マブラヴ・インサート 〜白き少佐の因果強化計画〜 作:きのこ大三元
原作では1回目の演習の言及は少なかったような気がします…
ここでは場所が今回は別の演習場ということで、よろしくお願いします!
11月5日 朝
南方海域・演習指定島 上陸地点
<< 榊 千鶴 >>
輸送艇を降りると、潮の匂いを含んだ湿った風が頬へ触れた。
目の前には白い砂浜と黒い岩場が広がり、その先には密林が続いている。内陸には崩れかけた旧施設の影も見えた。整備された横浜基地の訓練場とは違い、この島では自然の地形そのものが障害になる。
足場の崩れやすい砂地、視界を遮る密林、ぬかるんだ沢、切り立った崖。旧監視所や補給施設の跡には、模擬地雷、警報装置、ワイヤートラップ、煙幕発生装置などが仕込まれている。
予定期間は最長一週間。その間に複数の目標を発見して破壊し、最終地点へ到達しなければならない。最後には、前回失敗した模擬地雷原の突破も待っていた。
さらに今回、演習中の通信機使用は禁止されている。
二班へ分かれた後は、互いの状況を確認できない。目標を処理し、事前に指定された日時と場所へ、自分たちの判断だけでたどり着く必要がある。
速く進むだけでも、一人で正解を選ぶだけでも合格にはならない。五人が離れている間も互いの役割を信じ、最後に全員が合流することまで含めて、この演習だった。
「……本当に島なんだねー」
美琴が荷物を背負い直し、周囲を見回した。
声はいつも通り明るいが、視線は砂浜から密林の入り口まで細かく動いている。復帰して間もないとは思えないほど、既に207Bの中へ自然に戻っていた。
「鎧衣。遊びに来たわけではないのよ」
「分かってるって。でも、最初から暗い顔をしていたら余計に疲れるよ?」
「それは……そうだけど」
言い返すのをやめた。
美琴の軽さで、緊張していた珠瀬の表情もわずかに緩んでいる。
冥夜は背筋を伸ばしたまま島の奥を見据え、彩峰は風で流れる砂の動きを無言で観察していた。砂の下に、何が仕込まれているか分からない。
「全員、最終確認をするわ」
千鶴は地図を広げ、五人を集めた。
「演習予定は最長一週間。ただし、七日間を使い切ることが目的ではない。物資と体力を温存しながら、確実に目標を処理するわ」
「一週間も、この島で過ごすんですね……」
珠瀬が不安そうに呟く。
「状況が良ければ早く終えられる。でも、早さを優先して罠へかかれば意味がない」
「早く終われば、海で少しくらい――」
「鎧衣」
「分かってるよ。まず演習」
本当に理解しているかは怪しいが、美琴が軽口を叩くたび、張り詰めた空気は少しずつ和らいだ。
「第一目標は、密林奥の旧通信設備跡。第二目標は、海岸側の旧監視所跡。それぞれに演習用の破壊対象が設置されているわ」
全員の視線が地図へ集まる。
「第一班は、私、御剣、鎧衣。旧通信設備跡を担当する。私は班の判断と物資管理、御剣は前方の危険確認、鎧衣は地形と迂回路の探索をお願い」
「承知した」
「道を見る係だね」
美琴が笑う。
「そう。あなたの報告で進路を決める場面もある。勝手に先へ行かず、見つけた情報を必ず私たちへ伝えて」
「了解。任せて」
声は軽いが、目は真剣だった。
「第二班は、彩峰と珠瀬。旧監視所跡を担当する。彩峰は足元と近距離の罠、珠瀬は遠方観測と警報装置の発見をお願い」
「……了解」
「は、はい!」
「彩峰。気づいたことは、行動へ移す前に珠瀬へ伝えて」
「……分かった」
「珠瀬は焦ったら一呼吸。彩峰の近くだけでなく、遠くと高い位置も確認すること」
「はいっ」
千鶴は地図の中央付近にある、沢沿いの旧補給所跡を指した。
「両班の合流地点は、ここ。旧補給所跡の北側にある石造りの貯水槽よ。合流期限は、三日後の11月7日、日没から二時間以内」
全員の表情が引き締まる。
「それまでは、互いの状況を確認する手段がない。片方が早く到着しても、合流期限まではその場で待機する。日没から二時間を過ぎても相手が現れない場合は、翌朝まで待ったうえで、演習本部指定の緊急地点へ向かうわ」
