現代桃太郎の悪党(おに)退治   作:カギフライ

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04 友人と

 神崎さんとの模擬戦から数日後のこと。

 

「吉備、お前か。アリアに余計なこと教えたのは」

 

 後ろの席で日に日にげんなりとしていくキンジ(クラスメート)から、恨みつらみが多分に含まれた呪詛のような一言をもらった。

 模擬戦の報酬として僕の知る限りのキンジに関しての情報を教えた。プライベート等のことは話していないが、強襲科で共に過ごした中で気づいたことはだいたい伝えたと思う。

 キンジからしてみれば、さぞ不愉快だったことだろう。僕の見る視線からその感情がありありと伝わってくる。

 

「確かに話はしたけどね、強襲科だった頃のキンジのことだけだよ」

「だとしてもだ。おかげさまでアリアと一度だけ組むことになっちまった」

「僕としてはいい話だと思うけどな。神崎さん、キンジとはいいペアになると思うけど?」

「勘弁してくれ。俺はもう……知ってるだろ」

 

 言葉を途切れさせ、キンジはやるせないように視線を横に逸らす。

 その言葉の続きを僕は知っている。それが僕が途中でキンジと依頼にあたることがなくなった大きな理由だからだ。

 

 キンジは来年、武偵校をやめて一般の高校へ編入するつもりだ。手続等で2年生まではこの学校に通わなければならないが、すでに書類等は作成しているらしい。

 キンジがそこまでする理由は、彼のお兄さんの件と、武偵を続けるうえでの絶望を見てしまったからだ。

 去年の冬に起きたその事件をきっかけに、キンジは強襲科へ来ることもなくなり、期末試験もさぼってしまった。おかげでSだったランクもEとなり、探偵科へと転科もしてしまった。

 

「でも、キンジ……」

 

 Sランク。無くなったとはいえ、その称号は決して運がよかったで手に入れられるものではない。

 あの日、強襲科の入試で僕ら受講生の他に教官5人を無力化し捕らえた実力は、運も実力の内という言葉では説明できない。

 普段はぼんやりとしているが、スイッチが入るといつもの何倍も力を発揮するのを、何度かだけどこの目で確認している。もしもあのままペアを続けられていたら、きっとあの頃よりも凄い武偵になっていただろう。

 でも、もう本人がその続ける意味を見失ってしまっている。

 

「そうだね、ごめん」

「……昼飯、カツカレー奢れ」

 

 少し気まずくなった空気を払拭するためか、頬杖を突き目を逸らしながらそう言ってきた。

 そんなキンジにくすり、と笑いをこぼし

 

「はいはい。ご飯も大盛りでいいよ」

「育ち盛りの中学生か。普通でいい」

 

 さて、瀬奈に昼食はごめんって連絡しないと。

 

 

 

 

 

 

 吉備に昼飯を奢ってもらい、残りの休憩時間を人通りの少ないベンチで過ごしていた。

 

「キンジ、ほら」

「ん? おお、悪いな」

 

 自販機で買ってきたらしいコーヒーを受け取ると、吉備は俺の隣へ腰を掛ける。

 カシュッ、という音の後コーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。

 缶に口をつけ、一口分だけ口に含み喉を鳴らす。

 

「……そういえば、アリアと模擬戦したんだってな」

 

 Sランク武偵との模擬戦。噂好き、争い好きの武偵校生からすれば格好のネタだ。

 吉備は苦笑いしつつ、ポリポリと右頬を掻く。

 

「かなり手加減してもらったけどね。いやーいい体験をさせてもらったよ」

「相変わらず向上心が凄いな、お前は。あんな凶暴なの相手になんて、俺だったら身震いがするね」

「そうかな? 神崎さん、案外理性的だよ? キンジは言いすぎちゃうところがあるからね、へそ曲げさせちゃったんじゃないの?」

 

 理性的か。

 家に不法侵入した挙句、他人(ひと)をドレイ呼ばわりするような奴を果たして理性的と呼べるのか。

 思い返すここ数日の悪夢。背中を駆け巡る悪寒にわずかに身震いし、次いで深い溜息を口から洩れる。

 

「そういえば、この間のチャリジャック、神崎さんに助けてもらったんでしょ?」

「ん、まぁな……始業式から本当に災難続きだったよ」

「ははっ、お気の毒様。それで、鑑識科(レピア)は何か情報でもつかんだの?」

 

 あの日、俺はチャリジャックされたと同時に、複数台のUZI(うーじー)搭載の豪華セグウェイと朝っぱらから物騒なドライブをさせられた。

 助けに来たアリアと俺の手でその全て破壊し、残った部品は鑑識科が回収して調査をしている。

 

「さぁな、俺にはもう関係のないことだ。大方、“武偵殺し”の模倣犯とか、そういうオチだろ」

「武偵殺し……そういえば去年の年明け前にメールで来てたね」

 

