マブラヴ・インサート 〜白き少佐の因果強化計画〜   作:きのこ大三元

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第27話「白刃の鞘」

11月8日 深夜

国連軍横浜基地・格納庫

<< 浪花 千歳 >>

 

 夜の格納庫は、昼よりも機械の音がよく聞こえる。

 換気装置の低い唸り。

工具を置く金属音。

冷却系の作動音。

整備端末が一定間隔で吐き出す警告。

 その一つ一つを聞きながら、浪花千歳はJM-01の訓練ログを睨んでいた。

 

「……あかん」

 

 XM3評価用不知火、仮登録JM-01。

 神宮寺真白少佐相当の操縦特性に合わせて調整された、A-01預かりの評価機だ。

 実機訓練そのものは成功している。

瞬間的な機動力も高い。入力への追従もよく、姿勢制御も破綻していない。

 だからこそ、厄介だった。

 

「成立してまうんが、一番あかんのよなぁ……」

 

 千歳は負荷グラフを拡大した。

 膝部フレーム。

股関節部。

肩部アクチュエータ。

跳躍ユニット。

推進剤消費。

着地衝撃。

近接機動後の姿勢補正。

 どれも一度や二度なら許容範囲だ。

だが、連続すれば話は変わる。

 負荷が抜ける前に次の入力が入り、さらに次が重なる。

そのたびに機体は姿勢を修正し、関節と推進系へ小さな借金を残していた。

 壊れてはいない。

 まだ、壊れていないだけだ。

 

「少佐本人は、動かせてしまうんやろうけど……」

 

 普通の衛士なら、先に人間側が追いつかなくなる。

速度に判断が遅れ、入力が乱れ、そこで自然と限界を知る。

 だが、真白は違った。

 白銀武から引き継いだとされる衛士経験。

異常な戦術機適性。

XM3との高い親和性。

 そして何より、自分を後回しにする悪い癖。

 機体が応えてしまえば、あの少佐はさらに次の一手を入力する。

 

「……機体に根性論は通じませんよ、少佐」

 

 千歳が独り言を漏らした直後、格納庫の入口から足音が聞こえた。

 白い制服。

 話題の本人だった。

 

「浪花さん」

「噂をすれば、ですわ」

 

 千歳は椅子を回した。

 

「こんな時間に何してますのん」

「JM-01のログを、もう一度確認したくて」

「ちょうどええです。うちも少佐に言いたいことがありました」

「……はい」

 

 真白は、怒られると察した顔をした。

 最近は分かりやすい。

 

「これ、見てください」

 

 千歳は端末を向けた。

 

「膝、股関節、肩。全部跳ねすぎです。推進剤も使いすぎ。特に近接機動のあと、姿勢を戻すところで機体が無理してます」

 

 真白は黙って画面を見た。

 

「少佐は動かせるんでしょう。でも、JM-01は少佐の身体やありません」

「……はい」

「少佐がまだ行けると思っても、機体が同じとは限りません」

 

 千歳は負荷グラフの山を指した。

 

「この動き、一回ならできます。二回もできます。三回も、たぶんできます」

 

 そこで指を止める。

 

「せやけど、それを十回できる保証はありません」

 

 戦場で問題になるのは、そこだった。

 一度だけ派手に動けても意味はない。

敵を斬ったあと、歩けなくなれば帰れない。

 真白は、しばらく画面を見つめていた。

 

「……自分は、機体を使いすぎていますか」

「使いすぎです」

「即答ですね」

「整備ログは遠慮しませんから」

 

 真白が少し肩を落とした。

 千歳はため息をつく。

 

「謝らんでええです」

「まだ謝ってません」

「顔が謝ってます」

「最近そればかり言われます……」

 

 少しだけ空気が緩む。

 だが、本題は変わらない。

 

「XM3は、速く動くためのOSやない」

 

 以前にも伝えた言葉だった。

 

「速く動けてしまうOSです」

 

 真白の表情が変わる。

 

「せやから、少佐の場合は止める側の仕組みも要ります」

「止める側……」

「少佐が踏み込みすぎる前に、機体側で入力を抑える。危険域へ入る前に、一度姿勢を戻す」

 

