マブラヴ・インサート 〜白き少佐の因果強化計画〜   作:きのこ大三元

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2026年8月1日 定期更新です、原作より早めた前半の要の試験…総合戦闘技術演習への話となります。



第23話「五人で越える朝」

11月4日 夜

国連軍横浜基地・207B宿舎

<< 榊 千鶴 >>

 

 明日、207Bは総合戦闘技術演習へ出発する。

 

 座学と夕食を終え、装備の準備も済ませた。本来なら早めに休むべき時間だったが、誰もすぐに眠れそうな顔をしていない。

 

 千鶴は小さな卓上へ地図と資料を広げた。

 

「最終確認をするわ」

 

 床へ座っていた美琴が、ぱっと顔を上げる。

 

「お、真面目モードだ」

「鎧衣、茶化さない」

「はーい」

 

 美琴は両手を上げて笑った。

 少し硬くなっていた部屋の空気が、それだけでわずかに和らぐ。こういう時、美琴の明るさはありがたい。本人が自覚しているかどうかは分からないが。

 

 彩峰は壁へ背を預け、腕を組んでいる。いつもの無表情だが、以前のように話を聞く前から背を向けてはいない。冥夜は背筋を伸ばして座り、珠瀬は膝の上で両手を握りしめていた。

 

 ようやく揃った五人で、明日の試練へ向かう。

 

「演習で見られるのは、個人の能力だけではないわ。五人が分隊として判断し、最後まで行動できるかどうかよ」

 

 千鶴は地図の上へ指を置いた。

 

「それぞれが正しいと思う方向へ勝手に動けば、分隊としては崩れる。今の私たちには、まだ連携上の課題がある」

「……具体的には?」

 

 彩峰が短く尋ねた。

 声には多少の刺が残っているが、ただ反発したいわけではないらしい。

 

「私とあなたの判断がぶつかること。御剣が一人で前へ出すぎること。珠瀬が焦って射撃を急ぐこと。鎧衣が状況確認より先に動くこと」

「……榊は?」

「え?」

「榊自身の問題」

 

 千鶴は答えに詰まった。

 彩峰は目を逸らさず、答えを待っている。

 

「……私が、全員を管理しようとしすぎることよ」

 

 口にすると胸が痛んだ。

 分隊長として正しく判断し、全員をまとめ、失敗を避けたい。その思いが強くなるほど、周囲の判断まで自分で決めようとしてしまう。

 

 神宮寺少佐にも、正解を一人で抱え込む必要はないと言われた。

 

「必要な時には私が決めるわ。でも、現場で気づいたことは必ず言って。私一人の視界で、全部が見えるわけではないから」

 

 彩峰は少しだけ目を伏せた。

 

「……分かった」

 

 短い返事だったが、以前とは違う。

 それで十分だった。

 

 珠瀬がおずおずと手を上げる。

 

「あの……私、明日ちゃんと撃てるでしょうか」

「そなたの射撃は、我らに必要な力だ」

 

 冥夜が迷わず答えた。

 

「でも、焦ると手が震えてしまって……救命講習の時も、最初はうまく動けませんでした」

「あれは皆そうだったよ」

 

 美琴が明るく口を挟む。

 

「たまなんて、人工呼吸の説明の時は真っ赤だったけど、最後はちゃんとできたじゃん」

「み、美琴さん!」

「それに、射撃なら普段から一番頼りになるよ」

 

 珠瀬は恥ずかしそうに俯いたが、先ほどより表情は柔らかくなっている。

 

「珠瀬。焦ったら、一呼吸よ」

 

 千鶴が言うと、珠瀬は顔を上げた。

 

「撃つ前に状況を確認する。慌てて動く前に、周囲を見る。その一呼吸があれば、あなたは狙えるわ」

「……はい」

 

 珠瀬の声へ、少しだけ力が戻った。

 

「私も、明日は前へ出すぎぬよう心掛ける」

 

 冥夜が静かに言った。

 

「御剣が自分から言うのは珍しいわね」

「以前の私は、自ら先頭へ立つことが守ることだと考えていた。しかし、私が倒れれば、結果として皆へ負担を残す」

 