「探しに行かないのか?」
冥夜が尋ねた。
「相手の経路が分からない状態で動けば、すれ違う可能性がある。遭難者を増やすだけよ」
「……承知した」
正しい判断だと思う。
しかし、実際に相手が来なければ、待ち続けることは簡単ではないだろう。
「目標を破壊する時刻も、各班の判断に任されている。互いを待つ必要はない。破壊判定を確認したら、自分たちの経路で合流地点へ向かって」
これまで考えていた同時破壊は使えない。
通信がない以上、それぞれの班が自分たちだけで状況を読み、実行する必要があった。
「合流後は、五人で最後の模擬地雷原へ向かうわ」
その言葉で、空気が少し重くなった。
以前、自分たちはそこで失敗した。千鶴は一人で判断を抱え込み、彩峰は説明せずに進み、珠瀬は焦って周囲を見失った。冥夜は危険を引き受けようと前へ出すぎ、美琴の地形報告も連携へ活かせなかった。
まりも教官から告げられた「五人で動けていない」という言葉は、今も胸へ残っている。
「今度は、越えるわ」
千鶴が言うと、冥夜と彩峰が静かに頷き、珠瀬も両手を握りしめた。
「うん。まずは三日後、五人でちゃんと集まろう」
美琴の明るい声が、思っていた以上に心強く聞こえた。
装備の最終確認を終え、二班は砂浜と密林の境目で向き合った。
「彩峰、珠瀬」
「何」
「はい」
言うべきことを考えたが、細かな指示を重ねても意味はない。
ここから先は、二人自身が決めなければならない。
「三日後、合流地点で会いましょう」
「……うん」
「必ず行きます」
珠瀬が力を込めて答えた。
第二班は海岸沿いへ。
第一班は密林の奥へ。
五人は二つに分かれ、互いの姿が見えなくなるまで、それぞれの道を進んだ。
◇
11月5日 昼
南方海域・演習指定島 密林外縁
<< 榊 千鶴 >>
密林へ入って間もなく、地図だけでは分からなかった島の厄介さを思い知らされた。
湿った土には木の根が張り出し、草の陰には細いワイヤーが隠されている。枝葉に遮られて見通しが悪いうえ、ぬかるみに足を取られれば、装備の重量で体力を大きく奪われる。
「榊」
冥夜の声に足を止める。
「右前方の枝が、同じ方向へ不自然に折られている。通路に見せかけた誘導かもしれない」
千鶴は少し距離を取った位置から確認した。
折れた枝は、人が進みやすそうな方向を示している。しかし、その先だけ地面の草が薄く、人工的に整えられたようにも見えた。
「罠へ誘導している可能性があるわね」
「私が確認する」
冥夜は前へ出かけたが、最初の一歩を踏み出す前に止まった。
「……榊、判断を」
以前なら、自分が危険を引き受ければいいと考え、そのまま進んでいたかもしれない。今は危険を発見した時点で、千鶴と美琴へ情報を渡している。
「正面は避ける。鎧衣、東側の地形は?」
「少し先に沢がある。地図だと浅いけど、泥がかなり深そう。北側まで回れば、倒木が橋みたいにかかってるよ」
「通れそう?」
「倒木自体は使えると思う。でも、手前の足場は冥夜に確認してもらった方がいい」
美琴の報告は軽い口調ながら具体的だった。
「御剣。倒木の手前まで確認をお願い。ただし、合図より先には進まないで」
「承知した」
「鎧衣は後方から沢と倒木の状態を見て。変化があればすぐ報告して」
「了解!」
三人は慎重に密林の奥へ進んだ。
冥夜が進路上の危険を確認し、美琴が地形の全体像と迂回路を探す。千鶴は二人の情報を受けて、班としての進路を決めた。
第二班が今どこにいて、何を見つけているかは分からない。
それでも、自分たちの進行へ集中するしかなかった。
彩峰は足元の違和感に気づける。珠瀬は遠くの仕掛けを見つけられる。出発前に二人へ役割を渡した以上、今は信じる必要がある。
分隊長だからといって、離れた仲間まで管理することはできない。
任せることと、放り出すことは違う。準備を整えたうえで相手の判断を信じることも、分隊長の役割なのだろう。
◇
11月6日 午後
南方海域・演習指定島 海岸岩場
