マブラヴ・インサート 〜白き少佐の因果強化計画〜   作:きのこ大三元

43 / 43
2026年8月1日 定期更新です、原作より早めた前半の要の試験…総合戦闘技術演習への話となります。



第23話「五人で越える朝」

11月4日 夜

国連軍横浜基地・207B宿舎

<< 榊 千鶴 >>

 

 明日、207Bは総合戦闘技術演習へ出発する。

 

 座学と夕食を終え、装備の準備も済ませた。本来なら早めに休むべき時間だったが、誰もすぐに眠れそうな顔をしていない。

 

 千鶴は小さな卓上へ地図と資料を広げた。

 

「最終確認をするわ」

 

 床へ座っていた美琴が、ぱっと顔を上げる。

 

「お、真面目モードだ」

「鎧衣、茶化さない」

「はーい」

 

 美琴は両手を上げて笑った。

 少し硬くなっていた部屋の空気が、それだけでわずかに和らぐ。こういう時、美琴の明るさはありがたい。本人が自覚しているかどうかは分からないが。

 

 彩峰は壁へ背を預け、腕を組んでいる。いつもの無表情だが、以前のように話を聞く前から背を向けてはいない。冥夜は背筋を伸ばして座り、珠瀬は膝の上で両手を握りしめていた。

 

 ようやく揃った五人で、明日の試練へ向かう。

 

「演習で見られるのは、個人の能力だけではないわ。五人が分隊として判断し、最後まで行動できるかどうかよ」

 

 千鶴は地図の上へ指を置いた。

 

「それぞれが正しいと思う方向へ勝手に動けば、分隊としては崩れる。今の私たちには、まだ連携上の課題がある」

「……具体的には?」

 

 彩峰が短く尋ねた。

 声には多少の刺が残っているが、ただ反発したいわけではないらしい。

 

「私とあなたの判断がぶつかること。御剣が一人で前へ出すぎること。珠瀬が焦って射撃を急ぐこと。鎧衣が状況確認より先に動くこと」

「……榊は?」

「え?」

「榊自身の問題」

 

 千鶴は答えに詰まった。

 彩峰は目を逸らさず、答えを待っている。

 

「……私が、全員を管理しようとしすぎることよ」

 

 口にすると胸が痛んだ。

 分隊長として正しく判断し、全員をまとめ、失敗を避けたい。その思いが強くなるほど、周囲の判断まで自分で決めようとしてしまう。

 

 神宮寺少佐にも、正解を一人で抱え込む必要はないと言われた。

 

「必要な時には私が決めるわ。でも、現場で気づいたことは必ず言って。私一人の視界で、全部が見えるわけではないから」

 

 彩峰は少しだけ目を伏せた。

 

「……分かった」

 

 短い返事だったが、以前とは違う。

 それで十分だった。

 

 珠瀬がおずおずと手を上げる。

 

「あの……私、明日ちゃんと撃てるでしょうか」

「そなたの射撃は、我らに必要な力だ」

 

 冥夜が迷わず答えた。

 

「でも、焦ると手が震えてしまって……救命講習の時も、最初はうまく動けませんでした」

「あれは皆そうだったよ」

 

 美琴が明るく口を挟む。

 

「たまなんて、人工呼吸の説明の時は真っ赤だったけど、最後はちゃんとできたじゃん」

「み、美琴さん!」

「それに、射撃なら普段から一番頼りになるよ」

 

 珠瀬は恥ずかしそうに俯いたが、先ほどより表情は柔らかくなっている。

 

「珠瀬。焦ったら、一呼吸よ」

 

 千鶴が言うと、珠瀬は顔を上げた。

 

「撃つ前に状況を確認する。慌てて動く前に、周囲を見る。その一呼吸があれば、あなたは狙えるわ」

「……はい」

 

 珠瀬の声へ、少しだけ力が戻った。

 

「私も、明日は前へ出すぎぬよう心掛ける」

 

 冥夜が静かに言った。

 