 冥夜は一度言葉を切り、五人の顔を見た。

 

「明日は、進むことだけでなく戻る道も考える」

「私も、気づいたことは言う」

 

 彩峰が続けた。

 

「勝手に離れない」

「それだけでも助かるわ」

「榊も命令しすぎない」

「……努力する」

 

 千鶴が答えると、美琴が笑った。

 

「じゃあ私は、皆が暗くならないようにする!」

「地形と状況も確認しなさい」

「ちゃんと見るって」

「自分の体調もよ。復帰してまだ日が浅いんだから」

「分かってるよ」

 

 本当に分かっているかは少し不安だが、美琴は自分の役割を理解している。

 五人はそれぞれ違う。だから衝突もするが、違うからこそ補える部分もある。

 

「明日は、私たち自身で越えるのよ」

 

 千鶴は資料を閉じた。

 

「まりも教官にも、神宮寺少佐にも、私たちが自分たちで次へ進めると示しましょう」

「うん。早く戻って、真白少佐を驚かせよう!」

「演習は競争ではないわ」

「気持ちの問題だよ」

 

 その時、宿舎の扉が控えめに叩かれた。

 

「失礼します」

 

 扉の向こうに立っていたのは、神宮寺真白少佐だった。白い制服を着て、少し疲れた顔をしている。

 

「神宮寺少佐?」

 

 千鶴は立ち上がった。

 

「この時間に、どうされたのですか」

「明日の前に、少しだけ様子を見に来ました。まりもさんから、長居をしないことと、答えを教えないことを条件に許可をもらっています」

 

 美琴が楽しそうに笑う。

 

「まりも教官らしいね」

「はい。破ると怖いので、短く済ませます」

 

 真白少佐は室内を見回した。

 広げられた資料と地図、五人の表情を確認し、少しだけ安心したように息を吐く。

 

「最終確認中でしたか」

「はい。分隊行動と、各自の課題を確認していました」

「良いと思います」

 

 千鶴は少し迷ったあと、尋ねた。

 

「少佐から見て、何か助言はありますか?」

 

 言ってから、答えを求めてしまったことに気づく。

 真白少佐も同じことを考えたらしく、少し間を置いて首を横に振った。

 

「具体的な攻略法は言いません。明日の演習は皆さん自身が越えるものですから、自分が先に正解を渡してしまったら意味が薄くなります」

「……はい」

「ただ、皆さんで今決めたことを、途中で投げ出さないでください」

 

 真白少佐は、五人を順番に見た。

 

「一人で抱え込まず、気づいたことは言葉にする。焦った時は一度周囲を見る。前へ出る時は戻る道も考えて、誰かが暗くなった時は声をかける。それを五人で続けられれば、皆さんなら大丈夫です」

 

 個別に答えを与えたわけではない。

 先ほど自分たちが話した内容を、五人の決定として確認しただけだった。

 

「皆さん自身が積み重ねてきたものを、明日は信じてください」

「ありがとうございます、神宮寺少佐」

 

 千鶴が頭を下げると、他の四人も続いた。

 

「こちらこそ。遅い時間にすみませんでした」

 

 真白少佐はそこで何かを思い出し、美琴へ向き直った。

 

「あ、それと美琴。もし演習が終わって余裕があれば、綺麗な貝殻を一つ拾ってきてもらえませんか」

「貝殻?」

 

 全員の視線が集まった。

 明日は総合戦闘技術演習であり、遊びに行くわけではない。

 

「基地に、あまり外へ出られない子がいるんです。その子へのお土産にしたくて」

「その子、海へ行ったことないの?」

「たぶん、実際の海は見たことがないと思います」

 

 真白少佐は少し困ったように笑った。

 

「もちろん演習が最優先です。無理に探す必要はありません。ただ、皆さんが無事に戻ってきた証になるものを、その子にも見せられたらと思っただけです」

 

 無事に戻った証。

 その言葉が、千鶴の胸へ残った。

 

 貝殻そのものに重要な意味はない。

 演習を終え、五人が帰還し、それを誰かへ伝えられることに意味がある。

 

 美琴は一瞬だけ真面目な顔をしたあと、いつもの笑顔を見せた。

 

