マブラヴ・インサート 〜白き少佐の因果強化計画〜   作:きのこ大三元

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2026年7月4日 定期更新です。




第18話「五人目の帰還」 

10月31日 夕方

国連軍横浜基地・訓練場

<< 御剣 冥夜 >>

 

 鎧衣美琴が、戻ってきた。

 その事実だけで、訓練場の空気は少し変わっていた。

 

 声はどこか明るく、足取りも軽い。誰かの表情も、ほんの少しだけ柔らいでいる。

 

 夕方の訓練場には、まだ昼間の熱が残っている。踏み固められた地面には訓練用の白線が引かれ、端の方にはカラーコーンと簡易標識が並んでいた。教官用の端末台には、今日の訓練予定と負荷制限の項目が表示されている。

 そこに五人分の足音が揃うだけで、見慣れていたはずの場所が少し違って見えた。

 

 たった一人。

 されど、一人。

 

 207B分隊は、ようやく五人に戻ったのだ。

 

「いやー、やっぱり訓練場っていいね!」

 

 鎧衣は、両手を頭の後ろで組みながら、明るく笑っていた。

 入院していたとは思えないほど、声に張りがある。もちろん、まだ本調子ではないはずだ。神宮司教官からも、負荷制限と休憩時間を必ず守るように何度も言われている。

 だが、鎧衣はそれを分かっているのかいないのか、いつもの調子で軽く跳ねるように歩いていた。

 

「鎧衣、あまりはしゃぎすぎない方がいいわ」

 

 榊が眉を寄せる。

 

「復帰直後なのよ。少しは自重しなさい」

「大丈夫だよ、榊。ちゃんと医務区画でも確認してもらったし」

「そういう問題ではなくて」

「榊は心配性だなぁ」

「心配して何が悪いのよ」

 

 榊の声は少し硬い。

 だが、その硬さの奥に安堵があることくらいは、私にも分かった。

 榊千鶴は、口では厳しいことを言う。けれど、鎧衣が戻ってきたことを、誰よりも安心しているのかもしれない。

 

 彩峰は、その横で腕を組んだまま立っていた。

 いつも通り、表情は読みにくい。

 だが、鎧衣を見る目は、どこか静かだった。

 

「……騒がしいのが戻ってきた」

「ひどいなぁ、慧さん」

「事実」

「もっと感動的な言い方してよ」

「……うるさいのが戻ってきた」

「悪化してるよ!」

 

 珠瀬が、二人のやり取りを見て小さく笑う。

 

「で、でも、美琴さんが戻ってきてくれて、私も嬉しいです」

「[壬姫](https://w.atwiki.jp/wiki9_alternative/pages/36.html "珠瀬 壬姫 (7236d)")さん〜!」

 

 鎧衣が勢いよく珠瀬へ近づく。

 珠瀬は少し驚きながらも、嬉しそうに笑っていた。

 

 その様子を見て、私は胸の奥が少し温かくなるのを感じた。

 これが、207B。

 

 榊がいて。

 彩峰がいて。

 珠瀬がいて。

 鎧衣がいて。

 そして、私がいる。

 

 五人揃って、ようやく一つの形になる。

 それを、私は今さらのように実感していた。

 

「鎧衣」

 

 私は声をかけた。

 

「無理はしていないか?」

 

 鎧衣はこちらを見ると、にっと笑った。

 

「大丈夫だよ、冥夜さん。むしろ思ってたより身体が軽いんだ」

「身体が軽い?」

「うん。入院してたから、もっと鈍ってると思ってたんだけどね。医務区画でもらった回復補助剤が効いたのかな」

「回復補助剤……」

 

 私は、少しだけ眉を寄せた。

 

「うん。小さい琥珀色の瓶に入ってたやつ。医務区画でバイタルも確認したし、香月博士の許可も出てるから大丈夫だって」

「そうか」

 

 それならば、問題はないのだろう。

 少なくとも、私が疑うべきことではない。医務区画が確認し、夕呼が許可している。ならば、鎧衣の回復を助けるためのものに違いない。

 ……そう思うことにした。

 

 けれど、胸の奥に小さな違和感が残った。

 最近、この基地ではいくつものものが動いている。

 

