マブラヴ・インサート 〜白き少佐の因果強化計画〜   作:きのこ大三元

65 / 65
第41.5話「MODERN入力」

11月13日 朝

国連軍横浜基地・香月夕呼執務室

<< 神宮寺 真白 >>

 

「副司令。XM3の追加改良案があります」

 

 そう切り出した瞬間、夕呼副司令の視線が手元の端末からこちらへ移った。

 

 朝の執務室は相変わらず薄暗い。机上には新潟防衛戦のログ、A-01の機動記録、JM-01の損傷報告、XM3実戦評価がいくつも開かれ、少し離れた端末には臼杵さんの医療経過まで表示されている。

 

 戦闘そのものは終わっても、結果だけはまだ横浜基地のあちこちで動き続けていた。

 

「追加改良案?」

 

 夕呼副司令が椅子の背へ身体を預け、片眉を上げる。

 

「昨日、医務室で休めって散々言われてた人間が?」

 

「……休みました」

 

「何時間?」

 

「横にはなりました」

 

「それを休んだとは言わないのよ」

 

 即答だった。

 

 執務室の端でピアティフ中尉の指が端末を滑る。

 

「神宮寺少佐の昨夜の睡眠時間、確認項目へ追加します」

 

「ピアティフ中尉、そこは記録しなくても……」

 

「必要事項です」

 

「必要なんですね……」

 

 横を見ると、霞がこちらを見ていた。何も言わない。ただ見ている。

 

 妙に効いた。

 

「……すみません。でも、忘れないうちにまとめておきたくて」

 

 夕呼副司令が軽く息を吐く。

 

「で? また妙なところから拾ってきた発想?」

 

「発想元については……かなり説明しづらいです」

 

「でしょうね」

 

 それ以上は追及しなかった。ここには、わざわざ聞かない方がいいことがある。自分の知識も、その出所も、今は必要な部分だけ利用すればいい。

 

「まあいいわ。出所より、使えるかどうかを説明しなさい」

 

「はい」

 

 持参した端末を机へ置く。昨夜の勢いで書いたメモは、朝になって見返すと少し恥ずかしかった。思いつきをそのまま並べた箇所もあるし、途中から名前遊びまで始まっている。

 

 それでも、一番上の項目だけは変えなかった。

 

《XM3追加機能案》

《登録機動ショートカット》

 

 夕呼副司令の目が文字を追う。

 

「登録機動?」

 

「はい」

 

 一度、息を整える。

 

「XM3は、速く動けるOSです。でも新潟で、速く動けることと正しく動けることは別だと分かりました」

 

 夕呼副司令の目から、少しだけからかう色が消えた。

 

「続けなさい」

 

「A-01の皆さんは使えました。水月中尉も、伊隅大尉も、宗像中尉も、風間少尉も、それぞれ自分の役割の中へXM3を落とし込めていました」

 

「実戦部隊だもの」

 

「はい。でも、207Bや一般衛士まで同じとは限りません」

 

 指先で次の資料を開く。

 

「XM3は反応が鋭いです。衛士が迷っても、機体側は待ってくれません。恐怖で操縦桿へ余計な力を入れれば、その入力まで素早く拾う。避けることには成功しても、その次にどこへ戻るのかを決められなければ、孤立する可能性があります」

 

 口にしながら、新潟の一場面が脳裏を掠めた。赤い警告表示と、遙中尉が示した青い帰還線。その外へ出たJM-01。

 

 一度だけ息を吐く。

 

「だから、よく使う安全寄りの動きを、最初から一つの“型”として登録しておくんです」

 

 ピアティフ中尉が画面へ視線を寄せた。

 

「登録済みの入力列を、簡易操作で呼び出すという意味でしょうか」

 

「はい。完全な自動操縦にはしません。衛士自身が呼び出して、途中でキャンセルもできる。状況に応じて分岐も入れられる形です」

 

 夕呼副司令の指が、机を二度叩いた。

 

「発想元は?」

 

