マブラヴ・インサート 〜白き少佐の因果強化計画〜   作:きのこ大三元

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初めて評価をいただけて、とても嬉しかったです(*゚∀゚*)
とても励みになっています。

まだ序盤ですが、ここから少しずつ物語も広がっていきますので、
引き続き読んでいただけたら嬉しいです。



第2話「異物の来訪」

10月22日 昼

横浜基地・正門前

<< 神宮寺 真白 >>

 

「……ここが、横浜基地……」

 

崩れた街並みを抜けた先。そこに、巨大な軍事施設があった。

分厚い防壁。無骨なフェンス。左手にある守衛詰所。黄色と黒の遮断バー。上部には、英語で書かれた古びた看板。

 

――Military Facilities.

 

その奥には、庁舎らしき建物と基地施設。さらに、空へ伸びる通信アンテナの群れ。

何度も見た場所だった。ゲームの画面で。物語の中で。白銀武が、何度も足を踏み入れた場所として。

 

けれど、現実として目の前にある横浜基地は、画面越しに見たものよりずっと重く、冷たく、大きかった。

 

「……本当に、来ちゃったんだな」

 

喉が乾く。

ここは、ただの背景じゃない。人類がBETAに抗うための前線基地。オルタネイティヴ4の中枢。白銀武が本来たどり着くはずだった場所。

そして今、自分が来てしまった場所。

 

正門へ近づく。そこで、自分はひとつの違和感に気づいた。

門の前に立つ衛兵は、二人とも女性だった。

 

「……」

 

一瞬、足が止まりそうになる。

いや、女性兵士がいること自体はおかしくない。原作でも、女性の衛士や女性軍人は普通にいた。

 

でも。

 

ゲームで見た横浜基地は、少なくとも男女の常識そのものが逆転している世界ではなかったはずだ。

なのに、目の前の衛兵二人は女性で。しかも、こちらを見る視線がどこか妙に近い。

 

警戒している。それは分かる。

身分不明の人間が、崩壊した市街地から一人で歩いてくれば、警戒されて当然だ。

でも、それだけじゃない。

 

何かが、違う。

 

「……まさか、自分、女になってたりしないよな……?」

 

思わず、自分の身体を見下ろす。

白を基調とした、訓練兵の制服に似た服。細い腕。もともと中性的だった顔立ち。少し頼りなく見える体格。

 

慌てて確認する。

 

……大丈夫。

たぶん、男のままだ。

 

「……いや、何を確認してるんだ、自分……」

 

自分で自分に突っ込みたくなった。

けれど、この世界の空気は、どこかおかしい。

 

そう思った直後だった。

 

「そこのお嬢さん」

 

片方の衛兵が声をかけてきた。

 

「外は危険だよ。こんなところで何をしているの?」

「……え?」

 

お嬢さん。

その言葉が自分に向けられたものだと理解するまで、少し時間がかかった。

 

前の世界でも、女性に間違われたことはある。あるにはある。

けれど、横浜基地の正門前で言われるとは思っていなかった。

 

「えっと……自分は……」

「その服、訓練兵の制服に似ているわね。外出許可証は?」

「あ、いえ……」

 

改めて、自分の服を見る。

白を基調とした謎の服。軍服に近い雰囲気があり、訓練兵の制服と言われれば、確かにそう見えなくもない。

 

でも、自分の持ち物ではない。目覚めた時から着ていたものだ。

それを正直に言ったら、間違いなく怪しまれる。

いや、もう十分怪しい。

 

「名前は?」

 

もう一人の衛兵が、警戒した目でこちらを見る。

 

「神宮寺真白です」

「ジングウジ……?」

 

衛兵の片方が眉を動かした。

 

「神宮司軍曹の関係者?」

「あ、いえ。神宮司ではなく、神宮寺です。お寺の寺で、神宮寺です」

「紛らわしいわね」

「す、すみません……」

 

謝るところなのかは分からない。でも、反射的に謝ってしまった。

こういうところが、自分の良くないところだと思う。

 

「所属は?」

「……ありません」

「身分証は?」

「……ありません」

「外出許可証は?」

「……ありません」

 

言えば言うほど怪しい。

自分でもそう思う。

 

衛兵二人の表情が一気に硬くなった。

 