「御剣が自分から言うのは珍しいわね」

「以前の私は、自ら先頭へ立つことが守ることだと考えていた。しかし、私が倒れれば、結果として皆へ負担を残す」

 

 冥夜は一度言葉を切り、五人の顔を見た。

 

「明日は、進むことだけでなく戻る道も考える」

「私も、気づいたことは言う」

 

 彩峰が続けた。

 

「勝手に離れない」

「それだけでも助かるわ」

「榊も命令しすぎない」

「……努力する」

 

 千鶴が答えると、美琴が笑った。

 

「じゃあ私は、皆が暗くならないようにする!」

「地形と状況も確認しなさい」

「ちゃんと見るって」

「自分の体調もよ。復帰してまだ日が浅いんだから」

「分かってるよ」

 

 本当に分かっているかは少し不安だが、美琴は自分の役割を理解している。

 五人はそれぞれ違う。だから衝突もするが、違うからこそ補える部分もある。

 

「明日は、私たち自身で越えるのよ」

 

 千鶴は資料を閉じた。

 

「まりも教官にも、神宮寺少佐にも、私たちが自分たちで次へ進めると示しましょう」

「うん。早く戻って、真白少佐を驚かせよう!」

「演習は競争ではないわ」

「気持ちの問題だよ」

 

 その時、宿舎の扉が控えめに叩かれた。

 

「失礼します」

 

 扉の向こうに立っていたのは、神宮寺真白少佐だった。白い制服を着て、少し疲れた顔をしている。

 

「神宮寺少佐?」

 

 千鶴は立ち上がった。

 

「この時間に、どうされたのですか」

「明日の前に、少しだけ様子を見に来ました。まりもさんから、長居をしないことと、答えを教えないことを条件に許可をもらっています」

 

 美琴が楽しそうに笑う。

 

「まりも教官らしいね」

「はい。破ると怖いので、短く済ませます」

 

 真白少佐は室内を見回した。

 広げられた資料と地図、五人の表情を確認し、少しだけ安心したように息を吐く。

 

「最終確認中でしたか」

「はい。分隊行動と、各自の課題を確認していました」

「良いと思います」

 

 千鶴は少し迷ったあと、尋ねた。

 

「少佐から見て、何か助言はありますか?」

 

 言ってから、答えを求めてしまったことに気づく。

 真白少佐も同じことを考えたらしく、少し間を置いて首を横に振った。

 

「具体的な攻略法は言いません。明日の演習は皆さん自身が越えるものですから、自分が先に正解を渡してしまったら意味が薄くなります」

「……はい」

「ただ、皆さんで今決めたことを、途中で投げ出さないでください」

 

 真白少佐は、五人を順番に見た。

 

「一人で抱え込まず、気づいたことは言葉にする。焦った時は一度周囲を見る。前へ出る時は戻る道も考えて、誰かが暗くなった時は声をかける。それを五人で続けられれば、皆さんなら大丈夫です」

 

 個別に答えを与えたわけではない。

 先ほど自分たちが話した内容を、五人の決定として確認しただけだった。

 

「皆さん自身が積み重ねてきたものを、明日は信じてください」

「ありがとうございます、神宮寺少佐」

 

 千鶴が頭を下げると、他の四人も続いた。

 

「こちらこそ。遅い時間にすみませんでした」

 

 真白少佐はそこで何かを思い出し、美琴へ向き直った。

 

「あ、それと美琴。もし演習が終わって余裕があれば、綺麗な貝殻を一つ拾ってきてもらえませんか」

「貝殻?」

 

 全員の視線が集まった。

 明日は総合戦闘技術演習であり、遊びに行くわけではない。

 

「基地に、あまり外へ出られない子がいるんです。その子へのお土産にしたくて」

「その子、海へ行ったことないの?」

「たぶん、実際の海は見たことがないと思います」

 

 真白少佐は少し困ったように笑った。

 

「もちろん演習が最優先です。無理に探す必要はありません。ただ、皆さんが無事に戻ってきた証になるものを、その子にも見せられたらと思っただけです」

 