<< 珠瀬 壬姫 >>
第二班の進行は、当初の予定より遅れていた。
海岸沿いは視界が開けているため進みやすそうに見えるが、潮で濡れた岩や砂の溜まった隙間が多く、足場は密林側より不安定だった。波音が岩へ反響し、警報装置や仕掛けの作動音も聞き取りにくい。
「……止まって」
彩峰の声に、珠瀬は足を止めた。
「そこ、濡れてる。滑る。右から」
「あ、本当です……」
以前の彩峰なら、自分だけ避けて先へ進んでいたかもしれない。今は足元の危険を見つけるたび、珠瀬が動く前に伝えてくれる。言葉は短いが、それだけで後ろから追いかける不安は大きく減っていた。
「珠瀬。上、光った」
「はい」
珠瀬は一度呼吸を整え、旧監視所跡へ視線を向けた。
右上の窓枠で、風に揺れる布の隙間から何かが反射している。
「警報装置だと思います。右上の窓枠です。正面から近づくと反応する可能性があります」
「迂回は?」
「左下の岩陰から回れば、窓の視界から外れられます。でも、裏手の足場はここから見えません」
彩峰は地面へ視線を落とし、岩場の形と砂の溜まり方を確認する。
「近くは私が見る。珠瀬は、窓と崖の上」
「はい」
榊や美琴へ相談することはできない。
二人だけで判断しなければならない。
不安はあった。
それでも、彩峰が近くを見てくれるなら、自分は遠くを見ることへ集中できる。
「彩峰さん。旧監視所の左側に、崩れた搬入口のような場所があります」
「道、見える?」
「途中までは見えます。斜面の下を通れば窓から隠れられますが、上に別の仕掛けがあるかもしれません」
「行って、途中で止まる。そこで見る」
「はい」
二人は距離を詰めすぎず、互いの視界へ入る位置を保って進んだ。
彩峰が足元の違和感を拾い、珠瀬が遠くと高所を確認する。
榊から指示を受けなくても、二人で決めた役割は変わらない。
「彩峰さん、左上の影が揺れています。風だけではなく、別の仕掛けかもしれません」
「分かった。近づかない」
彩峰が珠瀬の言葉で止まった。
自分の観測が、相手の判断に使われている。
それだけで手の震えが少し小さくなった。
「珠瀬」
「はい」
「ちゃんと見えてる」
「……はい!」
二人は少しずつ歩調を合わせ、旧監視所跡へ近づいていった。
◇
11月7日 昼
南方海域・演習指定島 密林奥・旧通信設備跡
<< 御剣 冥夜 >>
三日目の昼、第一班は旧通信設備跡へ到達した。
古いアンテナ基部と錆びた機材、崩れた小屋の中央に、演習用の破壊対象が設置されている。その周辺だけ地面の砂が均一で、倒れた枝の向きも不自然だった。見えにくい位置には、金属片らしき反射もある。
冥夜は反射的に前へ出ようとした。
自分が先に危険を受ければ、榊と美琴を守れる。以前なら、迷わずそうしていた。
しかし、一歩を踏み出す前に止まる。
守ることと、倒れることは違う。
真白の言葉が頭に残っていた。
「榊。正面は危険だと思う。だが、私が先に踏み込むべきではないな」
榊は一瞬驚いたような顔をしたあと、静かに頷いた。
「情報を集めてから動くわ。鎧衣、地形は?」
美琴は周囲の倒木や岩の配置を確認した。
「正面と右側の砂地は怪しい。左の倒木の裏なら、身体を低くすれば抜けられるかもしれない」
「私も左がいいと思う」
榊は少し考え、冥夜へ向き直った。
「御剣、倒木の手前まで移動できる?」
「可能だ」
「三歩目で左へ寄り、倒木の手前で停止。そこから先へは合図を待って」
「承知した」
冥夜は指定された経路を進み、倒木の前で止まった。
周囲を確認すると、倒木の裏に細いワイヤーが張られている。
「榊。膝下の位置にワイヤーがある」
「鎧衣、反対側は見える?」
「さらに左へ寄れば抜けられると思う。ボクが後ろから枝を押さえるよ」
「お願い。御剣はワイヤーへ触れず、低い姿勢で通過して」
「了解」
三人の情報を榊がまとめ、進路を決める。冥夜が危険地点へ近づき、美琴が地形を見て、榊が全体をつなぐ。
一人で守るのではなく、三人で進む。
その感覚はまだ慣れないが、悪くなかった。
