マブラヴ・インサート 〜白き少佐の因果強化計画〜 作:きのこ大三元
マブラヴ熱が再燃した勢いで、SSを初投稿させていただきました。
本作は、白銀武の代わりに別の人物が横浜基地へ現れたら――というIFストーリーです。
原作の展開を踏まえつつ、少し違った未来を描いていきます。
なお、自分も完璧に原作知識を把握しているわけではないため、
一部解釈や設定に違いがある可能性がありますが、温かい目で見ていただけると幸いです。
原作の専門用語が多く登場するため、今後は各話のあとがきで簡単な補足を入れていく予定です。
初投稿のため拙い部分もあるかと思いますが、
楽しんでいただけたら幸いです。
※第0話に簡単な世界観説明を入れています
第1話「始まりの残酷」
第1話「始まりの残酷」
日本――とある日。
やっと、最後まで見ることができた。
『マブラヴ・オルタネイティヴ』。
名前だけは、ずっと知っていた。
重い作品だということも、覚悟していたつもりだった。
でも。
「……あれは、ダメでしょ……」
画面の前で、自分はしばらく動けなかった。
まりもさんの、あのシーン。
分かっていた。
覚悟もしていた。
それでも――無理だった。
「……残酷すぎる……」
何度もティッシュで涙を拭う。
拭っても、拭っても止まらない。
ゲームだ。
画面の中の出来事だ。
そう分かっているのに。
胸の奥に残る感覚だけは、どうしても消えてくれなかった。
理不尽で。
無力で。
そして何より――。
「……知ってしまったから、余計にきつい……」
結末を知っている。
誰が苦しむのかも、分かってしまった。
それでも、自分には何もできない。
その事実が、胸に刺さったまま抜けなかった。
「……今日は、もう寝よう……」
これ以上起きていても、気持ちが沈むだけだ。
電気を消す。
布団に入る。
目を閉じる。
――その瞬間だった。
「――――」
何かが、聞こえた。
「……え?」
反射的に目を開ける。
暗い天井。
いつもの部屋。
何も変わらない。
それなのに。
「……今の……何……?」
言葉じゃない。
音ですらない。
もっと曖昧で、“意味になる前の何か”が頭の中に流れ込んできたような感覚。
「……聞き取れない……」
胸の奥に、妙な違和感だけが残る。
何かを告げられたような。
何かを渡されたような。
そんな感覚。
「……疲れてるのかな……」
そう呟いたのを最後に、自分の意識はゆっくりと沈んでいった。
「……ん……」
目を開ける。
最初に見えたのは――知らない天井だった。
「……ここ……どこ……?」
ゆっくりと体を起こす。
そこは、見知らぬ部屋だった。
壁にはひび。
床には埃。
壊れた家具。
割れた窓。
外から冷たい風が吹き込んでくる。
生活感はある。
けれど、人の気配がまるでない。
まるで、随分前に捨てられた部屋のようだった。
「……なんで……?」
昨日、自分は確かに自分の部屋で寝たはずだ。
それなのに。
ここは、自分の部屋ではない。
それどころか、今の時代の日本にある部屋とも思えなかった。
「……服?」
そこで、自分の格好に気づいた。
白を基調とした、見慣れない服。
どこか軍服のようなデザイン。
動きやすそうではある。
でも、明らかに自分の持ち物ではなかった。
「……何ですか、これ……」
袖をつまむ。
布の感触が、やけにはっきりしている。
夢にしては、あまりにも現実的だった。
その時だった。
「……あれ?」
手元に、見覚えのあるものがあった。
スマートフォン。
自分のものだ。
「……スマホは、あるんだ……」
少しだけ安心して、電源を入れる。
画面は普通に点いた。
けれど――。
「……日付が……読めない……?」
表示されているはずの日付部分だけが、ノイズのように歪んでいた。
時間は見える。
電池残量も見える。
けれど、日付だけがどうしても判別できない。
「……なんで、そこだけ……」
嫌な予感がした。
通信状態を見る。
表示は――圏外。