 無事に戻った証。

 その言葉が、千鶴の胸へ残った。

 

 貝殻そのものに重要な意味はない。

 演習を終え、五人が帰還し、それを誰かへ伝えられることに意味がある。

 

 美琴は一瞬だけ真面目な顔をしたあと、いつもの笑顔を見せた。

 

「任せてよ。演習を終わらせて、余裕があったら最高の一個を探してくる!」

「無理はしないでくださいね」

「分かってるって」

「美琴さんの場合、本当に心配です……」

 

 珠瀬が小さく呟き、部屋に笑いが起きた。

 

「その人、喜んでくれるといいですね」

「うん。きっと喜んでくれると思います」

 

 冥夜が静かに頷く。

 

「ならば我らは、五人で無事に戻らねばなりませんな」

「……貝殻を渡すためにも」

 

 彩峰が続ける。

 

「貝殻を演習目的にしないで」

 

 千鶴は注意したが、自分でも少し笑っていた。

 真白少佐も、その様子を見て表情を緩める。

 

「皆さんなら大丈夫です」

 

 その言葉は、根拠のない慰めには聞こえなかった。

 

「それでは、そろそろ戻ります。まりもさんに怒られるので」

「聞こえていますよ」

 

 扉の外から声がした。

 全員が固まり、真白少佐もゆっくりと振り返る。

 

 そこには、神宮司まりも教官が立っていた。

 

「神宮寺少佐。長居はしないという約束でしたね」

「はい。今、帰るところです」

「よろしい」

 

 まりも教官は部屋の中を見回し、207Bへ向き直った。

 

「あなたたちも、確認はほどほどにして休みなさい。明日は頭も身体も使います」

「はい!」

 

 声が揃う。

 まりも教官はわずかに頷き、真白少佐へ視線を戻した。

 

「少佐。ありがとうございました」

「自分は何もしていません」

「この子たちの緊張を少し和らげてくださいました。それで十分です」

 

 真白少佐は照れたように目を伏せ、一礼してまりも教官と共に宿舎を出ていった。

 

 扉が閉まると、部屋へ静かな余韻が残る。

 

「よし。じゃあ明日は、演習突破と貝殻探しだね」

「貝殻は任務に追加しない」

 

 千鶴は即座に否定した。

 

「最優先は五人で演習を終えること。貝殻は全てが終わった後、余裕がある場合だけよ」

「了解、分隊長」

 

 美琴は笑い、彩峰も小さく頷く。

 珠瀬の表情からは、先ほどまでの強い緊張が少し消えていた。

 

 冥夜が五人を見回す。

 

「明日は、五人で越えよう」

 

 全員が頷いた。

 

 不安が消えたわけではない。

 役割や作戦にも、まだ不完全な部分は残っている。

 それでも千鶴は、今なら一人で全てを決めようとせず、五人で判断できる気がした。

 

 

11月4日 夜

国連軍横浜基地・207B宿舎前通路

<< 神宮寺 真白 >>

 

 宿舎を出たあと、まりもさんと並んで夜の通路を歩いた。昼間より静かだが、遠くでは機械音が続いている。戦争を支える基地の機能が、夜になっても止まることはない。

 

「少佐。先ほどの対応は良かったと思います」

「自分は答えを言わなかっただけです」

「それが必要だったのです」

 

 まりもさんは前を向いたまま続ける。

 

「今のあの子たちには、誰かから正解を与えられるより、自分たちで考え、決めた結果を背負う経験が必要です」

「……正直に言えば、教えたくなります」

「攻略法をですか?」

「はい。こうすれば失敗しないとか、ここでこう動けばいいとか」

 

 未来を知っているからこそ、口を出せる部分は多い。

 しかし、それで明日の演習を突破しても、彼女たち自身の成長にはならない。

 

「助けたいです。でも、自分が代わりに越えることはできません」

「それでよいのだと思います」

 

 まりもさんの答えには迷いがなかった。

 

「教官は、答えを与える仕事ではありません。訓練兵が自分で立てるようにし、必要な時に背中を押す仕事です」

「見守るのは難しいですね」

「ええ。手を出した方が早い場面もありますから」

 

