『本編完結』鋼の隣人 ―石の世界の副読本(バイブル)― 作:微糖コーヒー
第16話:零から飛ぶ翼 ―石の世界の航空機(エアクラフト)―
1. 「スタンを超えろ」の設計図
ペルセウス号の甲板は、もはや船ではなく「航空工廠(こうしょう)」と化していた。
蓮は、スタンの機銃掃射でボロボロになった木材を足蹴にし、千空に真っ黒な設計図を突きつけた。
「……千空。スタンの乗っていたプロペラ機、あれは直進安定性と最高速度に特化した設計だ。恐らくNASAの風洞実験データに基づいた『正解』の形なんだろう」
「ククク、100億%その通りだ。パワーで押し切るエリートの科学だな」
「だが、こっちにはあんな高馬力のエンジンも、滑走路もない。……なら、俺たちは『軽量化』と『小回り』で、スタンの死角を突く」
蓮が提案したのは、木材でも金属でもない、**「竹」と「漆」を組み合わせた強化繊維構造(石の世界のカーボン)による超軽量複葉機。
「カセキさん、竹の繊維を限界まで細く割って、漆に浸して編み込んでくれ。乾燥すれば、鋼鉄並みの強度と、羽毛のような軽さが手に入る。……これが俺の答え、『コンポジット・マテリアル(複合素材)』だ!」
2. 職人の意地、エンジニアの計算
建設は地獄だった。
蓮は寝食を忘れ、主翼の翼型(エアフォイル)をミリ単位で調整し続けた。
「龍水。お前の直感で教えてくれ。……この角度、揚力が最大になる瞬間に機体が震えるか?」
「はっはー! 蓮、貴様の設計はあまりに精密すぎる! 翼が風と会話したがっているぞ。……だが、あと0.5度、迎え角(アタック・アングル)を上げろ! 欲望のままに空を掴むためにな!」
現場監督とパイロット、そして職人の三位一体。
蓮はカセキに、航空機用エンジンの心臓部――**「過給機(スーパーチャージャー)」**の製作を依頼した。
「カセキさん。薄く叩き出した鉄板を、この螺旋状に曲げてくれ。エンジンの排気を利用して、空気を強制的に押し込む。これで、高高度でもゼノの機体に食らいつける」
「ホッホ、蓮くん……。あんた、ワシを殺す気かい? だが……面白すぎる! こんな薄い鉄が、空飛ぶ力になるなんてのう!」
3. 暁のスクランブル
数週間の不眠不休の作業を経て、ついに姿を現したのは、洗練された「石の世界の戦闘機」。
名は、『スカイ・ゴリラ』。
蓮の現場主義と、千空の理論が融合した、最強の「迎撃機」だ。
その時、見張り台から羽京の鋭い声が響く。
「……来た! 上空3000メートル、スタンです!」
「ククク、いいタイミングだ。……蓮、システムチェックはどうだ?」
蓮は操縦席に座る龍水と拳を合わせ、地上管制用のレシーバーを耳に当てた。
「燃料、点火プラグ、過給機の過給圧……すべてグリーンだ。……龍水、あのNASA野郎に、日本の現場(げんば)の底力を見せてやれ」
「任せろ! はっはー! 離陸(テイクオフ)!!」
4. 領空権の奪還
ペルセウスの甲板から、カタパルトで射出されたスカイ・ゴリラ。
スタンの機体は、突然現れた「未知の翼」に驚愕し、旋回して迎え撃つ。
「……スタン。お前の機体は『美しい』。だが、俺たちの機体には、この島、この船、この世界で生き抜くための『執念』が詰まってるんだよ!」
蓮は地上から、無線を通じて龍水に指示を送る。
「龍水、左45度! 敵のプロペラ後流(スリップストリーム)を利用して加速しろ! ……今だ、過給機(ブースト)開放!!」
ドォォォォン!!
蓮が仕込んだ秘密兵器、排気タービンが唸りを上げ、スカイ・ゴリラが物理法則を無視した急上昇を見せる。
スタンの機体の背後(バック)を、完全にとらえた。
『……信じられない。あの素材、あの機動性……。誰だ、あの機体を設計した「デビル」は……!?』
無線の向こうで、スタンの驚愕の声が漏れる。
「……佐藤蓮だ。覚えとけ、パイロット。……俺たちの現場に、不可能の文字はねえ」
北米の空。
かつて絶望を見せつけたスタンの機体が、龍水の放つ「威嚇射撃」に追われ、翼を翻して退却していく。
空を奪い返した。
それは、科学王国がDr.ゼノという「科学の巨人」に、真っ向から引導を渡した瞬間だった。
科学的ポイント:
複合素材: 竹繊維(カーボン的な役割)+漆(樹脂)。日本古来の技術を、現代の航空力学で再定義。
迎え角: 翼が風を受ける角度。これが大きいほど揚力が上がるが、限界を超えると失速(ストール)する。
過給機: エンジンに空気を無理やり押し込む装置。薄い空気の中でもパワーを維持できる。