五条悟になってワンピース世界に転生したけど、エースだけは絶対に死なせない   作:熊々

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第4話、ようやく「現在」のアズールに追いつきます。十八歳から二十一歳までの三年間。シャボンディで何でも屋として暮らした、彼の中で一番穏やかだった時期の話です。

ただし、穏やかなだけでは終わりません。あの男——歪んだ笑みと、ピンクのコートと、サングラスの男が、店に踏み込んできます。原作で大暴れする彼が、若き日のアズールにスカウトをかける、という、たぶんハーメルンでも珍しい構図になりました。

そして、もうひとつの見どころは——シャクヤクさんと、扉、です。
直接の描写は控えめにしました。けれど、章末まで読んでいただければ、何が起きるか、たぶん全員わかってもらえると思います。

それでは、お楽しみください。


第四話 幽鬼、何でも屋に堕ちる

「——というわけで、政府を辞めてきました」

 

「は?」

 

シャクヤクが、グラスを取り落とした。

 

カウンターの上で、ガラスが軽い音を立てて割れる。

細かい破片が、夕陽を受けて、きらりと跳ねた。

 

レイリーは、新聞から目を上げて、ニヤリと笑った。

 

「やっと辞めたか。遅えよ、坊主」

 

「遅いとか言わないでくださいよ。一応、十年我慢したんですから」

 

「我慢ねえ」

 

レイリーが、新聞を畳む。

グラスを傾けて、酒の最後の一口を、喉に落とした。

 

「お前、最初っから、政府の犬になるタマじゃなかっただろうが」

 

「……否定はしません」

 

⸻

 

シャクヤクが、ふう、と煙を吐いた。

 

長い指で、煙草を挟んだまま、俺をじっと見ている。

赤い唇が、わずかに、笑った。

 

「で? これからどうするのよ、アズくん」

 

「ここの裏部屋、引き続き貸してください」

 

「家賃は?」

 

「何でも屋の、上がりから」

 

「……何でも屋」

 

シャクヤクが、煙を吐く。

 

「随分と、便利な肩書きね」

 

「便利でしょ。なんでもやるんで」

 

「暗殺も?」

 

「依頼内容と、報酬と、相手次第ですね」

 

俺は、カウンターに肘をついて、軽く笑った。

 

「人を殺すのに、理屈なんていらないって思ってた頃もあるんですけど。今は、ちょっとだけ、選びたい気分なんで」

 

シャクヤクが、肩をすくめる。

 

レイリーは、何も言わなかった。

ただ、新しい酒を、自分のグラスに注いだだけだ。

 

⸻

 

その夜、俺は裏部屋で、看板を作った。

 

板きれ一枚。

墨と、筆。

ガキの頃以来の、手書き。

 

「何でも屋・レイヴン」

 

書き終えて、しばらく眺める。

 

(……ダサくね?)

 

書き直す気力もなかったので、そのまま、店の入り口の脇に立てかけた。

シャクヤクのバーの、端っこ。

煙草の煙が漏れ出る、その隙間に、俺の看板が、ひっそりと並んだ。

 

⸻

 

何でも屋というのは、思ったより、よく流れてきた。

 

人探し。

護衛。

情報収集。

たまに、暗殺。

ごく稀に、医療。

 

シャボンディは、海賊と海軍と奴隷商と裏社会が、同じ空気を吸っている街だ。

依頼の三割は、表に出せないやつ。

五割は、出してもいいけど誰もやりたくないやつ。

残り二割が、まあ、普通の依頼。

 

普通の依頼の中身は、こういうのだ。

 

「うちの犬が、いなくなっちまったんだよ。アンタ、何でも屋なんだろ?」

 

ばあさんが、涙目で、俺の腕を掴んでくる。

 

(シャボンディの幽鬼が、犬探し)

(……まあ、いいか)

(なお、犬は、見つけた)

 

公園の植え込みで、寝てた。

腹を撫でてやったら、尻尾を振って、ばあさんの方に駆けていった。

礼に、焼き芋を一本もらった。

うまかった。

 

⸻

 

別の日。

 

「うちの娘が、攫われたんです……お願い、お願いします、何でも屋さん!」

 

