鋼の隣人 ―石の世界の副読本(バイブル)―   作:微糖コーヒー

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第11話:深淵の呼び声 ―凪の語らいと、石の雨―

 

 

第11話:深淵の呼び声 ―凪の語らいと、石の雨―

 

1. 幕間:水平線の向こう側

 

 ペルセウスが赤道付近の凪(なぎ)に差し掛かった頃、船内ではしばしの休息が訪れていた。

 

 機関室の熱気から逃れてきた蓮は、甲板の隅で、現代知識を持つ者同士――記者志望の南(みなみ)と、元警察官の陽(よう)と談笑していた。

 

「……ねえ蓮さん。正直、怖くないの? 3700年前の同僚も、家族も、もう誰もいないこの世界で、一人で文明を背負うなんて」

 

 南の問いに、蓮は手にした自作の「六分儀(ろくぶんぎ)」をいじりながら、少しだけ遠くを見た。

 

「怖いさ。でも、エンジニアってのは元々『予期せぬエラー』と戦うのが仕事なんだ。……南、俺たちが今やってるのは、失った過去を嘆くことじゃない。新しいサーバーを構築して、全人類のデータを復旧させる壮大な『再起動』なんだよ」

 

「……はっ、相変わらずロマンの欠片もねえインテリ野郎だな」

 

 陽が鼻で笑いながら、手入れされた銃(蓮が機関部を調整したもの)を弄る。

 

「だが、お前がそのクソ真面目な顔で『大丈夫だ』って言うと、なんとなく生き残れる気がするから不思議だよな、現場監督さんよぉ」

 

「陽。その銃の遊底、0.1ミリ研磨しておいた。次に撃つ時は、お前の腕の悪さを言い訳にはさせないぞ」

 

「へっ、100億%余計なお世話だっつーの!」

 

 蓮の周りには、自然と人が集まる。

 

 千空が放つ「未来への熱量」とは別の、蓮が放つ「現実的な安心感」。

 

 それが、孤独な海を行くクルーたちの精神的な錨(いかり)になっていた。

 

2. 宝島、上陸の「違和感」

 

 数日後。

 

 ついに視界に現れた「宝島」。

 

 だが、蓮のエンジニアとしての直感が、かつてないアラートを鳴らしていた。

 

「……千空。この島、何かがおかしい」

 

「あぁ、分かってる。鳥の鳴き声が不自然だ。生態系が特定のエリアだけ歪んでやがる」

 

 千空と蓮は、即座に「偵察ドローン(カセキと蓮の合作)」を飛ばす準備に入る。

 

 しかし、その判断よりも早く、事態は最悪の形で動き出した。

 

 ――空から降り注ぐ、緑色の光。

 

「っ!? 全員、海へ飛び込め!!」

 

 蓮の怒号が響く。だが、光の速度には勝てない。

 

 甲板にいたクルーたちが、指先から、足元から、次々と無機質な「石」へと変わっていく。

 

「南! 陽! ……クソっ!」

 

 蓮は咄嗟に、自分の近くにいたスイカと、機材の一部を海へと突き飛ばした。

 

 石化の波が、ペルセウスを飲み込んでいく。

 

3. 絶望の中の「設計変更」

 

 数分後。

 

 静寂に包まれたペルセウス。

 

 そこには、石像と化した仲間たちと、奇跡的に海中へと逃れ、船底にしがみついていた千空、龍水、羽京、そして蓮の姿があった。

 

「……全滅、か。上陸して1分も経たねえうちに、これとはな」

 

 千空が、濡れた髪をかき上げながら不敵に笑う。その瞳には、絶望ではなく、未知の現象への凄まじい「探究心」が宿っていた。

 

「……千空、笑ってる場合か。俺たちの主力(マンパワー)は全員石になった。残された資材も、船の上だ。……敵の武装は『広域石化兵器』。理論も、防御策も、今の俺たちには何一つないぞ」

 

 蓮は、震える手で海水を拭った。

 

 エンジニアとして最悪の「全損」状況。だが、彼は千空の隣で、泥まみれのメモ帳を広げた。

 

「……だが、俺の目には見えたぞ。光の収束点、拡散速度、そして石化の『進行パターン』。……あいつ(ホワイマン)の武器は、魔法じゃない。ただの、解析可能な物理現象だ」

 

「ククク、100億%同感だ、現場監督。……いいじゃねえか。資材がねえなら、この島ごとハックして奪い返すだけだ」

 

4. 逆襲のラボ・カー

 

 蓮は、海中に沈めた秘密の「緊急脱出用コンテナ」を引き上げた。

 

 中には、蓮が万が一の全滅シナリオを想定して、事前に千空と仕込んでおいた「最小限の化学セット」が入っていた。

 

「龍水、羽京。……お前たちは島の内部を偵察し、生存者(アマリリス)を探せ。千空。……俺たちは、ここで『石化を解く解毒剤』の増産と、敵の兵器を無力化する『対空兵器』の試作に入るぞ」

 

「あぁ。地獄のラボ・カー第2段階のスタートだ!」

 

 絶望的な孤島。

 

 石の雨が降る恐怖の中で、現場監督・蓮は既に「逆転の工程表」を書き換えていた。

 

「……納期は変えない。この島の連中全員を叩き起こして、メデューサ(石化兵器)をこの手に収めるまで、俺の現場は終わらせないぞ」

 

 宝島編。

 

 それは、科学王国にとって最大の危機であり、エンジニア・蓮が「神の兵器」を解析し、科学で凌駕する物語の始まりだった。

 

 

 




科学的ポイント:

六分儀: 航海において緯度を測定する道具。

石化の解析: 蓮は「現象」として捉えることで、恐怖に飲み込まれず「攻略対象」として分析を開始します。

次回、第12話「科学の忍び」。

アマリリスとの合流、そして後宮への潜入作戦。蓮が作る「科学の化粧品」が、帝国の常識を塗り替える!
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