「任せてよ。演習を終わらせて、余裕があったら最高の一個を探してくる!」

「無理はしないでくださいね」

「分かってるって」

「美琴さんの場合、本当に心配です……」

 

 珠瀬が小さく呟き、部屋に笑いが起きた。

 

「その人、喜んでくれるといいですね」

「うん。きっと喜んでくれると思います」

 

 冥夜が静かに頷く。

 

「ならば我らは、五人で無事に戻らねばなりませんな」

「……貝殻を渡すためにも」

 

 彩峰が続ける。

 

「貝殻を演習目的にしないで」

 

 千鶴は注意したが、自分でも少し笑っていた。

 真白少佐も、その様子を見て表情を緩める。

 

「皆さんなら大丈夫です」

 

 その言葉は、根拠のない慰めには聞こえなかった。

 

「それでは、そろそろ戻ります。まりもさんに怒られるので」

「聞こえていますよ」

 

 扉の外から声がした。

 全員が固まり、真白少佐もゆっくりと振り返る。

 

 そこには、神宮司まりも教官が立っていた。

 

「神宮寺少佐。長居はしないという約束でしたね」

「はい。今、帰るところです」

「よろしい」

 

 まりも教官は部屋の中を見回し、207Bへ向き直った。

 

「あなたたちも、確認はほどほどにして休みなさい。明日は頭も身体も使います」

「はい!」

 

 声が揃う。

 まりも教官はわずかに頷き、真白少佐へ視線を戻した。

 

「少佐。ありがとうございました」

「自分は何もしていません」

「この子たちの緊張を少し和らげてくださいました。それで十分です」

 

 真白少佐は照れたように目を伏せ、一礼してまりも教官と共に宿舎を出ていった。

 

 扉が閉まると、部屋へ静かな余韻が残る。

 

「よし。じゃあ明日は、演習突破と貝殻探しだね」

「貝殻は任務に追加しない」

 

 千鶴は即座に否定した。

 

「最優先は五人で演習を終えること。貝殻は全てが終わった後、余裕がある場合だけよ」

「了解、分隊長」

 

 美琴は笑い、彩峰も小さく頷く。

 珠瀬の表情からは、先ほどまでの強い緊張が少し消えていた。

 

 冥夜が五人を見回す。

 

「明日は、五人で越えよう」

 

 全員が頷いた。

 

 不安が消えたわけではない。

 役割や作戦にも、まだ不完全な部分は残っている。

 それでも千鶴は、今なら一人で全てを決めようとせず、五人で判断できる気がした。

 

 

11月4日 夜

国連軍横浜基地・207B宿舎前通路

<< 神宮寺 真白 >>

 

 宿舎を出たあと、まりもさんと並んで夜の通路を歩いた。昼間より静かだが、遠くでは機械音が続いている。戦争を支える基地の機能が、夜になっても止まることはない。

 

「少佐。先ほどの対応は良かったと思います」

「自分は答えを言わなかっただけです」

「それが必要だったのです」

 

 まりもさんは前を向いたまま続ける。

 

「今のあの子たちには、誰かから正解を与えられるより、自分たちで考え、決めた結果を背負う経験が必要です」

「……正直に言えば、教えたくなります」

「攻略法をですか?」

「はい。こうすれば失敗しないとか、ここでこう動けばいいとか」

 

 未来を知っているからこそ、口を出せる部分は多い。

 しかし、それで明日の演習を突破しても、彼女たち自身の成長にはならない。

 

「助けたいです。でも、自分が代わりに越えることはできません」

「それでよいのだと思います」

 

 まりもさんの答えには迷いがなかった。

 

「教官は、答えを与える仕事ではありません。訓練兵が自分で立てるようにし、必要な時に背中を押す仕事です」

「見守るのは難しいですね」

「ええ。手を出した方が早い場面もありますから」

 

 まりもさんの声に、教官として積み重ねてきた時間が滲んでいた。

 

 訓練兵を鍛えれば、その先には戦場がある。

 強くすることは、戦場へ送り出すことでもある。それでも鍛えなければ、彼女たちはさらに高い確率で死ぬ。

 

