおやま) キンジ。

 去年も僕と同じクラスであり、そして同じ強襲科(アサルト)で一緒に活動をしていた男子生徒だ。

 だった、というのは本人の諸々の理由があり、今は探偵科(インケスタ)に所属しているからである。キンジがそうなってしまった原因を知っているとはいえ、新学期初日から遅刻をするような人間ではないのは1年という短い期間でもわかっている。

 

「遠山が気になるか、桃哉? ならちょっと待ってな」

 

 訝しむ僕に何かを察したのか、同じクラスに配属された紅華が軽快な指捌きでスマホを操作する。

 彼女は諜報科(レザド)に所属しており、諜報や工作・学園内での異変に関する情報を集めるのを得意としている。どうやら学園の通学路に設置してある監視カメラでも覗いているらしい。

 そうしてスマホに目を向けること1分。いつもの活発な彼女の表情が少し険しくなる。

 そして再度スマホを操作すると、紅華は僕のスマホに一件のメッセージが送る。

 

《……遠山だけど、どうやらチャリジャックに巻き込まれてたらしい》

「それって……」

 

 予想外の答えに大声を出しそうになる僕を手で制し、紅華は追加のメッセージを送ってきた。

 

《まぁ落ち着けって。どうやら本人は無事らしいぜ。その証拠に見てみな》

 

 紅華が教室の入口に視線を移すのに合わせ、僕もそこへ顔を向ける。

 そこには疲れた表情で扉を開けるキンジの姿があった。

 

「おお、キンジ! 初日から始業式をさぼるたぁ肝が座ってんな!」

武藤(むとう)……こっちも色々あったんだよ」

「色々ってなんだ? どうせバスに乗り損ねて遅刻しただけだろ!」

 

 豪快に笑いキンジの背中を叩く武藤君(クラスメート)

確かに普通に考えればただの遅刻だと思うだろうが、本当はそんなものがかわいく思える出来事に遭遇していたんだ。手を振り払う力もないのか、キンジは叩かれては揺れ、また叩かれたは揺れを繰り返していた。

 

 ようやく解放されたキンジは自身の席――僕の後ろの椅子に腰を掛ける。

 

「吉備か、今年も同じクラスだな。まぁ、よろしくな」

「うん、よろしくね」

 

 軽くかわす挨拶。

 本当はチャリジャックのことについて聞きたかったんだけど、さっきの武藤君への返答からするに自分から他の人へは口外するつもりはないらしい。

 目立ちたくないキンジの性格だから、僕の方からは何も聞くことはないけれど、何で寄りにもよってキンジが狙われたんだろうか。

 

「は~い、それじゃあ新学期初めてのHR(ホームルーム)をはじめま~す」

 

 そんな考えをていると、ふわふわとした女性の声が聞こえてくる。

 教壇に立ち、人当たりのいい笑顔を浮かべているのは、このクラスの担任である高天原(たかまがはら) ゆとり先生だ。

 

「それじゃ~、まずは自己紹介から始めてもらいましょうか~。最初は、去年の3学期に転入してきたカワイイ子からお願いしま~す」

「――ッ! 吉備、俺を隠してくれ!」

 

 何を見たのか、キンジは急に背中を丸めて僕の影に身を隠し始めた。

 隠してくれも何も、席に座っている以上キンジが頑張って体を小さくするほかないんだけど……。

 そんなこんなしている間に、件の女の子は自分の席――ではなく、教壇の上に立つと

 

「先生、あたしあいつの隣の席がいい」

 

 僕……ではなく、その後ろで机と同化するほど身を低くしていたキンジへ指差し、あろうことかそう言ってのけたのだ。

 予想外の一言に教室は一瞬だけ静まり返り

 

「おいおいおいおい! あいつって、もしかして遠山か!?」

「あの野郎! 始業式さぼった上に女子にあんなこと言われただと!?」

「キンジ! お前にもとうとう春が来たんだな! よし任せろっ! 先生、俺 転入生さんと席変わりますよ!」

 