「複雑な操作を、初心者でも扱いやすくする娯楽用の簡易操作です」

 

「娯楽」

 

「はい」

 

 夕呼副司令が額へ指を当てた。

 

「……娯楽から戦術機OSの改良案を持ってくる男」

 

「自分でもどうかとは思います」

 

「でも、理屈は通ってるのよね」

 

 声が少し変わった。

 

 研究者の顔になった。

 

「具体例」

 

「はい」

 

 画面を切り替える。

 

《汎用ショートカットA》

《低姿勢化 → 横方向離脱 → 後退 → 射撃姿勢復帰》

 

《汎用ショートカットB》

《前進停止 → 後方斜行 → 味方射線開放 → 隊列復帰》

 

《汎用ショートカットC》

《近接攻撃終了 → 姿勢反転 → 短距離離脱 → 射線開放》

 

《レーザー警報用》

《上昇入力抑制 → 即時低姿勢化 → 横方向離脱 → 遮蔽物候補へ移動 → 帰還方向へ復帰》

 

 夕呼副司令の視線が最後の一項で止まった。

 

「……なるほど」

 

「XM3の先行入力を、あらかじめ組んだ型として呼び出します」

 

「完全自動回避じゃない」

 

「違います。あくまで衛士が使う道具です。最初の数動作だけでも迷わず出せれば、その後は自分で操作を取り戻せます」

 

 ピアティフ中尉が端末へ入力しながら頷く。

 

「既存XM3の入力処理上に、登録機動を管理する層を追加する形になりますね」

 

「そうね」

 

 夕呼副司令も画面を追った。

 

「先行入力もキャンセルも既にある。登録した入力列を呼び出すだけなら、根本からOSを作り直す必要はない」

 

「じゃあ……」

 

「実装そのものは、そこまで難しくないでしょうね」

 

 少しだけ肩の力が抜ける。だが、夕呼副司令の目は緩まなかった。

 

「問題は運用よ」

 

「……はい」

 

「軍用技術なんて、大抵そこが一番面倒なの。作れることと、安全に使わせられることは別」

 

 ピアティフ中尉も頷く。

 

「衛士ごとの設定管理、使用履歴、教官側からの制限機能。登録機動の更新権限も必要です」

 

「そこは、自分も重要だと思います」

 

 次の画面を出した。

 

《運用レベル案》

 

《1.汎用初期設定》

《安全重視。回避・姿勢回復・離脱・隊列復帰を中心とする》

 

《2.個人調整設定》

《衛士の操縦特性・役割・機体負荷に合わせて変更》

 

《3.真白専用設定》

《JM-01暫定制御/高負荷抑制制御および白刃構想を前提》

《一般衛士への流用禁止》

 

 夕呼副司令が最後の行を見て、満足そうに目を細めた。

 

「自分で危険物扱いできるようになったのは成長ね」

 

「危険物って……」

 

「違う?」

 

「……否定しづらいです」

 

 新潟のJM-01を思えば、強く言い返せなかった。

 

「自分の機動を、そのまま誰かへ渡すのは危険です。JM-01の暫定制御も、A-01の支援も、遙中尉が示した帰還線もありました。それでも自分は一度そこから外れて、機体を壊した」

 

 口にすると、まだ胸の奥が鈍く重くなる。それでも、そこで全部を自分の責任へ戻すのはもう違う。

 

「なので汎用設定は、強くなくていいんです」

 

 夕呼副司令がこちらを見る。

 

「迷った時に、死なないための型にしたいです」

 

 一拍。

 

「……補助輪ね」

 

「はい」

 

「勝つための必殺技じゃなく、まず死なないための補助輪」

 

 その表現は、かなりしっくりきた。

 

「そうです」

 

 そこへ霞が小さく口を開く。

 

「戻るためのボタンですか」

 

 思わず霞を見る。昨夜、自分が一人で呟いた言葉と同じだった。

 

「……うん」

 

 自然に笑みが漏れる。

 

「戻るためのボタン」

 

 霞が頷く。

 

