マブラヴ・インサート 〜白き少佐の因果強化計画〜 作:きのこ大三元
更にスマホ版で、小説を確認したところ、読みづら過ぎてびっくりしました…
いつも、pcでの確認だったので気づきませんでした…一ヶ月間…
スマホ版で読んでくださって方申し訳ないです…読みやすい様に、順次修正しておきます…
10月27日 深夜
横浜基地・真白私室
<< 神宮寺 真白 >>
結論から言うと。
月詠真那中尉は、想像以上に強敵だった。
いや、敵ではない。
敵ではないのだけれど。
斯衛軍の精鋭というのは、こういう場面でも一切手を抜かないらしい。
屋上での会話が終わった後。
自分は、部屋へ戻ろうとした。
夜風は冷たかったし、月詠中尉にも「長居はするな」と言われたばかりだったからだ。
けれど、そのまま別れる流れにはならなかった。
「神宮寺少佐」
「はい」
「念のため、部屋までお送りします」
「え、そこまでしていただかなくても……」
「夜間の単独行動は慎むべきだと、先ほど申し上げたはずです」
「……はい」
反論できなかった。
正論だった。
正論だったのだけれど、背後に月詠中尉がいる状態で廊下を歩くのは、なかなか緊張する。
赤い斯衛の制服。
乱れのない歩調。
こちらの背中に向けられる、鋭い気配。
護衛されているのか。
監視されているのか。
たぶん、両方だ。
途中で、神代少尉たち三人とは別れた。
月詠中尉が短く命じたからだ。
「お前たちは待機していろ」
「はっ」
「ですが、真那様――」
「待機だ」
「……了解しました」
三人は従った。
ただ、最後までこちらを見る神代少尉の視線は、かなり鋭かった。
気持ちは分かる。
自分でも、自分を簡単に信用できるとは思えない。
そんなことを考えているうちに、自室の前へ着いた。
「ここです」
「確認します」
「え?」
月詠中尉は、自分が扉を開けるより先に周囲を確認した。
廊下。
天井。
隣室。
扉の隙間。
一瞬で視線が走る。
本当に、護衛の動きだった。
「異常なし。入室を」
「は、はい」
自分は少しぎこちなく扉を開け、部屋に入った。
月詠中尉は、そのまま自然に続いて入ってきた。
「……えっと、月詠中尉?」
「もう少し確認したいことがあります」
「確認、ですか」
「はい」
扉が閉まる。
密室。
自分の私室。
深夜。
月詠真那中尉。
状況だけを並べると、かなりまずい。
いや、やましいことは何もない。
何もないはずだ。
けれど、心臓が少しうるさかった。
「座ってもよろしいですか」
「も、もちろんです」
月詠中尉は、椅子に腰を下ろした。
姿勢が美しい。
背筋がまっすぐで、無駄がない。
自分はベッドの端に座る。
距離はある。
あるはずなのに、やけに近く感じる。
「神宮寺少佐」
「はい」
「先ほどの会話で、確認できたことと、確認できなかったことがあります」
「……はい」
「冥夜様への害意は薄い。少なくとも、現時点ではそう判断しました」
「ありがとうございます」
「礼を言う場面ではありません」
「すみません」
さっきも同じことを言われた気がする。
月詠中尉は、じっとこちらを見る。
「しかし、貴官には不明点が多すぎる」
「……それは、否定できません」
「貴官の立場。香月副司令との距離。新型OSに関わる理由。そして……時折、貴官が見せる妙な確信」
胸が少し跳ねた。
「妙な、確信……ですか」
「はい」
月詠中尉の声が静かに刺さる。
「冥夜様や207B分隊のことを、初対面とは思えぬほど理解しているように見える時がある。まるで、あらかじめ何かを知っていたかのように」
「……」
「先ほども、貴官は言葉を選び損ねた」
「……すみません」
「謝罪を求めているのではありません。確認しています」
逃げられない。
この人は見逃さない。
それを改めて理解した。
「……話せないことがあります」
自分は正直に言った。
「今は、まだ」
「香月副司令の指示ですか」
「それもあります。でも、それだけじゃありません」
「では、何故」
「話したら、きっと色々なものが壊れます」
月詠中尉の目が細くなる。
「曖昧な答えですね」
「はい」
「ですが、嘘をついているようには見えない」
「……ありがとうございます」
「礼ではありません。評価です」
少しだけ、空気が緩んだ気がした。
ほんの少しだけ。
そこから、話は本当に尋問のように進んだ。
冥夜に近づいた理由。
207B分隊に関わる理由。
自分の素性。
夕呼副司令との関係。
この世界に現れた経緯。
もちろん、話せる範囲は限られている。
けれど、月詠中尉は疑問を一つずつ丁寧に潰していった。
嘘を見逃さない目。
矛盾を逃さない耳。
こちらの反応を観察する沈黙。
尋問としては、かなり優秀だった。
いや、優秀すぎた。
そして途中から、話題は少しずつ逸れていった。
自分の年齢。
体調。
好み。
部屋での過ごし方。
最近、休めているのか。
食事は足りているのか。
困っていることはないか。
まるで尋問のようで、世話焼きのようでもあった。
ただ一つ問題があるとすれば――。