破壊対象へ到達すると、榊が模擬爆破装置を設置する。
「設置完了。周囲の状態は?」
「右奥で何か動いた音がした。時間差の警報装置かも」
美琴が報告し、冥夜も来た道と退路を確認する。
第二班の準備を待つ必要はない。
破壊の時刻は、第一班の判断へ任されていた。
「周囲に異常なし。退路も確保できている」
「分かったわ」
榊は二人の顔を確認し、起爆装置へ手をかけた。
「三、二、一――起爆」
電子音が鳴り、第一目標の破壊成功が表示された。
「……成功ね」
榊が小さく息を吐く。
しかし、喜んでいる時間はない。
日没までに合流地点へ到達しなければならなかった。
「来た経路を戻る。途中から北側の沢沿いへ移動して、旧貯水槽を目指すわ」
「承知した」
「了解。帰り道も任せて」
冥夜は来た道を振り返る。
進んだ経路と、戻るための道がどちらも見えている。
以前とは違うことが、少しだけ嬉しかった。
◇
11月7日 午後
南方海域・演習指定島 旧監視所跡
<< 彩峰 慧 >>
旧監視所跡への接近には、予想以上に時間がかかった。
正面入口には警報装置があり、裏手の搬入口は崩れた足場で塞がれている。内部には煙幕装置らしき仕掛けが置かれ、足元にも細いワイヤーが張られていた。
急げば、どれかに引っかかる。
「珠瀬。右上」
「はい」
珠瀬は一呼吸してから窓を確認した。
「警報装置があります。布の裏です」
「足元、線」
「ワイヤーですね。左から回れそうですが、左下には煙幕装置があります」
珠瀬の声は少し震えている。
それでも、見つけたものを順番に言葉へしていた。
「珠瀬」
「はい」
「ちゃんと見えてる」
「……はい!」
榊へ状況を報告することはできない。
自分たちで経路を決め、目標を処理し、日没までに合流地点へ向かう必要がある。
彩峰は目の前の経路を確認した。
以前なら、言葉より先に身体を動かしていた。自分には見えているから、珠瀬が後からついてくればいいと思っていた。
それでは班ではない。
「一歩目、右。次は低く進んで、線を越える。珠瀬は上を見る」
「はい」
二人で進む。
彩峰が近くの違和感を拾い、珠瀬が高所の装置を確認する。どちらか一人だけでは、全てを見ることはできない。
旧監視所の内部へ入り、破壊対象を発見した。
「装置を設置します」
「左奥、煙幕。触らない」
「はい」
珠瀬が模擬爆破装置を取り付ける。
「準備できました」
「外、見る」
彩峰は一度搬入口まで戻り、退路と周囲の仕掛けを確認した。
「大丈夫。やる」
「はい」
珠瀬は起爆装置を握り、彩峰の顔を見る。
「三、二、一――起爆します」
電子音が鳴り、第二目標の破壊成功が表示された。
「できました……」
「うん」
珠瀬が安心したように息を吐き、彩峰も小さく頷いた。
だが、太陽は既に傾き始めている。
ここから合流地点までは、まだ距離があった。
「急ぐ。でも、走らない」
「はい。罠を見落とさないように進みます」
二人は来た経路を慎重に戻り、旧貯水槽を目指して歩き始めた。
三日間、第一班の姿は見ていない。
目標を破壊できたかも、予定通り合流地点へ向かっているかも分からない。
それでも、来ると信じるしかなかった。
◇
11月7日 夜
南方海域・演習指定島 旧補給所跡北側・貯水槽
<< 榊 千鶴 >>
第一班が合流地点へ到着した時には、既に日が沈み始めていた。
石造りの古い貯水槽は、半分ほど蔦に覆われている。周辺には人影も、新しい足跡も見当たらなかった。
第二班は、まだ来ていない。
「少し早く着いたみたいだね」
美琴が荷物を下ろしながら言った。
いつもの明るい口調だが、何度も海岸側の道へ目を向けている。
「合流期限までは、まだ時間があるわ」
千鶴は時計を確認した。
日没から二時間以内。
それまでは、ここで待つと決めている。
「迎えに行くべきではないか?」
冥夜が低く尋ねた。
「駄目よ。二人が別の経路から来ている場合、こちらが動けばすれ違う。出発前に決めた通り、待つわ」
「……承知した」
判断は正しい。