 千歳はJM-01を見上げた。

 

「少佐専用のリミッターです」

 

 

11月8日 深夜

国連軍横浜基地・格納庫

<< 神宮寺 真白 >>

 

 リミッター。

 その響きは、思っていたより重かった。

 戦場へ向かう準備をしている。

普通なら、もっと速く、もっと強くすることを考える時期だ。

 なのに、自分に必要なのは制限だった。

 

「……そんなに酷かったですか」

「酷いです」

「もう少し迷ってください」

「数字が迷わせてくれません」

 

 千歳さんは、シミュレーターと実機の軌道比較を表示した。

 ほぼ同じ機動をしている。

それだけを見れば、自分は上手く実機へ落とし込めているようにも見える。

 けれど、負荷表示を重ねると別物だった。

 シミュレーター上では何度でも成立する。

実機では、着地の衝撃が残る。関節が摩耗する。噴射するたび推進剤が減り、姿勢補正にも負荷がかかる。

 

「シミュレーターは壊れません。整備班も泣きません」

「はい……」

「実機で同じことを繰り返されたら、こっちは泣きます」

 

 千歳さんはJM-01へ視線を向けた。

 

「新潟で今の動きを続けたら、少佐が帰る前に脚が死ぬかもしれません」

 

 胸の奥が冷えた。

 戦場で機体が止まる。

 それは、自分が動けなくなるだけでは済まない。

A-01へ負担をかける。救援を必要とする。場合によっては、自分を回収するために誰かが危険を冒す。

 第26話で、高濃度リンク因子を誰へ使うか考えたばかりだった。

 足りない切り札を、誰に渡すか。

 なのに、自分がJM-01を壊せば、今度は自分自身が救援を必要とする側になる。

 

「……それは、駄目ですね」

「駄目です」

 

 千歳さんは容赦がない。

 

「だから対策します」

「どうやって?」

 

 千歳さんは、新しいファイルを開いた。

 

 JM-01近接高負荷抑制制御案。

 

「長いですね」

「うちも思いました」

 

 画面を見ながら、千歳さんが続ける。

 

「関節負荷、推進剤消費、姿勢崩れを監視して、危険域に入る前に入力補正をかける。連続機動も一定回数で一回切る」

「強制的にですか」

「はい」

 

 少し抵抗感はある。

 自分が動きたい時に、機体側から止められる。

戦場では、それが致命的になる可能性もある。

 けれど、今のままなら自分が止まらない。

 

「……自分を止める仕組み」

「そうです」

 

 千歳さんは、少しだけ笑った。

 

「刃が鋭すぎるなら、鞘が要るでしょう」

 

 その言葉に、目が止まった。

 

「鞘……」

「抜きっぱなしの刃物なんて危ないですから」

 

 白い識別ラインの不知火。

近接戦闘。

斬撃。

そして、それを必要な時まで抑える仕組み。

 

「……白刃」

 

 思わず言葉が漏れた。

 

「はい?」

「前に考えていた機動案です。薄く、鋭く、必要な分だけ斬って戻る……白い刃みたいな」

「ああ、あれですか」

 

 千歳さんが端末を操作する。

 

「なら、これは白刃そのものやなくて、その鞘ですね」

 

 画面の名称が書き換えられた。

 

 白刃構想・JM-01暫定制御案。

 

「……入力するの早くないですか」

「仮称ですし」

「まだ白刃構想自体、何も完成していませんよ」

「だから暫定です」

 

 千歳さんはあっさり言う。

 

「白刃を作るんやなくて、今あるJM-01を折らんための制御です」

 

 その言葉で、少し整理できた。

 これは新しい戦術ではない。

完成された専用機動でもない。

 白刃構想という名前だけが先にあり、その前段階としてJM-01へ鞘をつける。

 速く斬るためではなく。

刃を折らずに戻すために。

 

「……それなら、必要だと思います」

「でしょう?」

 

 千歳さんは満足そうに頷いた。

 

 