 神宮寺少佐。

 XM3。

 月詠の変化。

 A-01への教導。

 神宮司教官の様子。

 そして、回復補助剤。

 

 それらがまったく無関係だとは、なぜか思えなかった。

 

「御剣?」

 

 鎧衣が首を傾げる。

 

「どうしたの?」

「いや。何でもない」

 

 私は首を横に振った。

 

「だが、身体が軽い時ほど無理をしやすい。神宮司教官の指示には必ず従うのだぞ」

「分かってるって。真白さんにも、無理はしないでって言われそうだし」

 

 その名前が出た瞬間、胸の奥が、ほんの少しだけ揺れた。

 

 神宮寺真白。

 白き少佐。

 A-01へXM3教導を始めた人物。

 月詠真那と、少しずつ距離を近づけている人物。

 そして、私に「冥夜ならできる」と言った人。

 

 あの言葉は、まだ胸の奥に残っている。

 月詠の紅い武御雷が、XM3の中で滑るように動いた光景。それを見た時、私は思った。

 あそこへ行きたい、と。

 守られるだけではなく、自分自身の足で前へ進みたい、と。

 

 だからこそ、今の鎧衣の言葉に、私は静かに頷いた。

 

「そうだな。神宮寺少佐なら、きっとそう言う」

「だよねー」

 

 鎧衣は笑った。

 明るくて、軽い。

 けれど、その笑顔があるだけで、訓練場の空気が戻ってくる。

 

 207Bは、五人揃った。

 ならば、次へ進まなければならない。

 そう思った時だった。

 

「集合!」

 

 神宮司教官の声が、訓練場に響いた。

 私たちは一斉に姿勢を正す。

 

「これより、今後の訓練予定について伝える」

 

 神宮司教官は、いつも通り厳しい表情で私たちを見渡した。

 しかし、その視線は一人一人を確かめるようでもあった。

 

 榊。

 彩峰。

 珠瀬。

 鎧衣。

 そして、私。

 

 五人が揃っていることを確認するように、神宮司教官の目が静かに動く。

 

「一昨日から鎧衣が復帰したことで、207B分隊は再び五人となった」

「はい!」

 

 鎧衣が元気よく返事をする。

 

「ただし、鎧衣は復帰直後だ。本人が大丈夫だと言っても、身体が完全に戻っているとは限らない。周囲も含め、無理をさせるな」

「はい!」

 

 今度は全員の声が揃った。

 神宮司教官は、少しだけ頷く。

 

「その上で、総合戦闘技術演習の日程についてだ」

 

 その言葉に、訓練場の空気が変わった。

 榊の背筋がわずかに伸びる。

 珠瀬が息を呑む。

 彩峰は無表情のまま、しかし目だけがわずかに鋭くなる。

 鎧衣も、明るい表情を少しだけ引き締めた。

 私は、胸の奥で静かに息を整えた。

 

「本来の予定より、演習日程を前倒しする可能性が高い」

「前倒し……ですか」

 

 榊が思わず呟いた。

 

「そうだ」

 

 神宮司教官は、榊を見る。

 

「候補日はまだ最終決定ではない。だが、現在の進捗と今後の訓練計画を踏まえ、早めに仕上げへ入る」

「理由を伺ってもよろしいでしょうか」

 

 榊の声は硬い。

 だが、そこに反発だけがあるわけではない。

 分隊長として、理由を確認しようとしている声だった。

 

 神宮司教官は、少しだけ間を置いて答えた。

 

「あなたたちは、基礎だけを積んでいる段階から、次の段階へ進む時期に来ている」

 

 榊の目が揺れる。

 

「次の段階……」

「総合戦闘技術演習は、そのための試練です。個人技ではなく、五人で動けるか。互いの欠点を補い、互いの長所を活かせるか。それを見る」

 

 神宮司教官の声は厳しい。

 だが、いつもより少しだけ温かかった。

 

「鎧衣が戻ったことで、あなたたちはようやく五人揃った。ならば、五人で越えるべき壁も見えるはずです」

 

 珠瀬が、小さく拳を握る。

 彩峰は静かに榊を見た。

 榊は、その視線に気づいたように、少しだけ目を伏せる。

 