 まりもさんの声に、教官として積み重ねてきた時間が滲んでいた。

 

 訓練兵を鍛えれば、その先には戦場がある。

 強くすることは、戦場へ送り出すことでもある。それでも鍛えなければ、彼女たちはさらに高い確率で死ぬ。

 

「明日、自分は横浜基地に残ります」

「その方が良いでしょう。少佐が同行すれば、あの子たちは少佐の判断を意識してしまいます」

「分かっています。でも、見に行きたかったです」

 

 正直に言うと、まりもさんは少し驚き、それから柔らかく笑った。

 

「あの子たちを大切に思ってくださっているからですね」

「大切です。だから怖いです」

 

 強くなるほど、207Bは戦場へ近づく。

 自分が関わったことで成長が早まれば、原作より早く危険へ立つ可能性もある。

 

「私は、それをずっと見てきました」

 

 まりもさんは静かに言った。

 

「訓練兵を鍛え、生き残る技術を身につけさせる。その結果、彼女たちは戦場へ出ていきます。ですが、鍛えなければ戦場で死ぬだけです」

「……はい」

「演習を越えることは、戦場へ近づくことでもあります。それでも、越える力を与えるのが教官です」

 

 正しくて、苦しい言葉だった。

 

「少佐は、その現実に慣れる必要はありません」

「慣れなくてもいいんですか?」

「慣れすぎれば、失うものもあります。心配すること自体は悪くありません。ただし、心配した結果、本人たちの成長を奪わないでください」

「……気をつけます」

「顔に出ても、途中で手を出さないこと」

「顔に出るのは許してください」

「努力してください」

 

 少しだけ空気が緩んだ。

 

「貝殻は、社霞さんへのお土産ですね」

「分かりましたか」

「少佐が基地の子と説明すれば、他に思い当たりません」

「……無事に戻った証が欲しかったんです」

 

 自分は小さく答えた。

 

「皆が戻ってきたと、霞にも目に見える形で伝えられたらと思って。でも、自分が頼むと重くなりすぎるので、美琴に任せれば少し明るくなるかなと」

「少佐らしい考えです」

「そうでしょうか」

「ええ。ただし、鎧衣が貝殻探しを主目的にしないよう、明日の朝にも確認します」

「お願いします。自分もかなり心配です」

 

 二人で少しだけ笑った。

 

「少佐は横浜基地で、ご自分の役割を果たしてください。私は教官として、あの子たちを送り出します」

「はい。207Bをお願いします」

「それは私の台詞です。少佐も、こちらで無理をしないように」

「……お互い様ですね」

「そうですね」

 

 宿舎前の分岐で足を止め、互いに頭を下げる。

 まりもさんは再び207B宿舎へ、自分は居住区へ向かった。

 

 明日、彼女たちは自分たちの力で試練へ向かう。

 自分にできるのは、答えを渡さず、戻ってくると信じることだけだった。

 

 

11月5日 朝

国連軍横浜基地・搬送区画

<< 神宮司 まりも >>

 

 朝の搬送区画には冷たい空気が流れ、南方へ向かう輸送機の準備音が響いていた。

 

 207Bの五人は、機体から少し離れた場所で装備の最終確認をしている。榊は資料と地図を何度も見直し、彩峰は眠そうに見えながら周囲の動きを見逃していない。珠瀬は緊張で表情が硬く、御剣は静かに輸送機を見上げていた。

 

 鎧衣だけは、必要以上に荷物が多い。

 

「鎧衣。その荷物は何ですか」

「演習に必要なものです」

「全てですか?」

「……多分?」

「鎧衣」

「だ、大丈夫です! 正式装備は全部入っています!」

 

 まりもはため息をついた。

 演習に不要なものがあれば現地で負担になるが、この場で一つずつ確認している時間はない。明らかな規定違反がないことだけを見て、五人を整列させた。

 

「これより、総合戦闘技術演習へ向かいます。予定期間は最長一週間です」

 