「はい」

 

 夕呼副司令も薄く笑った。

 

「その方がコンセプトとして分かりやすいわね」

 

 ピアティフ中尉が端末へ入力する。

 

「機能仮称は?」

 

 一番聞かれたくて、一番聞かれてほしかったところだった。

 

「……MODERNで」

 

「モダン?」

 

「はい」

 

 少し姿勢を正す。

 

「Maneuver Operation Direct Entry Relay Node……」

 

 口にして、自分でも語尾が弱くなる。

 

「……みたいな」

 

「みたいな?」

 

 夕呼副司令の目が細くなった。

 

「近代化された簡易入力支援、みたいな意味で……」

 

「元ネタ、絶対そこじゃないでしょうね」

 

「……発想元は説明しづらいです」

 

「でしょうね」

 

 完全に見抜かれていた。

 

 ピアティフ中尉だけが真面目な顔で記録を続ける。

 

「簡易機動入力支援機構《MODERN》。通称『モダン入力』。名称由来は香月副司令管理情報」

 

「その書き方、ちょっと恥ずかしいですね」

 

「正式な由来が不明ですので」

 

「適切です……」

 

 夕呼副司令が資料を先へ送る。

 

「個人調整は?」

 

「役割と癖に合わせます。水月中尉なら踏み込み後の復帰、茜さんなら前へ出た後の隊列復帰。冥夜は近接斬撃後の姿勢回復、千鶴さんなら射線管理を崩さない位置への復帰が候補です」

 

「彩峰は?」

 

「型で縛りすぎると、たぶん逆に弱くなります。最初の一手だけ補助して、その後は自由にした方がいいと思います」

 

「なるほど」

 

「美琴さんは地形利用中の緊急離脱や偵察位置への復帰。たまは……狙撃姿勢の安定と、撃った後の姿勢復帰ですね」

 

 夕呼副司令の指が止まった。

 

「珠瀬の狙撃姿勢……」

 

 小さな呟きだった。

 

 自分にも別のものが頭を掠める。珠瀬事務次官。HSST。そして、空へ向けられるかもしれない大口径砲。

 

 まだ話すべき時ではない。

 

 今はMODERNの話だ。

 

 夕呼副司令も何かを察したのか、それ以上は触れなかった。

 

「レーザー警報用は、かなり優先度が高いと思っています」

 

 自分から話を戻す。

 

「新潟で自分が照準された時、恐怖で判断が一瞬遅れました。しかも、安全側の制御を捨てて高度を取りました」

 

「最悪の実例ね」

 

「……はい」

 

 反論の余地がない。

 

「だから、照射警報時の最初の動きだけでも登録しておく。上昇を抑えて、姿勢を落として、横へ射線を切る。その後は遮蔽物か味方側へ戻す」

 

「自動回避と何が違う?」

 

「避けて終わらないところです」

 

 夕呼副司令の目がこちらへ戻る。

 

「危険から外れた後、どこにいるかまで考える。味方の射線を塞がない。孤立しない。できれば隊列か帰還方向まで戻す」

 

「避けるまでじゃなく、帰るまで」

 

「はい」

 

「……本当に新潟で懲りたのね」

 

「かなり」

 

 少しだけ笑われた。その程度で済むなら安い。

 

「ちなみに、攻撃系も登録できます」

 

 画面を切り替えると、夕呼副司令の口元が僅かに上がった。

 

「あら。やっぱり必殺技も欲しいの?」

 

「違います」

 

「違う?」

 

「……欲しくないと言うと、ちょっと嘘になりますけど」

 

「正直でよろしい」

 

 霞までこちらを見た。

 

 少し恥ずかしい。

 

「でも優先順位は回避と帰還です」

 

 表示した攻撃系の案には、近接離脱や小型種掃討、突撃級の進路変更、要撃級への接近後の離脱など、昨夜思いついた候補が並んでいる。

 

 夕呼副司令の目が、一番下で止まった。

 

「《帰還線再接続》?」

 

