鋼の隣人 ―石の世界の副読本(バイブル)― 作:微糖コーヒー
第15話:鋼の翼と、見えない網(レーダー)
1. 絶望の「上空(トップ)」
ミシシッピ川を遡上するペルセウス号。その頭上を、耳を劈くような高周波のエンジン音が切り裂いた。
「……なっ、なんだあいつは……!? 翼があるぞ! 人間が空を飛んでやがる!」
クロムが、そして村の戦士たちが驚愕に目を見開く。
そこには、ゼノの右腕であるスタンの操縦する、洗練された単葉機――『プロペラ機』が旋回していた。
――ガガガガッ!!
上空から降り注ぐ、正確無比な機銃掃射。木製の甲板が爆ぜ、破片が飛び散る。
「千空! 奴ら、最初から俺たちのメイン機材を狙ってやがる! このままじゃ一方的な屠殺場だ!」
「ククク、分かってるよ現場監督! だが、生身の人間がハエ叩きで飛行機に勝てるわけねえだろ!」
「……なら、ハエ叩きじゃない。『自動追尾』の網を張ってやる!」
2. 現場監督の「対空コンソール」
蓮は、船橋(ブリッジ)の裏に設置された、未完成の装置に飛び込んだ。
それは、宝島から持ち帰ったメデューサの解析データと、船内の無線機を強引に統合した、科学王国の**『簡易レーダー・火器管制システム』**だ。
「カセキさん! 予備の銅線を全部こっちに回せ! マグマ、銀狼、人力でいい、このパラボラを敵の方向に向け続けろ!」
蓮は、手製のオシロスコープに映る「電波の跳ね返り」を凝縮する。
ゼノの飛行機が金属製(アルミ合金)であるなら、電波は必ず反射する。
蓮の対空戦術:
電波標定: 目視ではなく、電波の反射で敵の高度と速度を計算。
指向性妨害(ジャミング): 敵機が使っている無線誘導、あるいはエンジンの点火系を狂わせるための高出力ノイズを放射。
「スタンの腕がどれだけ神懸かってようが、物理法則は裏切らねえ。……千空、閃光弾(フラッシュバン)の信管を3.5秒にセットしろ! 奴が次に急降下してくるポイントは、ここだ!」
3. 0.5秒の迎撃
雲を割り、スタンの機体が急降下(ダイブ)してくる。
獲物を確実に仕留めるための、必殺の軌道。
だが、蓮の指先が、計算尺(計算用定規)を弾いて叫んだ。
「――今だ、撃て!!」
蓮の合図と同時に、船上に設置された即席のカタパルトから、千空特製の閃光弾が射出された。
それはスタンの機体のわずか数メートル前方で炸裂。
――カッ!!
白銀の光が空を焼き、スタンの視界を強奪する。
コントロールを失った機体が、水面スレスレで大きく姿勢を崩し、撤退を余儀なくされた。
「……はは、……ざまあみろ。空を飛んでる間は、お前の方が不自由なんだよ、パイロット」
蓮は、熱を帯びたコンソールに手をつき、荒い息を吐いた。
4. 科学帝国の「査定」
遠ざかるエンジン音を聞きながら、蓮は千空を見た。
「……千空。今ので、ゼノも分かったはずだ。俺たちは、ただの復活者じゃない。……お前と同じ、あるいはそれ以上の『現代の牙』を持ってるってことをな」
「ククク、宣戦布告としては100億%の上出来だ。……だが、蓮。次に来るのは弾丸じゃねえ。……『毒』か『交渉』か、それとも――」
その時、船内の無線機が再びノイズを吐き出した。
ゼノの、どこか愉悦を孕んだ声が響く。
『……素晴らしい。まさか、電波による標定を行っていたのか? 佐藤蓮、君はNASAにいても最高級の「システム・アーキテクト」になれただろう。……だが、それゆえに惜しい。君たちの船を、私の帝国の「資源」として接収させてもらう』
「接収だと? 悪いなゼノ、俺はあいにく『下請け』は専門外だ。……お前を、俺たちの科学の工程表(ロードマップ)に組み込んでやるよ」
北米大陸、ミシシッピ川。
空を支配するゼノに対し、蓮と千空は「地上の要塞」として、その牙を剥き出しにした。
科学的ポイント:
レーダー: 電波を飛ばし、反射してくるまでの時間で距離を測る。原始的な材料でも、共振回路さえ組めれば原理的には可能。
ジャミング: 強力な電波をぶつけて相手の通信や電子機器を麻痺させる。