 『武偵殺し』――今回の俺のように、乗り物に爆弾を仕掛け、機関銃付き乗り物なんて物騒なもんで追い回し殺す殺人犯。

 犯人は捕まったらしいのだが、この世の中、なにに触発されるのかわからない人間がいる。同じ手口で武偵を狙う模倣犯が出てもおかしくはないだろう。

 

「もしそれが本当だとしたら、また次の被害が出る可能性も高いね。早いところ捕まえないと……」

「あくまでもしかしたらの話だ。こんな普通以下の武偵すら仕留められなかったんだ、どうせ諦めてるだろうさ」

「普通、ね……」

 

 飲み終えたコーヒーを両手で持ち、神妙な顔になる吉備。

 

「……ねぇ、キンジ。やっぱりまだ武偵校を辞めたい?」

「吉備、学校でその話はやめてくれ。誰かに聞かれたらめんどくさいことになる」

 

 この学校で唯一、吉備は俺が武偵校をやめようとしていることを知っている。

 去年の事件後、教務科(マスターズ)に出入りする俺を不思議に思ったらしく、しつこく質問され、誰にも話さないことを条件に伝えた。

 少し不安気に俺を見つめてくる吉備だが、残念ながら俺の気持ちはもう固まっている。

 

「気持ちはもう決まってるんだ。もうこれ以上の話はやめにしよう」

「……そうだね」

 

 吉備とは強襲科の時にはよくペアを組んでいた中だ。交わす言葉が少なくとも、ある程度は互いの思っていることはわかる。

 人が良く優しい、善意の塊であるこいつは、荒くれ集団である強襲科のメンバーの中で一番付き合いやすかったのもあるが、特に大きな理由としては俺たちの祖先にある。

 

 俺は代々『正義の味方』をしてきた一族の子孫だ。そして吉備も、かの有名な桃太郎が先祖だという。

 それに親近感が出たのか、打ち解けるのにそう時間はかからなかった。

 それからは吉備とその従者とやらの女子たちとこれまでいくつも依頼をこなしてきたが、まぁ悪い日々じゃなかったと思う。

 

「……本当はペアを組むなら、最後にお前と組みたかったけどな」

「僕もキンジと組みたかったよ」

「……明日は強襲科に顔を出す。依頼前に拳銃の練習くらいはしておいた方がいいからな」

「そうなんだ。そしたら、一回だけ前みたいに訓練しようよ」

 

 そう言い、少し嬉しそうに笑顔浮かべる吉備に、俺は小さく手を振りベンチを後にする。

 さて、午後の授業が終わったら自由履修の書類でも作っておくかな。

 

 

 

 

 

 

(武偵殺し、の模倣犯。キンジの一回で終わるんだろうか……)

 

 キンジがいなくなり一人ベンチに残った僕は、先ほどの会話の中で抱いた嫌な予感について考えを巡らせていた。

 キンジはかもしれない、と言っていたが可能性がある以上は見過ごすわけにはいかない。

 もしかすれば、また武偵校の誰かが標的になるかも……。

 

「……紅華、いるんでしょ?」

 

 ベンチの後ろに生えている木へと顔を向けると、瀬奈たちと昼食を食べ終えたであろう紅華がゆっくりと姿を現した。

 

「話は聞いてた?」

「まぁ、武偵殺しがどーこーってところから?」

「なら話は早いね。少し調べてもらいたいことがあるんだけどいいかな?」

 

 僕の一言に紅華はニヤリ、と口元に弧を描く。

 

「やっとアタシの出番かよ。この間は瀬奈に譲ったからな、そろそろ良いとこみせとかねぇと」

 

 そう言いながら紅華は隣に腰を掛けると、徐に肩を組んで顔を近づけてくる。

 

「アタシは桃哉の『耳』だ。お前が望むなら、どんな情報だって届けてやるよ」

「ありがとう。いつも紅華には助けられてばかりだよ」

「なーに気にすんなって! その代わり、今度一緒に台場でデートな!」

 

 それくらいですむのなら安いものだ。

 それに瀬奈と千里も連れて、久しぶりに四人でお出かけするのもいいな。

 そんなことを考えていると、肩にかけられた紅華の腕の力が強くなる。

 

「桃哉、お前は本当に昔っからそうだよなぁ……」

「ちょっ、紅華、苦しいんだけど……」

「まぁいいや、とりあえず今回の遠山の件を調べてくればいいんだろ?」

 

 僕を開放すると同時に立ち上がった紅華は、どこかご立腹なのか赤い瞳を少し吊り上げていた。

 

「鑑識科が今回の件について調べてるはず。そこから何か糸口が見つかるかも」

「はいよ、後は当時のカメラの映像と調べればいいんだな」

「よろしくね、紅華」

「任せときな、最高の情報を届けてやるよ」

 

 そう言い、誰もが見惚れるであろうウィンクをする紅華。

 まったく、頼りがいのある幼馴染をもって幸せ者だよ。

 

 昼休み終了が近づく中、僕と紅華は教室へ足を向ける。

 この不安感が僕の杞憂であることを望みながら。

 

 

 

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