11月9日 未明

国連軍横浜基地・B19フロア解析室

<< 香月 夕呼 >>

 

「白刃構想?」

 

 夕呼は、端末に表示された仮称を見て眉を上げた。

 

「随分それっぽい名前になったわね」

「仮称です」

「いいんじゃない? 私は嫌いじゃないわよ」

「夕呼にそう言われると、ちょっと不安です」

「失礼ね」

 

 夕呼は千歳から送られてきたJM-01の負荷ログへ目を通した。

 問題はすぐに分かった。

 真白の入力そのものは破綻していない。

むしろ、成立しすぎている。

 通常なら衛士が諦める機動へ、JM-01がついてきてしまう。

その結果、衛士側ではなく機体側へ負荷が蓄積していた。

 

「なるほど。動かないのが問題じゃなくて、動いちゃうのが問題なのね」

「はい」

「シミュレーターの感覚、白銀武由来の経験、XM3。全部が悪い方向で噛み合ってる」

「……悪い方向なんですね」

「この件についてはね」

 

 夕呼は、暫定制御案を開いた。

 

「近接高負荷入力を検出。関節負荷、姿勢、推進剤消費を監視して、一定値を超える前に補正」

 

 ピアティフ中尉が続ける。

 

「連続高負荷機動は原則三手まで。三手目終了後は、一時的に姿勢安定を優先します」

 

「三手」

 

 真白が画面を見る。

 

「斬って、次へ行って、もう一度動いたら、一度戻す」

「大雑把に言えばそうね」

 

 夕呼は頬杖をついた。

 

「悪くない」

 

 通信回線から千歳の声が飛んできた。

 

『悪くないやなくて、必要なんです』

「分かってるわよ」

 

 夕呼は少し笑った。

 

「ただし、解除手段は残す」

 

 真白が顔を上げる。

 

「解除できるんですか?」

「戦場で絶対に外せないリミッターなんて、場合によっては機体ごと棺桶になるわ」

 

 BETAに包囲され、あと一歩動かなければ死ぬ。

そういう状況で安全装置を優先する意味はない。

 

「通常はON。緊急時に限り、一時的な手動解除を可能にする。ただし解除時間は制限。機体負荷が危険域へ入れば強制的に再制限」

 

『解除ログも全部残してください』

 

 千歳が割り込む。

 

「当然」

『解除後は強制点検』

「それも当然」

 

『少佐、聞いてます?』

「聞いてます」

 

 通信の向こうで、千歳が一拍置いた。

 

『解除は必殺技やないです』

「はい」

『借金です』

 

 真白が少し固まった。

 

「借金……」

『その場で機体から余裕を前借りするだけです。あとで絶対に払わされます』

 

 夕呼は思わず口元を上げた。

 

「分かりやすいわね」

『笑い事ちゃいます』

「褒めてるのよ」

 

 真白は、端末の負荷曲線を見つめていた。

 

「つまり、解除できるからといって、使っていいわけではない」

「そういうこと」

 

 夕呼は頷く。

 

「この制御は、あんたを弱くするためじゃない」

 

 強すぎる入力を抑える。

次の一手へ移れる状態を残す。

戦場の途中で、機体を使い切らない。

 XM3が与える自由を殺すのではなく、その自由を最後まで使えるようにする。

 

「帰るための制限……」

 

 真白が呟いた。

 

「そういう理解でいいわ」

 

 夕呼は画面を閉じかけ、もう一度手を止めた。

 

「ただし、白刃構想なんて大層な名前をつけても、今はJM-01の暫定制御に過ぎない」

「はい」

「A-01用の機動体系でもない。新型機の設計思想でもない」

「分かっています」

「ならいいわ」

 

 先の構想へ飛びつかれるのは困る。

 今必要なのは、目前の新潟でJM-01と真白を帰還させるための手段だ。

 

「A-01への説明は?」

 

 真白が聞いた。

 

「必要最低限にする。JM-01には高負荷機動を抑える暫定制御が入っている。緊急解除を使った場合は、以後の継戦能力が落ちる。その程度で十分」

「まだ白刃構想の名前までは?」

「出さない」

 