「所属も身分証もないのに、横浜基地へ来たの?」

「はい……」

「何の用で?」

 

ここが勝負どころだった。

普通に言えば、間違いなく追い返される。下手をすれば、その場で拘束される。

けれど、ここで止まるわけにはいかない。

 

自分は小さく息を吸った。

 

「……極秘任務です」

 

言った瞬間、自分でも無茶苦茶だと思った。

案の定、衛兵二人の目がさらに鋭くなる。

 

「極秘任務?」

「はい」

「所属なし、身分証なし、外出許可証なし。それで極秘任務?」

「……はい」

「怪しすぎるわね」

「自分でもそう思います……」

 

また本音が漏れた。

衛兵が眉をひそめる。

 

その時、もう一人の衛兵が、ふと自分の顔を見直した。

 

「……待って」

「はい?」

「あなた……声」

 

空気が変わった。

衛兵二人が、自分をじっと見る。

顔。喉元。肩。そして、また顔。

 

「……男?」

「はい。男です」

 

そう答えた瞬間、二人の衛兵の表情が明らかに変わった。

警戒。驚き。そして、好奇心。

さっきまでとは、見られ方が違う。

 

若い男が一人で外から歩いてきた。

それが、この世界では自分が思っている以上に異常なことなのだと、なんとなく分かった。

 

「若い男が一人で外から……」

「しかも身分証なし……」

 

二人が小さく言葉を交わす。

自分は少しだけ肩を縮めた。

 

やっぱり、この世界は何かおかしい。

自分の知っている原作と似ている。でも、どこか違う。

 

「いくら若い男だからって、身分証なしでは通せないわ」

 

衛兵が、軍人としての顔に戻って言った。

 

「ここがどういう場所か分かってる?」

「分かっています」

「分かっているなら、なおさらよ。普通なら拘束対象」

「……ですよね」

 

何も言い返せない。全部その通りだ。

だが、ここで引けない。

 

「香月夕呼副司令に確認してください」

 

ぴたり、と空気が止まった。

 

「副司令に?」

「はい」

「あなた、自分が何を言っているか分かってる?」

「分かっています」

「身分証もない人間が、基地の副司令に直接確認しろって?」

「……はい」

 

本当に無茶苦茶だった。

でも、他に方法がない。

香月夕呼に会わなければ、この世界では何も始められない。

 

自分は声を落とした。

 

「オルタネイティヴ4に関わる話です」

 

二人の表情が変わった。

さっきまでとは違う、明確な警戒。

 

「あなた、今何て言ったの?」

「オルタネイティヴ4です」

「……」

「香月副司令に直接話させてください。ここでは、これ以上話せません」

 

二人は顔を見合わせた。

片方が通信機に手を伸ばす。

 

「……変な動きをしたら、その場で拘束するから」

「はい」

 

当然だ。

むしろ、まだ撃たれていないだけありがたい。

 

通信が繋がるまでの数秒が、異様に長く感じた。

心臓がうるさい。

 

自分は本当に、横浜基地の最重要機密に触れようとしている。

ここで失敗したら終わりだ。拘束される。尋問される。最悪、夕呼副司令に会う前にどこかへ回されるかもしれない。

それだけは困る。

 

* * *

 

10月22日 昼

横浜基地・香月副司令執務室

<< 香月 夕呼 >>

 

「……違う」

 

香月夕呼は、机の上に広げた資料を睨んでいた。

00ユニット。オルタネイティヴ4。因果律量子論。

 

あと一押し。

そこまで来ている感覚はある。けれど、その最後の一片が埋まらない。

 

式は組める。仮説も立つ。理論も破綻していない。

だが、実証へ繋げるには何かが足りない。

 

「ここまで来て、何が足りないっていうのよ……」

 

苛立ちが声に滲む。

時間はない。人類には、もう十分な猶予など残されていない。

 

オルタネイティヴ4は、人類に残された数少ない可能性の一つだ。

失敗は許されない。遅れも許されない。

 

その時、通信が入った。

 

『正門より、副司令室へ確認です』

「何?」

 

声に苛立ちが混じる。

 

『身元不明者が一名。極秘任務を自称しています』

「拘束しなさい」

 

即答だった。

この忙しい時に、不審者の相手などしている余裕はない。

 

だが、通信の向こうがわずかに詰まった。

 