 二人の間には、まだ硬さがある。

 完全に噛み合っているとは言えない。

 けれど、以前のようにただぶつかるだけではない。

 互いを見ようとしている。

 それだけでも、変化なのだと思った。

 

「神宮司教官」

 

 私は口を開いた。

 

「はい、御剣」

「我々は、前倒しに足ると判断されたのでしょうか」

 

 神宮司教官の視線が、こちらへ向く。

 

「足るかどうかは、これからの訓練で示しなさい」

 

 厳しい返答。

 だが、私はそれで十分だった。

 

「はい」

「あなたたちに必要なのは、誰かに合格させてもらうことではありません」

 

 その言葉が、静かに胸へ落ちた。

 

「神宮寺少佐がいくら助言をしても、私がいくら訓練を組んでも、最後に越えるのはあなたたち自身です」

 

 神宮寺少佐の名が出た瞬間、珠瀬の表情が少しだけ引き締まった。

 きっと、あの言葉を思い出したのだろう。

 

 一呼吸。

 狙う前に。

 慌てる前に。

 逃げる前に。

 自分の心を整えるための一呼吸。

 

 珠瀬は、神宮寺少佐のその言葉を、ずっと大切にしているように見えた。

 榊も、彩峰も、鎧衣も、それぞれ何かを受け取っている。

 私も同じだ。

 

 冥夜ならできる。

 簡単ではないと知りながら、それでも言ってくれた言葉。

 その言葉が、私の背中を押している。

 

「だからこそ」

 

 神宮司教官は、少しだけ声を低くした。

 

「神宮寺少佐に頼りきることは許しません」

 

 その一言で、空気が引き締まった。

 

「彼は、あなたたちの答えを代わりに出す存在ではありません。必要な時に方向を示すことはあっても、歩くのはあなたたちです」

「……はい」

 

 榊が答える。

 その声には、いつもの硬さの奥に、覚悟があった。

 彩峰も、小さく頷いた。

 珠瀬は不安そうではあったが、逃げる目ではない。

 鎧衣は笑みを消し、真剣に教官を見ている。

 私も、背筋を伸ばした。

 

「総合戦闘技術演習の日程は、数日以内に正式に通達します。それまで、あなたたちは一日一日を無駄にしないように」

「はい!」

 

 五人の声が揃った。

 神宮司教官は、わずかに頷く。

 

「では、訓練を再開します。鎧衣は復帰初日として負荷を制限。榊、彩峰、御剣は連携確認。珠瀬は射撃姿勢と呼吸の再確認。各自、位置につきなさい」

「はい!」

 

 私たちは一斉に動き出した。

 鎧衣が、軽く腕を回す。

 

「よーし、久しぶりに動くぞー」

「だから、無理をするなと言われたばかりでしょう」

 

 榊がすぐに注意する。

 

「分かってるって。でもさ、やっぱり嬉しいんだよ。みんなとまた訓練できるの」

 

 その言葉に、榊は一瞬だけ黙った。

 そして、少しだけ表情を和らげた。

 

「……なら、余計に無理をしないことね」

「うん!」

 

 彩峰が、ぼそっと呟く。

 

「……騒がしい」

「慧さん、それさっきも言った!」

「何度でも言う」

 

 珠瀬が、ふふっと笑う。

 その笑い声を聞いて、私は思った。

 

 ああ。

 ようやく、戻ってきたのだ。

 

 207Bが、五人に戻った。

 

 

10月31日 夕方

横浜基地・訓練場外縁

<< 神宮寺 真白 >>

 

 少し離れた場所から、207Bの訓練を見ていた。

 本当は、あまり口を出さない方がいい。

 

 今の207Bに必要なのは、自分の助言ではなく、彼女たち自身の積み重ねだ。

 まりもさんにも言われた。

 

 期待は、時に重荷になる。

 早く進ませたい。

 強くなってほしい。

 生き残ってほしい。

 その気持ちは本物だ。

 けれど、それを押しつければ、彼女たちを潰してしまうかもしれない。

 

 だから今日は、少し離れて見るだけにした。

 