 夕呼は即答した。

 

「今は真白と整備班の内部名称でいい。正式な構想として扱うのは、実戦データを取ってからよ」

 

 真白は、少し安心したように頷いた。

 それでいい。

 名前だけが先に歩けば、本人までそれへ引っ張られる。

 

「それと真白」

「はい」

「今日はもう寝なさい」

「でも」

「リンク因子の会議が終わった直後に格納庫へ行って、今度はここ。何時だと思ってるの?」

 

 真白が黙った。

 

「リミッターを入れる前に、搭乗者本人へリミッターが必要になってるじゃない」

「……反論しづらいです」

「しなくていいから寝なさい」

「はい」

 

 今度は素直だった。

 

 

11月9日 朝

国連軍横浜基地・格納庫

<< 浪花 千歳 >>

 

 朝になっても格納庫は止まらない。

 JM-01の整備ベイでは、暫定制御の実装作業が続いていた。

 

「関節負荷監視、もう少し手前から警告出して」

「了解」

「三手目以降は警告だけやなくて、姿勢安定へ補正。少佐は音だけやと無視する可能性あるから」

「それ、本人に聞かれたら怒られません?」

「怒られるより機体壊される方が困ります」

 

 近くの整備員が苦笑しながら作業を続ける。

 XM3の自由度そのものを潰す気はない。

真白の操縦を鈍くするつもりもない。

 危険な入力が連続した時だけ、機体側から少し手綱を引く。

 それだけだ。

 だが、その少しが生死を分けることもある。

 

「浪花さん」

 

 聞き慣れた声に振り返る。

 

「おはようございます、少佐」

「おはようございます。作業はどうですか?」

「今日中に暫定版は入ります」

「ありがとうございます」

「礼は新潟から帰ってきてからでええです」

 

 真白の顔から笑みが少し消えた。

 

「……はい」

「使うんでしょう、JM-01」

「その予定です」

 

 千歳は手を止めた。

 ここだけは、曖昧にしたくない。

 

「なら、約束してください」

「何をですか」

 

「人も機体も、両方返してください」

 

 真白が黙った。

 その沈黙だけで、不安になる。

 自分だけなら削ってもいい。

機体なら、必要なら壊してもいい。

 おそらく真白は、追い詰められればそういう判断をする。

 

「少佐」

 

 少し強く呼ぶ。

 

「整備班は壊れた機体なら直せます。でも、帰ってこなかった機体は直せません」

 

 真白の目が揺れる。

 

「帰ってこなかった人は、もっと直せません」

 

 格納庫に、工具の音だけが残った。

 

「だから、帰ってきてください。JM-01も、少佐も」

 

 真白はしばらく黙ったあと、ゆっくり頷いた。

 

「はい」

 

 戦場に絶対はない。

約束したから帰ってこられるわけでもない。

 それでも、言わせることには意味があると思いたかった。

 

「それから、通常時は解除禁止です」

「分かっています」

「危なくなった時も、最初に解除やないですよ」

「まず戻る道を探します」

「それでも必要なら?」

「……借金する」

 

 千歳は少しだけ笑った。

 

「覚えてるなら結構です」

 

 端末へ戻りながら、最後に一つだけ付け足した。

 

「これは少佐を遅くするための制御やありません」

「はい」

「帰ってくるまで、刃を折らんための鞘です」

 

 真白はJM-01を見上げる。

 

「……白刃の鞘」

 

「そういうことです」

 

 

11月9日 昼

国連軍横浜基地・シミュレーター室

<< 神宮寺 真白 >>

 

 白刃構想・JM-01暫定制御案。

 実機へ入れる前に、シミュレーター上で制御を試す。

 

 視界が仮想戦場へ切り替わった。

 荒れた市街地。

接近するBETA。

手元には長刀。

機体設定はJM-01。

 

 最初の踏み込みで、すぐに違和感があった。

 遅い。

 いや、違う。

 自分が入力した軌道より、少しだけ穏やかに機体が動く。

噴射量が抑えられ、着地後すぐに次へ踏み込もうとすると、姿勢制御が優先された。

 