母親が、店に飛び込んできた。

顔は青く、唇は震えている。

 

事情を聞いた。

シャボンディの裏に巣食う、雑魚の人さらい集団。

アジトは、シャクヤクが、煙草を一本吸う間に教えてくれた。

 

俺は、椅子から立ち上がる。

 

「シャクヤクさん。三時間で戻ります」

 

「了解。ご飯、温めとくわ」

 

「どうも」

 

⸻

 

アジトに着いたのは、三十分後。

 

入り口に、見張りが二人。

 

「——」

 

俺が、軽く、指を振る。

 

『無下限』

 

二人の見張りが、何かに引き寄せられるように、ぐにゃりと壁に潰れた。

血は、出ない。

内側が、潰れているだけだ。

 

(死にはしない。ただ、しばらく動けないだけ)

(救命医の俺が言うんだから、信じていい)

 

中に入る。

廊下の奥から、子供の泣き声。

 

俺は、軽く、息を吐いた。

 

(ああ。これだ)

(これが、嫌で、政府を辞めたんだ)

(子供が泣いてる場所を、命令だからって理由で、見て見ぬふりをするのが、嫌だったんだ)

 

——『蒼幻』

 

俺の影が、廊下の壁を、滑る。

出てきた男たちが、一人ずつ、無音で、崩れていく。

 

二十人くらい。

全員、生きてる。

医者の倫理観は、まだ、ぎりぎり残ってる。

 

⸻

 

奥の部屋で、少女を抱き上げた。

 

七歳くらい。

泣き腫らした目で、俺を見上げている。

 

「もう、大丈夫だよ」

 

俺は、できるだけ、優しい声で言った。

 

少女が、こくり、と頷く。

そのまま、俺の首に、しがみついてきた。

 

(……ああ)

(これだよ、これ)

(これがやりたくて、俺は、医者になったんだったな)

 

⸻

 

母親に、娘を返す。

報酬は、辞退した。

 

「いやでも、それじゃ、こっちが困ります」

 

「じゃあ、シャクヤクさんのバーで、一杯飲んでってください。それで、いいですよ」

 

母親は、泣きながら、何度も頭を下げた。

 

シャクヤクは、カウンターの向こうで、煙を吐きながら、俺を見ている。

 

「アズくん」

 

「なんですか」

 

「あんた、たまに、ひどく医者の顔するよね」

 

「……そうですか?」

 

「うん」

 

シャクヤクが、煙草の先で、俺の頬を、ちょん、と指す。

 

「いい顔よ」

 

⸻

 

二十歳になる頃には、噂は、それなりに広がっていた。

 

「シャボンディに、幽鬼が出る」

「白い髪の、若い男だ」

「金さえ積めば、なんでもやる」

「ただし、気に入らない依頼は、依頼主ごと消すらしい」

 

最後のは、嘘だ。

俺は、依頼主は消さない。

依頼そのものを、断るだけだ。

 

でも、噂というのは、面白い。

 

⸻

 

ある日、シャクヤクが、新聞をカウンターに置いた。

 

「アズくん。これ、見た?」

 

『女ヶ島の蛇姫、奴隷商人を皆殺し』

 

写真は、ない。

ただ、奴隷商の船が、丸ごと石になって、海に沈んだ、という記事だ。

 

(ハンコック)

(もう、この時期から、動いてんのか)

(あいつ、原作の登場時から、化け物クラスだしな)

(マリンフォードで、会えるな)

 

俺は、新聞を畳んで、シャクヤクに返した。

 

「強いですね、その人」

 

「あんたなら、勝てる?」

 

「さあ?」

 

俺は、肩をすくめる。

 

「美人なら、負けるかもしれません」

 

「……あら」

 

シャクヤクが、煙を吐いて、ふっと笑った。

 

「アズくん、最近、口が悪いわよ」

 

「シャクヤクさんに、似てきたんですよ」

 

「それ、褒めてる?」

 

「半分」

 

「もう半分は?」

 

「内緒」

 

シャクヤクが、笑った。

赤い唇が、夕陽の中で、揺れた。

 

⸻

 

ドフラミンゴが店に来たのは、それから、しばらく経った頃だ。

 

⸻

 