「それは、自分用に考えた仮登録です」

 

 詳細を開く。

 

《真白専用登録機動案》

《白線返し》

 

《低姿勢侵入》

↓

《36mm短連射による小型種排除》

↓

《長刀による大型種進路変更》

↓

《必要時120mmによる退路確保》

↓

《追加装甲による反撃受け流し》

↓

《味方射線を開放しつつ帰還方向へ離脱》

 

 夕呼副司令が数秒黙った。

 

「……地味」

 

「はい」

 

「必殺技って言うには撃破数も派手さもない」

 

「必殺技じゃありませんから」

 

「でも、あんたらしいわね」

 

 少しだけ胸の奥が温かくなる。

 

「味方の帰る線を、もう一度作るための動きです」

 

「《白線返し》」

 

「仮です」

 

「白い火消し役にはちょうどいいんじゃない?」

 

 思わず苦笑した。

 

「……その呼び名、帝国側で本当に定着しそうで怖いんですけど」

 

「もう遅いんじゃない?」

 

「ですよね……」

 

 それでも嫌ではなかった。敵を何体倒したかではなく、戦線の穴へ入り、戻れる幅を作る。そして自分もそこから帰ってくる。

 

 それなら、新潟で覚えたものを少しは次へ残せる。

 

「ただし」

 

 夕呼副司令の声が低くなった。

 

「《白線返し》は真白専用」

 

「はい」

 

「一般配布なし。攻撃系登録は便利なぶん危険よ」

 

「対人戦では特に、ですよね」

 

 昨夜まとめた弱点を説明する。

 

 BETA戦でも、地形や敵密度が想定と違えば登録機動そのものが危険になる。頼りすぎれば衛士自身の判断力を落とし、キャンセルの判断が遅れれば孤立する。連続使用による機体負荷も無視できない。

 

 対衛士戦ではもっと分かりやすい。同じ型を繰り返せば復帰位置を読まれ、登録パターンそのものを待ち伏せされる。使用ログを解析されれば、衛士個人の癖まで拾われる可能性がある。

 

 夕呼副司令が頷いた。

 

「BETAは今のところ、こっちのショートカットを読んで狩るような真似はしない。でも人間なら、一度見た動きを次から利用する」

 

「なので、同じ目的でも複数パターンを用意します。ただ、増やしすぎると今度は初心者向けじゃなくなるので」

 

「そこね」

 

 夕呼副司令がピアティフ中尉へ顔を向けた。

 

「仕様化できる?」

 

「可能です」

 

 返答は早かった。

 

「既存XM3の機能を利用するため、大規模な再設計は不要と思われます。ただし登録機動管理画面、使用権限、教官側のロック機能、ログ閲覧機能は必要です」

 

「訓練では教官が制限できるようにする」

 

「妥当です」

 

「A-01なら遙」

 

「はい」

 

「207Bは?」

 

 夕呼副司令がこちらを見る。

 

「まりもさんです。自分もログ確認には入りますけど、使用許可は教官判断がいいと思います」

 

 そう答えると、夕呼副司令が少し目を細めた。

 

「207Bへすぐ使わせたいとは言わないのね」

 

「まだ早いです」

 

「理由は?」

 

「補助輪を先につけすぎたら、自分で姿勢を戻す感覚を覚えられないからです。まず普通に操縦できるようになってから、危険時の補助として渡すべきだと思います」

 

「合格」

 

 短く言われた。

 

「前のあんたなら、便利なものは早く渡せばいいって言いかねなかった」

 

「……そうかもしれません」

 

 否定はできなかった。

 

「じゃあ、最初はまりもへ見せる。207Bへの導入時期は教官判断」

 

「はい」

 

「霞」

 

 夕呼副司令が呼ぶ。

 

「真白の戦闘ログから、汎用化できる復帰動作だけ抜き出せる?」

 

 霞は画面を見て、それからこちらを見た。

 

「真白さん用の危ない動きは、入れません」

 

「ええ。絶対入れないで」

 

「そこまで強く言います?」

 