『それが……香月副司令への直接確認を求めています』

「はぁ?」

 

夕呼の眉が動く。

 

「私に?」

『はい』

「名前は?」

『神宮寺真白と名乗っています』

「神宮司?」

 

その響きに、まりもの顔が一瞬浮かぶ。

 

「まりもの知り合い?」

『本人は否定しています。神宮司ではなく、寺の方の神宮寺だと』

「紛らわしいわね」

 

夕呼は椅子に背を預ける。

 

『補足します。ぱっと見は女性に見えますが、本人は男性とのことです』

「男?」

 

夕呼の目が細くなった。

 

「映像を出しなさい」

 

正門の監視カメラ映像がモニターに映る。

そこに立っていたのは、ぱっと見ただけなら少女のような若者だった。

 

茶色の髪。柔らかい雰囲気。中性的な顔立ち。訓練兵の制服に似た、白っぽい服装。

だが、報告では男性。

 

よく見れば、確かに完全な少女ではない。

肩の線。立ち方。緊張した表情。声の反応。

 

「……若い男が、単身で正門にね」

 

怪しすぎる。

怪しすぎるが、無視するには少し妙だった。

 

『本人は、オルタネイティヴ4に関わる話だと』

 

夕呼の指が止まった。

 

「……何ですって?」

 

『正門前ではこれ以上話せない。香月副司令に直接話したい、と』

 

夕呼は、モニターの中の若者を見る。

怯えている。緊張している。今にも逃げ出したそうな顔をしている。

けれど、逃げていない。

 

「……面白いじゃない」

 

夕呼は、薄く笑った。

 

「繋ぎなさい」

 

* * *

 

10月22日 昼

横浜基地・正門前

<< 神宮寺 真白 >>

 

通信が繋がる。

空気がさらに張り詰めた。

衛兵二人の視線が、自分に集まる。

 

自分は、息を整えた。

最初の一言を間違えてはいけない。

そう思ったのに。

 

『――で? 私に直接話がある不審者っていうのは、あなた?』

 

通信機から聞こえてきた声に、背筋が伸びた。

香月夕呼。

画面越しに知っていた声。

でも、現実として聞くと、圧が違った。

 

「あ、はい。初めまして、夕呼先生」

 

言ってから、しまったと思った。

自然に出てしまった。

 

夕呼先生。

白銀武がそう呼んでいたから。原作でそういう印象が強かったから。

自分にとっても、ついその呼び方が出てしまった。

 

通信の向こうが、一瞬静かになる。

 

『私は教え子を持った覚えはないわよ』

 

冷たい声。

背中に汗がにじむ。

 

「す、すみません。香月副司令」

『あなた、何者?』

「神宮寺真白です」

『それは聞いたわ。所属は?』

「ありません」

『身分証は?』

「ありません」

『戸籍は?』

「たぶん、この世界にはありません」

 

また沈黙。

衛兵二人の視線が痛い。

自分でも、言っている内容が怪しすぎるのは分かっている。

 

『……この世界、ね』

 

夕呼副司令の声が少し変わった。

 

『面白い言い方をするじゃない』

 

「自分は、2026年の日本から来ました」

 

言った。

言ってしまった。

もう戻れない。

 

『証拠は?』

「スマホがあります。こちらの技術水準とは合わないはずです。ただ、通信はできません」

『ふぅん』

 

声だけで、値踏みされているのが分かった。

 

『それで? オルタネイティヴ4に関わる話っていうのは?』

 

自分は、一度目を閉じた。

ここで中途半端に言っても意味がない。でも、正門前で全部話すわけにはいかない。

だから、切り札だけを出す。

 

「00ユニットについて、話があります」

 

通信の向こうが、完全に静かになった。

衛兵二人も、ただならぬ空気を感じ取ったのか、黙り込む。

心臓の音が、やけに大きく聞こえた。

 

『……続けなさい』

 

夕呼副司令の声が、さっきより低くなった。

 

「ここでは、これ以上話せません」

『あなたに場所を選ぶ権利があると思ってるの?』

「ないと思います」

『正直ね』

「でも、それでも……直接話させてください」

 

沈黙。

数秒。

けれど、その数秒がとても長かった。

 

やがて、通信機から短い命令が聞こえた。

 

『通しなさい』

 

衛兵二人が目を見開く。

 