距離が、ずっと近かったことだ。
最初は椅子に座っていたはずなのに、いつの間にか月詠中尉は立ち上がり、こちらの近くに来ていた。
手元の資料を見るため。
表情を確認するため。
体調を見るため。
理由はいくらでもあった。
けれど、近い。
「真白少佐」
「はい」
呼び方が、いつの間にか少し変わっていた。
神宮寺少佐ではなく、真白少佐。
そのことに気づいてしまって、余計に落ち着かない。
「貴方は、もう少しご自身の価値を自覚なさるべきです」
「価値、ですか」
「はい」
月詠中尉は真剣な顔で言った。
「この世界において、若い男性は大変貴重です。まして、少佐のように特殊な力を持ち、冥夜様とも関わりを持つ方であればなおさら」
「……」
「故に、軽率な行動は慎んでいただきたい」
「すみません」
「ですが」
そこで、月詠中尉の声が少し柔らかくなる。
「私であれば、少佐をお守りできます」
「月詠中尉が、自分を?」
「はい。冥夜様のためにも。そして……」
言葉が一度途切れる。
月詠中尉は、ほんの少しだけ視線を逸らした。
「私個人としても」
胸の奥が、変に鳴った。
この人は冥夜の忠臣だ。
まず冥夜があり、そのために動く人。
そう思っていた。
もちろん、それは間違っていない。
けれど今の言葉には、月詠真那という一人の女性の感情が混ざっていた。
「……月詠中尉」
「真那、と」
「え?」
「二人きりの時は、真那とお呼びください」
「いや、それはさすがに……」
「真白少佐」
「はい」
「真那と」
逃げ道がない。
いや、あるのかもしれない。
本当に嫌なら、拒めばいい。
月詠中尉は強引なようでいて、こちらの反応をちゃんと見ている。
それは分かる。
でも、その目でまっすぐ見られると、どうにも弱い。
「……真那さん」
「はい」
その瞬間、月詠中尉――いや、真那さんの表情が、ふっと緩んだ。
それは訓練場でも、屋上でも見せなかった顔だった。
凛とした軍人の顔ではない。
冥夜の護衛としての顔でもない。
ただ一人の女性としての顔。
自分は、そこで逃げ道がなくなったことを悟った。
いや。
正確には、自分で逃げ道を閉じたのかもしれない。
この世界で、誰かと深く関わることは、ただの感情だけでは終わらない。
力になる。
戦力になる。
誰かを守るための手段になる。
自分の能力は、信頼や親密さに反応する。
それはこれまでの流れで、もう薄々分かっていた。
でも、それだけで割り切れるほど、自分は器用ではない。
だからせめて。
利用するのではなく、向き合うべきだと思った。
「真那さん」
「はい」
「自分は、まだ分からないことばかりです。自分の力も、この世界のことも」
「……」
「でも、冥夜を守りたいという気持ちは本当です。207B分隊のみんなも、まりもさんも、夕呼副司令も……できるなら、誰も失いたくない」
「真白少佐……」
「だから、力を貸してください」
真那さんは静かに目を細めた。
そして、深く頷いた。
「承知しました」
その声は、とても真剣だった。
「この月詠真那、真白少佐のお力となりましょう」
「ありがとうございます」
「ただし」
「ただし?」
真那さんが近づく。
また、距離が近い。
「今夜は、私のことも少しだけ知っていただきます」
「……それは」
「嫌であれば、退きます」
真那さんの声は静かだった。
押しつけではない。
命令でもない。
けれど、その瞳は真っ直ぐこちらを見ていた。
「ですが、今夜だけは……少し、私のことも知っていただきたい」
そう言われると、何も言えなかった。
窓の外には、さっきまで見ていた星空が広がっている。
遠くで、基地の機械音が微かに響いていた。
真那さんの手が、自分の手に重なる。
冷静で、強くて、忠義に厚い人。
その手は思っていたよりも温かかった。
「……分かりました」
自分がそう答えると、真那さんは静かに微笑んだ。
その夜のことは、詳しくは語らない。
ただ、分かったことがある。
月詠真那という女性は、忠義だけで生きているわけではなかった。
冥夜を守るために刃となる人。
けれど同時に、誰かに寄り添う温かさも持っている人だった。
そして――。
自分の能力は、やはり関係の深さに応じて強く反応する。
それはもう、疑いようがなかった。
第10.5話「紅の夜明け」
それは、月詠真那が白き少佐への警戒を捨てきれぬまま、しかし初めてその危うさを守るべきものとして見始めた夜。
そして、紅の護衛の中で、まだ名もなき感情が静かに夜明けへ向かい始めた日だった。
――幕間2.本作用語メモ――
■ 神代巽
月詠真那の部下である帝国斯衛軍の少尉。
冥夜の護衛として、真白の周囲にも関わっていく。
■ 巴雪乃
月詠真那の部下である帝国斯衛軍の少尉。
近衛の一員として、冥夜と真白を見守る立場にある。
■ 戎美凪
月詠真那の部下である帝国斯衛軍の少尉。
月詠たちと共に、真白の危険性と有用性を見極めていく。
■ 庇護
この世界で真白に向けられやすい感情の一つ。
希少な男性であり、重要人物でもある真白を守ろうとする意識。