「明日、自分は横浜基地に残ります」

「その方が良いでしょう。少佐が同行すれば、あの子たちは少佐の判断を意識してしまいます」

「分かっています。でも、見に行きたかったです」

 

 正直に言うと、まりもさんは少し驚き、それから柔らかく笑った。

 

「あの子たちを大切に思ってくださっているからですね」

「大切です。だから怖いです」

 

 強くなるほど、207Bは戦場へ近づく。

 自分が関わったことで成長が早まれば、原作より早く危険へ立つ可能性もある。

 

「私は、それをずっと見てきました」

 

 まりもさんは静かに言った。

 

「訓練兵を鍛え、生き残る技術を身につけさせる。その結果、彼女たちは戦場へ出ていきます。ですが、鍛えなければ戦場で死ぬだけです」

「……はい」

「演習を越えることは、戦場へ近づくことでもあります。それでも、越える力を与えるのが教官です」

 

 正しくて、苦しい言葉だった。

 

「少佐は、その現実に慣れる必要はありません」

「慣れなくてもいいんですか?」

「慣れすぎれば、失うものもあります。心配すること自体は悪くありません。ただし、心配した結果、本人たちの成長を奪わないでください」

「……気をつけます」

「顔に出ても、途中で手を出さないこと」

「顔に出るのは許してください」

「努力してください」

 

 少しだけ空気が緩んだ。

 

「貝殻は、社霞さんへのお土産ですね」

「分かりましたか」

「少佐が基地の子と説明すれば、他に思い当たりません」

「……無事に戻った証が欲しかったんです」

 

 自分は小さく答えた。

 

「皆が戻ってきたと、霞にも目に見える形で伝えられたらと思って。でも、自分が頼むと重くなりすぎるので、美琴に任せれば少し明るくなるかなと」

「少佐らしい考えです」

「そうでしょうか」

「ええ。ただし、鎧衣が貝殻探しを主目的にしないよう、明日の朝にも確認します」

「お願いします。自分もかなり心配です」

 

 二人で少しだけ笑った。

 

「少佐は横浜基地で、ご自分の役割を果たしてください。私は教官として、あの子たちを送り出します」

「はい。207Bをお願いします」

「それは私の台詞です。少佐も、こちらで無理をしないように」

「……お互い様ですね」

「そうですね」

 

 宿舎前の分岐で足を止め、互いに頭を下げる。

 まりもさんは再び207B宿舎へ、自分は居住区へ向かった。

 

 明日、彼女たちは自分たちの力で試練へ向かう。

 自分にできるのは、答えを渡さず、戻ってくると信じることだけだった。

 

 

11月5日 朝

国連軍横浜基地・搬送区画

<< 神宮司 まりも >>

 

 朝の搬送区画には冷たい空気が流れ、南方へ向かう輸送機の準備音が響いていた。

 

 207Bの五人は、機体から少し離れた場所で装備の最終確認をしている。榊は資料と地図を何度も見直し、彩峰は眠そうに見えながら周囲の動きを見逃していない。珠瀬は緊張で表情が硬く、御剣は静かに輸送機を見上げていた。

 

 鎧衣だけは、必要以上に荷物が多い。

 

「鎧衣。その荷物は何ですか」

「演習に必要なものです」

「全てですか?」

「……多分?」

「鎧衣」

「だ、大丈夫です! 正式装備は全部入っています!」

 

 まりもはため息をついた。

 演習に不要なものがあれば現地で負担になるが、この場で一つずつ確認している時間はない。明らかな規定違反がないことだけを見て、五人を整列させた。

 

「これより、総合戦闘技術演習へ向かいます。予定期間は最長一週間です」

 

 五人の表情が引き締まる。

 

「現地では、地形、天候、視界、通信状態、罠、物資管理まで、全てが評価対象になります。目的は誰か一人が優秀な結果を出すことでも、最短時間で終わらせることでもありません」

 

 まりもは、五人を順番に見た。

 

「五人で考え、五人で判断し、五人で戻ること。それが今回の目的です」

「はい!」

 

「前回、あなたたちは難所で失敗しました。訓練で失敗すること自体は問題ではありません。しかし、原因を理解せず、同じ形で失敗することは許されません」

 