『責任は私が持つわ。監視付きで副司令室へ』

 

通信が切れた。

正門前に、妙な沈黙が落ちる。

 

「……あなた、副司令に何を言ったの?」

 

衛兵の一人が、半ば呆れたように聞いてきた。

 

「少しだけ、話をしただけです」

「少しだけで通行許可が出るわけないでしょう……」

 

まったくその通りだと思う。

自分でもそう思う。

 

けれど、許可は出た。

検問所の警告灯が短く点滅する。

低い機械音と共に、黄色と黒の遮断バーがゆっくりと上がっていく。

 

その向こうに、横浜基地内部へ続く道が見えた。

ただの門のはずなのに。

そこを越えることが、物語の外側から内側へ入ることのように思えた。

 

「……どうぞ」

 

衛兵の声が、さっきより少し硬い。

警戒されている。当然だ。

でも、それだけではない。

こちらを見る目には、好奇心と戸惑いも混じっていた。

 

「ありがとうございます」

 

自分は小さく頭を下げた。

そのまま進もうとして、ふと足を止める。

 

「あの……」

「何?」

「さっきの、お嬢さんっていうのは……」

 

言ってから、自分でも何を気にしているんだと思った。

こんな状況で言うことじゃない。

けれど、少しだけ引っかかっていた。

 

衛兵の一人が、少し気まずそうに視線を逸らした。

 

「……悪かったわ。見た目だけで判断した」

「いえ、慣れてはいるので……」

「慣れてるの?」

「……たまに」

「そう」

 

なぜか、二人の視線が少し柔らかくなった。

それはそれで困る。

 

もう一人の衛兵が真面目な声で言った。

 

「基地内では気をつけなさい」

「え?」

「若い男が一人で歩いていれば、目立つわ。あなたが思っているよりずっと」

 

その言葉に、背筋が少し冷えた。

 

「……分かりました」

 

たぶん、自分はまだ分かっていない。

この世界で、若い男がどう扱われるのか。自分の外見や立場が、どれだけ目立つのか。

でも、少なくとも。

 

自分の常識が通じないことだけは、分かり始めていた。

 

「副司令がお待ちよ」

「はい」

 

自分は、もう一度頭を下げた。

そして、一歩を踏み出す。

横浜基地の中へ。

 

その瞬間、周囲の視線が集まるのを感じた。

 

「あれ……男?」

「若い……」

「誰?」

「副司令の呼び出し?」

 

ひそひそ声。

隠しているようで、まったく隠れていない。

 

自分は思わず視線を下げた。

 

「……この世界、やっぱりおかしい……」

 

小さく呟く。

けれど、足は止めなかった。

 

ここまで来た。

もう、進むしかない。

 

夕呼副司令に会う。

オルタネイティヴ4。00ユニット。白銀武。そして、自分に与えられた意味不明な力。

 

全部を、あの人に話さなければならない。

 

怖い。

正直、今すぐ逃げたい。

でも、逃げたところでどこへ行くというのか。

 

外には崩壊した街が広がっている。元の世界へ戻る方法も分からない。

この先にしか、自分が知る未来を変える可能性はない。

 

「……行かないと」

 

自分は、基地の奥へと歩き出した。

 

この時の自分は、まだ知らなかった。

この正門を越えた瞬間から、自分はただの迷い込んだ異物ではなくなることを。

 

香月夕呼の目に留まり、横浜基地の機密に触れ、やがて白銀武のいない物語の中心へ押し出されていくことを。

そして。

自分がこの基地で、どれだけ多くの視線と期待と警戒を集める存在になるのかを。

 

それは、神宮寺真白が横浜基地へ足を踏み入れた日。

 

そして、香月夕呼という危険な女に、初めて見つかった日だった。




――本作用語メモ2――

■ 香月夕呼
横浜基地の副司令であり、天才的な研究者。
原作では白銀武の通う学園の物理教師としても登場する。

■ オルタネイティヴ4
人類がBETAに対抗するために進めている極秘計画。
香月夕呼が深く関わっている。

■ 00ユニット
オルタネイティヴ4の中核に関わる重要な存在。
詳しい内容は物語の核心に関わるため、ここでは伏せる。

■ BETA(ベータ)
人類に敵対する地球外起源生命体。
圧倒的な物量で地球を侵略している。

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