「……ですよね……」
ネットも繋がらない。
電話もできない。
誰かに助けを求めることもできない。
手の中にあるのは、確かに自分のスマホなのに。
今はただ、元の世界と切り離された証拠のようにしか思えなかった。
「……完全に、詰んでませんか……?」
そう呟いた瞬間。
ひらり、と。
一枚の紙が、目の前に落ちてきた。
「……え?」
反射的に天井を見る。
何もない。
穴が空いているわけでもない。
誰かがいる気配もない。
それなのに、紙は確かにそこに落ちている。
恐る恐る拾い上げる。
そこには、こう書かれていた。
あなたには、白銀武が持っていた
因果導体としての性質を一部付与しました。
因果導体とは、接続された並列世界間の因果のやり取りを媒介する存在です。
これにより、白銀武が幾度もの経験の中で培ってきたもの――
戦闘経験。
知識。
訓練によって得た身体感覚。
衛士としての技術。
戦術機への適応力。
戦場での判断力。
射撃・近接戦闘に関する感覚。
それらの一部が、あなたの中に継承されています。
また、白銀武の因果導体としての性質に由来する副次効果として、
人を惹きつけやすい因果的な性質も受け継いでいます。
固有能力として、
因果強化供給《リンク・ブースト》を付与しました。
あなたと深い信頼、または親密な接触を行った相手は、
衛士としての能力が強化されます。
効果は、関係性・信頼・接触の深さによって変化します。
あなた自身の肉体も強化されています。
高い体力、回復力、疲労耐性を持ちます。
「…………」
紙を持ったまま、固まった。
「……は?」
もう一度読む。
意味は変わらない。
三回読む。
やっぱり変わらない。
「いや……ちょっと待ってください……」
白銀武。
因果導体。
衛士。
戦術機。
その単語が、頭の中で嫌なほど繋がっていく。
「……マブラヴ……?」
冗談だと思いたかった。
でも、この部屋。
この服。
さっきの聞き取れない声。
そして、この紙。
何もかもが、現実離れしている。
それなのに、夢だと笑い飛ばせない。
「……しかも、能力が……」
紙に書かれた内容を思い出して、顔が熱くなる。
深い信頼。
親密な接触。
関係性の深さによる、相手の能力強化。
「……なんで、そんな方向なんですか……」
思わず、紙から目を逸らした。
いや、分からなくはない。
『マブラヴ』という作品が、元々そういう要素を含んだ作品として生まれたことくらいは知っている。
そこから『オルタネイティヴ』で、あれほど重く、残酷で、壮大な物語になったことも分かっている。
だから、こういう方向の能力が与えられた理由も、まったく理解できないわけではない。
けれど。
「……だからって、自分に持たせる必要ありますか……?」
受け入れられるかどうかは、完全に別問題だった。
こんな能力を渡されても困る。
いや、困るどころではない。
使い方を間違えれば、人間関係も、信頼も、感情も、全部壊しかねない。
力になる。
戦力になる。
誰かを助ける手段になる。
それは分かる。
でも同時に、この能力はどうしようもなく危うい。
そんな予感だけが、紙を握る手にじわじわと残っていた。
「……でも」
恥ずかしいとか。
意味が分からないとか。
そんなことを言っている場合じゃないのかもしれない。
もし、本当にここがあの世界なら。
もし、自分があの物語の始まりに来てしまったのなら。
「……白銀武は……?」
今日が、あの始まりの日なら。
白銀武は、この世界にいるのか。
それとも、いないのか。
自分がここに来たせいで、何かが変わってしまったのか。
考えれば考えるほど、背筋が冷たくなった。
「……外を、見ないと……」
スマホをポケットに入れる。
紙を折りたたんで、服の内側にしまう。
それから、壊れかけた扉へ向かった。
手をかける。
少し力を入れると、軋むような音を立てて扉が開いた。
外に出た瞬間、言葉を失った。
崩壊した街。
瓦礫の山。
折れた電柱。
ひび割れた道路。