 誰も目を逸らさなかった。

 昨夜、自分たちで課題を言葉にした成果だろう。

 

「榊。分隊長として判断しなさい。ただし、全てを一人で抱えないこと」

「はい」

「彩峰。気づいたことを、行動だけでなく言葉で共有すること」

「……はい」

「御剣。先頭へ出る時は、分隊が続ける位置と、退く経路を確認すること」

「承知しました」

「珠瀬。焦った時ほど、呼吸と周囲を確認しなさい」

「はいっ」

「鎧衣。地形を見ること。自分だけで先に行かないこと。それから、ふざけすぎないこと」

「はい! ……最後だけ少し扱いが違いません?」

「違いません」

 

 張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ。

 緊張は必要だが、身体が動かなくなるほど抱え込ませるべきではない。その境界を整えるのも教官の仕事だった。

 

「真白少佐!」

 

 美琴の声に振り返る。

 搬送区画の入口から、神宮寺真白少佐が小走りで近づいてきた。白い制服姿で、少し息を切らしている。

 

「すみません。出発前に、少しだけ」

 

 真白少佐は207Bの前へ立った。

 まりもは何も言わず、一歩だけ下がる。

 

「自分から言えることは、昨夜と同じです」

 

 真白少佐は五人を見回した。

 

「昨日、皆さんで決めたことを信じてください。一人で抱え込まず、迷ったら声をかけ合って、五人で戻ってきてください」

「はい!」

 

 榊を中心に、五人の返事が揃った。

 真白少佐はそれ以上、個別の答えを繰り返さなかった。昨夜の話を覚えているかどうかは、彼女たち自身の問題だからだ。

 

「それと、美琴」

「貝殻でしょ。覚えてるよ」

「本当に余裕がある時だけでいいですからね」

「演習が終わって、皆で戻ってから探すよ」

「それならお願いします」

 

 珠瀬がおずおずと口を開く。

 

「その子に、私たちがちゃんと戻ったと伝えられるように頑張ります」

 

 真白少佐は、一瞬だけ目を細めた。

 

「はい。横浜基地で待っています」

 

 その声には優しさと同時に、隠しきれない重さがあった。

 真白少佐は、いつも誰かの帰還を願っている。その願いが強すぎて、本人を押し潰しそうに見える時もある。

 

「少佐。出発時間です」

「はい」

 

 真白少佐が一歩下がる。

 

「皆さん、行ってらっしゃい」

 

 207Bの五人が敬礼した。

 

「行ってきます!」

 

 五人は装備を背負い、輸送機へ向かって歩き出す。

 先頭には榊がいる。彩峰は少し離れながらも、その歩調に合わせていた。珠瀬と御剣が続き、美琴は最後尾から何かを話しかけている。

 

 五人はまだ完成された分隊ではない。

 それでも、昨夜までよりは互いを見て歩いていた。

 

 輸送機の扉が閉まり、エンジン音が大きくなる。

 真白少佐は、機体から目を離さなかった。

 

「少佐」

「はい」

「あの子たちは戻ってきます」

「……はい」

「信じてください」

 

 真白少佐は少しだけ間を置き、今度ははっきりと頷いた。

 

「はい。信じます」

 

 輸送機が滑走を始める。

 教官は、訓練兵へ答えを渡すことはできない。代わりに困難を越えることもできない。できるのは、必要な力を教え、自分の足で進む背中を押し、戻ってくる場所で待つことだけだ。

 

「少佐は、横浜基地でご自分の仕事へ戻ってください。あの子たちは、私が見ています」

「お願いします」

「任されました」

 

 真白少佐は深く頭を下げ、格納区画の方向へ歩き出した。

 その背中を見送ったあと、まりもは再び輸送機へ視線を戻す。

 

 機体は滑走路を離れ、南の空へ上がっていった。

 

 207Bは、真白から正解を与えられたわけではない。

 前夜に自分たちの不安を言葉にし、それぞれの課題と役割を確認したうえで、自分たちの足で試練へ向かった。

 

 次にこの基地へ戻ってくる時、五人が何を得ているのか。

 それを確かめるために、まりもは教官として帰還を待つ。

 

第23話「五人で越える朝」 END

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