「言うわよ」

 

 夕呼副司令は即答した。

 

「あんた用の動きは補助輪じゃないもの」

 

 一拍。

 

「ブレーキを付けた曲芸用一輪車よ」

 

「それ、前より少しマシになってません?」

 

「ブレーキ付きだからね」

 

「褒められてない……」

 

 ピアティフ中尉の指が動く。

 

「真白専用設定。一般配布禁止。高リスク機動群として分離管理」

 

「それはちゃんとした書き方で助かります」

 

 霞が小さく呟いた。

 

「曲芸用一輪車」

 

「霞、そこ覚えなくていいから」

 

「はい」

 

 ほんの僅かに口元が緩んでいた。執務室の空気も少しだけ軽くなる。

 

 夕呼副司令はもう一度資料を最初から流し見してから、端末を閉じた。

 

「仮採用」

 

 一瞬、聞き間違えたかと思った。

 

「……本当ですか?」

 

「使える可能性は十分ある。少なくともXM3の拡張案としては現実的」

 

「ありがとうございます」

 

「ただし条件」

 

 すぐに続いた。

 

「これは強くなるための機能として作らない。最優先は回避、姿勢回復、射線開放、隊列復帰。その後で攻撃系」

 

「分かりました」

 

「《白線返し》だけは残していいわ」

 

 思わず顔を上げた。

 

「いいんですか?」

 

「地味だから」

 

「またそれですか」

 

「でも実戦的。敵を倒すためじゃなく、味方と自分の退路を作る攻撃機動なら、MODERNの思想からも外れない」

 

 夕呼副司令が少し笑う。

 

「必殺技が欲しいなら、それで我慢しなさい」

 

「だから必殺技じゃありませんって」

 

「はいはい」

 

 信じていない返事だった。

 

 ピアティフ中尉が仕様案へ追記する。

 

「《白線返し》。分類、真白専用帰還線再接続機動。一般配布禁止」

 

「それでお願いします」

 

「承知しました」

 

「あと、真白専用設定は隔離管理。私と霞の許可なしに他機へコピー禁止」

 

「はい」

 

「それから」

 

 夕呼副司令の視線が、画面ではなくこちらへ向いた。

 

「今日は寝なさい」

 

「……はい?」

 

「はい、じゃない。今この場で一番重要な仕様よ」

 

 ピアティフ中尉が頷く。

 

「同意します」

 

 霞も頷いた。

 

「休んでください」

 

 三方向から囲まれた。

 

 逃げ道がない。

 

「……実行します」

 

「よろしい」

 

 夕呼副司令は満足そうに頷くと、すぐ仕事の顔へ戻った。

 

「MODERNはまず汎用初期設定から。ピアティフ、仕様書を起こして。霞は真白のログから安全側の復帰機動を抽出。攻撃系は《白線返し》だけ残して他は保留」

 

「承知しました」

 

「はい」

 

「自分は?」

 

「まりもへの説明資料を作って、口頭で説明。それが終わったら休む」

 

「……了解しました」

 

 夕呼副司令がこちらを見て、眉をひそめた。

 

「というか今、顔色悪いわよ」

 

「そんなにですか?」

 

「研究者にまで心配される顔色って、相当でしょうね」

 

 かなりまずいらしい。

 

 霞が近くの椅子を少し引いた。

 

「真白さん」

 

「はい」

 

「戻るためのボタンを作る人が、戻れなくなるのは困ります」

 

 何も言い返せなかった。

 

「……はい」

 

 おとなしく座る。

 

 夕呼副司令の端末には、ピアティフ中尉が起こしたばかりの仮仕様が表示されていた。

 

《XM3拡張機能案》

《簡易機動入力支援機構――MODERN》

 

《第一目的:衛士の生存性向上》

《第二目的:姿勢・隊列・帰還方向への復帰補助》

《登録機動は任意キャンセル可能》

《真白専用高負荷機動群は分離管理》

 