 訓練場では、五人が動いている。

 榊千鶴。

 彩峰慧。

 珠瀬壬姫。

 御剣冥夜。

 そして、鎧衣美琴。

 

 五人揃った207B。

 その光景を見ているだけで、胸の奥が少し熱くなる。

 

「……ようやく、揃った」

 

 小さく呟く。

 

 美琴は、思ったより元気そうだった。

 病み上がりのはずなのに、動きが軽い。ただ、無理をしている感じではない。身体が動くことを、心から喜んでいるように見えた。

 

 医務区画から回復補助が出ているとは聞いている。

 夕呼の管理下で、何かしらのサンプルも使われているらしい。詳しいことは知らない。聞いても、たぶん教えてもらえない。

 それでも、今の美琴が笑っていることは確かだった。

 

「神宮寺少佐」

 

 背後から声をかけられる。

 振り返ると、まりもさんが立っていた。

 

「まりもさん」

「見学ですか?」

「はい。邪魔にならない範囲で」

「それなら構いません」

 

 まりもさんは、自分の隣に立った。

 しばらく、二人で訓練場を見る。

 五人の声が、夕方の空気に響いている。

 

「総合演習、前倒しするんですね」

「まだ正式決定ではありません」

「でも、伝えたんですよね」

「準備を始めさせる必要がありますから」

 

 まりもさんの声は静かだった。

 

「ただし、焦らせるつもりはありません。最終判断は私がします」

「はい」

「鎧衣の回復状況も含めて、無理があると判断すれば延期します」

「それでお願いします」

 

 自分は頷いた。

 

「自分は、少し急ぎすぎているのかもしれません」

 

 まりもさんは、少しだけこちらを見る。

 

「自覚があるなら、まだ大丈夫です」

「大丈夫ですかね……」

「少なくとも、自覚がないよりは」

 

 厳しい。

 でも、優しい。

 まりもさんらしい言葉だった。

 

「神宮寺少佐」

「はい」

「あなたがあの子たちを心配していることは分かります」

「……はい」

「ですが、あの子たちは訓練兵です。まだ守られるべき存在でもあります」

「分かっています」

「同時に、自分たちで越えなければならない壁もあります」

 

 訓練場で、榊と彩峰が連携位置を確認している。

 まだ少しぎこちない。

 けれど、以前よりも互いを見ている。

 珠瀬は呼吸を整え、射撃姿勢を作っている。

 冥夜は、鎧衣の動きを気にしながらも、自分の足元を見失っていない。

 鎧衣は明るい声で皆を動かしながら、時折、神宮司教官の指示に素直に頷いている。

 

「……そうですね」

 

 自分は小さく答えた。

 

「自分が全部助けるわけにはいかない」

「ええ」

「でも、助けられるところは助けたいです」

「それも悪いことではありません」

 

 まりもさんは、訓練場を見たまま言った。

 

「ただし、助けることと、代わりに背負うことは違います」

 

 その言葉が、胸に残った。

 

 助けること。

 代わりに背負うこと。

 

 自分は、いつもその境界を間違えそうになる。

 未来を知っているから。

 失うものを知っているから。

 だから、先に動きたくなる。

 全部を抱え込みたくなる。

 

 けれど、それでは駄目なのだ。

 

「……覚えておきます」

「お願いします」

 

 まりもさんは、少しだけ表情を緩めた。

 

「それに、あの子たちは思っているより強いですよ」

「はい」

 

 それは、分かる。

 今日の彼女たちを見れば、分かる。

 まだ未熟だ。

 まだ危うい。

 けれど、確かに前へ進んでいる。

 

「神宮寺少佐」

「はい」

「総合演習が前倒しになるなら、あなたにも協力していただくことになります」

「もちろんです」

「ただし、直接答えを与えすぎないように」

「はい」

「あと、無理をしないように」

「……皆さん、それ言いますね」

「言われる理由があるからです」

 

 反論できなかった。

 まりもさんは少しだけ笑った。

 

「さて。私は戻ります。あの子たちを見ていないと、鎧衣がすぐ調子に乗りそうなので」

「確かに」

 

 訓練場では、美琴が少し大きく動こうとして、榊に即座に止められていた。

 まりもさんは小さく息を吐く。

 