「……もどかしい」

 

 シミュレーターなら行けた。

白銀武の感覚なら、さらに一手入れられる。

 そう思った瞬間、警告が表示される。

 

 高負荷連続機動――三手。

 姿勢安定優先。

 

「ここで止めるのか……」

 

 通信から千歳さんの声が入った。

 

『止めてませんよ』

「止められてるように感じます」

『戻してるんです』

 

 戻す。

 その言葉を意識して、もう一度動く。

 

 一体目の進路を潰す。

二体目を斬る。

三体目の足を止める。

 三手。

 以前なら、四手目へ続けた。

 だが、今度は機体の補正へ逆らわず、姿勢を戻す。

一度距離を取り、次の敵群を正面へ捉える。

 

「……あ」

 

 そこで気づいた。

 機体がまだ整っている。

 四手目を無理に入れなかった分、次の加速へ移れる。

推進剤もわずかに残り、姿勢も崩れていない。

 

「もう一回お願いします」

 

 何度か同じ機動を試した。

 速さだけなら、制御なしの方が上だ。

瞬間的な撃破数も多い。

 だが、時間を延ばすと差が逆転する。

 制御なしでは、少しずつ機体負荷が積み上がる。

動きは速いままでも、関節負荷と推進剤消費が膨らみ、どこかで姿勢補正に遅れが出る。

 暫定制御ありでは、その山が低い。

 

「……これ、強いですね」

 

『速くないのに?』

 

 千歳さんが聞く。

 

「はい」

 

 自分は、再び機体を構えた。

 

「次も動けるので」

 

 通信の向こうが、少しだけ静かになる。

 

『それが分かったなら、十分です』

 

 強さとは、一回の最大出力だけではない。

 一度斬ったあとに戻れる。

戻ったあと、もう一度動ける。

 その繰り返しが、最後まで残る。

 それなら。

 

「帰ってこられる」

 

『はい』

 

 千歳さんの声は短かった。

 

『そのための鞘です』

 

 

11月9日 夕方

国連軍横浜基地・格納庫

<< 神宮寺 真白 >>

 

 JM-01の前に立つ。

 白い識別ラインが、格納庫の照明を受けて薄く浮かんでいた。

 

 端末には、実装予定の暫定制御項目が表示されている。

 関節負荷監視。

推進剤消費監視。

近接高負荷機動三手制限。

姿勢安定優先。

緊急時一時解除。

解除時間制限。

解除ログ保存。

解除後強制点検。

 ただの設定項目だ。

 けれど、自分には鞘のように見えた。

 

 8日の夜に(第26話で)は、高濃度リンク因子が足りないことを知った。

 全員を強くすることはできない。

自分を削って、無理に増やすことも許されない。

 なら、今あるものを壊さず使う。

 人だけではなく、機体も。

 

 白刃構想は、まだ完成していない。

 専用機もない。

完成した白兵機動体系もない。

A-01へ正式に教えられるものでもない。

 今あるのは、JM-01を新潟から帰すための暫定制御だけだ。

 白刃そのものではない。

 その前に必要になった、鞘。

 

「……全力を出すためじゃない」

 

 JM-01を見上げる。

 

「全力を出し続けないために」

 

 必要な時に斬る。

斬ったら戻る。

戻ったら、また次へ進む。

 その繰り返しを最後まで残す。

 

「帰ってくるために、刃を振るう」

 

 小さな声は、格納庫の機械音へ消えていった。

 

 その日、JM-01に一つの暫定制御案が与えられた。

 白刃構想・JM-01暫定制御案。

 まだ白刃ではない。

新しい戦術でも、新型機の完成形でもない。

 ただ、神宮寺真白が自分の限界より先へ踏み込み、機体まで折ってしまわないための制御だった。

 刃を鈍らせるのではなく。

刃を折らず、必要な場所まで持ち帰るために。

 白刃そのものより先に生まれたもの。

 それは――。

 白刃の鞘だった。

 

第27話「白刃の鞘」 END

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