 ほんの一晩前まで、自分の端末にしかなかった走り書きだった。それが今は、夕呼副司令とピアティフ中尉と霞の手を通り、軍用の言葉へ置き換えられている。

 

 もう、自分一人の思いつきではない。

 

「ワンボタンの未来、ね」

 

 夕呼副司令が小さく呟いた。

 

「馬鹿みたいな出所だけど、嫌いじゃないわ」

 

「褒められてる気がしません」

 

「褒めてるのよ。珍しく」

 

 霞が仕様書を見る。

 

「戻るためのボタンです」

 

「ええ」

 

 夕呼副司令も頷いた。

 

「それでいきましょう」

 

 画面に《仮採用》の文字が加わった。

 

 ほんの一晩前、自分だけが見ていた雑なメモ。その隣に今は、使用権限や制限、一般配布禁止の文字が並んでいる。

 

《MODERN》

 

 まだ一行目だった。

 

第41.5話「MODERN入力」 END

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

Muv-Luv Alternative Plantinum`s Avenger(作者:セントラル14)(原作:Muv-Luv)

はじめは"元の世界"に還りたいと願った。▼だがそれは叶わず、戦いが突きつけられる。▼戦いに身を任せ、戦い、戦い、戦い続けた。資源、食料、ヒト、全てをすり減らしながら。▼いつ死んだ? 何処で死んだ?▼はじまりに戻っていた。▼そこでも戦い、戦い、戦いだ。戦いに明け暮れるが、そこでは全てを失った。全てだ。▼力があっても、知識があっても、覚悟がそ…


総合評価:2205/評価:8.47/連載:63話/更新日時:2026年08月18日(火) 11:00 小説情報

Muv-Luv 戦場に咲く雷花(作者:マルク)(原作:Muv-Luv)

地球外生命体BETAによって地球は滅亡の危機に瀕していた。▼地球の管理神もまたその事実に苦しむ1柱である。▼ある日、神々の会合である議題が挙がった。▼転生者にやらせてみよう。▼その者を神の代行者として人類を救おう。▼しかし事は出来るだけゆっくりとだ。BETA側に神的存在がいないとも限らない。故に、事は静かに、慎ましく、エレガントに運ぶ事。▼作中の主人公がやっ…


総合評価:460/評価:8.19/短編:17話/更新日時:2026年07月04日(土) 18:00 小説情報

異常過ぎるのは間違っているだろうか?(作者:ダーク・シリウス)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

冒険者として生活をする事になったとある並行世界の兵藤一誠を知った神々と冒険者。▼色々無視できないことばかりするので・・・・・。▼「イッセー! ワシと覗きに行くぞ!」▼「お前はお前を愛する女を裏切らなきゃいいんだよ!」▼「なぁなぁ、なーんか楽しい事しようやー」▼「どんな手を使ってでもあなたは私のオーズにするわ」▼「炉の炎に照らされるあなた横顔と鎚の音を見聞きす…


総合評価:1127/評価:7.27/連載:20話/更新日時:2026年08月31日(月) 06:00 小説情報

ダンまち世界に闇の福音に転生して人類を導くのは間違っているだろうか(作者:魔法少女(偽))(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

令和を生きたアニメやマンガが好きで多少の武道の心得がある社会人がトラ転して前世の武術やアニメの技術を教えたりして色々やらかしたり助けたりして超有名人になっていく▼※他作品のキャラや武器が登場したりします


総合評価:1372/評価:6.94/連載:14話/更新日時:2026年07月16日(木) 09:45 小説情報

マブラヴ時空で現ナマは武器となるか? ~愛はお金で買えるのって少女漫画で言ってたから~(作者:行徳のり)(原作:Muv-Luv)

■うろ覚えのマブラブ知識ニキがマブラヴオルタ時空に転生す。▼◆なお、史実の歴史カンニングは出来るものとする。▼◆そんな男はバリバリ営業マンだったが……? 愛と勇気より現ナマを愛するお話。


総合評価:243/評価:7/連載:33話/更新日時:2026年10月16日(金) 19:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>