「まったく……復帰も間もないのに元気すぎる」

 

 その声には、呆れと安堵が混ざっていた。

 そして、まりもさんは訓練場へ戻っていった。

 

 自分はその背中を見送る。

 

 神宮司まりも。

 207Bの教官。

 自分が守りたい人。

 そして、207Bを本当に導ける人。

 

 自分は、あの人の代わりにはなれない。

 なるべきでもない。

 だからこそ、できることをする。

 

 少し離れた場所から、必要な時だけ背中を押す。

 それでいい。

 それが、今の自分にできることだ。

 

 夕方の訓練場に、五人の声が響く。

 207Bが五人揃った。

 総合戦闘技術演習は、前倒しになる。

 その先に何があるのか、まだ彼女たちは知らない。

 けれど、確かに動き始めている。

 

 自分は、訓練場の端で小さく息を吐いた。

 その時だった。

 

「真白さーん!」

 

 明るい声が、訓練場の方から飛んできた。

 鎧衣美琴だった。

 まりもさんに止められたのか、走ってはいない。しかし、片手を大きく振りながら、こちらへ向かってくる。

 

「鎧衣訓練兵、復帰おめでとうございます」

「ありがとうございます!」

 

 鎧衣はにっと笑った。

 

「でも、真白さんって呼んじゃ駄目ですか?」

「えっと、訓練中は少佐でお願いします」

「じゃあ訓練外なら?」

「……状況によります」

「やった、可能性あり!」

「今の返事でそうなります?」

 

 鎧衣の軽さに、思わず肩の力が抜ける。

 美琴は、こちらの表情を見て、少しだけ目を細めた。

 

「真白さん、考えすぎてる顔してますよ」

「……分かりますか?」

「分かりますよ。山で迷った時と同じ顔です」

「山で迷った時」

「そういう時は、一回止まるんです。無理に進むと、余計に迷いますから」

 

 その言葉は、思ったより真っ直ぐ胸に入ってきた。

 

「一回、止まる……」

「はい。まし――じゃなくて、神宮寺少佐は、たぶん進むのは得意です。でも、止まるのは苦手そうです」

「……よく見てますね」

「ボク、こういう勘はいいんです」

 

 美琴は、少し得意げに笑った。

 

「だから、困ったら言ってください。ボク、道を探すのは得意ですから」

 

 軽い言葉だった。

 いつもの調子で、深刻さなんてほとんどない。

 けれど、その軽さに少し救われる。

 

「ありがとうございます、鎧衣訓練兵」

「どういたしまして!」

 

 その時、訓練場から榊の声が飛んだ。

 

「鎧衣! まだ訓練中でしょう!」

「はーい! 今戻るよー!」

 

 美琴はまた手を振って、訓練場へ戻っていく。

 その背中は、やはり軽い。

 でも、ただ軽いだけではなかった。

 

 207Bに必要な明るさ。

 誰かの緊張をほどく声。

 道を見失った時に、ふっと別の方向を指せる勘。

 

 この子も、きっと伸びる。

 そう思った。

 

 そして、同時に思う。

 この五人を、ちゃんと前へ進ませたい。

 ただし、代わりに背負うのではなく。

 彼女たち自身の足で。

 

 鎧衣美琴は、207Bへ戻ってきた。

 榊千鶴は、その復帰を叱りながら喜んだ。

 彩峰慧は、騒がしいと言いながら受け入れた。

 珠瀬壬姫は、安心したように笑った。

 御剣冥夜は、五人揃った意味を胸に刻んだ。

 

 そして自分は、少しだけ分かった。

 

 207Bを前へ進ませることは、彼女たちの代わりに歩くことではない。

 背中を押す。

 道を照らす。

 けれど、最後の一歩は彼女たち自身に踏ませる。

 

 たぶん、それが教導官として求められていることなのだ。

 

 その日、五人揃った207Bに、前倒しの試練が告げられた。

 訓練場の夕方の空気の中で、彼女たちはまだ笑っている。

 少し不安そうに。

 それでも、前を向いて。

 

第18話「五人目の帰還」 END




本当は10/29日にしっかりと復帰描写をしたかったのですが、A-01と訓練中だったので、描写をずらしました。
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