 五人の表情が引き締まる。

 

「現地では、地形、天候、視界、通信状態、罠、物資管理まで、全てが評価対象になります。目的は誰か一人が優秀な結果を出すことでも、最短時間で終わらせることでもありません」

 

 まりもは、五人を順番に見た。

 

「五人で考え、五人で判断し、五人で戻ること。それが今回の目的です」

「はい!」

 

「前回、あなたたちは難所で失敗しました。訓練で失敗すること自体は問題ではありません。しかし、原因を理解せず、同じ形で失敗することは許されません」

 

 誰も目を逸らさなかった。

 昨夜、自分たちで課題を言葉にした成果だろう。

 

「榊。分隊長として判断しなさい。ただし、全てを一人で抱えないこと」

「はい」

「彩峰。気づいたことを、行動だけでなく言葉で共有すること」

「……はい」

「御剣。先頭へ出る時は、分隊が続ける位置と、退く経路を確認すること」

「承知しました」

「珠瀬。焦った時ほど、呼吸と周囲を確認しなさい」

「はいっ」

「鎧衣。地形を見ること。自分だけで先に行かないこと。それから、ふざけすぎないこと」

「はい! ……最後だけ少し扱いが違いません?」

「違いません」

 

 張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ。

 緊張は必要だが、身体が動かなくなるほど抱え込ませるべきではない。その境界を整えるのも教官の仕事だった。

 

「真白少佐!」

 

 美琴の声に振り返る。

 搬送区画の入口から、神宮寺真白少佐が小走りで近づいてきた。白い制服姿で、少し息を切らしている。

 

「すみません。出発前に、少しだけ」

 

 真白少佐は207Bの前へ立った。

 まりもは何も言わず、一歩だけ下がる。

 

「自分から言えることは、昨夜と同じです」

 

 真白少佐は五人を見回した。

 

「昨日、皆さんで決めたことを信じてください。一人で抱え込まず、迷ったら声をかけ合って、五人で戻ってきてください」

「はい!」

 

 榊を中心に、五人の返事が揃った。

 真白少佐はそれ以上、個別の答えを繰り返さなかった。昨夜の話を覚えているかどうかは、彼女たち自身の問題だからだ。

 

「それと、美琴」

「貝殻でしょ。覚えてるよ」

「本当に余裕がある時だけでいいですからね」

「演習が終わって、皆で戻ってから探すよ」

「それならお願いします」

 

 珠瀬がおずおずと口を開く。

 

「その子に、私たちがちゃんと戻ったと伝えられるように頑張ります」

 

 真白少佐は、一瞬だけ目を細めた。

 

「はい。横浜基地で待っています」

 

 その声には優しさと同時に、隠しきれない重さがあった。

 真白少佐は、いつも誰かの帰還を願っている。その願いが強すぎて、本人を押し潰しそうに見える時もある。

 

「少佐。出発時間です」

「はい」

 

 真白少佐が一歩下がる。

 

「皆さん、行ってらっしゃい」

 

 207Bの五人が敬礼した。

 

「行ってきます!」

 

 五人は装備を背負い、輸送機へ向かって歩き出す。

 先頭には榊がいる。彩峰は少し離れながらも、その歩調に合わせていた。珠瀬と御剣が続き、美琴は最後尾から何かを話しかけている。

 

 五人はまだ完成された分隊ではない。

 それでも、昨夜までよりは互いを見て歩いていた。

 

 輸送機の扉が閉まり、エンジン音が大きくなる。

 真白少佐は、機体から目を離さなかった。

 

「少佐」

「はい」

「あの子たちは戻ってきます」

「……はい」

「信じてください」

 

 真白少佐は少しだけ間を置き、今度ははっきりと頷いた。

 

「はい。信じます」

 

 輸送機が滑走を始める。

 教官は、訓練兵へ答えを渡すことはできない。代わりに困難を越えることもできない。できるのは、必要な力を教え、自分の足で進む背中を押し、戻ってくる場所で待つことだけだ。

 