その日は、客が少なかった。

昼下がり。

シャボンディの空が、妙に、静かだった。

 

ドアが、開く。

カラン、と、ベルが鳴った。

 

長身。

ピンクのコート。

サングラス。

歪んだ、笑み。

 

「ようよう」

 

その男は、店の真ん中に立って、俺を見た。

 

「噂のシャボンディの幽鬼ってのは、お前か?」

 

⸻

 

シャクヤクが、煙草を、ぴたりと止めた。

店の隅で飲んでいた客が、震える手で、グラスを置いた。

 

俺は、カウンターの椅子に、腰かけたまま、振り返らなかった。

 

「いらっしゃい」

 

「フッフッフ。冷てえなあ。客だぞ、俺は」

 

「客なら、注文してくださいよ」

 

「じゃあ——お前を、もらおうかな」

 

⸻

 

その瞬間、空気が、軋んだ。

 

『覇王色』

 

ドフラミンゴの覇気が、店全体に、襲いかかってくる。

歪んだ。

重い。

本気じゃない。

だが、本気じゃないだけで、これか。

 

俺は、ふう、と、軽く息を吐いた。

 

「……まあ、こんなとこか」

 

俺も、覇気を、解放する。

 

ぶつかった。

 

シャクヤクは、平気だった。

レイリーが、いつの間にか、店の隅で新聞を読んでいて、ニヤリと笑っただけだった。

他の客は——全員、白目を剥いて、床に倒れた。

 

(あー。掃除めんどくせえな)

(あとで、シャクヤクさんに、怒られる)

 

⸻

 

ドフラミンゴが、サングラスの奥で、目を細めた。

 

「フッフッフ……フハハハハハ!」

 

笑い出した。

腹を抱えて、笑っている。

 

「いいなお前! 面白え!」

 

「どうも」

 

「俺の傘下に来ないか? ファミリーに、空きがある」

 

「断る」

 

即答した。

 

ドフラミンゴが、笑みを、ぴたりと止めた。

 

⸻

 

「……即答かよ」

 

「即答ですよ。考えるまでもない」

 

「理由は?」

 

「あんたのファミリーって、生え抜きじゃないと、出世できなさそうだから」

 

「フッ」

 

「それに——」

 

俺は、椅子から、ゆっくりと、立ち上がった。

 

『無下限』

 

俺の周囲、半径二メートル。

そこに、無限の距離が、展開される。

ドフラミンゴから見れば、俺との間が、突然、永遠に遠ざかる感覚。

 

そして、いつでも、解除できる。

解除した瞬間、俺の手は、ドフラミンゴの首に、届く。

 

「あんたの首、いつでも、刈れる距離にあるんで」

 

「……」

 

「今、刈らないのは、俺の気分次第ってことです」

 

⸻

 

ドフラミンゴが、しばらく、無言で俺を見ていた。

 

それから、また、笑い出した。

 

「フッフッフ……フハハ……ハハハハ!」

 

笑いながら、ドアの方へ、歩いていく。

 

ドアの前で、振り返った。

 

サングラスの奥で、瞳が、ぎらりと光った気がした。

 

「いつか潰し合おうぜ、アズール」

 

「ええ。楽しみにしてます」

 

ドアが、閉まる。

カラン、と、ベルが、最後にもう一度、鳴った。

 

⸻

 

シャクヤクが、ふう、と息を吐いた。

 

「……寿命が、十年縮んだわ」

 

「すみません」

 

「あんた、本当に、無茶するわね」

 

「向こうから、来たんで」

 

レイリーは、新聞を、畳んだ。

 

「坊主」

 

「はい」

 

「あいつとは、いつか、やり合うことになるぞ」

 

「……でしょうね」

 

(ドレスローザ。あいつは、俺がいようがいまいが、いつか、ドレスローザで暴れる)

(それは、それで、いい)

(俺の優先順位は、エースだ)

 

⸻

 

夜。

 

客が、引けた。

 

シャクヤクが、店の鍵を、内側から閉めた。

カウンターの灯りだけが、ぽつりと残る。

 

「アズくん。今夜、付き合いなさい」

 

「もう、付き合ってますよ」

 

「お酒の話よ」

 

「……お酒の話、ね」

 