 まるで津波の如き轟音が響き渡った。主に男子生徒たちの。

 確かに、小柄で可愛らしい女子生徒からそう言われる姿を見て、嫉妬しない方が少なくはないのかもしれないけど……キンジ本人からしてみれば地獄のような一言だと思う。

 現に椅子からずり落ち、顔面を蒼白にしながら口元を引くつかせていた。

 

「あちゃー、遠山もえらい女に目をつけられたもんだね」

「紅華はあの転入生の事を知ってるの?」

「んー? まぁ、名前とちょっとした噂ぐらいはね。てか、桃哉は同じ強襲科だろ?」

 

 小声で話す僕と紅華を余所に、ますますヒートアップするクラスメートたち。

 ……なんか(みね)さんが迷推理をしているのが横目に見えたけど、まぁ無視してても大丈夫かな。

 

「名前くらいは知ってるよ。神崎(かんざき)・H・アリアだよね」

「そっ。東京武偵高校(ここ)に来る前はロンドン武偵局で活動してたらしい。狙った犯罪者(えもの)は逃がさない、完全無欠の武偵」

 

 まるで朗読するようにスマホに目を落としながら答える紅華。

 

「んでもって、2年で数少ないSランク。確かロンドンで呼ばれていた2つ名が」

 

 ――双剣双銃(カドラ)のアリア

 

 紅華がそう言うや否や、教室内に2発の銃声が木霊する。

 何事かと目を向けると、そこには顔を真っ赤にさせた神崎さんが先ほどの発砲音の元凶であろう二丁拳銃を震わせながら

 

「れ、恋愛だなんて、そんなくだらないことこれ以上言う奴には――風穴空けるわよ!」

 

 まるで威嚇するかのように小さな口から犬歯を覗かせながら、それはそれはインパクトのある自己紹介をするのであった。

 

 

 

 

 

 

「――我慢なりません! その不埒者、この私がお灸を据えてきます!」

「瀬奈! ストップストップ! 紅華、そっち頼んだ!」

「はいよ!」

 

 お昼休み。

 学校の屋上で瀬奈・紅華・千里の四人でご飯を食べている最中での出来事だった。

 何気なく今朝のクラスでのひと騒動について話をしていたところ、神崎さんの発砲について怒髪天を衝いたのか、そう言うや否やどこかへと駆け出そうとする瀬奈を紅華と二人係で抑えていた。

 

「放してください、桃哉様! 天井に放ったとはいえ、万が一桃哉様に当たったと考えると――この瀬奈、怒りをぶつける場所がありません!」

「いだっ! いだだだだっ! ぶつけてる! 現在進行形でアタシにぶつけてるって!」

 

 紅華の尊い犠牲のおかげで何とか落ち着きを取り戻した瀬奈だったが、まだ少し不機嫌なご様子であらせられた。

 

「おーいちち……あのなぁ、仮にも相手はSランク武偵だぞ? いくら瀬奈だからって返り討ちに合うのが目に見えてるって」

「そんなもの、やってみなければわからんだろう」

「そりゃな、瀬奈もAランクだから一方的にやられるとは思わないけどよ、やっぱ分が悪いって」

 

 武偵ランク。

 学校での試験や依頼解決の実績からつけられるランクのことだ。

 基本的にはE~Aランクで分けられるのだが、極稀にSランクという特別なランクを授けられる人物がいる。

 瀬奈は僕と同じ強襲科でAランク、紅華も諜報科でBランクとかなり優秀な生徒である。千里はというと少しマイペースなところがあるのか、通信科(コネクト)でCランクとなっているが実力はBランクをもらってもおかしくはないものがある。

 かくいう僕はというと、瀬奈と同じ強襲科だけどランクはC。この中で一番成績が悪いのである。

 

「まぁ? アタシと桃哉の2対1ならいいとこまでは行けると思うけど」

「ははっ、僕じゃちょっとお荷物になるかな。瀬奈と紅華が組めば、きっと互角以上に戦えるんじゃないかな?」

 