「少佐は、横浜基地でご自分の仕事へ戻ってください。あの子たちは、私が見ています」

「お願いします」

「任されました」

 

 真白少佐は深く頭を下げ、格納区画の方向へ歩き出した。

 その背中を見送ったあと、まりもは再び輸送機へ視線を戻す。

 

 機体は滑走路を離れ、南の空へ上がっていった。

 

 207Bは、真白から正解を与えられたわけではない。

 前夜に自分たちの不安を言葉にし、それぞれの課題と役割を確認したうえで、自分たちの足で試練へ向かった。

 

 次にこの基地へ戻ってくる時、五人が何を得ているのか。

 それを確かめるために、まりもは教官として帰還を待つ。

 

第23話「五人で越える朝」 END

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

マブラヴオルタネイティヴ〜願いそして望む者〜(作者:ガトリング餅)(原作:Muv-Luv)

武と純夏の幼なじみである服部 凪が8年前のBETAが居る世界に目覚め、色々と頑張るお話。▼そこで凪は様々な場面に出くわし、経験を得て何を願い望むのかのか……▼⬇Twit…Xのアカウントですゲームとかそんなのを投稿してます、生存確認的な奴です▼https://x.com/mochi02913


総合評価:22/評価:-.--/連載:8話/更新日時:2026年05月31日(日) 22:19 小説情報

マブラヴ・インサート IFルート集(作者:きのこ大三元)(原作:Muv-Luv)

これは、本編『マブラヴ・インサート…』とは異なる可能性を描くIFルート集です。▼完全に作者の息抜きとして作成しています。▼IFルート、番外編ですので気まぐれに更新していく予定です。▼本編では国連軍横浜基地に現れ、香月夕呼副司令の管理下に置かれた異物――神宮寺真白。▼しかし、もし彼を取り巻く世界が少しだけ違っていたら。▼もし夕呼副司令が、彼を“研究対象”ではな…


総合評価:14/評価:-.--/連載:5話/更新日時:2026年06月27日(土) 22:33 小説情報

Muv-Luv 戦場に咲く雷花(作者:マルク)(原作:Muv-Luv)

地球外生命体BETAによって地球は滅亡の危機に瀕していた。▼地球の管理神もまたその事実に苦しむ1柱である。▼ある日、神々の会合である議題が挙がった。▼転生者にやらせてみよう。▼その者を神の代行者として人類を救おう。▼しかし事は出来るだけゆっくりとだ。BETA側に神的存在がいないとも限らない。故に、事は静かに、慎ましく、エレガントに運ぶ事。▼作中の主人公がやっ…


総合評価:438/評価:8/短編:17話/更新日時:2026年07月04日(土) 18:00 小説情報

Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger(作者:セントラル14)(原作:Muv-Luv)

はじめは"元の世界"に還りたいと願った。▼だがそれは叶わず、戦いが突きつけられる。▼戦いに身を任せ、戦い、戦い、戦い続けた。資源、食料、ヒト、全てをすり減らしながら。▼いつ死んだ? 何処で死んだ?▼はじまりに戻っていた。▼そこでも戦い、戦い、戦いだ。戦いに明け暮れるが、そこでは全てを失った。全てだ。▼力があっても、知識があっても、覚悟がそ…


総合評価:2192/評価:8.47/連載:59話/更新日時:2026年07月23日(木) 21:00 小説情報

マブラヴ オルタネイティブー最良の未来を掴み取るためにー(作者:桜大尉)(原作:Muv-Luv)

白銀武は確かに世界の英雄だった、しかし武自身はそうとは思っていなかった。「身近な人を守れなくて何が英雄だ!」と。武は虚数空間の中で▼「やり直せるならもう一度.....次は誰も死なせない!次こそは最良の未来を掴み取ってみせる!!」と強く思った。▼これは英雄と呼ばれた1人の男が最良の未来を掴み取る「あいとゆうきのおとぎばなし」


総合評価:69/評価:-.--/連載:15話/更新日時:2026年04月24日(金) 22:56 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>