シャクヤクが、新しいボトルを、開けた。

高そうな、ラベル。

コルクが、ぽん、と、軽い音を立てる。

 

二つのグラスに、注いだ。

 

⸻

 

「今日のあれ、すごかったわよ」

 

「ドフラミンゴですか」

 

「ええ」

 

シャクヤクが、グラスを傾ける。

 

「あんた、強くなったわね」

 

「そうですか」

 

「強くなった」

 

シャクヤクが、煙草に、火をつけた。

 

煙を、ふう、と、俺の顔の方へ、流す。

 

煙草の匂いと、香水の匂いが、混じる。

 

俺は、グラスを傾けながら、横目で、シャクヤクを見た。

 

赤い唇。

細い首筋。

胸元、わずかに開いた、シャツ。

 

(……まずいな)

(今夜のシャクヤクさん、いつもより、やべえ)

 

⸻

 

「ねえ、アズくん」

 

シャクヤクが、カウンター越しに、身を乗り出してくる。

 

赤い唇が、近い。

吐息が、頬に、かかる。

 

「もう、大人なんだから……ちょっとくらい、いいでしょ?」

 

指先が、俺の頬に、触れた。

 

ひんやりとした、長い指。

香水の匂いが、強くなる。

 

俺は、グラスを、置いた。

 

(待て)

(待て俺)

(待つんだ俺)

 

(シャクヤクさんは、恩人で)

(姉貴分で)

(レイリーさんの女で)

(俺がガキの頃から、面倒を見てくれて)

 

(——いや、もう、これは、無理だろ……)

 

⸻

 

「シャクヤクさん」

 

「……なに」

 

「酔ってます?」

 

「ちょっとだけ」

 

「じゃあ、今夜は、寝てください」

 

「……あら」

 

シャクヤクが、ふっと、笑った。

唇の端が、上がる。

妖艶に、上がる。

 

「逃げるの?」

 

「逃げてはいないですよ」

 

「じゃあ、なに?」

 

「先送り」

 

「……先送り?」

 

「俺が、ちゃんと、覚悟を決めてからにします」

 

⸻

 

シャクヤクが、しばらく、俺を見ていた。

 

それから、すっと、身を引いた。

カウンターの内側に、戻る。

 

煙草を、灰皿で、消した。

 

「……つまんない男になったわね、アズくん」

 

「すみません」

 

「ふん」

 

シャクヤクが、ボトルの栓を、閉める。

 

「先送り、長くしすぎないでよ。あたし、そんなに、気が長くないんだから」

 

「善処します」

 

「『善処』とか言う男、嫌い」

 

「……すみません」

 

⸻

 

翌朝。

 

シャクヤクは、少しだけ、すねていた。

 

朝飯の卵焼きに、塩を、入れすぎていた。

わざと、だと思う。

 

俺は、文句を言わずに、全部食った。

 

レイリーが、隣で、新聞をめくりながら、笑っていた。

 

「坊主。お前、まだ、ガキだな」

 

「……自覚してます」

 

⸻

 

それから、一年が、過ぎた。

 

⸻

 

二十一歳。

シャボンディの空に、いつものように、シャボンが上っていく日。

 

シャクヤクのバーの軒先で、新聞が、風に舞った。

 

俺は、その一面を、拾い上げた。

 

『白ひげ海賊団二番隊隊長 ポートガス・D・エース 新世界で活動拡大』

 

写真が、載っていた。

 

オレンジの帽子。

そばかす。

黒髪。

笑顔。

 

——若い、男だった。

俺より、少しだけ、年下の。

 

⸻

 

(……エース)

(やっと、新聞に出てきたな)

(お前、生きてるな)

(まだ、生きてるな)

 

俺は、新聞を、握りしめた。

 

(原作通りなら、お前は、これから三年か四年で、マリンフォードに引きずり出される)

(白ひげが、戦争を仕掛ける)

(そして、お前は——死ぬ)

 

(……死なせるかよ)

(死なせるわけねえだろ)

(俺がこの世界に、五条悟の身体で、転生した意味)

(それは、お前を、救うことだ)

(お前を救うことで、俺は、俺がここにいる意味を、証明する)

 

⸻

 