それでも、時間が過ぎるたび、胸の奥が落ち着かなくなる。
第二班が罠にかかった可能性。
珠瀬が負傷した可能性。
彩峰が一人で先へ進んだ可能性。
考え始めれば、悪い想像はいくらでも浮かぶ。
だが、二人を送り出したのは自分だ。
彩峰は危険へ気づける。珠瀬は遠くを見ることができる。二人で補い合えば、目標を処理してここへ来られる。
信じるしかない。
「榊さん」
「何?」
「座った方がいいよ。ずっと立ってても、二人が早く来るわけじゃないし」
美琴の言葉に、千鶴は自分が道の方ばかり見ていたことに気づいた。
「……そうね」
三人は貯水槽の壁際へ座った。
周囲が暗くなり、森の音と遠くの波音が大きく感じられる。
合流期限まで、残り一時間。
冥夜も目を閉じて休んでいるように見えたが、わずかな物音がするたび顔を上げていた。美琴も軽口を言わず、海岸側の道を見つめている。
「……来るわ」
誰へ言うでもなく、千鶴は呟いた。
その時、茂みの向こうで枝を踏む音がした。
三人が同時に立ち上がる。
「誰?」
千鶴が声をかけると、少し間を置いて返事があった。
「……彩峰」
続いて、疲れた声が聞こえる。
「珠瀬です……!」
茂みの向こうから、泥と砂にまみれた二人が現れた。
珠瀬は肩で息をしていたが、自分の足で歩いている。彩峰も疲れた顔をしているものの、目立った負傷はない。
「彩峰、珠瀬!」
千鶴は思わず駆け寄りかけ、途中で足を止めた。
周囲に罠が残っている可能性を忘れてはいけない。
「そこから、足元を確認しながら進んで」
「……了解」
「はい……!」
二人が安全な場所まで来るのを待ち、ようやく全員の顔を確認する。
「遅くなりました」
珠瀬が申し訳なさそうに頭を下げた。
「途中で崖を迂回しました。走ったら罠を見落とすと思って……」
「それでいいわ。合流期限には間に合っている」
千鶴は一度息を整えた。
「第二目標は?」
「破壊した」
彩峰が短く答える。
「第一目標も破壊に成功したわ」
その瞬間、五人の間に張り詰めていたものが少しだけ緩んだ。
「両方成功だね!」
美琴が笑う。
「はい……よかったです」
珠瀬も安心したように笑った。
冥夜は静かに頷き、彩峰は貯水槽の壁へ背を預けた。
三日間、互いの状況は分からなかった。
それでも、それぞれの班が自分たちの役割を果たし、決められた場所へ戻ってきた。
これもまた、五人で動くということなのだろう。
常に同じ場所にいることだけが連携ではない。離れていても相手が役割を果たすと信じ、自分たちの仕事を完遂する必要がある。
「今日は、ここで休むわ」
千鶴は地図を広げた。
「明日の朝、五人で最終合流地点へ向かう。その前に、模擬地雷原を突破しなければならない」
珠瀬の肩が少しだけ強張る。
彩峰は足元へ視線を落とし、冥夜は静かに拳を握った。美琴も笑みを残しているが、目は真剣だった。
「前回、私たちはそこで失敗した」
誰も目を逸らさない。
「でも、ここまで二班に分かれて進み、目標を破壊して、全員で合流できた。今なら越えられると思う」
千鶴は四人を順番に見た。
「明日は、私が全てを決めるのではなく、皆から情報を集めて判断する。彩峰は近くの足元を、珠瀬は遠方と装置を、御剣は突破地点と退路を、鎧衣は周囲の地形を確認して。私は、その情報をつなぐ」
「……了解」
「はい。ちゃんと見ます」
「承知した。先へ進む時ほど、戻る経路も確認する」
「任せて。道は見るよ」
四人の声を聞き、千鶴は呼吸を整えた。
前回とは違う。
今度は、一人で越えようとしているわけではない。
「明日、五人で越えるわ」
全員が頷いた。
夜の島へ波音が響き、潮を含んだ風が旧貯水槽を抜けていく。
第一目標と第二目標の破壊には成功した。通信手段がない中で二班はそれぞれの役割を果たし、約束した日時と場所へ全員で戻ることができた。
しかし、総合戦闘技術演習はまだ終わっていない。
前回、五人を退けた模擬地雷原が、明日も同じ場所で待っていた。
第24話「南の島の総合演習」 END