 犬猿の仲っていうわけじゃないんだし、幼馴染なんだから、二人一組(ツーマンセル)でならもっと活躍できると思うんだけどなぁ。

 しかしこればっかりは致し方がないとは思う。主人と従者として過ごしてきた僕たちは、多くの依頼を四人でこなしてきた。

 僕たちが全力を出せるのは、この四人でいる時だと確信はしている。

 

「あら、それは面白い話ね」

 

 するとこの場にいない第三者の声。

 振り返るとそこには腕を組み、興味深そうにこちらを見下ろす神崎さんが。

 ……あ、せっかく収まってた瀬奈の怒りのボルテージがまた上がって来てる。

 

「神崎さん、こんにちは」

「ええ、こんにちは。吉備 桃哉ってあんたよね?」

「うん、そうだけど……何か用?」

 

 強襲科の時には一度も話しかけられたことはないんだけど……。

 睨みつけている瀬奈を手で制しつつ、そう問い返すと

 

「遠山 キンジについて聞きたいことがあるの。教えてくれる?」

「それは……本人に直接聞いた方がいいんじゃないかな?」

「聞いたわよ。でも頑なに教えてくれないから、それなら自力で調べるのが武偵ってものでしょ?」

 

 キンジのなにが気になるのか……まぁ、ある程度は察しはついているけど。

 とはいえ、個人情報だし、当の本人が話していないのなら僕からは話すことはない。向こうはどう思ってるかは知らないけど、僕からしてみれば同じ時間を過ごした級友だからね。

 

「ごめんだけど、キンジが話してないなら僕から話せることはないかな」

「話せることはないってことは、少なくとも何か知ってることはあるようね。あんたが去年の途中までキンジと時々ペアを組んでたのは知ってるわ。いいから話しなさい」

 

 なるほど、そこまでは調べはついているのか。

 確かに、キンジとは時々……というかキンジが受ける以来の大体は一緒にペアを組んでたけど。

 

「そうね、そこまで口が堅いなら何か一つだけ何でも依頼を受けてあげるわ。その報酬としてどう?」

「……そうだね、それなら話をしてもいいかな」

「交渉成立ね。それじゃ、その依頼はいつにする?」

 

 手帳とペンを取り出しメモの準備をする神崎さん。とはいえ、今はまだ新学期初日。普通は依頼は受けず、各々帰宅するのがセオリーだけど

 

「依頼は今日の午後。強襲科の初回の授業でどうかな?」

「? 授業でって、どういうこと?」

「僕と瀬奈、2対1で模擬戦をしてもらいたいんだ」

 

 僕の依頼内容に初めてその赤紫色(カメリア)の瞳を見開かせる。

 まぁ、一緒に難しそうな依頼を受けて単位ゲット……って普通は考えるもんね。

 

「せっかくのSランク武偵が時間を使ってくれるんだから、その実力を肌で感じて見たくてね」

「……ちょっと予想外だったけど、まぁいいわ。先生にはあたしから話をしておくわね」

「うん、よろしくね」

 

 話がまとまると、神崎さんはすぐに踵を返し屋上を後にした。

 ……さて、キンジにはちょっと悪いことをするけどごめんね。心の中で両手を合わせ、クラスメートへと謝罪の念を飛ばす。

 

「そういうことだけど、瀬奈は大丈夫かな?」

「いえ、むしろお気遣いいただきありがとうございます。これで遠慮なく神崎・H・アリアとやれます」

「言っとくけど、神崎さんの方がずっと実力が上なんだからね? あくまで胸を借りるつもりでいかないと」

「ふふふっ……ほえ面を掻かせてやるぞ、神崎・H・アリア……」

 

 ……まぁいいか。授業が始まる頃には冷静さを取り戻すだろうし。

 一人燃え上がる瀬奈を横目に、紅華と千里とともにお弁当の残りへと箸を伸ばすのだった。

 

 

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