「アズくん」

 

後ろから、声がした。

 

シャクヤクが、いつのまにか、俺の背後に、立っていた。

肩越しに、新聞を、覗き込んでくる。

 

「何、見てるの?」

 

「……エース」

 

「え?」

 

「ポートガス・D・エースって男、知ってますか?」

 

「ああ、白ひげの、新しい隊長さんでしょ?」

 

シャクヤクが、煙草に、火をつけた。

 

「最近、噂を聞くわね。海軍が、相当、警戒してるって」

 

「そうですか」

 

「それが、どうかしたの?」

 

⸻

 

俺は、新聞を、畳んだ。

シャクヤクの方に、振り返る。

 

「シャクヤクさん」

 

「なに」

 

「俺、もうすぐ、動くよ」

 

シャクヤクが、煙草を、口から、離した。

 

「……どこへ?」

 

俺は、シャクヤクの目を、まっすぐに、見た。

 

「運命を、ぶっ壊しに」

 

⸻

 

シャクヤクが、何も、言わなかった。

 

ただ、瞳が、わずかに、揺れた。

寂しげに、揺れた。

 

煙草の煙が、夕方の風に、流れていく。

 

それから、シャクヤクは、ふっと、笑った。

 

「……そう」

 

「はい」

 

「いつ、出るの?」

 

「準備が、終わったら」

 

「準備って?」

 

「情報。装備。あと——」

 

俺は、少しだけ、間を、置いた。

 

「覚悟」

 

⸻

 

シャクヤクが、煙草を、咥え直した。

 

煙を、ゆっくりと、吐く。

 

「アズくん」

 

「はい」

 

「今夜、店、閉めるわ」

 

「……はい」

 

「あたしの部屋、いつもの場所」

 

煙が、シャクヤクの赤い唇から、流れていく。

 

「……分かるわよね?」

 

⸻

 

その夜。

 

俺は、シャクヤクのバーの、二階に、上がった。

 

廊下の、突き当たり。

木の扉が、ひとつ。

 

灯りが、扉の隙間から、ぼんやりと、漏れていた。

 

煙草の匂いが、扉の向こうから、かすかに、流れてくる。

 

——香水の匂いも、混じっていた。

 

⸻

 

(……俺、いま、めちゃくちゃ、緊張してるな)

(救命救急医として、心臓マッサージしてた頃でも、こんなに緊張しなかったぞ)

(ドフラミンゴと覇気ぶつけてたときよりも、緊張してる)

(……五条悟の身体、なんで、こんなとき、心拍数だけは、ガキみたいなんだ)

 

⸻

 

俺は、扉の前に、立った。

 

しばらく、息を、整える。

 

それから、手を、上げた。

 

——シャクヤクさん。

——あんた、本当に、罪な女だよ。

——けど、まあ。

——逃げないって、決めたんだ、俺は。

 

⸻

 

俺はシャクヤクの部屋の扉を、初めて——叩いた。

 

——次回、第5話「幽鬼、海賊王の息子を狙う」

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ドフラミンゴが好きで、書きすぎました。「フッフッフ」を打ち込むたび、原作のあの声が脳内で再生されて、気持ちよかったです。第六部・ドレスローザでの再戦は、たぶんこの作品で一番派手な回になります。

シャクヤクさんとの章末は、書くか書かないか、最後まで迷いました。アズールはまだ二十一歳で、シャクヤクさんは年上で、レイリーが見守っていて、彼女には罪悪感もある。でも、原作のシャクヤクさんなら「気が長くないんだから」って言いそうだし、彼女が幸せそうなら、それでいい。
直接的な描写は、書かない方針です。物語に必要な分だけ、匂わせます。

次回、第5話「幽鬼、海賊王の息子を狙う」。
シャクヤクの夜の翌朝、アズールはついに動き出します。そして、シャボンディに密かに来ていた、ある王女との邂逅。さらに——新世界から戻ってきた、あの男との初対面。
「死ぬなよ」というセリフは、この作品で何度も繰り返されることになります。最初に言うのは、第5話です。

★や感想、お気に入り登録、本当に励みになります。第一部完結まで、もう一話。お付き合いいただけたら嬉しいです。

それでは、また次回。
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