焼け焦げた建物。
どこまでも、人の気配が薄い。
かつて街だった場所。
そう表現するしかない光景が、目の前に広がっていた。
「……嘘、だろ……」
声が震える。
その時、視界の端に巨大な影が入った。
壊れた家屋に突っ込んだまま放置されている、巨大な機体。
人型。
鋼鉄の巨人。
見覚えがあった。
画面越しに、何度も見たことがある。
「……撃震……?」
戦術機。
あの世界に存在する、人類の刃。
ここは、もう疑いようがなかった。
「……本当に……マブラヴの世界……」
足が震えそうになる。
怖い。
当然だ。
ここは、ゲームの画面じゃない。
死が現実にある世界だ。
BETAがいて。
人が死んで。
大切な人たちが、理不尽に奪われる世界。
「……まりもさん……」
昨日見たばかりの光景が、頭をよぎる。
あんな結末を、また見るのか。
知っているのに。
何が起こるか、分かっているのに。
何もしないのか。
「……無理、ですよね……」
自分は強い人間じゃない。
ただの一般人だ。
人前に出るのは得意じゃない。
押しに弱いし、すぐ戸惑う。
普通なら、こんな世界で何かを変えられる人間じゃない。
白銀武のように、何度も立ち上がれる自信なんてない。
誰かを導けるほど、立派な人間でもない。
でも。
それでも。
ここで何もしなければ、あの未来はそのまま来る。
まりもさんが死ぬ。
誰かが傷つく。
誰かが泣く。
そして、知っているはずの悲劇を、自分はただ見ているだけになる。
「……あの未来だけは、嫌です」
胸の奥に残っていた、聞き取れない声。
あれが何だったのかは分からない。
神様なのか。
因果なのか。
ただの幻聴なのか。
分からない。
でも、確かに何かを与えられた。
白銀武の因子。
因果強化供給《リンク・ブースト》。
そして、この世界の知識。
なら。
「……使えるものは、使います」
顔を上げる。
目指す場所は、一つ。
横浜基地。
そこに行けば、香月夕呼副司令がいる。
この世界で一番危険で、一番頼りになる人がいる。
信じてもらえるかは分からない。
拘束されるかもしれない。
実験されるかもしれない。
最悪、殺されるかもしれない。
それでも、行くしかない。
この崩壊した街で、一人で立ち尽くしていても何も変わらない。
「……行きましょう」
ポケットの中のスマホに、そっと触れる。
圏外のままの、小さな現実の欠片。
もう戻れないのかもしれない。
元の世界の家にも。
自分の部屋にも。
昨日までの普通の日常にも。
それでも。
「……自分は、まだ動ける」
一歩、踏み出す。
瓦礫を避けながら、崩壊した道を進む。
遠くに見える巨大な影。
かつて街だった場所の向こう。
そこに、この世界の中心がある。
横浜基地。
香月夕呼。
そして、おそらく――白銀武が現れるはずだった場所。
けれど。
もし、自分がここに来たことで、何かが変わっているのだとしたら。
もし、この世界に白銀武がいないのだとしたら。
その時、自分は。
「……自分が、代わりにやるしかないんですよね」
神宮寺真白は、静かに歩き出した。
白銀武がいるかどうかも分からない世界で。
人類の未来が崩れていく世界で。
それでも――抗うために。
そして真白は、まだ知らない。
その小さな一歩が、横浜基地にいる一人の天才の計算を、根底から狂わせることになるのだと。
第1話「始まりの残酷」
それは、神宮寺真白が“白銀武のいない世界”へ踏み出した日。
そして――
横浜基地の運命が、静かに狂い始めた日だった。
――本作用語メモ1――
■ 白銀武
原作『マブラヴ オルタネイティヴ』の主人公。
本作では、彼が本来担うはずだった役割を真白が背負うことになる。
■ 神宮司まりも
原作に登場する教官的な立場の人物。
真白が物語に関わろうと決意する大きな理由の一つ。
■ 戦術機
人が搭乗する人型兵器。
BETAに対抗するための主力兵器。
■ 横浜基地
物語の中心となる国連軍の重要拠点。
真白が最初に目指す場所。